6話 悪魔族、ピクニックに行く
明日は8:30分ごろに投稿します
今日は待ちに待ったピクニック、天気も良いし楽しめそうだ。
「うぅ……」
残念ながらお母様の調子は悪そうだが。昨日、お母様は俺が寝る前くらいに帰ってきた。メイリアから聞いた話なのだが、ピクニックへ行くために今日の分の仕事を昨日の内に終わらせてたらしい。
相当楽しみにしていたんだろう、そうじゃなきゃ急いでやる必要はないし。今日は精一杯楽しまないと、じゃなきゃお母様が可哀想だ。
「イア、しっかりしろ」
「だって、疲れたんだもん」
「そんな所を見せて、仕事が増えても知らんぞ」
「分かってるよ……よし! フレイル、フェイル、今日は一杯楽しむよ!」
自分の頬を叩いて、お母様は気合を入れた。妹が治療中なので家族全員とは言えないけど、これが初めての家族のお出かけだ。
「リムジンかぁ」
どうやらリムジンで出かけるそうだ。なんというか、やっぱりお金あるんだなぁ。
「お待たせいたしました、どうぞ」
運転はメイリアがしてくれるそうだ。更に前後に護衛の者やメイド達を配置して行くらしい。リムジンには奥から俺、お母様、お父様の順で乗った。
弟のフェイルはお母様の膝の上に座わっての移動だ。フェイルは嫌がってたけど、お母様が断固譲らなかった。中は白を基調としたデザインで、高級感が漂っている。
「よし、皆乗ったね。それじゃあ出発!」
前の護衛の人達が歩き始めて車もゆっくりと動き出す。そしてしばらくその速度を維持しながら走り続ける。
「ゆっくりなんだね」
「皆に顔を見せないといけないからね」
そういうものなのかな? ただ遊びに行くだけだし、普通に行けばいいと思うんだけど。車がようやく道に出ると、道行く人達がこちらを見ていた。各々足を止めて見物しており、中にはスマホを向けて撮影している人もいる。
それにしても……本当に色んな魔族がいるんだな。フクロウ、ヘビ、カエルの様な動物から岩や水の様な生き物以外の魔族もいた。流石にお母様の領土なので、大体の魔族が悪魔族なんだけど。メイリアが紹介を7つだけにしたのも頷ける。多分なんでもアリなんだろう、魔族というのは。
ゆっくり進む事30分、ようやく出口らしき物が見えてきた。ピクニックにはこの近くにある湖のほとりでやるそうだ。すぐに着くらしいのでこれ以上待つ事はないだろう。
「はい、じゃあ皆シートベルトを閉めてね」
お母様はフェイルを膝から降ろしてシートベルトを閉めてあげてた。お父様もいつの間にかしているし何かあるのかな?
「はい、フレイルもしようね」
「あっ、うん。ありがとう……なんで今締めたの?」
「しないと危ないの、今からお空を飛ぶんだからね」
は? えっ! 飛ぶの!? いや、それは車の機能を逸脱していないか? でも飛ぶのは楽しそうだ。
「道の舗装が出来てたら、飛ぶ必要もないんだけどね」
窓越しから頑張って門の方を見てみると確かに門の先は普通の地面になっていた。リムジンで進むとした場合確実に壊れてしまうだろう。
道の境目に着いた途端、そこで車は止まった。前にいた車や騎士の人はすでに先へと進んでいてもう姿が見えない。後ろの騎士達は翼を広げメイド達の乗っている車も宙に浮き始めた。
「浮上完了いたしました、これから加速いたします」
加速したと同時に俺の体はお母様の方に倒れ込んだ。相当な速度が出ているにちがいない。
「うわっ!?」
「きゃー、倒れちゃったー」
お母様の嘘臭い演技はともかく物凄い速度で前進している。後ろの騎士達も同じ速度で追いかけてきていた。割とこの速度は魔族にとって普通なのかもしれない。
「ごめんねフェイル、もうちょっとだけ我慢してね?」
「……」
こくっと頷いて、フェイルは喋らなかった。あんまり喋らない子なのかな? 初めて会った時もそうだし。ちなみに、お父様一切動じずに椅子に座っていた。背もたれにも押し付けられていないし、やっぱり筋力があるのだろう。
「到着!」
あれから程なくして湖まで来れた。騎士達やメイド達は自らの仕事を遂行する為に各々動いている。
「魔王様」
「あっ、丁度いいところに。フレイル、こっちに来て」
言われるがまま俺はお母様の所に行った。隣にはタキシードを着たドラゴンらしき魔族が立っている。彼はメイリアが言っていた竜魔族なんだろう。
「この人はお城で執事長をやってくれているウーカス」
「お初にお目にかかります、執事長のウーカスと申します」
「私はフレイル・レヴィアタンです。本日はよろしくお願いしますね」
よし、言えたぞ! こっそりと練習した甲斐があったな。
「それでウーカス、何か用?」
「はい、準備が終わるまでもう少々時間がかかりそうですので、その報告を」
「オッケー、じゃあ私はメイリアとこの辺りを歩いてるから、終わったら呼んでね」
「かしこまりました」
ウーカスさんはすぐに自分の持ち場へと戻っていった。こういう所を見ると少しだけ罪悪感を覚える。やってもらってばかりだしね。
「フレイルもママと一緒に行く?」
「えっ?」
散策に誘っているんだよね……行こうかな、どうせ準備には関われないし。ただ待っているだけというのも味気がない。
「どう?」
「うん、行く」
「よし! メイリア、ちょっと付き合って」
「はい、ただいま」
向こうで作業をしていたメイリアが作業を終わらせて、こちらに小走りで走ってくる。見てくれは小走りではあるものの、到底小走りとは言えない速度ではあったが。
「何か御用でしょうか、奥様」
「ちょっと散策するから付き合って欲しいんだ」
「かしこまりました、フレイル様もご一緒でしょうか?」
「うん、2人でこの辺りを見て回るんだ、ね?」
……お父様は? それと弟もか、この場にいる家族全員じゃないのかな?
