28話 悪魔族、結び目を解く
「どうすればいいんだろうね?」
彼女、魔力の通り道がめちゃくちゃになっている。まるでヘアブラシに絡みつく髪の毛のように。いや、それより酷いかもしれない。どうしたらそんなになるのか分からないな。
「……フレイル君?」
魔力自体は通っている、けどそれをうまく吐き出せてない。命に別状はなさそうだけど、魔法を使えないのはね。苦手な魔族はいるとはいえ、全く使えない人はいない。もしこのままなら一生隠し続けることになるかも、俺みたいにね。
「えっと、その、何か変な所でもあるのかな?」
そもそもこれって動かせるのかな?できなかったら治せないけど……とりあえず俺のでやってみよう。
傷付けないようにそっと自分の通り道を動かしてみる。その結果、動かせはしたがそこまで自由度はなさそうということが分かった……やってみるか、やらないとなにも始まらないし。
「ちょっといい?」
「うん、いいけど……」
ひとまず魔力だけで彼女の通り道に干渉しようとする。しかし、それではなにも反応がなかった。俺のならできたのに、魔力だけじゃ駄目とか?
「手触ってもいい?」
「いいよ」
今度は触りながらやってみると少し動かせた。治せないけどね、このくらいだと。もっと動かすには……近い方が動かしやすいかな?大体おへそあたりか、大きな塊があるの。
「ちょっとお腹見せて」
「うん……えっ!?」
それにしても、どうしてこうなったんだ? 普通に過ごしててこんなになるわけないよな。それならこれは生まれつきなんだろう。
「うっ、うぅ……」
彼女はゆっくりとお腹を見せてくれた。俺はすぐにお腹に手を当て、動かし始める。
「ひゃっ!?」
「動かないで、危ないから」
「……っ」
どこから始めればいいんだ、これ?右、じゃなくて左の方がやりやすいかな?
「あっ、あの、〜!」
「おいおいおいっ!? 何──」
「待て」
あー、周りはそんなに難しくなさそうだな。1つだけ引っかかっているだけみたいだ。
「んっ」
「いや、あれは駄目だろ!?」
「奴が拒絶しておらぬのならいいではないか」
「いや、エルラベにいただろ婚約者っ!」
ひと回り小さくなったけど、まだまだだ。目算だと2割くらいかな。
「んんっ!」
「それは問題ない」
「なら、まぁ……」
「そうだよ、それに満更でもなさそうだし」
少しだけ難しくなったけど、これくらいなら問題ないな。そんなに時間はかからなそう。
「っ〜」
「そういえば、相手って誰だったの?」
「レヴィアタンの第一王子だ」
「……いいのか、断って?」
ふぅ、これ半分ってところか。後もう少しだし、一気にやろっと。
「はぅ……」
「問題ない」
「まぁ上手くやってくれよ?」
「最悪魔道具の輸入が出来なくなるかもしれないしね」
……なんだこれ、最後めちゃくちゃ難しいんだけどどうなってんだ、これ?
「ぁぅ」
「……いつまで触ってんだよあいつ」
「何してるんだろう?」
「魔力で何か動かしているようだが……」
おっ、これで、こうして、こうしたら……出来ないんかいっ! 本当にどうなってんのこれ?
「……」
「えっ、分かるの?」
「当然よ、何を動かしているかまでは分からぬが」
……出来た、のかなこれで。出来た、よな、よし! 出来たっ!
