25話 悪魔族、敵と対峙する
「……来たな」
周囲が暗くなり、静寂が支配していたアウス家の屋敷に動きがあった。屋敷を囲む様に何者かが陣取っているのだ。オグルリオンは軽く体を伸ばし、屋敷の者達に通達をする。
「お前ら、準備しておけ」
「来ましたな」
「あぁ、大体2~300人って所か?」
「この程度の人数で勝てると思われるとは……」
2人は今、この襲撃に対して怒りを覚えていた。たったこれだけの人数で成功出来ると思われている事に。魔族にとって、強さは自身のプライドに直結している。正々堂々、1対1でやるのが基本だ。
ただし必ずしも1対1でやらなければいけない、という事はない。戦争や1人に対して大勢で挑むのも問題はないのだ。重要なのは正々堂々の部分であり、そこさえ守られていれば問題はない。では何故彼らが怒っているのか、それは2~300人程度で襲撃を決行した事だ。
当初の想定では少なくとも500人以上はいると2人は考えていた。これは「自分達といい勝負をする為に必要な最低限度の人数」だ。魔王が不在であっても、これくらいは用意してくると読んでいた。
しかし現実はその半分程度、魔族にとってこれは下に見られていると捉えられる。「この程度いればいける」というメッセージが魔族からしたら含まれてしまう。この人数で来る事は彼らにとってプライドを傷つける行為だったのだ。
「ガオニ、門に立て。誰も通すな」
「承知」
言われた通り門へ向かう。この屋敷はレヴィアタン程デカくないので、数秒も掛からない。塀の内側に待機していた兵士達も登って迎撃の準備をする。組織に部隊を送った分があるので人数こそ少ないが問題はなかった。
「よし、やるか……」
オグルリオンは目を閉じ、魔法を練り上げる。魔法が発動すると彼と全く同じ姿の人が10人に増えていた。彼の得意な魔法の1つが分身を作り出す魔法だ。魔力量は込める量で変わるが、身体能力は全く変わらない。それぞれを自身の脳1つで動かす都合上本来の力は出せないが、こういう相手には有効的だ。分身は塀の外に飛び出していき、相手を息の根を止める。
「はっ、この程度かよ」
一瞬、彼は油断をした。そのわずかな時間に死んだ襲撃者が爆発する。その威力は強大、分身は耐えられず塀の一部が崩壊してしまう。
「気を付けろ、相手は死んだら爆発する」
彼は即座に情報を共有し、崩壊した塀の方に手を向ける。そこを侵入してくる相手諸共氷漬けにしてしまう。その氷は崩れた塀の代わりに十分なれる物だった。
「来たか」
屋敷の中から、氷の騎士がぞろぞろと出てくる。これはドラッスとクリムスが作り出した氷像だ。今現在、この氷像は屋敷の至る所に配置されている。屋敷の中に虫でさえ入れない程だ。その為、これから先余った氷像は外に向かう。
時間が経つにつれ、この屋敷の防御は固くなっていく。彼があの2人を室内を任せた理由はこの氷像があったからだ。
氷像が来た事を確認した彼は屋敷内の事を思考の中から消した。しかし、それが裏目に出てしまい3人の侵入者を見逃してしまう。彼が気付いたのは襲撃が終わってからである。
フレイルは外の様子を魔眼によりなんとなく把握していた。基本的に優勢であり、負ける要素はなさそうと判断している。その予想は外れ、右の方向から見知らぬ3つ魔力が近付い てきた。
「2人共後ろに」
彼は刀を抜き、彼女らを後ろに下がらせる。この行動自体は彼らが事前に立てていた作戦通りだ。もし突入された場合、フレイルだけで対応する。エルミルは魔法で妹を守るのに注力する作戦だ。
これはあくまで防衛線、標的であるエルラベを守るのが最優先。戦う相手もフレイル相手には力不足なので1人でも問題ないと判断した。とは言っても厳しそうならば2人で戦う選択をするだけだ。
そうこうしている内に3人の少女が天井を突き破って入ってくる。3人とも赤い毛並みの狼魔族であるものの、年齢はそう変わらない。身長差は大きい順に5㎝程違い、顔つきから血のつながりが見て取れる。右手にはナイフを持っており、どうやって攻めようかと考えている様だ。
このたった数秒の間にフレイルはどう行動するかを決めていた。それは窮鼠噛猫で3人にかかっている魔法を解いて解放する事だ。彼の目には彼女達に2つの魔法が発動されているのが映し出されていた。
それは奴隷には必ずある隷属の魔法と自らの死がトリガーとなる自爆する魔法だ。後者は先程言われた通りなので特に驚きはしない。精々死なせない様に立ち回る事が必要となってくるくらいだ。
