26話 悪魔族、一撃を入れる
「10歩右に進みなさい」
言われた通りに俺は右に進む。左に襲ってきた子達、右にお姉さんに化けていた偽物がいる。いつからだ、いつお姉さんに成り代わっていたんだ……
「いつから──」
「言っておくけど、時間稼ぎには乗らないよ」
「……」
「魔王を足止めしていた仲間が殺されちゃったからね」
ここまでは計画通り、って事か。足止めしようにも、人質を取られている以上俺は動けない。魔族の風上にも置けない奴だが、人間の可能性もある。まだこの批判はやめておこう。
「まともに相手してたらジリ貧になるだけだし、さっさと撤退させてもらうよ」
負けるとは言わないあたり、1対1なら善戦出来ると思っているのか。本当にそれくらい強いのか、それとも魔王を下に見ているのかは知らない。
口ぶりだと前者だとは思う、魔王の恐ろしさ自体は知っていそうだし。目の前の偽物は倒れている3人を浮かせ、3人が入って来た穴の真下まで歩く。
「君と戦った感じこの子達だけで倒せると思ったんだけど……君、思ってたより強かったよ」
俺と戦った? まさか、こいつあのソミルスとかいう奴か?
あいつ狼魔族だったよな、魔族かよ。
「魔族なのに人質取って即退散って、誇りとかないの?」
「誇り、ねぇ……」
穴に向けて跳ぶ直前で、動きを止めた。数秒くらいなら足止め出来るか?
「残念だけど、そこら辺はよく分からなくてね」
「よく──」
「じゃあね、次戦える時は正々堂々やってあげるよ」
駄目だ、このままじゃ連れていかれる。ただ、どうする? 今の状況じゃ太刀打ち出来ないぞ。刀は新しいのを出せばいいけど、人質を肉壁にされたら攻撃出来ないし……
「ここかぁ!!」
「おっと……」
突如として、そのこの部屋に乱入した狼、声色的に女性だ。見た目は偽物の毛並みと同じ色の狼、おそらく本物のお姉さんだろう。
暫定お姉さんはそのまま偽物の右手首に噛みついた。その手に持っていたナイフが落ちるも、偽物はなんとかそれを振り払い距離を取る。
「貫けっ!」
「もう少し早く脱出するべきだったね」
狼は大量のつららを生成し、偽物と俺を標的にした……俺、敵だと思われてる?
「みか、味方、味方ですっ!」
「死ねぇっ! 誇りのないカス共がぁ!」
俺の言葉は信用される事なくつららが襲ってくる。肌を何か所か掠めたが、致命傷は負わなかった。しかし服につららが刺さって壁に貼り付けにされている。
偽物の方を見てみると、傷1つついていない。その代わり、と言ってもいいのか分からないけど倒れていた3人は地面に置いていた。それと天井の穴も氷で塞がれている、仕事が早いなこの人。
「ちっ、どっちも死ななかったか」
「お姉様っ」
「大丈夫だよ、お姉ちゃんが絶対に助けるからっ!」
「この人だけ狙って!」
「あっ、そうなの?」
あの子の言葉のおかげで俺の拘束は解かれた。多分あのままだったら次の攻撃で死んでいた気がする。
「それにしても、魔法の無力化なんて随分と高い買い物だったでしょ?」
「貰い物だよ、これは」
「あらそう」
偽物はブレスレットを触りながらどうやって切り抜けるか考えている様だ。人質さえいなければどうにでもなるんだけど、左手を落とせば後はお姉さんがどうにかしてくれるかな? よし、そうしよう。タイミングは次の攻撃に合わせればいいだろう。
「お母様が来るまでおとなしくしておいてほしいんだけど、どう?」
「断らせてもらうよ」
「じゃあ遠慮なくやらせてもらうねっ!」
狼が偽物目掛けて走っていく。俺は素早く刀を魔道具から取り出し、構えを取る。
「丁丑 一牛鳴地」
次の技に繋げる様にしながら偽物の前に位置取った。そして俺は左手に狙いを定め──
「戊寅 虎視眈々」
抜刀する。もしかしたらこの子にも当たるかもしれないけど、それはしょうがない。多少の怪我なら魔族の治癒力ですぐに治ってしまうからね。俺の刀は偽物の左腕を見事に捉え、切り落とす。
「ナイス仮面!」
「これは……」
「アトラっ!」
偽物は足元から段々と凍っていく。その子はその隙に腕の中から逃げ出した。
「お姉様っ!」
「もう大丈夫、お姉ちゃんが守ってあげるからねぇ」
狼から偽物と瓜二つの見た目になり、抱き着いている。こうして見ると、偽物は落ち着いていたな。家族なら分かりそうなものなのに。
「さて──あれ、いないっ!」
お姉さんが偽物の方を向くと、驚いた声を出す。俺もつられて見てみると先程までいた偽物がいなかった。しかも抜け出した形跡がない、まるで中から消えたみたいだ。
「はぁ、絶対怒られるじゃん……」
「だ、大丈夫だって。お母様も事情を説明すれば納得してくれるって」
「でも、『それはそれ、これはこれだ』、って言ってくると、思うんだ」
「……」
言いそうだな、あの人。そう言っているのが目に浮かぶ。
「で、その仮面君は?」
「この子はね──」
俺が説明する暇もなく彼女が説明してくれた。一通り説明し終わると──
「成程。君、さっきはごめんね、攻撃しちゃって」
「いえいえ、普通攻撃しちゃいますよね、あの状況だと」
俺でも攻撃してしまうと思う。だとしても最初に1回やるかどうかだけど。
「だよねだよね。あっ君、名前は?」
「フレイルです」
「私はエルミル・アウスね。よろしく」
「よろしくお願いします」
さて、これでひと段落……何か忘れている気がする。何だっけ、確か俺じゃないといけない事だった気が──
あっ!?
