31話悪魔族、氷像を見る
「おそらく、お三方は狼煙の日に行方不明となったと考えられます」
「何人かいたな、行方不明者が」
5年前に捕まえて、それで今まで使われていたって感じか。ってことは、5年前と今回のことって繋がっているのでは?
「狼煙の日にはおらず、今回の襲撃は埋め込まれたこの魔道具の仕業と言ってもいいでしょう」
「意識が疑似意識に乗っ取られる魔道具、人間は面白い物を作るな」
あの男が5年前からいて、首謀者だったとしたら頷ける。こんな無謀な作戦も、彼としては勝てる見込みがあったのだろう。でも、勝てなかった。どうしてだ?
「諸々を差し引いた場合、良くて死刑でしょうか」
「駄目に決まってるじゃんっ!」
「分かっています、ですから1つ提案があるのです」
単純に実力が足りなかった、のは俺には分からない。でも魔王を欺ける以上、足りないと断ずるのはいかがなものかと思う。そうなると絶対何か目的があった筈だ。あの日、魔王を討つ以外の何かが。
「この屋敷の使用人に、ご興味は?」
「……アウス家では、使用人はいない筈ですけど」
「えぇ、確かにこの屋敷は魔王様の氷の兎達が管理していますし、私自身正式な使用人とは言えません」
人さらい、こんな事をする為だけにする訳がない。するだけならいくらでも出来るだろう。狼魔族全員を魔王と戦わせる労力を考えると余計にそう思った。
「私の言う使用人とは、エルラベ様の身の回りを世話する方、特に学校で、ですね」
「……それはいつまでやれば?」
「やめる、などという考えはない方が幸せかと」
何があったんだ? 魔王以外の目的なんて、想像がつかない。戦力の低下? 確かに低下はしたけどそれなら戻る前に再度仕掛ける筈だ。5年経って、更に強くなってしまっているし。
「私、使用人とか──」
「エルラベ様が助けたのです、最後まで面倒を見るのが筋かと」
「うっ……」
「それで、どうしますか?」
……もし、今回もエルラベさんが本命じゃなかったとしたら? たった1人の為だけにあそこまでやったのか? それだけの価値はあったのかもしれないけど、俺にはそれだけじゃない気がしてきた。
「……分かりました、お受けいたします」
「お姉様……」
「仕方がありません、今の私達にはこれしかありません」
「……体を使うしかない」
この答えは、俺1人には出せない気がする。いや出せないだろう、俺はこの国のことをよく知らない。なら聞くしかない、この国のことをよく知っている魔王に。
「フレイル君もそれでいい?」
「えっ?」
「この3人が私の使用人になるって話」
「あっ、あぁ、いいんじゃないかな?」
いっ、いつの間にそんな話を? 考え事をしてたから聞いてなかったなんて言えない空気感だし。
「でも、何か悩んでたでしょ?」
「別の事だよ」
「別?」
「もしかしたら、狼煙の日も先日の襲撃も別の目的があったんじゃないかなって、思っただけだよ」
「別の目的、か。何故そう思った」
「……襲撃する理由が弱すぎるなって思ったんです」
今まで考えていたことを全て話した。それと、襲撃した人の力が弱すぎることも。前回は三魔将の1人が、今回はソミルスという男が。目ぼしい戦力があまりにも少なすぎる。せめてもう数人は用意しないと始めようとすら思わない筈。俺だったらそうする、勝てないのにやるのは馬鹿だ。
「だから、他に理由があるのかなって」
「そうか、トレピア」
「はっ」
「オグルとウィスカ、後ガオニを連れてこい」
「かしこまりました」
トレピアさんは命令を受け、消える。この速度、心当たりはあるとみていい。
「取り越し苦労だと良いのだが……」
「何か、あるんですね」
「あぁ、3人が来たら話そう」
「連れてまいりました」
思っていた数倍早くトレピアさんが3人を連れてきた。この短時間で連れてきたのは凄いな。
「母上、どうしたんだ?」
「……この中で、襲撃後に旧魔王城へ赴いた者はいるか?」
「行ってねぇな、俺は」
「拙者は魔王様に命じられた調査があったゆえ」
「休みだよ、私。行くわけないじゃんそんな遠い所」
旧ってことは今は別の城があるのかな? でもそんなのなかったぞ? そんなデカい建物なんて。
「何故、この国が極寒の大地なのか、知っておるか?」
「いえ……単に気候の問題では?」
この国は北にある、寒くても仕方がない。そう思っていたんだけど、理由があるのか。