「ふぅ……」
「……おっ、終わり?」
「終わったみたいだな」
「ふむ……」
「これで使えればいいんだけど」
俺の予測通りだとこれで魔法が使えるはず。他の所にはないし、これで出来なかったらお手上げだ。
「魔法、使ってみて?」
「魔法? ……えいっ!」
彼女が手を振った先が凍りつく。よかった、どうやら俺の推測は正しかったみたいだ。
「えっ、嘘っ! ……とりゃっ!」
「おぉ〜、出来てるじゃん!」
「出来てる出来てるっ!」
「……」
「フレイル君っ!」
「っ!」
彼女が抱きついてきたのを、俺は避けられなかった。身体中の筋肉が硬直していくのを感じる。今感じるべきでない恐怖で脳が埋め尽くされた。
「凄い! どうやったの!?」
「なん、て言えばいいのかな……」
駄目だ、何も考えられない。精々、平静を装うことしか──
「はしたないぞ」
「あっ、ごめんなさいお母様」
助かった……魔王が止めてなければどうなっていたことか。
「自身の身分を考えろ」
「……はいっ!」
「よかったな」
「よかったね、エルラベ」
「うん!」
これで問題は解決、かな?じゃあもういいかな、次に行っても。考えていたより予定が押しているし。だとしても、魔王に正式な挨拶をしてからだな。それは流石に外せないからね。
「フレイル、何をした?」
「……魔力の通り道を治しました」
「通り道? それが駄目だったの?」
「はい、あれでは使えなくて当然かと」
俺は彼女の状態を簡単に説明する。あらかた説明した後、皆は納得してくれた。
「そんなことになってたなんてな」
「ね、お母様も気付かないなんて……」
「……魔法不練出症」
魔王が意味ありげな言葉を口ずさんだ。魔法不練出症、聞いた感じ魔法の練出、つまり魔法陣を練り上げることができなさそうな名前。
「母上知ってるのか?」
「魔法を上手く使えなくなる症状だ、我もかつてそうだった」
「へぇ……母上」
お兄さんが魔王の両肩に手を置いた。その顔はとても真剣なものに見える。
「休んでくれ、マジで」
「……そうするか」
「なんで自分の事忘れてるんだよ……覚えてたらエルラベだって──」
「あぁ、悪かったな」
魔王はエルラベさんの頭を撫でた。その行動がどういう意図を持っているのかは分からない。でもそれは魔王なりの謝り方なのだと思う。
「お母様……」
「トレピア、やっておけ」
「かしこまりました」
「しばらく休ませてもらうが、何かあったらすぐに呼べ」
そう言って魔王はこの場を立ち去った。歩いている姿を見る限り、疲れはないように見える。やっぱり見せないようにしているのかな。
「よし、じゃあ今日はお姉ちゃんと2人で買い──」
「フレイル君も一緒がいい」
「そんなぁっ!」
俺? いいけど、なんでだろう? お礼とか? それなら納得できるけど。
「お礼も兼ねて街を案内したいなって、駄目かな?」
「駄目じゃないけど、私邪魔じゃん」
「そんな事ないよ?」
「えぇ? だって、ねぇ?」
「? ……っ!? ちっ、違うからねっ!」
俺の方を見ながら何かやりとりをしているみたいだ。何を話しているかまでは聞こえないけど。
「遊びに来た」
「トカナ、ガオニはいませんよ」
「知ってる」
トカナさんがトコトコと歩いてくる。ただ今日は背中にハンマーを2つ担いでいた。昨日は持って入ってこなかっただけか。
「遊ぼ、トレピア」
「無理です」
「えー、ウィスカもいるよ?」
「そういう問題ではありません、私には魔王様のお世話があるので」
キッパリと断ったな、トレピアさん。メイリアみたいなことを……あの人と気が合いそうだな。
「……そういう事なら、エルラベ様と行かれては?」
「ん?」
「丁度そういった話になっているからね」
「……それ、私達に護衛──」
「貴女は歳も近いではありませんか」
「そうだけど……まぁいいや」
トカラさんは諦めた感じでこちらに近付いてくる。それと、結構年齢は近いらしい。てっきりお母様タイプかと思っていたけど……
「行こ、エルラベ様」
「えっ、と……」
「どのみち護衛はいると思うよ?」
「分かった……」
「よし、じゃあ行こっか」
「えぇー、トレピアちゃんノリ悪いなぁ〜」
「しょうがない、いつもの」
「なら無理かぁ」
言っていた通りウィスカさんが玄関で待っていた。こちらは昨日と変わりない。服装は変わっていてほしかった所だけど。
「じゃあ2人で行こっか」
「ううん、5人」
「……まさか」
「押し付けられた」
「うわぁ……」
いかにも面倒事、みたいな顔されてもね。どう反応すればいいのか困る。
「あっ!? そ──」
「逃げるな」
「えぇ? 何の事かなぁ?」
「私1人だと3人はめ、キツイから──」
「本当は面倒なだけでしょっ! ならいいじゃんっ!」
「……分かった」
案外すんなりとその手を離した。ウィスカさんは嬉しそうな顔をしているが、ほんの少しだけ戸惑っていそうだ。