「外の状況ってどうなってましたかっ!」
「えっ? あんまり見てないけど……兄様が死体の山を築いていたかな?」
「じゃあ、もう侵入者は……」
「いないんじゃない?」
もう間に合わなさそうだ。その答え合わせだと言わんばかりに、お兄さんからそういった旨の連絡がなされた。
「後はお母様を待つだけかな?」
「うん」
「じゃあ──ドラッス、クリムス、もう踊るのはやめなさい」
先程からちらちらとドアの前で踊っていた2人がこの部屋に入ってくる。踊るのは魔法発動の条件らしい、今までこの部屋に入ってこなかったのはそのせいだ。その分強力な魔法なので仕方がないとは思う。
「すいません、援護に行けなくて」
「でも俺達もやめる訳には──」
「分かってるから、それより貴方達、この子に失礼な事してないよね?」
その言葉に2人は少しだけ反応した……結構常習犯的な感じなのかな?
「はぁ……あのね──」
「待ってくださいっ! 俺達さっきされたばかりですって!」
「それ私の偽物でしょ、黙って聞きなさい」
「はい……」「はい……」
そこから魔王が戻ってくるまで2人は叱られ続けるのだった。
「逃がすとは、情けない」
「だって、一瞬目を離しただけでいなくなるとは思ってなかったし……」
「相手の策を防いだとはいえ、及第点だな」
「……というか、お母様が最初から偽物だって見破ってれば平気だったと思うんだけど」
「……」
その言葉に魔王は何も言い返せない。実際その通りだしな、今回の件に関しては。もしいなければ相当楽に対処出来る部類だ。入って来たのがあの3人くらいだし。あれくらいなら誰か1人あそこにいればそれで終わりだ。
「我とてその程度の事は分かっている」
「珍しいよな、こんなミス初めてみたぞ俺」
「相手がお母様相手に騙し通せる実力の持ち主なのもね」
それもそうだ、この人を騙し通すレベルの奴なんてほとんどいない。全魔族からランダムに選んだ1000万人の中に1人いればいいくらいの話だし。
「そういえば、仕事は大丈夫なの?」
「あぁ、問題ない」
「俺はそいつがグルだと思ってるんだけど、どう?」
「だろうな、我を返すまいと引き留めていたからな」
思い付きだった俺の予想は当たっていた。つまりだ、俺がいなければまんまと相手の罠にハマっていた事になる。偽物が1人で出来ると言っていたのも、スムーズに事を運ぶ為だ。
「こやつを部屋に待機させた事は正解だったな」
「だろ?」
「たまたまでしょ」
「あぁ?」
「他は人手が足りてたからじゃないの〜?」
「ちっ……」
お姉さんの言う通りだ。家族だとそこら辺の予想はしやすいしね。
「鼠3匹を通したのはどうかと思うが」
「いやいや、こいつらいて入り込めると思う訳ねぇから」
「「すみません!」」
双子は先程からずっと地面に頭を付けている。ずっと叱られ続けているのでそろそろ可哀想だ。
「姑息な魔法にかかりおって」
「「姑息?」」
「……」
姑息な魔法、何かかかっているのかな?……この形は──
「認識阻害の魔法か……」
「えっ!? マジっすか!」
「そんな! いつの間に!?」
「貴様ら、それでも三魔将か」
魔王は2人の反応に呆れていた。おそらく先に俺が見破ったからだろう。魔法は強いんだけどな……
「でも、いつ掛けられたんだろう?」
「多分、偽物が2人を叱る為に別室へと移動した時だと思います」
それ以外に魔法を掛ける大きな隙はなかった。ただ俺に何もしてこなかったのが気になる。3人時に俺を無力化すれば連れていくのは容易だ。
普通の魔族ならしないけど、あいつはそこら辺分かっていない様だし。手加減された? でもあそこまで計画しておいてそんな事……
「そっか、他に心当たりはある?」
「初めて会う前なら、一緒に来ていたので」
「それはないっす」
「兄さんと新一発ギャグ20連発披露してたんで」
「……そっちの記憶はあるのか」
「はい、叱られてた時の記憶がないのでおそらくそっちかと」
「俺も兄さんと一緒です」
