4話 悪魔族、身支度をする
次回投稿予定時間:20時30分ごろ
「ピクニック?」
目が覚めて2週間、城の食事場で朝食を取っているとお母様がピクニックをしようと提案してきた。目をキラキラと輝かせていて断られる可能性を一切考慮していなさそうだ。
「そう! フレイルがもっと元気になったらいいなって思って、どうかな?」
病人だったのでいまだに屋敷の外は窓からの景色しか知らない。そこでこの話だ、外には興味があるしなにより純粋に楽しそうだ、ここで誘いを断る手はないだろう。
「うん、いいよ」
「やったぁ! じゃあママお仕事頑張ってくるね!」
「いってらっしゃい」
わざとかと思う程に尻尾を左右に振りながら、どこかに一瞬で消えてしまった。消えた理由は知っている。メテオ、あのミドルネームと同じ名前の魔法だそうだ。正直よく分かっていない、俺も使えるそうだ。
転生してからもう2週間、この生活にも慣れてきた。両親も使用人も優しくてとても過ごしやすい。それに生活水準も現代、いや魔法がある分こちらの方が高いくらいだ。
中世と同じレベルの生活は覚悟してたけど、なんだか肩透かしを食らった気分だ。スマホっぽい物を渡された時は混乱したっけ、大体の機能は一緒で使いやすいのはありがたい。けど……なんかファンタジーっぽくはないな。
「……ん?」
食事が終わり一息ついていた時、部屋の入り口に俺に似た少年がじっとこちらを窺っていた。誰だろう、見たことない顔だ。兄弟かな、ここまで似ているとそれ以外考えられない。とりあえず手でも振ってみるか。
「……」
それが嫌だったのか逃げられてしまったが、入れ替わるようにメイリアが部屋に入ってくる。視線を少年が走った方向に向けているし、知ってる子なんだろう。
「いつフェイル様とお知り合いに?」
「今初めて会ったばかりだよ」
あの子の名前はフェイルね、名前が似ているし兄弟だろう。俺よりは幼そうだし弟かな? 上だったら逃げないと思うし。
「弟なの?」
「はい、フェイル・メテオ・レヴィアタン様、今年で3歳になります」
2週間あって1度も会わなかったのは凄いな。まぁ俺は部屋にずっといたし、大人達も家族の話はしてこなかったから気付かないのも無理はないか。
「それにフェイル様は双子の妹のファルル様がいらっしゃるんですよ」
まだいたんだ、というかこの家族は何人いるんだろう? 今のところ5人だけど、もっといてもおかしくない。魔族は長生きらしいから何人でもいそうだけど。
「他にも家族っているの?」
「はい、とは言いましても魔王様のご両親や初代様など上の世代の方達ですが」
「見たことある?」
「奥様のご両親や祖父母以外ですと、初代様くらいですね」
「そんなに会わないんだ」
「そうですね、魔王の方々は引退すると別荘のある島で余生を過ごす事になっておりますので」
この言い振りだと場所は知っていてもそう簡単に会うことは叶わなそうだな。それならなんで初代の人とは一度会ったのだろうか? わざわざ行ったって事になる訳だし。
「初代様とはいつ会ったの?」
「3週間くらい前ですね、妹様の看病でお姿を拝見した程度ですけど」
結構最近──ん? 今妹の看病って言った?
