29話 悪魔族、想いを語る
「狼煙の日って知ってる?」
「いや、知らないけど……」
「5年前に殆どの狼魔族がお母様に反旗を翻した日の事なんだけどね」
彼女は狼煙の日の概要を教えてくれた。魔王の家系から枝分かれした一族達が徒党を組み攻撃を仕掛けたこと。魔王が皆殺しにしたことや当時の三魔将がやられたことなど。
「だからね、三魔将の補充と新しい幹部を募ったの」
「それが今の六王将、って事か」
「そう、ガオニおじいちゃんは昔からだけどね」
新しい人は実質5人ね。あの人魔王より年齢が高そうだったしそうかなとは薄々思っていたけど。
「ドラッスとクリムスはすぐに決まったかな」
「そうなの?」
「お母様的にはすぐに穴を埋めたかったみたいだよ」
もう一度襲撃でもあったら面倒極まりないしな。それにあの能力だ、即決に近かったと思う。
「それでしばらくやってたんだけど、最近トレピアが増やそうって提案したんだ」
「いたんだ、トレピアさん」
「メイドだったんだ、護衛も兼任してたけど」
「……ならなんで三魔将にならなかったの?」
ここ数年で一気に強くなったならまだしも、護衛だしな。あの人の性格的に弱い護衛なんてつけないだろうし。
「三魔将ってね、女の人は入れないの」
「あっ、成程……」
「護衛にしてたのもそういう理由があったからなの、だから枠組み自体はすぐに出来たんだけど……」
「集まらなかった?」
「うん、少なくともお母様のお眼鏡にかなう人はね」
それは……でも新たな試みだし、慎重にならざるを得ないか。
「三星将には男の人を入れないって決めてたから、余計にね」
「そっか……じゃああの2人はどこから?」
「えっと、確かウィスカは──」
「私はオグルから、トカナはガオニだね」
辺りを警戒していたウィスカさんが戻ってきた。魔力の動き的にお姉さん達が戻ってくるからだろう。
「お兄さんと仲がよかったんですか?」
「う〜ん、印象強かったからじゃない?」
「印象?」
「ダル絡みしてたからね〜あははっ!」
よく嫌われなかったな、この人。普通、関わりたくないと思うだろうに。
「懐かしいなぁ〜、よく挑発してたっけ」
「兄様からの評価、酷いものでしたよ?」
「やっぱり?」
「実力だけは認めていましたけど」
話している内に2人も戻ってきた。トカナさんは目的の物っぽい拳大の鉄球を手に持っている。
「まあ? そのおかげでいい立場貰えたし? それくらいは問題なしっ!」
「兄様をなんだと「金蔓」……少しくらい好意とかなかったんですか?」
「ないない! もう、オグルみたいな事言わないでよねっ?」
……お兄さんが可哀想に思えてきた。よく呼ぶ気になったな、この人を。
「あっちが求めてきたらやぶさかでもないけどね〜」
「……お金ですか」
「うん」
「……」
「まぁまずないから、安心してっ!」
どういった反応をすればいいのか分からないまま、車が発進する。ここら辺はもうお兄さん自身で解決しているだろうし、気にする必要はないだろうけど。
「そういえば帰ってくるの早かったね〜」
「もう修理が終わってたから、試運転だけした」
何かの武器、なのかな?ただの鉄球にしか、いや変形するなこれ。
「で、最後はトカナ。この子は──」
「私がやるのっ!」
「えぇ〜どうしよっかな〜」
「ウィスカっ!」
「私はおじさんに連れてかれた、強いから」
「え゛っ!?」「……」
トカナさんが自分で話してしまった。本人だし、その方が分かりやすいだろうけどさ。もうちょっと、ねぇ?
