27話 悪魔族、原因を発見する
「……ウィスカ、遅いぞ」
「ごめんなさーい、でもなるべく急いで来たんだよ?」
魔王が去ろうとした時、部屋の入り口に1人の女性が現れた。その人は大きな紫色の翼を生やしている。何故か真夏に着るような服を着ているがそれより頭についている羽が気になった。薄紫色の髪に小さな可愛らしい羽がついているのだ。
「えっ!? 何この子!」
「あぁ、こやつは──」
「可愛い──くない……」
仮面をつけているからそうなるのも無理はない。だとしてもその反応にどう対応すればいいか困る。可愛いと言われるのも、可愛くないと言われるのも微妙だ。
「ウィスカ」
「この魔力量を子供が出すのは可愛くないじゃん!」
「……昔馴染みの子だ」
「ふーん」
「フレイルです」
「ウィスカでーす、魔王様から翼王を……え?」
彼女の自己紹介が途中で止まった。この感じ、もしかしなくとも……
「魔王様に友達!?」
「……」
「えっ!? 嘘! レヴィアタンとかベルフェじゃないの!?」
「あはは」
その問いに対しては肯定も否定も出来ない。これ以上掘り下げないことを祈ろう。
「仮にそうだとしてさ、もう少しちゃんとしろよ」
「え?」
「王族になりますからね、その場合」
「……あっ!?」
「問題なかろう、そうではないのだからな」
そんなに見ないでほしい、バレそうだし……そういえば宿どうしよう? まだ空いてるかな、この時間帯だともう埋まってそうだけど。野宿はお母様の魔道具でいけるからいいんだけど、場所を取るんだよなぁ。この時間だと街の外に出るのは無理だし、いい感じの空き地あるかな?
「ですよね~」
「ウィスカ、君はもう少しちゃんとした方がいいと思うよ」
「うん、そう思う」
「あれ、何でいるの2人とも」
「招集があったからに決まっているだろう?」
「うん」
ウィスカさんが声をかけた2人、多分残りの三星将だろう。1人は身長の高い女性、スーツっぽい服装をしたしっかりしてそうな人だ。毛並みが紫色の狼魔族で、左腰にはレイピアを刺している。
もう片方はその人の脇下くらいの身長で、南極で着るような服を着ていた。額には角が2本生えており、目が赤い女の子だ。この子は武器っぽいものは何も持っていない、素手で戦うのかな?
「そういえばそうだった、で魔王様要件は?」
「もう終わったぞ」
「じゃあ戻るね~」
「まだ話は終わっていないぞ」
「は~い」
「遅れてしまい申し訳ございません魔王様」
「ごめんなさい」
「仕方があるまい、それも計画の内の様だしな」
魔王は部屋から出るのを諦め、椅子に座った。説明が必要だもんな、彼女達に。
「魔王様、こちらの子は一体……」
「誰?」
「旧友の子だ」
「フレイルです」
「私はトレピア、魔王様から”風王”を賜っております」
「鬼王、トカナ、よろしく」
「よろしくね」
トレピアさんに、トカナさんね。2人は今までの人達の様な反応はしないようだ。
「トカナ、久しいな」
「ん、久しぶりおじさん」
「トレピア、客室を1つ掃除してくれないか」
「かしこまりました、フレイル様のですね」
「えっ!?」
「あぁ」
「いっ、いや──」
「恩人をこのまま帰す訳なかろう」
そうなるよね、薄々そう思っていたよ。この人の性格上そういう事には厳しいだろうし……1泊くらいなら、いいか。別にお世話になる訳じゃないし。
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね」
「どれくらい泊まらせてあげるの?」
「1日──」
「ひと月だ」
「そ「この街の宿代は高いぞ」……」
「旅費も有限だろう、今の時期は稼げないぞ」
「そう、ですか」
「観念しろ、ベルの子よ」
「っ、ちょっと!」
それを言ったらバレ──
「ベルって人なんだ、お母様のお友達って」
「あぁ」
「どんな人なの?」
「能天気バカだ」
のっ……そんな言い方、言われても仕方がない所はあるけど。
「友達なの……?」
「子供が出来る前は、まともだったのだがな」
「母上の旧友って、どれくらいの付き合いなんだ?」
「大体90年程だ」
「となると、学校でか……」
それはそうだ、お母様も──
『ステちゃんとエルエルはね、学校で初めて会ったんだよ』
って言ってたしな。
「ふむ、その頃の魔王様は庶民を見下してた覚えが……」
