5話 悪魔族、街を知る
次回投稿予定時間:21時:30分ごろ
ようやく外に出ることが出来た。庭はすごく綺麗だ、綺麗なんだけどどこか不気味な気もする。なんというか無機質? に整えられていて人の意思がないみたい。
「あまり激しく動かないでくださいね」
「はーい」
そう言われたけど激しく動く元気なんて元々ない。広いから迷子になりそうだし普段通りにしていれば問題ないだろう。
「どれくらい広いの?」
「ゆっくり歩いて3時間ほどでしょうか」
城にあるものとしては丁度良い大きさと言っていいだろう。これより大きいと手入れが億劫になりそうだ。人を雇うのもタダじゃないし。
「結構広いんだね」
「そうでしょうか、屋敷の方が広いので何とも……」
どうやらこの庭より広い庭があるらしい。屋敷って言ってたし多分病気になる前に住んでいた所だろう。城に住むなんて普通はしない。何故なら攻められない為の工夫がそこら中にあるからだ。
この城の場合、階段で一気に最上階まで行けなかったり、廊下が迷路みたいな設計だったり。マグマみたいな”ゲームでラスボスがいる場所にありそうなもの”は通ったルートにはなかったし、住む事自体は出来そうだ。
「そっちはどのくらい広いの?」
「1日あればまわれるそうですよ、私はやった事がないので事実かは分かりませんが」
それはもはや庭と言っていい領域を超えている気がする。それにそれだけ広いと屋敷に入るまである程度距離があるだろう。毎日住むのにそんな長い距離を移動するのは疲れないのかな。移動は馬車ですると思うけど、それもそれで住みにくいと思う。
「……? あれは」
「あちらは自動で庭の手入れをしてくれる魔道具でございます」
いくつかある円柱状のそれは庭を手入れするものだった。あの中に剪定する為の道具が入っているのだろう。庭が無機質に感じたのもこれのせいか。
「少し見てみましょうか」
「いいの? そんな事しても」
「本日はもう稼働しませんので大丈夫かと」
近くまで寄るとどこにも切れ目がない事が分かった。中から道具を出すのなら切れ目がある筈だし、魔法で道具を作り上げるのかな。
「どうやって手入れするの?」
「中から道具を出し、決められた挙動通りで剪定をしております」
その魔道具に彼女が触れ、上部がタッチパネルに変化した。操作をしてしばらくすると魔道具が起動し中から道具が出た。目に見えない切れ目があったんだろう。
その魔道具への関心が薄まり顔を上げると真っ白な城がそびえ立っていた。ここが俺のいた城、正直イメージと違っている。魔王ならもっと禍々しい感じの城にいるべきだと思う。こんないかにもメルヘンチックな城に魔王がいたって怖くない。
「よっ、フレイル! 元気だったか?」
後ろから知らない男の子から声をかけられた。振り向くと同い年くらいの男の子が手を振って近付いてきている。それと同時に、メイリアが俺の前に出た。逃げる事を促さないから危なくはない、のかな?
「……」
「これはこれはトバール様、なぜここに?」
トバール、もしかしてこの前リバートが言っていた子かな? 見た感じリバートと見た目は似ているしその可能性は高そうだ。友達、ではあるんだよね?