「妹って、今病気なの?」
「はい、フレイル様と同じ病にかかっておりまして一時的に預かってもらっています」
「……メイリアにうつるんじゃ?」
「大人にはうつらないみたいですよ」
その言葉を聞けてほっとした。意識がなくなるくらいの病気だしならないならよかった。
「フレイル様、魔王様はどちらに行かれたかご存じですか?」
「仕事頑張るって言ってどっかに行っちゃった」
「そうですか、なら安心──」
「そうそう、お母様がピクニックに誘ってくれたんだ」
メイリアの顔が少しだけ怖くなった気がする。言ってはいけないことを言ってしまった様な、そんな感覚だ。
「それはいつ頃お伝えになられましたか?」
「今さっき言われたばかりだけど……」
「そうですか、ありがとうございます」
にこりと笑顔を見せるといつものメイリアに戻った。言っちゃまずかったかな……ごめんお母様。
「ちなみにどこに行くかはご存じでしょうか?」
「いや、今誘われただけだから」
「そうですよね」
そう言って顔に手を当て、何かを考え始めた。しばらくして彼女は顔を上げる。答えが出た様だ。
「ピクニックの前に1度外に出てみましょうか」
「本当!」
外に出てみたかったし、早めに出られるのならその方がいい。どんな所なんだろう? ここって結構高めだから遠目にしか見えないんだよな。雰囲気もあんまり分からなかったし。
「と言いましても庭園を歩くだけですが、それでもよろしければ」
「全然大丈夫」
「それでは3時間後、庭園の方に向かうということでよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ」
まだ着替えてないしそれくらいなら全然待てる。俺の服ってどこに──
「身支度の方はメイド達にお任せください」
「分かった」
あるのかな? いつも着替えはメイリアが持ってきてくれていたし、どこかにはあるんだろうけど。
「では私は少し用事がありますので、失礼致します」
「あっ──」
行っちゃった、どうしよう服の場所を聞こうと思ってたのに……仕方がない、ここは1つずつ見て回ろう。
城だから結構苦戦しそうだけどなんとか──
「「「「失礼致します」」」」
「えっ!?」
いつの間にか5人のメイドが部屋の前にいた。5人はそのまま俺の近くまで来て整列する。ここまでの動きに一切の乱れがないから相当訓練したのだろう。
「本日フレイル様の身支度の方を担当させていただきます、ワラと申します。ご不明な点がございましたら、私にお申し付けください」
「う、うん、よろしく」
赤い眼鏡をかけた真面目そうな悪魔族のメイドが自己紹介をしてくれた。まだ状況が呑み込めていないのでどう対応すればいいか分からない。いらない、とか言えないよね流石に。
「こちらのメイドと共に身支度の方ご用意いたします」
「「「「本日は、よろしくお願いいたします」」」」
……これはもうどうにも出来ない気がする。というか急に5人も出てきたけど、そんな一気に皆の顔なんて覚えられないぞ? しかも全員悪魔族だしさ。顔は違うけど……何回か会わないと見分けられなさそうだ。
「フレイル様、本日のご予定はこの様になっております」
ワラさんがタブレットを開いて予定を見せてくれた。散髪、入浴、着替えの後に庭に行く予定の様だ。
「こちらの通りに進めてよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ」
今断ってもこの人達を混乱させるだけ、それなら最初から受け入れといた方がいい。そっちの方が早く準備も終わるだろうし。
「承知いたしました、では皆さん手筈通りに」
「「「「はい」」」」
その返事と共に、彼女達は半々に別れた。一方は食器を片付け、もう一方は俺を部屋から連れ出す。彼女達に付いていくとお風呂場に着いた。
髪を切ったついでに入浴するからここに連れてきたのかな。それに水を浴びれるのはありがたい。今日まで濡れたタオルで拭くだけだったし。
俺はワラさんと一緒に男子更衣室に入り、残りの2人は女子更衣室に入っていく。入る前に『殿下入浴中、関係者以外立ち入り禁止』の立て看板を外に出していた。奥まで入ってから彼女は俺に薄い布の服を渡す。
「こちらにお着換えください」
「分かった」
「着替え終わりましたら中にお進みください」
言われた通り着替え中に入ると濡れてもいい格好に着替えた2人が散髪の準備をしているのが見える。ドアを開く音が聞こえたのか、2人は俺が入ってきたことに気付いたようだ。
「ただいま準備の最中ですのでこちらにおかけになってお待ちください、フレイル様」
「はーい」
言われた通りに鏡の前にあった椅子に座る。すると角になにかを被せられた。鏡を見ると、ピンク色のカバーみたいなものが付けられている。
「これは?」
「角カバーでございます」
「角をハサミで傷つけない為にあらかじめ付ける事を義務付けられておりますので、我慢していただけると」
「ふーん……」
そんな大事なんだこの角、ぱっと見そうは見えないんだけどなぁ。全然大事じゃないとも表無いけどさ。
「ちなみにもし傷付けちゃったら?」
「良くて極刑です」
「きょっ!?」
「実務上は2、3回くらい殺されてから刑を執行しているものかと」
王族じゃなかったらきっとどこかで死んでる気がする。それくらいの理不尽さを感じた。そんな簡単に殺していいのだろうか。あと2、3回ってなに?