「それだけではここまで雪は降らぬ」
「この時期に他国との通行が出来ないのにも理由があるのですよ」
……この国、確かに冬の間は国境沿いで吹き荒れる吹雪のせいで行き来が出来ない。俺が最初にこっちに行こうとしたのはそれが理由だ。待つ時間がもったいない、なら終わるまでこの国を回った方がいいという訳だ。
「……遥か昔、この地には魔王がいた。我々と一切関係のない、原初の魔王とも言える存在が」
「その魔王が、こんな気候を作り出したと?」
だとしたら、どんだけ魔力があるんだよそいつ。俺の魔力でも全然足りない、そういう規模の魔法だ。しかもそれを維持となると……考えたくもないな。
「いや、その部下の1人の亡骸が、この気候を生み出しておる」
「部下、なんですか本当に」
そんな化け物じみた存在を従えていた魔王、ね。昔はそれくらいが普通、だったのか? あまりにも現実離れしすぎていて、どうも信じられない。
「あぁ、間違いない」
「その亡骸は未だ魔力が尽きない、天然の魔力生成装置と言ってもいいでしょう」
「……それが狙いかもしれない、と」
「そうだ、ただ安心しろ。あれをどうこう出来ていないのは明らかだ」
「吹雪自体やんでいないですから」
もしくは、別の何かなのかもしれない。でも可能性としては1番ありえるな。それだけ狙う価値がある。それがあればどんな魔道具でも動かせるだろう。例えば、大陸を消滅させる、なんてものも。
「お前達3人と、フレイル。確認してきてほしい」
「……分かりました」
「承った」
「えー、面倒」
「……ウィスカ」
「……行くよ、行けばいいんでしょ!」
「まぁ行くしかないよな」
俺がいるのは言い出したから自分の目で確かめてこい、みたいなことだろう。興味があったし、断ることもないか。
「私も行きたい」
「駄目だ」
「フレイル君と一緒に行きたい」
「……トレピア、トカナを連れてこい」
「かしこまりました」
なんかしれっとエルラベさんが交渉を成功させていた。でも危険な場所なのは間違いないだろう。なるべく気にかけておかないとな。もしかしたらそんな余裕すらない可能性もあるけど、そうなったらその時考えよう。
「あれが……」
あれから車に揺られて3時間ほど経ち、旧魔王城が見えてきた。見た目は家のとは正反対の禍々しい見た目の、これぞ魔王城、みたいな城。ちなみに旧とついているがこの国に城はあれしかないそうだ。
しかし、それがどうでもいいと思うくらいには膨大な魔力を放っている。あんなのに近付くのか? 本当に? このレベルなら俺でなくても分かるはずだ。
「……当たりみたいだね」
「そうですか……」
「城の周りに前までなかった氷の像が沢山あるから、間違いないよ」
やっぱり、こっちが本命だったか。こっち側の戦力があの城の近くにいない内に、って作戦だったのかもしれない。
でも、それをやるだけの意味があるのかもしれないな。これは誰にとっても魅力的だ、同時に危険でもある。俺としては、なるべく関わりたくないけど。こんな力、持てあますに決まっている。なら触らない方が賢い選択だと、俺は思う。
「トカナ、拙者達は先行するぞ」
「分かった」
ガオニさんとトカナさんはドアを開け飛び降りた。そして空中でトカナさんを背中に乗せ、ガオニさんは飛んでいく。腕からジェット噴射みたいなビームを出しながら先に行ってしまった。
「なにあれ……」
「ガオニの隠し玉、だったか? 戦った時に見なかったのか?」
「ビームは出してましたけど、ああいう使い方は……」
どうやったらあんな発想が出てくるのか聞きたい所ではある。前戦った時に見せなかったのは腕に武器を持っていたから、だとは思うけどね。
「私達はガオニ達が安全を確認したら降りるから、それでいい?」
「あぁ、任せた」
しばらく飛んでいると、ガオニさんから安全が取れたと連絡が来た。その連絡を受けて車の速度が上がる、着いたのはそれから5分後の話だ。
「……」
「悪いけど、頼んだぞ」
「はい」
着いたものの、エルラベさんは来る途中で寝てしまい、未だ起きていない。1人にはできないということで俺が彼女と一緒に車で待つことになった。俺としては、少しだけよかった気がする。こんな恐ろしい量の魔力を放つこの城の中に入らないのは。