前者に対しては少しだけやる事が増えたと彼は感じていた。彼の推測では、外の襲撃者も奴隷だと考えている。おそらくあの場にいた奴隷達で襲撃しているのだろうと。
売り物である以上殺される程相手に金銭的ダメージが発生する。しかしそんな事は相手側も承知の上。それ程彼女を奴隷として売った時の利益が膨大だという証拠だ。
彼は今、出来るだけ早く彼女達を倒す思考に走っていた。時間をかければかける程、外の人達は殺されていく。彼であれば殺さずに制圧が可能、それがあの施設に入り込んだ時の目的だ。
「甲子 窮鼠噛猫」
技を発動し、いつ仕掛けられても対応出来る態勢に。にらみ合う中、最初に動き出したのは一番大きい少女だった。彼女は右手に持っていたナイフをフレイルに投げつける。
彼は冷静にそれを弾いたが、少女は既に目の前まで迫っていた。右手には投げた物とは別のナイフを持っている。左右からは残りの2人が迫ってきており、避けた場合ナイフに刺される様な位置取りだ。
彼にとって一番楽な方法は格下を確殺出来る割鶏牛刀で3人とも切り捨てる事。が、それでは彼の望んだ結末にはならない。よって、彼はとった行動は左手でのパンチであった。
「っ!!」
目の前の少女はドアの方まで吹き飛ぶ。そしてそのまま倒れこんでしまった。彼が気絶させるつもりで放った一撃だが、そこまでには至っていない様だ。この状況下で左右の少女は気にも留めず、ほぼ同時に突撃してくる。
彼は右手の刀でナイフを受け止め左手は少女の右手首を掴む。左側の少女はそれを見て手に噛みつこうとしたが、その前に関節技を決められてしまう。それと同時にフレイルは刀側の少女を力技で地面に叩きつける。流れる様に2人を刀の側面で触れ、魔法を解除した。
彼が1対1にしたと思った瞬間、魔法を解除した筈の2人が倒れていた少女の方まで下がる。3人は一瞬目を見て、大量のナイフをどこかから取り出した。そしてそれをフレイル目掛けて投げ出す。彼は後ろにナイフがいかない様に刀を振るっている。
この数秒間で、彼女達は近接戦闘に勝ち目がないと判断した。相手のメイン武器である刀より、長いリーチで戦わなければまず命令は遂行出来ないと。幸い、彼女達に与えられたナイフは魔力を込めれば一時的に複製が可能だ。魔力が尽きない限り継続する事が出来る。
確かに、体力を消耗させてから近接戦に移行する事自体は間違っていなかった。実際、このナイフの雨をフレイルが通り抜ける事は不可能に近い。しかし、これを突破する事自体彼には朝飯前であったのだ。
「丙子 首鼠両端」
突如目の前に横向きの斬撃を模した魔力の塊が現れ、彼女達を襲う。ナイフはその魔力によって弾かれてしまった。彼女達はそれを避ける為に飛び上がる。
「丙子──」
「!」「!」
左右の少女は同じ技を撃たせまいと彼に飛び掛かる。目の前であれだけの魔力が自分達に当たれば相手もただでは済まない。それに仮に死んだとしても自爆で確実にダメージは与えられる。だが、2人は知らなかった。フレイルの手の平の上で踊らされている事を。
「首鼠両端」
彼の放った一撃は、先程と同じものではなかった。ただ刀が振り下ろされるものとなっていたのだ。当然、2人は刀の餌食となる。
首鼠両端という技は距離によって出る技変わる技だ。目標に定めた相手が半径1m以内にいなければ魔力を放つ斬撃に。逆に範囲内であれば今の様な普通の斬撃となる。だからこそ彼はこの技を選択した。彼女達が戦況を優位に進める為に技を撃たせない事に賭けて。
これにより、2人はほぼ戦闘不能と言ってもいい状態にされた。精々撤退するので手一杯だ。こうして、1対1の状況を作り出す事が出来た。
「甲子 窮鼠噛猫」
「っ!」
フレイルは動揺していた残りの魔法を解除する。これで彼はある程度技の選択肢が増えた。
「大人しく降参してくれると嬉しいな」
「……」
「君達も──」
フレイルは話しながら何故魔法を解除したのに敵対行動をとってこれたのかを推測する。彼の魔眼には、確かに魔法が解除されたのが見えていた。しかしそれは自爆の魔法だけだ、隷属の魔法は未だ健在。何故解除出来なかったのかも見当がついていた。
彼女達のうなじに隷属の魔法が込められている針状の魔道具が刺さっているからだ。これをする事で今の様な魔法を解除する効果をすり抜けられる。簡単に隷属の魔法を無効化されない為の処置だと彼は考えた。