「えっ、いいの!」
「うん」
「やったぁ! じゃあ護衛ガンバっ!」
「後でトレピアに言う」
「よぉし、護衛は私達に任せてっ!」
その変わり身の早さからトレピアさんに怒られたくないという意思が見えた。なんとなく三星将のパワーバランスは分かった気がする。
「外は寒いけど平気かな、フレイル君」
「大丈夫です、魔道具がありますから」
「そっか、じゃないと寒いもんね」
「それより……」
俺はウィスカさんの方を見た。先に聞く人がいると思うんだけどね。
「あぁ、私達寒いのに耐性があるから平気なの」
「でも、あれは流石に……」
「私達翼魔族は特に寒さに強いから大丈夫なんだっ!」
だとしてもそれはない、そう言いたかったがやめておいた。外に出るのが遅れそうだし。俺達は忘れ物が無いか確認した後、玄関を開ける。開けた瞬間、凍えるような空気が入り込んだ。
外に出て見た景色は、やはり白一色の雪景色だった。ここからでも街の人達が雪下ろししているのが見える。後、確実に家より庭が狭い。あれがおかしいだけか、そうだな。
「転ばない様にね」
「はい」
気を付けながら階段を1段ずつ降りていく。降りた後に気付いたが、どうやら先程までいた場所は2階だったみたいだ。ちらっとだが階段の奥に扉が見えた。
「……やっぱり暑い」
「脱げばいいじゃん」
「でも置く場所が……あ」
トカナさんが俺の姿を見て何か思いついたみたいだ。そのまま近付いて、あの暖かそうな服を脱ぎ始めた。
「着ておいて」
「寒くないの?」
「平気、よろ」
言われた通りその服を着た。若干人の温かさが伝わってくるが……気にしないでおこう。
「ん、いい感じ」
「よかっ!」
「どうしたの?」
彼女の体中に刻まれた入れ墨を見て驚いてしまい、変な声が出た。あの服から見えていた顔以外の部分にびっしりと刻まれている。タンクトップなので余計に見えるのだ。
「ごめん、少し驚いちゃって」
「……あぁ」
「鬼魔族にとってこれは強さの証なんだって」
「そう、私強いから」
そんないかにも自慢げなどや顔をされてもね。反応に困るよ、それは。
「お待ちしておりました」
「トレピア、行くの?」
「魔車を用意しただけです」
「え~、行こうよ~」
「運転は頼みましたよ、ウィスカ」
トレピアさんが車を用意していたみたいだ、もういないけど。移動した後ろに目を向けると、雪を少しずつ屋根から降ろしていた。帰ってくる頃には終わっているな、いくら大きいといっても。
「どこ行く?」
「武器屋」
「それは知ってる」
「俺はどこでも」
「私も、よく知らないし」
「日用品が売ってる所かな、あっちで使う物選びたいし」
「オッケー! じゃあトカナの要望からね」
行先を決め、車が発進する。武器屋か、俺のはまずないな。特注らしいからね、メジャーな武器ではない。
「フレイル君」
考え事をしながら外の景色を眺めていたら、エルラベさんに声をかけられた。何だろう、ただの雑談だとは思うけど。尻尾が立っているから興奮しているのかな?
「仮面、取らないの?」
「取らないよ?」
「見えてるの?」
「勿論」
顔が見たいんだな、この子。うーん……せめてバレてからだよな、取るの。幸い魔王以外気付いていないみたいだし。
「……」
「じゃあ先に顔を見せてくれたらいいよ?」
「えっ!?」
はぐらかしてもいいんだけど、続きそうだしね。それならやりにくい事やらせた方がいい。実際、顔は見たいからね。
「うっ、うぅ……」
「どうする?」
「……諦める」
尻尾が垂れ下がったし、諦めてくれたな、今の所は。後で決心して見せてくる可能性があるからね。そうしたら見せるしかない、やっぱなしは可哀想だし。
「他の事なら出来るかもしれないけど」
「じゃあ、知りたい事ある?」
知りたい事、かつこの子が知っている事だ。仮に知らない事を聞いてしまったら気遣った意味がないし。この国で俺が知らない事──
「六王将の事、とか?」
「分かるけど……」
「いいけど、調べたら分かるくらいの範囲にしてね? 一応フレイル君部外者だから」
「はーい」
お姉さんから許可が出たけど、そこまで詳しくは知れないみたいだ。そんなに詳しく聞くつもりもなかったからいいんだけどね。
「もうすぐ着くけど、待ってる?」
「はい」
「フレイル君と話してる」
「私は見てみようかな」
ほどなくして車は止まった。車からはトカナさんとお姉さんが降りて店の中に。ウィスカさんは外で周りを見張ってくると言い残して降りていった。暫く時間がかかるみたいだし、色んなことが聞けそうだ。
28話 門番
ドラッス「おっ、誰か出てきたな」
クリムス「皆さんでお出かけかな」
ド「ちゃんと仕事してる所を見せないとな!」
ク「はい、兄さ」
トレピア「申し訳ありません、雪がかかってしまいました」