「あの、お父様はいいんですか?」
「いいのいいの、カムイこういうの好きじゃないから」
「そう、なんですね」
「カムイはフェイルを見ていればいいの」
こうして3人で湖の周りを歩き始めた。この湖は一見海かと思わせる程大きい。湖には釣りをしにボートを漕いでいる者や、見た事のない鳥が泳いでいる。水面に落ちている数枚の枯葉を見ると丁度この時期は季節の変わり目だと分かるだろう。
一応、ここら一帯は公園という事になっている。その証拠にカップルや子供を連れた女性が歩いていた。街から少し離れてはいるので人はそこそこ少ないが。
「まおーさまだ! こんにちは!」
「こんにちは、今日は何をしに来たのかな?」
「きょーはね、おっきなおさかなさんをね、みにきたの!」
「そうなの、見れるといいね」
「うんっ!」
とても元気な声で返事をする女の子。おっきなお魚さん、考えなくてもこの湖に住んでいるのが分かる。それはおそらくネッシー的存在なのだろう。
一つ違う点があるとすればここは異世界だという事。いないというのは考えにくい。どれくらいの大きさなんだろうか? 流石にこの湖を埋め尽くす程ではないだろう。そんな巨体を維持する餌も酸素もない筈だ。餌だって無限にある訳ではないし何より呼吸も出来ない。予測にはなるけどシャチくらいの大きさはあると思う。
魔法で体が大きくなった、なんて話は創作上ではあるが何度も目にしているしそれくらいはあってもおかしくはない、むしろ小さいくらいだ。クジラレベルは無いと思うけど。実際の大きさは見てからのお楽しみかな。
「ごめんなさい、相談にのってもらってしまって」
「いいのいいの、これも私の仕事なんだから」
「ねーママー、はやくおさかなさんみにいこうよ!」
「そうね、それでは魔王様、失礼します」
「バイバーイ!」
「さようなら〜」
いつの間にか、会話が終わってしまっていた。終始無言だったけど、変に思われていないよな?
「フレイルって、ここの主の事って知ってる?」
「ううん、知らないよ」
話の流れ的におっきなお魚さんがこの湖の主って事でいいのかな。
「ここの──」
「あれっ、もしかしなくとも魔王様じゃね?」
話の途中で先程見たカップルが話しかけてきた。2人でペアルックをしているので仲が良さそうだ。
「さぁーせん、写真一枚いいっすか?」
「いいよいいよ! 撮ろ撮ろ! メイリア、フレイルに話の続きをしてあげて」
「かしこまりました」
お母様は流れる様に2人の間に入っていった。さっきの親子もだけどこんな簡単に近付けていいのだろうか? いや、メイリアが何も言っていない時点で問題はないのだろう。暗殺とかされないのかなこの世界では。
「では、奥様の代わりにご説明させていただきます」
「うん、お願い」
「この湖には主と呼ばれる大きな魚が住んでおり、湖の名物となっております」
「へー、名物なんだ」
「はい、誰が一番最初に倒せるという方面でですが」
……魔族は戦いが好きなんだろう。でなければそんな危険そうな生物がのうのうと生きていける訳がない。
「やっぱり強いの?」
「そうですね、リバートさんが負けた、と言えば分かりますか?」
そんな危険な生物をほったらかしにしてていいのか? だって一応幹部だよリバートって。それで勝てないなんて駆除した方がいいに決まってる。
「お母様でも勝てないの?」
勝てないのなら納得がいく。物理的に駆除が出来ないんだったら仕方がない。でも──
「わっ!?」
「ママが負ける訳ないでしょ、もう」
「お母様……」
写真を撮り終えていたお母様に後ろから抱き抱えられてしまった。
「じゃあなんで倒さないの?」
「ママが倒したらつまらないでしょ? 皆が楽しんでいる場所を、ママは奪いたくないから」
本当に、それでいいのだろうか? 皆が楽しんでいても、これは明らかに危なすぎる。檻の中で腹を空かしたライオンと触れ合う、俺の感覚だとそれくらい危ない。もし死者が出てしまったら? 一体誰が責任を取るんだろうか。まず間違いなくお母様が取る、そんな姿を俺は見たくない。
「魔王様、準備が整いました」
「分かった、ありがとう。それじゃあ戻ろっか」
「……うん」
