24話 悪魔族、襲撃に備える
「今日、か」
「もしこの通りに事が進むとしたら、後5時間って所だな」
「ガオニは?」
「他の三魔将を呼んでる」
三魔将はこの国に存在する幹部の名前だったな。レヴィアタンで言うとリバートとかサネクト達の事だ。話の流れ的にガオニがその中の1人の筈。
「大方、襲撃に合わせてエルラベを誘拐した様に見せたかった。って所か」
「でしょうね、今更お母様相手に仕掛けるのは不自然ですから」
「そんな事言ったらこの襲撃自体おかしいぞ。こんな事しなくてもいいんだからよ」
それはそうだ、誘拐自体はもう成功している。わざわざ魔王を刺激する必要性はどこにもない。いや、もしかしたらせざるを得ない状況だったからかも。
「あの魔法陣を消さないと駄目だった、とか?」
「それなら一緒に跳ばされればいいだろ、潜入した奴を使い捨てればさ」
「あの魔法の発動条件って、あの部屋のドアを外側から開閉する事だと思うんです」
でないと、彼女が部屋にいた理由が分からない。それと同時にリスクが高い襲撃を行うのも納得がいく。
「あー、だから消す前にバレちまう、って事か」
「あそこを出入り出来る人は?」
「家族だけだな」
となるとここの3人とお父さんしかいないのか。使い捨てにさせるには荷が重すぎるし、腕に自信がある者でも勝つのは厳しそうだ。逃げに注力したとしても成功するかは運次第、って感じかな。
「まっ、母上がいるしこの襲撃は失敗だな」
「我はいないぞ」
「どれだけ抵抗出来るか、楽しみだは?」
「この時間、我には先約がある」
先約って、こんな時に間が悪いな。いないから負ける、なんて事はない。ただ確実に勝てるとは言えなくなった。
「そんなの断ればいいだろ?」
「今回のは一度こちらから断った上で再度決めた日程だ。再度変更した場合、我々の信用が落ちる」
「エルラベが大事じゃないのかよ」
「我がいないだけでごちゃごちゃと言うな、それとも我がいなければ勝てぬか」
「そういう事じゃ──」
「ならよかろう、なるべく早く帰る様には心がける。後は頼んだぞ」
魔王は出発の準備の為か部屋から出ていく。彼女が去った部屋の雰囲気は、微妙な空気になっていた。
「ぁー、んじゃあ真面目に作戦でも考えるかぁ」
「あの、いいんですか?」
「いいんだよ、いつも通りだし」
「それだけお兄様を後継者として信頼しているという事ですから」
「それならいいんだけどさ、認めてくれるのはいつになる事やら」
その気持ち、凄く分かる。お母様は俺を信頼してくれているとは思う。でも認めてくれる気配だけは一切ない。いつまでも子供としてしか見てくれない感じだ。
「外は俺とガオニが、中はドラッスとクリムスに任せるつもりだ」
「私はエルラベの隣にいればいいんですよね」
「あぁ、それとフレイル」
「はい」
「一応客人にこういう事を頼むのは気が引けるんだけどさ」
「ここまで来たら手伝いますよ」
乗り掛かった舟だしね、今更抜けるのはちょっと。どうせ手伝うのは外だ、足を引っ張る事だけは避けよう。
「助かるよ。じゃあエルラベの護衛、頼んだぞ」
「……室内なんですか? 外ではなく」
まだ信頼していいか分からない人を護衛対象の近くにいさせてもいいのかな? ある程度信頼はしてくれているとはいえ、そこまでするのは早いと思う。
「おう、エルミスだけじゃ心許ないからな」
「お兄様」
「保険だ保険。突破された場合、前衛無しはきついだろ」
「それはそうですけど、負けませんよ私」
「分かってる、だから保険だ。いいだろ? 外も中も、これ以上いらないんだしさ」
「はぁ、分かりました」
渋々ではあるが、お姉さんも承諾してくれた様だ。それにしてもタイミングが悪いよな。魔王がいない時に襲撃が行われるなんて。あまりにもする側にとって都合がいい。
「もしかして、仕組まれてた?」
「何がだ?」
「あぁ、いや、あまりにも襲撃する側にとって都合がいいなって」
「……母上はグルの奴に呼び出された、って事か」
「あくまで俺の想像ですけどね」
魔王の排除、くらいはやっていると思う。今回必ず障壁となるのは魔王の存在だ。それを一時的にでも別の場所に移動させたいと思うのはおかしくない。少しでも成功率を上げたいのならばこの行為は必須だ。
「いや、多分その考えは合ってる」
「偶然では? お母様が断れないのを見越してやるとは思えませんし」
「3か月もあればどこかであるだろ、グルの所はそれを伝えるだけでいいからな」
「……」
「それにだ、三星将がギリギリ間に合わない位置にいる」
「偶然にしては出来過ぎてると」
「あぁ、連絡はガオニにやらせているとはいえ、早くても襲撃から1時間後だな」
三星将、というのも幹部なのかな? 三魔将は知っていたんだけど、まだいたらしい。
「あのね」
「っ……どうしたの?」
小声でエルラベさんに話しかけられた。いつから隣にいたんだろうか、この子は。
「三星将はね、最近出来たんだよ」
「へぇ、最近ね」
「うん、合わせて六王将なんて呼ばれてるんだ」
「教えてくれてありがとう」
うん、その説明で理解は出来た。出来たんだけどさ。なんで今俺にその説明を? 特に何も言ってないと思うんだけど。
