30話 悪魔族、返事をする
「これは何のつもりだ、エルミル」
「ごめんなさいお母様、でもすぐに分かるから見ててほしいんだ」
次の日の朝、朝食を食べようと部屋に入るとそこには六王将の皆さんが勢ぞろいしていた。どうやらお姉さんが呼んでいたようだけど、どういった理由で?
「……ふんっ」
「フレイル殿、昨日は随分トカナと楽しんだ様ですな」
「ははは……」
「後で拙者とも手合わせ願えませんかな?」
「私も私も~、トレピアもどう?」
「……私は遠慮しておきます、見させては貰いますが」
皆さんとても興味がおありの様で。ドラッスさんとクリムスさんはあまりこちらを見ていないけど、それは気まずさからだろう。怒られてからなるべく失礼にならないよう動いているし、変に刺激したくないからかな?
「1回ずつでしたら、いいですよ」
「かたじけない」
「じゃあ私1番ねっ!」
「なぬっ! 拙者が最初に誘ったのだぞ!」
「昨日からアプローチはかけてましたー、早い者勝ちだもんねーだ!」
「落ち着け」
魔王の一言で緩んでいた空気が一転、引き締まったものとなる。やはり昨日話していた様子とは随分違う。
「で、何を見ればいい?」
「それはね、エルラベ、頑張って」
「うん」
お姉さんはただ皆を呼んだだけ、本題はエルラベさん絡みのようだ。ただ、雰囲気からなんとなく覚悟が決まっているように見えた。
「あのね、お母様、私ね……」
「余程無理難題でもなければ、我は叶えてやらんでもないぞ」
「本当?」
「あぁ、本当だ。だから好きに言うといい」
魔王なりに緊張をほぐしたのか。あの人らしいやり方だな。
「私の婚約、なかった事に出来ないかな?」
「……」
おっと……これは、どういった気持ちで見ていればいいんだ? なんか、若干心が痛い気がする。なんなんだろう、この告白していないのにフラれたみたいな状況は。
「昨日、お姉様に聞いて初めて知ったんだけど……駄目?」
「……何故、解消したい」
「私ね、何も出来ないと思ってたの。運動も苦手だし、魔法にいたっては使えない落ちこぼれだって。でもね、こうやって魔法が使える様になったらね、自分の力で頑張りたいって思える様になったんだ」
「我の力なしで、か」
「うん、勿論全部無しっていきなりやるのは無理かもしれないけど、でも頑張ってみたいの。お母様の力を借りないで、私のやりたい事をやりたい」
ん? 今一瞬こっちを見たな……俺を見て、かな?それで勇気を出して動けているのは偉いな。
「もしかしたら、断ったせいでお母様とか六王将の皆に迷惑をかけるかもしれない。けどね、ここで断らないと一生後悔する気がして」
「ふむ」
「……私、フレイル君が好きなのっ!」
……? いやー、そのー、ね? 知らないから仕方がないんだけど、一応同一人物、なんだよね、うん……分からない、フラれたのか告白されたのか。告白されたこと自体は嬉しいけど、でもなんか素直に喜べないというか……
「まっ「私の運命の人はフレイル君しかいないの! だからお母様お願」一旦落ち着けっ!!」
魔王から普段聞かないような声が発せられ、静まり返る。魔王は暫く頭を抱えた後、俺を見た……頷くしかないな、うん。俺が軽く頷いた後、魔王はようやく顔を上げる。
「……フレイル、どうする」
「あ? 別に断りはしないだろ、事前に相談して決めたんだろうしよ」
「……あっ!?」
「……そういえば断られる想定してなかったね」
「何やってるんだよ……」
「……駄目、ですか?」
断りはしない、いや断れない。昨日魔王とそう約束したからだ……まぁ少し可哀想だけど──
「本当ならお受けするところなのですが──」
「っ……」
「そういった事はお母様にお伝えください、私の一存では決められませんので」
「……へ?」
定型文で返す、これしかない。というより、これ以上いい返しが俺には思い浮かばなかった。
「……改めて紹介する。こやつは我の友人の息子だ」
「改めまして、フレイル・メテオ・レヴィアタンです。正体を隠していた事、お詫び申し上げます。」
「……?」
「はぁ!?」「えぇ!?」「……兄さん」「終わったな」「あの娘の子とは……」「おぅ」「嘘つき」「やはりそうでしたか」
「えっと、つまり、どういう事?」
エルラベさん、あまりこの状況を理解していないようだ。おそらくだけど、俺が王族だという事を認識していない。5年間魔法にかかりっきりみたいだったし、仕方がないよね。