「あぁー、やりそう」「お母様ならやるわね」
「やりそ〜」「同意」「……」「やるっすね」「ですね」
「フレイル君って、本当に庶民なの?」
「我がいつベルを庶民だと言った」
「はぁ? たまたまって言ってただろうに」
「こやつが身分を隠したがっていたから乗ってやったまでだ」
それに関してはありがとうございます、なんだけど。もう少し隠してくれたら嬉しいな、って。
「じゃあ本当の身分ってなんだよ?」
「それはこやつに聞け、我はこれ以上言わん」
「……」
「その──」
「あぁいいから、話さなくてよ」
「いいんですか?」
「おう、まぁどうせ一代限りの貴族とかそんなだろ?」
「ははは……」
貴方と同じ王族ですよ、なんて言えないしね。これ以上掘り下げられたくないし、ここら辺で切り上げないと。
「あの、その話は置いておいて、他にやる事をやりましょう」
「そうだな、ガオニ」
「はっ」
「お主は戻って指揮を取れ」
「承知した」
「ドラッス」
「はいっ!」
「クリムスと辺りを警備しろ」
「了解!」「了解!」
「三星将は休んでおけ、いいな」
「は〜い」「休みだー」「かしこまりました」
幹部の人達は命令を受けて部屋から出ていった。半分以上の人がいなくなったので静かになったな。
「清掃完了いたしました」
「ご苦労」
「私はこれで失礼いたします」
トレピアさんは頭を下げて姿を消した。掃除用の魔法で清掃しただけだな、この早さ。
「私は処理しなければいけない事がある、留守は頼んだぞ」
「おう」
「……フレイル」
「はい」
「貴様の母はよく考えている」
「えっ?」
「誰よりもな」
魔王はそう言い残して部屋から去っていった。なんでそんな事言ったんだろう?
「気にするんなら最初から言わなきゃいいのに」
「仕方がないでしょ、あそこで嘘付く人じゃないし」
「だよな」
そこは気にするんだ、あの人。そういうのは気にしないタイプに見えるけど。
「じゃっ、俺らも戻るか」
「そうね、フレイル君」
「はい」
「後で案内してくれる子が来るから、それまで待っててね」
「分かりました」
「エルラベは、私と一緒に寝よっ?」
「えっ!?」
「襲われて怖かったでしょ? だから今日は一緒に──」
「わっ、私ねっ!」
お姉さんの会話を遮るように彼女は声を出した。若干息が荒くなって、尻尾も小さく丸めている。
「まだ寝ないから、1人でいい?」
「寝ないって、もう明日になっちゃうよ?」
お姉さんは古びた懐中時計を見せてくれた確かに日が変わるまで後1時間を切っている。この時間でまだ寝ないとなると、あれだな。
「あっ、まさか、1人で魔法の練習するつもりでしょ!」
「うっ……だって──」
「明日手伝ってあげるから、今日は寝よ?」
「……うん」
「よかった、じゃあフレイル君、また明日」
お姉さん達は手を振ってから自室へと帰っていく。3人を見送った後、俺は椅子に腰掛けた。
「はぁ〜疲れた〜」
今まで気を張っていたからか、一気に疲れが襲ってくる。もう刀も振れそうにないし、歩くのですら億劫だ。
「……ん?」
何か小さな魔力がわらわらとこの部屋に向かって来ている。なんだろう、全部集めても大した量じゃないから危険はなさそうだけど。重い体を動かし、入口の方に視線を向けると、そこには小さな氷の子兎が続々と入ってきた。
その子達は途切れることなく入り、床に横たわっている3人を取り囲む。次の瞬間、子兎達は彼女達にくっつき始める。どんどんとくっついていき、最終的には1匹の大きな兎になった。その兎は体内の3人を上手く動かしながら部屋から出ていく……凍死しないよね、あれ。
大兎がどこかに行った後、代わりの兎がやってきた。その兎はシルクハットに杖、上半身にはタキシードを身に纏っている。兎は一礼した後、ゆっくりと左の方へ歩いていく……ついていけばいいのかな? そのまま追いかけていくと、案内された所は客室だった。
この子が案内役だったのか。
「ありがとう」
そう言い終わる前に兎は一礼して去っていった。見た目が他とは違っているし、リーダーなのかもな。きっと仕事が忙しいんだろう。
さて、と。メールでも送っておくか。
『遅くにごめんね、時間がなくて。明日説明するから。』
っと、これでいいかな?……うん、送信。よし、じゃあもう寝──
俺の携帯から電話の着信音が鳴り響いた。あぁ……起こしちゃったか。
「……もしもし」