「おぉ……」
ピクニックにしては豪華な料理がそこには並んでいる。露骨に高そうな物は置かれていないものの料理から出る雰囲気でそう感じた。
「それじゃあ、食べよっか」
すんなりと食事が始まってしまう。悪魔族にはいただきますみたいな文化がないらしい。最初は少しだけ違和感があったけど今はもう慣れた。
「そういえば、さっきの彼氏さん、主を釣り上げるとか言ってたし、もしかしたら見れるかもよ?」
「そうなんだ」
いざとなったらお母様は助けてくれるんだろうか? いや、あの感じだと……
「主、か」
「見た事なかったっけ?」
「そうだな、一度切ってみたくはある」
「カムイじゃ一太刀で死んじゃうよ」
「そうか、その程度か」
お父様は少しだけ期待はずれみたいな感じで肩を落とした。お父様も倒してはくれなさそうだ。
「んっ、これ美味しい。フレイルも食べてみて」
「えっ?」
「はい、あーん」
言われるがままそれを口に含んだ。それと同時に湖から巨大な魚が釣り上げられた。赤黒い色を基調とした姿はその凶暴性が一目で分かる。体長もクジラくらいありそして何故か空を飛んでいた。
確かに幹部であっても苦戦しそうな見た目だ。さぞかし強いのだろう。このままだと、釣り上げた人は死ぬのかもしれない。だが視界の端でお父様が鞘に手を伸ばしている。これなら釣り上げた人は助かりそうだ。
「どう? 美味しい?」
お母様は未だに気付いていない様だ。さっきの話を聞いていたのならすぐに気付いて欲しかった。
「助けてくれ〜!」
あれっ、なんでお父様刀から手を──刹那、その主に巨大な岩の塊が衝突した。主はそのまま湖に落ちて波を起こす。しかしそれは透明な壁に阻まれ水は一滴も飛んでこなかった。
思えば、いくつか不思議な点はあった。あの主がいくら普段は水中で大人しくしていたとしてもこの公園はあまりにも綺麗過ぎる。多少は戦闘した跡が残っていてもおかしくない。
それに釣り上げた後も問題がある。誰が主を湖に戻すのだろうか。自分から戻っていくのも考えられるが、そうじゃない可能性の方が高い。主と呼ばれている様な奴がそう簡単に引き下がるのだろうか?
まず、それはないだろう。小さな魚ならそうかもしれないがこの主は頂点捕食者。言わば食う側であり目の前の食べられそうな獲物を逃すとは考えにくい。
つまりは、その主を撤退させるなにかがある筈。考えられるのはお父様だけど今日初めて出会ったお父様には不可能。俺の知っている中で可能なのはお母様のみ、リバートが負けた奴に勝てる人なんてそうそういないだろうし。
「どう? 美味しい?」
お母様ってすごかったんだな。あれを一撃で怯ませられるなんて。
「さぁーせん、邪魔しちまって」
「気にしないで、次は気をつけてね〜」
「うぃ〜す」
公園にいた人はどこかに行ってしまった。ここに残っているのは俺達だけ。
「フェイルも、あーん」
「……ん」
何事もなかったかの様にお母様は振る舞っていた。これが魔王、なのかな?
「仕留め切れていなかったが、いいのか?」
「私が倒しちゃったら面白くないでしょ?」
「……それもそうか」
心では、分かっていた。あれはただ力を行使しただけでお母様にとって普通の事だと。でも本能が訴えていた。その何者も寄せ付けない圧倒的な力をかっこいいと思ってしまうのを。
「フレイル、そんなに美味しかったの?」
「へっ?」
「そんなに尻尾を振ってたら、流石のママでも分かるよ」
咄嗟に尻尾を抑えたが、止まらない。尻尾、お前……
「もっと食べていいんだよ、ほら」
言われるがまま、食べ物を口に入れた。
6話 釣りマスター
釣りマスター(釣りの道を極め始めて200年、俺は狙った獲物を逃した事はない)
釣(だが、そんな俺でもこの湖の主を釣り上げた経験はない)
釣(ふっ、きっとヤツはこの俺の覇気にやられて──)
カップルの彼氏「うわっ、湖の主だ!」
釣「……」
釣(ふっ、今日の所は見逃してやる)
子供「あのおじさん、またおさかなさんとれてないよ」
お母さん「そんなこと言っちゃダメよ」
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