「実際に執行されているのは無免許の者ばかりですので、そこまでお気になさらなくても平気ですよ」
ワラさんがハサミを乗せた台を持ってきながらそう言った。この短時間で2人と同じ格好に着替えている。あらかじめ服の下に着ていたのかな?
「では、これから散髪をさせていただきます」
「うん」
そうして、散髪が始まった。切るのはワラさんではなく部下のメイドだ。どうやら免許を持っているのはこの中だと彼女だけらしい。
「魔族にとって、角は大切なものですからね」
「そうなの?」
「角に当たる器官を失うと、その魔族は死に至りますから」
「へ?」
そんなに大事なものなの? 大きいとモテるくらいの物だと思っていたんだけど……死ぬのね。
「基本生き物というのは魔力を空中から吸収しますが、私達魔族はそれに加えて魔力を自己生成することが出来ます」
「……それで?」
「しかしそれでは消費しない限り魔力は体に溜まり続けてしまうのです」
「溜まりすぎると体に良くないんだ」
「はい、貯蓄しすぎた魔力によって体が爆発四散します」
怖っ! えっ、俺って大丈夫なのかな? いや待て、この話をしたってことは角のおかげでその問題は解決している筈だ。
「角のおかげで平気なんだよね」
「そうです、角は空中に魔力を発散させる重要な器官となっているのです」
それならないと体に悪いよな。傷付けない様に気をつけなきゃ。
「これでよろしいでしょうか?」
「うん、ありがとう」
「承知いたしました」
髪の毛を洗い流され少しだけ入浴した後、バスローブを着させられて部屋に戻った。中には家の中で見る事のない様な量の服が陳列されている。
「……いっぱいあるんだね」
「ミコトノ製の服を10,000着程ご用意させていただきました」
この国の財政は平気なんだろうか。その感想が1番最初に出てきた。服だってタダじゃないし、これだけあっても逆に困る。
「当然全てオーダーメイドで取り揃えております」
「お金、平気なの?」
「魔道具開発の支援と交換ですので問題はございません」
「こんなに服はいらないから、もう少し数を──」
「それは出来かねます、魔王様の顔に泥を塗る行為ですので」
これ以上は何も言えないな、それを言われたら俺は言う事を聞くしかない。別にお母様の邪魔をしたい訳じゃないし。
「まずはこちらから」
服を見せられ、着替えさせられる前にふと時計を見た。約束の時間まで後1時間、全部試着する訳ないし、かかって2〜30分ってとこかな。
この時の俺はまだ知らなかった、その見積もりがいかに甘かったかという事を。
「申し訳ございませんフレイル様、少々遅れて──」
「やはり王族の風格が出るこの服がよろしいかと」
「いえ、ここは大人びて見えるこちらを」
「子供らしさの残るこの服はいかがでしょうか」
「もう、もういい──」
「……皆さん」
「「「「「メイド長っ!?」」」」」
着替えが始まって1時間、5人の着せ替えが激化して終わる気配が全くなかった。でもメイリアが来てくれた、彼女ならば止めてくれるはずだ。さぁ、今すぐこの時間から解放──
「分かっていませんね、これ以外ありえませんから」
「「「「「……っ!」」」」」
「えぇ……」
俺の服は、彼女の1言で決まった。今までの時間を返してほしい。
第4話 スマホ?
ナレーション「光る!鳴る!変形する!君もスマートフォンを使って変身だ!」
ナ「DXスマートフォン、好評発売中!」
フレイル「はっ!……なんだ夢か」
ベルライヤ「みてみて!このスマートフォン、変形するんだよ!」
フ(正夢!?)
※変身はできません