本人達の言う事を信じればそこでやられたんだろう。仮にその記憶が改竄されていた場合は逆だと考えられる。ここまで考えるのはやり過ぎなんだけどね。ただ相手が魔王を出し抜けた以上、あり得る可能性は潰したい。
「あっ、そうだお母様」
「ん?」
「これ、戦利品」
お姉さんは偽物が着けていたブレスレットを手渡す。特に変な魔法は掛かっていないのは確認済みだ。
「魔法を無力化出来る魔道具だってさ」
「……」
「お母様? 何か気になる点でも?」
「これは、宝物庫にあった筈なのだが……」
俺が心配するのもなんだが、大丈夫かなこの人。案外疲れているのかもな、お母様も隠してたし。
「母上、仕事が大変なら手伝おうか?」
「ふん、せめて我に一矢報いてから言ってもらいたいものだな」
お兄さんはとても渋い顔をした。普通報いるどころか何も出来ないよね、うん。
「状態を確認し次第、戻しておこう」
「……で、どうするのこの子達」
俺達の視線が3人の少女に集まる。偽物が残していったのはブレスレットだけではなかった。あの状況下から逃げ出すので精一杯だったのだろう。少なくとも余裕があるのならばブレスレットくらいは回収していた筈だ。
「愚問だな」
「あー、やっぱり?」
「まぁ仕方がないよなぁ」
「?」
「……」
魔王は彼女達に手を向け、凍らせていく。侵入者なんて生かしておく意味はない。生かしたのは彼女達を助けたいと思った俺のエゴなのだ。
勿論止めさせる事は出来る。だがそれは俺がレヴィアタンを名乗った場合だ。現状ただの平民である俺の言葉は受け入れられない。今ここで名乗ってアウス家の厄介になるのは嫌なのだ。
「待って!」
魔王の決定にエルラベさんが待ったをかけた。俺が守ったとはいえ襲われた張本人が、だ。
「どうした」
「なんで殺しちゃうの? わざわざ殺す必要なんてないよ!」
「侵入者は殺すのがルールだ、例外はない」
「でも、折角フレイル君が殺さなかったんだよ! それに、まだ子供だし──」
「これはアウスの問題だ。それと、我々に牙を向けた以上いくつであっても関係ない」
言われると思った事が言われていく。ただ、それでも彼女が引き下がる事はなかった。
「襲ったのだって、命令に逆らえなかっただけ──」
「ならば少しでも嫌がる素振りでもしたか?」
「……」
「まだ言いたい事はあるか?」
「っ、フレイル君は何にも思わないの!」
俺に話を振られても困るんだけど……助けたい気持ちはある、でもそれは俺にとって禁じ手だ。冷たいかもしれない、いや冷たいんだろう。中途半端に、助けるべきではなかったな。今後もやってしまうんだろうけど。
「……思う所はあるよ」
「なら──」
「でも俺がとやかく言う事は出来ないよ」
「お主は"一般人"だしな」
言い方はあれだが、言いたい事はそうだ。この状況下で俺の意見は意味がない。
「私なら?」
「……」
「私ならいいの?」
何が彼女にそうさせているのか分からない。1つ言える事は、怯えているだけだった子の雰囲気は無くなっていた。
「我は、お主を王族の一員だとは認めておらぬ」
「母上っ!」「お母様っ!」
「1日待ってやる、魔力を動かせる様になれ」
「短──」
「我は5年待ったぞ」
「……」
「後の処理は任せるぞ、私は──」
魔王は部屋を後に──
「只今戻りましたよ! 魔王様!」
するのは時間がかかりそうだ。
神威一刀流技の巻:丁丑 一牛鳴地
相手の懐に潜り込む神威一刀流11番目の技。瞬間移動ではなく、所謂縮地なので敵との間に障害物があると行手を阻まれるので使いにくい。
神威一刀流技の巻:丙寅 虎視眈々
居合いの構えを取る神威一刀流3番目の技。間合いに入った瞬間相手を切り捨てる。フレイルがよく使う技の一種。
26話 巡回
騎士A「はぁ〜……」
騎士B「おい、ちゃんとしろよ」
A「だってさ、本当なら今頃飲めてるんだぞ?」
B「仕方ないだろ、仕事なんだから」
A「可愛い子、いるのかなぁ……」
B「いるだろうな、ここには幽霊がいそうだけどな」
A「おい、怖い事言うなよ」
イシュレ「呼んだ?」
A B「「うわぁぁぁぁぁぁ!?」」
イ「あっ、ちょっと! えぇ……」