その流れで、城以外の物にも目を向ける。氷の像がそこら中に置いてある。ウィスカさんの話だと、前までは数個しかなかったらしい。しかもそれは兎や鹿などの動物だったそうだ。
しかし、そこにあったのは魔族の像ばかり。何かあったというのは明らかだ。一体彼らが何をしようとしていたのかは不明だが、まともな理由ではないだろう。
……先程から妙に体が冷える。寒いからではない、隣で寝ているエルラベさんが暖かいからだ。だから、他の理由によって冷えているのだろう。なんとなく理由を察せられなくもないけどさ。
「……んっ、んんっ〜」
「おはよう」
「……おはよう」
起きちゃったか、まぁ起きたら起きたでいいんだけど。彼女の頭を撫でながら、辺りの魔力を感知する。お兄さんは城のてっぺんに、ウィスカさんは空を飛んでいた。ガオニさんは城の中を探しているし、トカナさんは辺りの森を探索している。
「あれ? 皆は?」
「もう外だよ」
「ぅえ!?」
そのことを伝えると急に飛び起きた。そんな驚くことでもないと思うんだけど。
「私達も行こっ!」
「えぇ……」
「いいから、行こっ!」
強引に車の外に連れ出されてしまった。魔法で鍵を閉め、ついていく。城に入ると、より一層寒さが増した。
「……寒いな」
「じゃあくっ付いてあげるっ!」
俺の腕にぎゅっと抱きつかれる。それと尻尾を腰に巻いてくれた。でも、俺の寒さが改善することはない。
「えへへっ、どう? 暖かい?」
「……うん」
奥に行けば行く程、その寒さは増していく。寒い、のか? これは本当に。ただ寒いだけじゃない気がしてきた。
「次はこっち!」
「あっ、ちょっと!」
っ! こっちは駄目だ、行ってはいけない。それ以上は──俺の静止を聞かずに、彼女はドアを開けてしまった。ドアの先には、1体の美しい氷像が佇んでいる。
それを視界に入れた瞬間、強烈な不快感と吐き気が俺を襲った。一度だけではない、何度も何度も重なるように俺を襲い続ける。
「っぁ、ぁぁっ!」
「フレイル君?」
体にまともな力が入らない、立つ力ですら。そして苦しさから、俺は吐いてしまった。
「ぉえっ、ゲホッ、ゲホッ!!」
「フレイル君!? どうしちゃったのっ!!」
この魔力の乱流は一切弱まる気配がない。むしろ、どんどん強くなっている気がする。目に余計な情報が流れ続け、脳が割れそうだ。
そしてこの膨大な魔力によって、俺の意識は途絶えたのだった。
どこかから、聞き覚えのない声が聞こえる。とてもはっきりとした女性の声だ。その声からはとても強い負の感情と、後悔の念を感じた。
その言葉は、俺に向けられていない気がする。ただ巻き込まれただけで、彼女は毛程も気にしていないのだろう。
「絶対、魔王様を殺した事を後悔させてやるぞ。'-:^/@}(」*)「・&¥^$$.€€+[]!k」
最後の言葉は聞き取れなかったが、それが魔王を殺した張本人なのは明らかだ。それとなんとなく、その人物と会うことはないと思った。会ったとしても、ほんの一瞬だろう、と。
「……」
目が覚めると、目の前にはここ数日寝ているベットが映り込んだ。あれから、どれくらい経ったのだろうか。屋敷に戻っていることから、少なくとも3時間は経っている。
外は明るい、昼の明るさだ。そこまで経っていないのか、それとも1日経っているのか。枕元に置いてあったスマホを手に取り、時間を見る。時間は倒れる前と同じ時刻だったが、日付は1週間程過ぎていた。
「起きたか」
「……はい」
魔王から声をかけられ、その時その存在に気付く。魔眼の調子はあまり良くないようだ。体を起こすと魔王と、疲れて眠っているエルラベさんの姿があった。
「ほとんど付きっきりだ、後で労ってやれ」
「分かりました」
まだどことなく頭が痛い。完全回復ではない、ってことみたいだ。
「調子が戻るまではここにいろ、いいな」
「はい、ありがとうございます」
俺もこの調子で次に行く程馬鹿ではない。しっかり休んで、元に戻そう。
31話 心配
フレイル「……ティナに連絡しないと」
フ「えっと……999+か」
フ「心配させちゃったな、とりあえず電話しよっと」
アスティナ「フレイル様っ!!!」
フ「ごめん、心配かけて」
ア「よかった……今からお義母様とそちらに向かいますからね」
フ「えっ!? ちょっとそれは──」
ベルライヤ「今行くからねっ!」
全力で止めた