「誘いに来たんだよ、遊びにな」
「そうですか、お引き取りください」
「なんでだよ!」
「フレイル様との接触は、しばらく禁止だと言われませんでしたか?」
「それはそうだけど……フレイルも遊びたいよなっ!」
尋ねられても困る。言いつけを守るか友達の誘いに乗るか、そういう2択なのだろう、本来は。しかしながら俺は彼のことを知らないのだ。そんな状況で彼の提案に乗ることは難しい。
「ごめん、今日はちょっと……」
「との事です、お帰りください」
「えぇっ!?」
そんなあり得ない、みたいな顔をされてもなぁ……誘ってくれるのは嬉しいけどメイリアに迷惑はかけられない。ここは申し訳ないけど、帰ってもらおう。
「そもそもどうやってこの中に──」
「あっ!? 魔王様だ!」
「えっ!? どうして──」
「今だ!」
彼女が油断した隙に彼は俺の手を取り走り始める。一瞬の出来事だった事のでしばらくは彼に身を任せるしかなかった。
「あぁっ!?また嘘を──」
「何度も同じ手に引っかかる方が悪いんだよっ!じゃあなっ!」
人では考えられない速度で彼と庭を駆け抜けていく。後ろを見ると彼女が出遅れた分の遅れを徐々に取り戻していた……どうしよう。手を振り払った方がいいのは分かる。分かるんだけど──
(ちょっと、ちょっとだけ外に出てみたいな)
いずれ体力が回復すればいつでも見に行けると思う。でも、俺は今見に行きたい。ほとんど知らないこの世界を知るチャンスが目の前にあるのだ。残念ながらこの好奇心を抑えられる程の自制心を持ち合わせていない。
「お待ちください、フレイル様──」
「この先だ、先に入っていいぞ」
指をさされた場所は明らかに通れそうな穴がない低木の生えている場所。突っ込むのか?いや、でも──っ、やるしかないか。ぶつかる直前、目を閉じたが枝や葉に当たった感触が全くない。目を開けるとここが異世界だと忘れさせるには十分な風景が広がっていた。
コンクリートで出来た道、まるで車が通るかの様に整備されている。ガラス張りの店に一見電気で光っていそうな電灯など異世界には似つかわしくないものばかり。スマホがあったから技術力があるのは分かっていたけどここまで整備されているとは……
「そうですか、そういう事ならこちらも手段は選びませんよ」
「やれるもんならやってみろ! じゃっ行こうぜフレイル!」
この後が怖いけど、今更だ。もう俺にはついて行く他ない。途中路地に入ると彼は立ち止まって俺の方に振り返った。
「なぁ、俺の事覚えてないだろ」
バレてる!? そんな、まだ俺全然君と喋ってないんだけど! どこがおかしかったんだ……
「魔法使った時目瞑ってたろ? 普段のお前ならまず瞑らないからな」
魔法、今ここにいるのは魔法のおかげか。リバートが突然消える魔法を使っていたんだ、似た様な魔法が使えてもおかしくない。
「で、どうなんだ?」
「……うん」
「やっぱりな、他のことも覚えてないのか?」
顔を横に振った。ここで嘘をつく必要はない。ついたとしても信じてくれるわけがない。それなら最初から誠実にしていた方がいい。
「そっか……まいいや、また仲良くなればいいだけだ」
「それでいいの?」
「いいんだよ、俺はトバール・ノートン、よろしくな」
「うん、よろしく」
手を差し出してきたので握手をした。この世界で初めての友達だし大切にしたいな。もしかしたら一生涯の付き合いになるかもしれないし。
「よしっ! じゃあ今日は貴族街を案内してやるよ!」
名前からして貴族しか住んでいないな。一般の人も住んでいる地域もあるんだろう。そうでなければわざわざそういう名前を付ける必要はないし。
「どうしようかな……決めた! あっち行こうぜ!」
「うんっ」
入っていった方とは逆の方向に進んでいく。路地から出ると同時に車が通り過ぎ去った。もういちいち気にしていたらキリがないな。
「あらフレイル様、お元気になられたのですね」
横から気品の良さそうな悪魔族の人が話しかけてきた。店に花が沢山あるし花屋さんの店主かな?
「先日お送りいたしました花束はお気に召したでしょうか?」
花?……あった、気がしなくもない。目覚めた次の日に部屋の中で見たっけ? とにかく話を合わせておこう。
「はい、とても綺麗でしたよ」
「お気に召した様で良かったですわ。これからも弊社をよろしくお願いします、と魔王様にお伝えいただけますか?」
「分かりました、お母様にそう伝えておきます」
「ありがとうございます」
その会話で花屋さんとはお別れした。会話はなんとか出来た、かな?ボロが出てないといいんだけど。
「公園に行くけど、いいよな?」
「うん、任せるよ」
公園か、どんな感じなんだろう? 運動は出来ないからただ見るだけなんだけどね。
「ここだ、ここら辺の奴らは大体ここで遊んでるんだぜ」
立派な建物が目の前にそびえ立っていた。あれかな? 色んな事で遊べる系の施設。これなら遊べそうだ。あんまり動かない奴もあるだろうし。
「さっ、中に入ろうぜ」
言われるまま中に入ると目の前に受付があった。そこにいる人に話しかける、訳でもなくそのまま横を素通りした。
「いいの? お金とか──」
「平気平気、貴族街に住んでる人なら無料だし」
顔は知っているから顔パスになっているという事か。これが無料って採算は合うのかな? もしかして城からお金が出てるとかあるのかな?
「ほらっ、さっさと立ちなさいよ!」
「ヘぶっ!」
進んで行った先に、高飛車そうな女の子と太った男の子がいた。あの子、平気かな?