「……つまり、エルラベが勇気を出してこんな事するまでもなかったって事だよ」
「えっ!? やっ、やっぱり駄目だったの……」
「いや、そうじゃなくて──」
「私がその婚約相手、という事です」
「……えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
「うぅ……」
「と、いう訳だ。分かったか?」
「いや、分かったけどさ……マジで本物なのか?」
「本物ですよ、ほら」
意味のなくなった仮面を外す。もう次の国に行くまで着けなくていいだろう。
「あら、お兄様よりかっこいい」
「あ?」
「オグルって、王族にしては顔がねぇ~」
「……喧嘩なら買うぞ」
「ほらエルラベ、貴女も」
「無視すんなよっ!」
「……」
一瞬だけ見たら、また顔を隠してしまった。尻尾があれなので、高評価なのは伝わるけど。
「……はぁ、でも、納得は出来るな。そんだけ強い理由にも説明が付く」
「そう? 別に関係なくない?」
「こいつの父親は、あのカムイだぞ?」
「あぁ、そゆことね~」
あのって言われるくらいには有名なのかな?そもそも魔王の夫ってだけで有名、ってのは分かっているけどさ。ただお兄さんはそういった意味で言ったようには見えなかった。
「トカナが負けるのも仕方がありませんよ」
「仕方がなくない、次は勝つ」
「……つかぬ事をお聞きするが、暗黒衆と戦った事は?」
「ありますよ」
「それで、勝率はどのくらいですかな?」
「ここ1年は負けた事ありませんね、流石に最初の頃は負けてましたけど」
「……やっぱ無理そう」
トカナさんから戦う気力みたいなものがなくなったみたいだ。早々に諦めてくれてよかったよ。いくら勝てるとはいえ、そう何度も相手をするのも骨が折れるしね。
「その優秀さを見習ってほしいものだがな、オグル」
「うぐっ……」
「そうだよ、お兄様」
「そうだそうだ~」
「……後で覚えてろよ」
「ちなみにちなみに、フレイル君的にはどうすればいいと思う?」
「才能次第だと思いますけど……」
「ぐはぁっ!」
正直こればっかりは仕方がないと思う。魔族にとって戦闘の才能なんてものはあればある程いいんだ。嘘を言って変に希望を持たせるよりはよっぽどいいと思う。努力でもそれは補えるしね。
「なら無理か~」
「ウィスカ、その辺にしておきなさい」
「は~い」
「魔王様、我々は一度退散いたしますので、お食事の方を」
「分かった」
そう言い終わるとトレピアさん達は一瞬で消えてしまった。これで一件落着、とはならないけどいいだろう。俺は後でエルラベさんにきちんと話さないといけないけどそれはそれだ。とりあえず今は食事を楽しもう。
「紹介するね、俺の婚約者のアスティナだよ」
『初めまして、アスティナ・フレイム・ベルフェです。これから仲良くしましょうね』
「それで、この子がもう1人の婚約者」
「えっ、エルラベ・アトラ・アウス、です……」
食事を済ませた後、エルラベさんを説得して部屋に来てもらった。理由は勿論ティナに紹介する為だ。相当気になっていたようだし、いつかは毎日顔を合わせることになる。それならなるべく早く顔合わせさせておいた方がいい。それで仲良くなってくれたら、俺としては嬉しいからね。
『ちなみに、どういった経緯で決めたんですか?』
「あぁ、それはね──」
今朝起きた事をそのまま話した。隠す必要性もないし、ティナには知っていてほしいからね。
『……それで、お返事は?』
「返事?」
『告白の返事ですっ! まさかしてないなんてこと──』
「してない、ね」
『……』
ティナは頭を抱えてしまった。そんなに駄目だった……? いや、悪い事をしたなとは思ったし、駄目な事なのは分かっていたけどさ。
『今』
「今?」
『今してください』
「いっ、いや、それは、ティナの前ではちょっと……」
『駄目です、してください』
「……はい」
少し怒りのこもったティナの言葉に言い返せなかった……何を言えばいいんだ? 返事だし、さっきのような思いを伝える必要はない。かといって「はい」の一言だけだと満足するわけがないし。断れない以上肯定以外を考えなくていいのはいいとしても……
「その、謹んでお受けいたします」
「はっ、はい!」
『20点』
「これ採点式だったの!?」
『恋愛感情は、この際いいとしてもあまりにも感情がこもっていなさすぎです』
ティナに見られながら告白の返事を返す状況で感情なんて込められないって! どういう感情でやればいいのか分かんなかったしさ!