「──降参はしない、って事でいいかな?」
「……」
「なら遠慮なく」
彼は残った1人の方に歩き出す。残った1人と永遠とにらみ合ってても終わらないからだ。それにやりすぎて倒れた2人が回復されても困るというのもあった。
彼が攻撃の為に走った瞬間、倒れていた2人が起き上がり1人で攻撃を仕掛ける。これは彼女達にとって一か八かの攻撃だった。
「壬寅 市虎三伝」
そんな3人をフレイルは切る。本来なら普通に切るだけの庖丁解牛で充分、いやなんなら技すら使う必要がない。それを3人いるからという理由だけでこの技を使った。3回切ると攻撃がされたという判定になるこの技を。要するに、相手をなめ腐った攻撃という事だ。
彼女達はその攻撃によって倒れてしまう。そもそも、勝てる見込みすらなかったのだ。
「ふぅ、これで──」
後ろから1本のナイフが飛んでくる。それは先程大量に複製された物だ。一体誰が、それはすぐに分かった。
「エルラベの命が惜しければ、刀を手放しなさい」
彼女の実の姉であるエルミルだ。フレイルは言われた通りに刀を手放すのだった。
同時刻、アウス南の空を1台の魔車が飛んでいた。それが向かっているのは現在襲撃されている屋敷の方向だ。中には運転手の他に、1人の少女が乗っていた。
「そろそろ空の旅も終わりかぁ」
その少女、エルミル・アウスは体を伸ばしながら窓の外を見ている。現状、アトラの国境沿いでは猛吹雪が発生しており通常なら外は見えない。しかしこの魔車の周りだけは吹雪いていなかった。
「あっ、そうだお母様に連絡しないと」
彼女はカバンにしまってあった携帯を取り出し、母親に電話をかける。いくつかコール音が鳴った後、通話が繋がった。
「まだ仕事の途中だ」
「それはごめんなさい、もうすぐ着きそうだからかけたんだ。じゃあね」
長電話は悪いと思いさっさと通話を切ろうとする。しかしその通話がここで切られる事はない。
「えっ?」
「どこに行っていた」
「どこって、試験受ける為にあっちに泊まってたでしょ?」
「……貴様何者だ」
彼女はその言葉の意味が分からずに混乱していた。若干心が傷つきもしたが、状況を整理する為に質問する。
「お母様、何言ってるの?」
「いや、屋敷にいた方が偽物か」
「はっ?」
偽物、その意味を理解するのに数秒必要とした。理解した瞬間、何をすればいいのか理解する。
「エルミル」
「走って向かうよ」
「頼んだ」
電話を切り、そのままカバンにしまう。その後辺りを確認し、ドアを開ける。
「おっ、お客さん!」
「そのまま向かっておいて、お代はそっちで払うから!」
外に出たと同時にドアを閉め、自由落下していく。その間に彼女の体は人の形から狼の形に変わる。
空から生まれ育った街が見えた。何か所か見覚えのない氷が出来ているのを見て、少なくとも何かが起こっていると彼女は思う。真っ白な雪原に着地したと同時に全速力で走り抜けていく。この速度であればおおよそ1分程度で到着するだろう。
(皆、無事だといいけど……)
そう思いながら彼女は急ぐのだった。
「……」
「では続きを──」
「数十分ほど待っておいてくれ」
魔王エルクエルは1度屋敷に帰ろうとしている。予測していた戦況が想定外の方向に進んでいたからだ。自分であればこの程度の状況はひっくり返す事自体は容易である。そう考えていたし、実際彼女がいれば何もかも解決していた。
「困りますよ、こちらも貴重な時間を割いてお話しているのですから」
「悪いな、状況が変わった」
彼女は話を一切聞いていない。珍しく焦っているのだ、無意識ではあるが。
「ですから──」
話し終える前に、部屋が凍り付く。その男はもう息をしていない。彼女はその場から立ち去るのだった。
神威一刀流技の巻:丙子 首鼠両端
相手の距離によって斬撃か魔法になる神威一刀流13番目の技。半径1m以内で斬撃に変わる為基本的に魔法になる。ブラフで使いやすい。
神威一刀流技の巻:壬寅 市虎三伝
3撃目で攻撃した事になる神威一刀流39番目の技。3回当てる必要があり、当たらなければ攻撃した事にならず、基本使わない。
25話 一方その頃部屋の前では
クリムス「ねぇ兄さん」
ドラッス「どうしたクリムス」
ク「部屋の中で何か起きてそうだよね」
ド「起きているだろうな」
ク「くそっ、この技の縛りを踊る事にしてなければ……」
ド「全く、一体誰が決めたんだか」
ク「兄さん?」