「ちょ、ちょっとトカナ? それは違うじゃん」
「……子供だから分かんない」
「もう9歳でしょ? エルラベ様に──」
「「9歳!?」」
「それがどうかしたの?」
「わっ、私の一個下で、三星将?」
「ふふんっ」
そっか、歳下か、この子。三星将に入っているしてっきり歳上かと思ってたよ……トカナさん、でいいか。今更変えるのもなんだし。
「あれ、教えなかったっけ?」
「初耳です」
「お前は?」
「……?」
「何歳?」
「10歳ですけど……」
何故か車内が静まりかえった。いや、別におかしくはないだろ。トカナさんとかまさにいい例だ。マモーにも魔王を倒したっていう人がいるし。
「エルラベと同い年?」
「ですね」
「……」
「ふーん」
「その歳で一人旅か〜、寂しいとかないの?」
「やりたくてやってますから、特には」
というより毎日ティナと話しているし。それだけで十分寂しさは紛れる……国に戻りたい、みたいなことはたまに思うけど。
「じゃあ同じ学年か、よかったね」
「うん」
「学校でも仲良くしてあげてね?」
「それは勿論」
確か同じクラスになるはずだしね。わざわざしない理由もないし。
「うりゃっ!」
トカナさんのハンマーが俺に振り下ろされる。その攻撃を避け、柄で鳩尾を突こうとするももう一方のハンマーで防がれた。
「強い」
「それはどうも」
刀を抜き、互いに睨み合う。お姉さんの用事を済ませてこれは予想していなかった。年齢を言ったのがまずかったかな……
「貪欲」
「己丑 庖丁解牛」
武技によって持ち手が伸びたハンマーの付け根部分を刀でで受け止める。うん、大体の力量は分かった。余裕、とまでは言えないけれど、勝てない相手ではない。
「丁丑 一牛鳴地」
「瞋恚」
持ち手がヌンチャクみたいに変わったハンマーが彼女までの道を塞いでしまった。少し仕掛けようとしたけど、流石にさせてくれないか。
「愚癡」
「庚子 偃鼠飲河」
ハンマーの頭が俺目掛けて飛んでくる。上空が安全だと判断し脚力を高め、上に跳ぶ。それを逃さんとすべく、ハンマーが先程と同じように棒状へと変化し俺に襲いかかる。
「丁丑 一牛鳴地」
「三毒滅殺」
「戊寅 虎視眈々」
「我鳴鐘者也」
当然のように攻撃を防がれた。それはどうでもいい、なんか武器が、何それ? 鐘だ、お寺によく置いてあるあれ、めっちゃ大きいけど。ハンマーがあれに? 変な戦い方だな。
「鬼乃鐘棒」
「っ!?」
彼女が武技を放つ瞬間、本能的に後ろに下がってしまった。しかも丁度鐘が振り下ろされるくらいの距離にまで、だ。偶然か、必然か、まぁいいや、受けよう。
「一」
「辛丑 九牛一毛」
避けるのは簡単だ、範囲外に出るだけだし。でもこれは明らかに相手の大技だ。これを受けないだなんて、そんな奴魔族の風上にも置けない。
本来ならこちらも大技を使うのが礼儀だけど、今から使ってもどうせ打ち負ける。なら勝ち目が1番ある技を使った方がいい。手加減して負けるのは格好悪いし。こんな技なのは申し訳ないけど。攻撃を外さないように鐘を見て、当てる。
「嘘っ!?」
「っ……」
鐘は破壊出来た、だけど体が動かない。そういう技だったのか……破壊出来てよかった。多分あの感じ1回で終わるタイプじゃないな。避けてたら今より状況は悪かっただろう。
「これで──」
流石にそう待ってはくれないか……仕方がない、3秒だ。
「戊寅 騎虎之勢っ!」
「終わりっ!」
「っ!?」
トカナ、ハンマー1。刀あり、全身激痛、武技使用不可。
「おらっ!」
「わっ!」
押し倒した、首刎ねる、手の方が速い。これで俺の──!
「うぅっ……あれ?」
「あっぶな……」
危うく彼女の首を刎ねるところだった……なんでこんな技に1枠使っちゃったんだろう? こういう状況には使えるから、そういう理由なのかのしれないけどさぁ。
「ごめん、やり過ぎた」
「……い」
「えっ、なんて?」
「もう1回っ!」
「えっ!?」
「今のは油断しただけっ! 次は負けないっ!」
えぇ……戦うのはいい、でも次は寸止めできるかどうかも分からないんだけど。
「トカナ、負けは負けなんだから認めた方がいいよ?」
「うぅ〜」
「次は手加減しませんけど、それでもよければ」
「……手加減?」
大技は使っていないし、手加減していたのは変わりない。
嘘は言っていない、そう嘘は。
「へぇ〜、私も興味──」
「ウィスカ、貴女は駄目ですから」
「えぇー! ひっど〜い! いいじゃん少しくらいっ!」
「運転」
「……は〜い」
少しも気にならないわけじゃないけど、仕方がない。俺も疲れちゃうし、機会があったらってことで。
「フレイル君って、とっても強いんだね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、俺もまだまだだよ。あれくらいなら余裕だけど」
「その喧嘩買った」
「ちょっとトカナ?」
「三星将を舐めない方がいい、いざ勝負」
「ひっぐ、ひっぐ……」
やり過ぎた、反省している。大体1撃で終わらせちゃったので泣かせてしまったし。俺もテンション上がって大技使いまくったからな……屋敷までの道中は最悪の空気だったのは言うまでもない。
「痛っ……」
「大丈夫?」
「うん、すぐ治るから」
大技の反動で全身が軽い筋肉痛になっている。つまりただの修行不足、不甲斐ないばかりだ。