『本人は満足そうなのでやり直しとは言いませんけど』
「よかった……」
「……」
『どこか気になる所でも?』
「ううん、受け入れてくれたのが嬉しいなって」
とても満足そうな笑顔を浮かべている。こんな顔をしてくれるのなら、してよかったな。
『今後は、この様な事はしないでください。いいですか?』
「分かったよ、気を付ける」
『本当に気を付けてくださいね? 寝首を掻かれても文句は言えませんよ?』
「そんなに?」
『複数所帯を持つ男性魔族の死因の3割は妻による殺害、と言われていますから』
「私もそれ聞いた事ある」
……気を付けよう、俺にはとても関係のある話だ。小さな不満になりそうな事をなるべく解消すればいい、のかな? その積み重ねでやられるんだろうし。大きいのは分かる、筈、多分ね。
『今日はこの辺りにしておきましょうか』
「うん、夜はどうする?」
『今日は私の事は考えないでください。明日からはいつも通りに』
「分かった、じゃあまた明日」
『はい、また明日』
ティナとの電話を切り、少しだけ静寂が続く。反応はまずまず、といったところか。
「ごめんね、そこまで気が回らなくて」
「大丈夫だよ、私忘れたから」
「忘れてた?」
「うん、その……フレイル君と一緒でいいんだって思いでいっぱいで」
そう言ってはにかむ彼女がとても可愛く見えた。もし彼女の目が見えていたら、もっとそう思えたんだろうか?
「……顔見てもいい?」
「えっ!? あっ、あのそれは流石に……」
「俺は仮面とったんだけど、駄目?」
「……駄目」
「そっか、ならいいよ」
無理矢理見るのもあれだし、どこかで見れる日も来るだろう。興味はあるけど、それはそれだ。
「いいの?」
「うん、気にしないで。無理矢理見るつもりはなかったし」
「そっか、よかった……」
「いつかは見せてほしいけどね」
「……頑張る」
今日はこの後、エルラベさんと遊んだ。途中ガオニさん達と戦ったりもしたけどね。当然試合には勝った、余裕はなかったけど。
「おはよう! フレイル君!」
「おはよう」
ここ数日、エルラベさんとは仲良くなった気がする。気がする、としか言えないのは俺が臆病なだけだ。
「ちょっと時間ある?」
「あるけど、どうかしたの?」
「それは見てからのお楽しみ、行こっ!」
俺はそのまま手を引かれ、彼女に引っ張られた。そのままあの監禁部屋まで連れてこられる。彼女がドアを開けると、そこには見覚えのある3人が座っていた。
「君達は……」
「フレイル君が助けた子達がね、今さっき起きたんだよ!」
そっか、よかった。あのまま凍死とかにならなかったのか。
「……私達は、何をすれば?」
「えっ、いや別に何かしてもらうつもりも──」
「どうして私達をお助けに?」
「助けたいなって思ったからだけど」
「体──」
「絶対に違うから、それ以上言うのはやめてほしいな」
変に誤解されるのは避けたい。というか、もし本当にそうだったとしたらこの子達はどうするつもりだったんだ?
「ちなみに、名前は?」
「私はラテカシー・メルティ、メルティ家の長女です」
「リムスフィア・メルティ、次女ですわ」
「二アール・メルティ、三女です」
「フレイル・レヴィアタンです、よろしくね」
「……王族の方でしたか」
皆姿勢をきちんとしてしまった。かしこまられるのは不本意なんだけど、これはまぁ仕方がないか。
「この件に関しましては、後程父上の方からお礼を」
「……メルティ家ならもうないよ?」
「「「……えっ!?」」」
「あぁ、確かに我が殺したな」
「そっ、そんな……」
どうやら狼煙の日に全員殺したらしい。知らなかったというのはその日の前からいなかった証拠だ。
「ど、どうしましょうお姉様」
「落ち着きなさい、私がどうにかしますから」
「……やっぱり体──」
「怒るよ、流石に」
「お三方、ご安心ください」
そう言ったって事はトレピアさんにはなにか秘策があるのかな?
30話 おねだり
エルラベ(ねぇ、フレイル君)
フレイル(ん?)
エ(頭を撫でてほしいなって)
フ(いいよ、こっちに来て)
エ(えへへ……)
エ「ふぁっ……ん?」
フ「起きた?」
エ「!?」




