闇姫遊撃乱舞
「ぐわっ…」
捕食者の島に侵入した闇姫は、最強の捕食者四人と対峙しても表情を歪めない。
風のように動き、かつ沈黙を放ち続けるハウンディの爪を、悪魔の黒い爪で弾き飛ばし、飛びかかるタイガには蹴りをかまし、豪快に突進してくるダイルにはこちらも突進し返し、衝撃で勝負した。
相手が怯んで動けない間は闇姫も動かない。お遊びだ。
ただ、一人少しだけ厄介なのがいた。
ジャリュウだ。
凄まじい殺意の矛を放つ他の三人は、れなとの戦いで慣れているのだが、ジャリュウの攻撃には殺意が感じにくい。
ジャリュウの目はひどく無機質なのだ。ハウンディやタイガ程素早くないし、ダイル程の力もないのに、殺意を感じにくいというだけで他の三人とは違う。
ジャリュウは闇姫に掴みかかり、手刀を決めてやろうとした。
闇姫は即座に頭突きをかまし、ジャリュウを突き飛ばす。
「お前だけやたらやるな。何者だ」
「俺ぁ他より強いだけのただの捕食者だ。俺程度に苦戦してるようじゃこの島の主の悪喰様には…」
ジャリュウの言葉が止まる。
…闇姫は彼の台詞の途中で、腹部に手刀を突き刺していた。
「せ、台詞の途中に攻撃するなど卑怯だぞ…」
「そんなルールが戦いにあるか。それにこれは戦いではなく、殺しあいだぞ」
と言いつつも、遊び半分で四人を相手している…。
が、闇姫の余裕もここまでだ。
「ん」
一声だけ発する闇姫。何かを察知し、後ろに下がる。
直後、目の前の地面に何かが直撃し、瓦礫を撒き散らす。軽く顔を覆いながら、闇姫は相手を見た。
…ドクロ、テリー、粉砕男の三人だ。
「お前ら…何故ここに?」
ダイルが彼らの姿を見て、ひどく驚いている。そんな彼に、ドクロが言った。
「あんた達を助けに来たのよ。言っとくけど、仲間と思ってる訳じゃないからね!」
…戦いこそしたが彼らに大きな恨みはないし、話が通じない相手にも見えない。
今この場で捕食者につくか、長年敵対し続けてる闇姫につくかと聞かれれば、答えは一つだ。
粉砕男が闇姫目掛けて飛び出し、両手を突きだす!
闇姫も彼の手を掴み返すが、力のみの戦いだと粉砕男が上だ。
粉砕男はジワジワと闇姫を押し込めていき、闇姫の足が地面に埋まり出す。
そこへテリーが魔力で紫の骨を形成し、闇姫目掛けて発射!
動けない闇姫の背中に叩きつけてくる!
このまま受け続ける訳にもいかないと見た闇姫は背中から翼を広げて大きく羽ばたき、粉砕男の巨体を吹き飛ばし、空中へと舞い上がる。
それを見たドクロが即座に飛行し、威力より速さを重視した打撃の嵐を放ち出す!
闇姫は両手で全ての打撃を受け流すと、右手の拳を突き出してドクロを地上へ叩き落とす。
だがドクロはその攻撃を事前に察知、両手に魔力を込めつつ防御し、最低限ダメージを和らげる。
吹き飛ばされたドクロとすれ違う形で粉砕男が飛び出し、闇姫へ拳を放つ。
闇姫も吹き飛ばされるが、空中で回転して飛び出し、両手を勢いよく振るう。
同時に凄まじい強風がふき、河原に落ちていた石ころが物凄い勢いで飛んでくる!
石ころに対し、三人が顔を覆った隙に、闇姫は三人へそれぞれ蹴りをお見舞いしてみせた!
腹を抱えて膝をつくドクロ、骨の体を両手でずらして整えるテリー。
粉砕男だけは腹筋のおかげでそこまで大きなダメージを受けずに済んでいる。
それでももう一発くらえばまずい。
「二人とも、一気に決め込むぞ」
粉砕男が両手を突きだす。
同時に死神兄妹も同じように両手を突きだし、三人の息を合わせて黄色、紫、青の三色の光線を発射!
闇姫はそれらを両手で受け止め、周囲に光を撒き散らしながら光線を魔力で分解、無効化してしまう。
だが、実はこれこそが三人の真の狙いだった。
闇姫が分解を終えたまさにその瞬間、彼女目掛けて一つの拳が飛んでくる。
粉砕男だ。更にその拳は黄金に輝いている。彼の魔力を一点に込めた一撃だ。
拳は闇姫の顔面に炸裂し、爆発音のような音をたてながら光が広がり、闇姫を派手に吹っ飛ばした!
粉砕男の拳は魔力に包んだばかりに、火で焼かれたかのような火傷が。
…渾身の攻撃であるにも関わらず、闇姫は吹っ飛ばされてる途中で体勢を整え、バク転して止まる。
「…あいつ本当に何なんだよ!粉砕男が身を削ってまで放った一撃が効かないとは…」
テリーが言いかける。
闇姫の右頬から少しずつ血が滲み、垂れてくる。
なお表情を変えない闇姫だが、拳を抑えながらこちらを睨む粉砕男を見て呟く。
「そんなにこいつらを守りたいか」
「まあな…。こいつらも物騒だし、特に思い入れもないが、お前のようなやつに襲われちゃどんな惨い最期になるか分からんしな」
苦しそうに呻くような声に、闇姫は低く笑う。
「良いだろう。この私の顔に傷をつけた事は誇っても良いぞ。だが借りは返す主義でな」
闇姫は粉砕男に人差し指を向けた。
…直後、闇姫は粉砕男のすぐ目の前に現れた!
不意打ちに近い攻撃、正直闇姫は、このような攻撃は好まなかった。
わざと一瞬だけ止まり、粉砕男の反撃を待つ闇姫。
…が、身を削った攻撃を使ったばかりの彼は、流石に対応できなかった。
「仕方ない。お前ら相手にこれ以上戦うのは無謀だ。囚われの兵士を取り返すのはまたの機会にしておこう」
振り上げられる闇姫の手!
…同時に粉砕男の四肢から血が吹き出し、悲鳴を上げる間もなく粉砕男は意識を失う。
目を丸める四人の捕食者、悲鳴を上げるドクロ、ただただ呆然とするテリー。
闇姫は「借り」を返すと、灰色の翼を広げ、空の果てへ飛び去っていった。