「あらっ! もしかて、殿下ではありませんか?」
甘い声で彼女は話しかけてきた。王族だから媚を売っておこう、みたいな理由でやっていそうだ。悪い気はしないけど……なんとなく嫌だな。とりあえずあの男の子に声をかけてみるか。
「大丈夫?」
「うっ、うん。ありがとう」
手を引いて彼を立ち上がらせる。良かった、見た感じ怪我はしていなさそうだ。さて、じゃあ次は無視しちゃった方に──
「私を、無視!?」
無視されたのが相当ショックだったらしい。少しくらい言葉を返した方が良かったかな? ちょっと気まずいな……そうだこの男の子の名前でも聞いておこう。
「ぐぬぬ、わたく──」
「なんて名前なの?」
「トロス、です」
「んなっ!?」
うん、聞くタイミングを間違えたな。流石に2回連続はな、ちゃんと彼女にも向き合った方が良い。
「君は?」
「っ! ふふん、私は──」
「こいつはピピィ、その2人は俺らより一個年上なんだぜ」
「……」
トバール……いやありがたいんだけどさ。流石に可哀想だし何かフォローを──
「そのお顔、フレイル様ではありませんか?」
「じいちゃん!」
「オーレ―様っ!」
……誰だろう、多分少しは名の知れている人なんだろうな。いかにも強者、みたいな顔の悪魔族の人だし強いのかな?
「オーレー・メシウス、元暗黒衆だ」
耳打ちでそう教えてもらった、見た感じ年齢を理由にしたのかな?
「トロス、怪我をしていますね」
「うん、転んじゃって」
転んだというか、転ばされたじゃないかな? 蹴られてたし。それを察したのかオーレーさんはピピィに話しかけた。
「いけませんよ、フレイル様の前ではしたない行為をしては」
「はっ、はい!」
自分の孫が怪我したのに理由がそれでいいのか? それとも何か理由が?
「ではフレイル様、失礼いたしますわ」
彼女は足早に立ち去ってしまった……なんか釈然としないな。少なくともあの場面で悪いのは彼女な筈だし。
「あれで良かったの?」
「はて、あれとはどのことでしょうか」
「いいんだよ、僕が鈍臭かっただけだから」
「そうそう、だから心配しなくたっていいんだよ」
……本当にそれでいいの? あれが許されてされた方が泣き寝入りだなんて、あんまりじゃないか。
「フレイル様は魔王様に似ていますね」
「お母様と?」
いや全然真反対だと思うんだけど。どこか似ている仕草でもしたかな?
「きっと、魔王様に似た魔王になれるでしょう」
「魔王、ね」
魔王とは一体どういう存在なんだろうか。俺の魔王に対するイメージは典型的なものだ。大抵は勇者と対となる存在であり、悪の親玉的存在。被害の大小はあれど大体は人類を害する事をしている。
でも、お母様がそんな事をする様には見えない。いつも気遣ってくれて、優しく接してくれる。会ってから2週間しか経っていないけど、少なくとも酷い事をする様な人には見えない。
(魔王って、なんなんだろう?)
帰ったらメイリアにでも聞こうかな。お母様とは長い付き合いみたいだし。お母様に直接聞くのはちょっと気恥ずかしいしね。
「さっ、早く中に──」
「おい」
後ろから、ドスの利いた声が聞こえた。聞き覚えのある声だ、この声は──
「とっ、父様!?」
リバートだ、後ろにはメイリアが笑顔でこちらを見ている。その笑顔を、俺は少しだけ怖いと思った。彼はトバールの頭を一発殴り頭を下げる。
「痛ってぇっ!!」
「申し訳ねぇ! 俺の教育が出来てなかったばかりに……」
「頭を上げてください、付いていったのは俺なので」
付いていった俺にもいくらか悪い。今改めて考えてみるとあれは誘拐となんら変わらないのだ。多分だけど俺が許さなかったら極刑! とかあってもおかしくない。
「ありがてぇ、ほら帰るぞトバール!」
「うぇっ!?っ、フレイル、またなぁ~!」
そうして、2人は帰っていってしまった。
「さて、帰りましょうか、フレイル様」
そうして俺はメイリアと一緒に車に乗って帰った。中で少し叱られながら。
5話 先回り
ベルライヤ「やっと外回り終わった〜!」
メイリア「お待ちしておりました、魔王様」
べ「そうなの?──って、どんだけ仕事もらってきたの!?こんな量終わる訳ないでしょ!」
メ「ピクニック、行かれるんですよね」
べ「なっ、なんでそれを──」
メ「また仕事をサボろうとしても許しませんよ、いつも幹部の皆さんが魔王様に遠慮してどれだけ仕事を減らしていると思っているんですか?」
べ「……かくなる上は、逃──」
メ「本日は逃しませんよ?」
べ「うっ、うわーん!!」