『どうして電話してくれなかったんですか?』
「いや、もうティナ寝てるかなって」
『連絡のない日は、安心出来なくて寝れませんって言いましたよね?』
出発してから毎日、ティナとこうやって会話している。
どうってことのない話しかしてないけど。前はティナから連絡してたけど、そのせいで1回死にかけてからは俺からしている。
『それで、何かあったんですか?』
「簡単に言うと、婚約者を助けたらいつの間にかアウスの魔王のお屋敷に転移してて、婚約者を狙った襲撃から守った所、かな?」
『……それで簡単なんですか?』
「うん、これ以上は短く出来ないよ」
言ってて信じられないな、今日起こった出来事。あまりにも都合が良すぎる気がする。
『あっ! という事は会えたんですねっ! どんな子でしたか?』
「うーん、今日初めて会ったばかりだしなぁ……良い子としか」
『ですよね……お顔はどうでしたか?』
「髪で隠れてたからよく分からないや」
家族の顔からなんとなく予想はできるけど。これを伝えるのは難しいし、言わなくていいだろう。
「これくらいでいい? 明日詳しく話すからさ」
『分かりました、ではおやすみなさい』
「おやすみ」
通話を終えた後、体を魔法で清潔にしベットに横たわる。刀を抱き枕代わりにしながら眠りにつくのだった。
「っふ、っふ」
早朝、日課の素振りをしながらティナにどう説明するか考えている。ここには昨日のシルクハットの兎が案内してくれた。室内にこういう場所があってよかったよ。外ではあまりやりたくない、寒いしね。
「ここにいらっしゃったのですか、フレイル様」
「トレピアさん、どうしたんですか?」
「朝食の用意が出来ましたので、お呼びに参りました」
もうそんな時間か、それならやめよう。待たせるのは良くないし。俺は模造刀をしまって体を魔法で綺麗にしてから彼女についていく。案内された部屋にはアウス家の人達が既に座っていた。
「おはようございます」
「おはよう、フレイル君」
エルラベさんに挨拶された後、残りの人にも挨拶される。俺は唯一空いていたエルラベさんの目の前の席に座った。
「で、どこにいた」
「地下の訓練場の方に」
「朝からやるなんて、偉いな」
「お主も見習ってやってもらいたい所だがな」
「きょ、今日はしょうがないだろ……」
全員揃ったという事で、食事にありつく。雪国だからだろう、暖かい食べ物ばかりだった。一通り食べ終わった後、皆で訓練場の方に。目的は勿論──
「第1回! エルラベに魔法を教えようの会! withフレイル君!」
「何回もやった事あるだろ」
「withフレイル君は初めてでしょ?」
「そこかよ……」
エルラベさんが今日中に魔法を使えなければ彼女達は殺される。使えればいいんだけど──
「うーん、うーん、えいっ!」
「何も出ておらんぞ」
「こりゃ駄目だな」
「うぅっ……」
「お兄様?」
思っていたより駄目そうだ。見ていてわかる、魔力の使い方がまるでなってない。俺の場合、魔眼のおかげでそこら辺楽できたしな。ただ魔力の制御に必要な角がないから結局は苦労したけどね。
「フレイル君」
「はい」
「何かアドバイスしてあげて?」
「俺がですか?」
「うん。ほら、同年代の子の方がいいアドバイス出来るかなって」
そんなこと言われても……俺だって魔法が得意なわけではない。むしろ苦手な部類に入るだろう。
今使えるのは簡単な生活系の魔法だけだ。魔法で攻撃なんて無理。相当練習すればできなくもないんだろうけど……アドバイスなんてして意味が──ん?
「おっ、何か思い付いた?」
「というか、あいつ刀メインだろ?」
「好きにさせておけ」
今、俺は魔眼を使った。何も意識せずに見るのとは違う。目の中にある魔法陣に魔力を意図的に流し込んだのだ。
別に大した効果はない。見た対象に関する魔力関連のものが見えるだけ。ただそれだけなんだけど、それが彼女の異常を見つけてくれた。そうか、だから彼女は使えなかったんだ。これなら俺にでも解消できそうだな。
27話 ガオニおじさん
トカナ「おじさん、あれやって」
ガオニ「よかろう」
ガ(兎A)「おいそこの兎、俺と遊ばないか?」
ガ(兎B)「私、待ち合わせしてるので」
ガ(兎A)「そんな事言わずにさぁ〜」
ガ(兎C)「やっ、やめろっ!」
ト「おぉー」
エルクエル「好きよな、一人芝居」