「じゃあ私はトカナを連れて帰るから、トレピアにそう言っておいて〜」
「よろしくね」
2人は車で行ってしまった……次に会う時に謝ろう。
「じゃあ戻ろっか」
「うん」
屋敷に戻ると、魔王とたまたま出会った。服装は前よりシンプルな装いでまさに普段着、という感じだ。
「帰ったか」
「ただいま、お母様」
「フレイル、貴様宛てだ」
「は?」
思わず声が出てしまったが、手紙?誰が? しかも俺宛てだなんて。
「貴様の母親からだ、後で読むといい」
「あっ、ありがとうございます」
お母様から? 電話でいいのに……こんなまどろっこしいやり方はお母様らしいけどさ。
「あっ、お母様。トレピアどこにいるか知ってる?」
「あやつなら厨房だ」
「分かった、じゃあ私行ってくるね」
俺達に手を振りながらお姉さんは屋敷の奥に消えていく。魔王も用は済んだとばかりに去ってしまった。
「行こっか」
「……うん」
ここにいてもしょうがないのでエルラベさんと一緒に歩く。特に喋ることなく歩いているので若干気まずさはある。
「……フレイル君」
「ん?」
「聞いてもいい、かな?」
「いいけど……何を?」
そんな神妙な面持ちをして、どうしたんだろう?まさか、バレた? ……確率は低そうだな。それならここで聞く必要ないし。魔王の前でやるのが1番だろう。
「好きな子って、いる?」
「……いるよ」
なんだ、そんなことか。ティナだとバレない程度に語ればいいだけだし。
「……」
「好きな子っていうか婚約者なんだけどね。俺の事をいつも気にかけてくれて、支えてくれて、彼女がいてくれたから俺は今ここに立っていられるっていうか、とにかく、かけがえのない存在なんだ。まだ10年しか生きてないけどさ、彼女に会えた事がきっと人生で1番──あれ?」
いない……どこに行ったんだろう?……部屋に戻ろう。
「ふぅ……」
ティナとの電話を終え、俺は先程手渡された手紙を見る。さて、今回はどの開封式なんだろうか。25-25式? 黒武式? それともテリジア式か?……どれでもない、か。
うーん、家だとこの3つしか使い分けてなかったよな? お母様の手紙ならどれもないってことはない。そこら辺はしっかりしているし。というより、何もかかってないのか?
……うん、魔力を込められた形跡はない。本当にただの紙切れってことか。じゃあ一体誰が……
夜9時、3階奥の部屋まで来る様に
エルクエル・アトラ・アウス
……なるほど、そういうことね。なら早めに準備しておこう、えっと今何時だ?んっと、8時57分ね、57分!? やっば! 遅れるっ!
「フレイルです」
「入れ」
魔王に許可を取り、部屋の中に入る。部屋は赤を基調とした部屋で、イメージしていた部屋とは真逆だ。
「ここでは本来の身分話せ、いいな?」
「分かりました、では改めて。フレイル・メテオ・レヴィアタンです」
「エルクエル・アトラ・アウスだ」
互いにちゃんとした挨拶をした。握手をした後魔王に座るよう促され、座わる。
「……ベルは元気か?」
「えぇ、元気過ぎて心配になるくらいには」
「ふふっ、そうか、ならよかった」
魔王の笑顔は少しだけ柔らかいように見えた。普段は魔王らしくしてるけど、素はこっちなのかもな。
「本題に入ろう、エルラベの事だ」
「……今の所、前向きに検討はしています」
「前向き? 我はもうするつもりなのかと思っていたのだがな」
「いえ、まだどうすべきか──」
「腹を撫でておいてその態度はどうかと思うが?」
「……してはいけない事、でしたか?」
やらかしたな、絶対にそうだ……でもやらないと無理だったからな、治すの。
「責任を取れ、それならば我が文句を言う事はない」
「はい」
実質無理矢理決められたけど、むしろよかった気がする。多分、一生決められずにいただろうから。こうやって決められた方が楽だ、覚悟は自然とできるし。この後、日が変わるまで魔王と話し続ける。部屋を出る時──
「では、失礼します」
「あぁ……そうだ待て」
「はい」
「なるべくは隠してやるが、どうにもならん時は諦めろ、いいな?」
「……分かりました、ご協力、ありがとうございます」
「礼などいらん、借りを返しているだけだ」
こうして、俺は部屋に戻ったのだった。
神威一刀流技の巻:庚子 偃鼠飲河
使い手によって強化内容が変わる神威一刀流37番目の技。変わるのには七つの大罪が深くかかわっているらしい。
神威一刀流技の巻:辛丑 九牛一毛
刀の一部を指定し、そこに当てれば強力な一撃となる神威一刀流38番目の技。範囲は毛先程度の大きさしかないので狙って当てるのは難しい。待ち構えて使う事が多い
神威一刀流技の巻:戊寅 騎虎之勢
体を本能のまま動かす神威一刀流15番目の技。使用中は一切の意識がなくなり、まともな戦闘は出来ない。カムイとその弟子達は秒数を決めて強制解除する方法と、戻った瞬間相手を殺しにいく思考をする様に訓練されている。
29話 ウザ絡み
ウィスカ「ねぇ、私……貴方の事──」
オグルリオン「はっ、はぁ!? なんだよ急に……」
ウ「っ、ふふっ、あははははっ! 何照れちゃってんの? 可愛い~」
オ「なっ、テメェ! いい加減に──うわっ!?」
ウ「きゃっ!」
オ「っつ、悪い……」
ウ「ぅ、ううん、大丈夫……」
オ「……っ、また騙そうったってそうはいかないんだからなっ!」