「へへへ」
「どうして教えてくれたの?」
「え? 知らなそうだったから、教えた方がいいかなって」
そんなに分かりやすかったかな、仮面も付いているのに。動きに出てたんだろうな、後で直しておこう。戦いで思考を読まれるとか不利にもほどがある。そこら辺はお父様に矯正してもらった筈なんだけどな。
「三魔将は知ってるでしょ?」
「うん、分かりやすかった?」
「分かんない、なんとなくそうかなって」
感覚的な物らしい、この子はそういうのに対して人より敏感なのだろうか。もし彼女が長けていた場合、同じ精度で出来る人は少なさそうだ。
「失礼する」
彼女と話していると見知らぬ男性が部屋に入って来た。その男は上裸の肌が赤い魔族なのだが、それより特徴的なのが腕であり、6本生えており年齢は決して若くはないが、老いてもいないという感じだ。
「おっ、ガオニ。どうだった」
「ドラ殿とクリ殿には連絡は着いたが、三星将は無理であった」
「そうか、部隊の編成は?」
「抜かりなく、魔王様はいずこに?」
「先約があるから出かけるってさ」
「成程、一筋縄ではいかなさそうですな」
この人が三魔将の1人、ガオニさんか。確かに強そうだ、魔力量自体は少ないけど。どんな戦い方をするのだろうか、腕を使った戦法は使うだろう。明確な強みだ、それを押し付けないのはもったいない。
「して、その少年は何故この場に?」
「こいつがエルラベを助けてくれたんだよ」
「なんと!」
ガオニさんは俺の前まで来て立ち止まった。彼の圧が強く、少しだけ後ろに下がってしまう。
「拙者、魔王様から”六王”の称号を授かりし者、名をガオニと申します」
「フレイルです、よろしく」
「こちらこそ」
2本の腕から握手を求められたので、手を差し出す。彼の手は俺の手をがっしりと掴む様に握った。
「その子、母上の旧友の子だってさ」
「魔王様にご友人が!?」
「ガオニも知らないんですね」
「えぇ、なにせいつもお1人でしたから」
思っていたより年は高そうだな、この人。少なくとも100年以上は生きているだろう、魔王が子供の頃から知っていそうだし。
「レヴィアタンとベルフェの現魔王とは仲が良さそうでしたが……」
「えっ、いたの友達」
「それは勿論」
と、ここら辺で話は切り上げられ先程まで話していた作戦を彼に聞かせた。直ぐに納得した後、外で待機すると息巻いて部屋から飛び出していく。
「じゃあ俺も準備するから、一旦解散だな」
「何かあったら連絡しますね」
「おう、まぁ襲撃の計画自体なくなってるかもしれないけどな」
「ですね」
その言葉を最後にお兄さんは部屋から出て行った。なくなっている、というのもなくはない。俺があそこでこの子を助けた時点で計画は破綻している。侵入していなかったら確実にやっていたな。
「私も準備しますので、しばらく妹と待っててください」
「分かりました」
お姉さんも準備の為に外に出ていく。そしてこの部屋にはエルラベさんと俺の2人だけだ。
「ごめんなさい」
「えっ、どうしたの?」
「助けようとしてくれたのに、こんな事に巻き込むなんて……」
「別に気にしてないよ」
もし彼女以外の人から助けていたら、今頃檻の中か逃げている最中だ。悔しいが、あの男には今の実力だと勝てない。むしろこの状況が俺にとって最善の筈だ。味方してくれる戦力が増えているからね。
「でも──」
「君のおかげで助かったんだよ?」
「そうなの?」
「うん、あのままやっていても勝ち目は薄かったし」
「……」
だから、負い目を感じないでほしい。そう言っても彼女は納得しないだろう。ならそう思わせられる様にしないとね。
俺もお兄さん達の様に準備をしなければならない。だとしてもやる事は少ない、刀の手入れくらいだし。角もやっておきたいが、ここでは出来ない。どこかで隙を見つけてやるしかないか。
「ごめん、今から刀の手入れをしたいから少しだけ離れてて」
「うん」
床に一式を出し、汚れない様に箱を1つ出した。魔道具からシーレーンを除く4本の刀を取り出し箱の横に置く。
「いっぱい持ってるんだね」
「刀を落とした時のリスク削減の為にね」
基本家宝のシーレーンしか使わないけど。万が一を考えると用意はしておきたい。
「全然長さが違う、どうして?」
「あぁ、室内用と屋外用だね」
彼女の問いに手入れをしながら答える。興味あるのかな、刀に。
「長いとさ、壁に当たるかもしれないでしょ?」
「短いと当たりにくいって事?」
「そう、壁に刺さったら抜くまで丸腰になっちゃうしさ」
これはシーレーンにも出来ない芸当だ。強引に抜けはするが、数秒は掛かってしまうで。それだけあれば死んでもおかしくない。
「そうなんだ」
「他に知りたい事はある?」
「んー、ないかな」
興味があるのかと思ったけど、なさそうだ。少し気になったから聞いただけかな、この感じは。
「あっ」
「思い付いた?」
「ううん、それとは関係ないんだけどね」
他の事か、答えにくい質問はやめてほしいな。家族の事とか特に、アドリブで答えられる気がしない。
「どうして私を助けてくれたの?」
「どうしてって言われても……」
「私以外にも沢山いたでしょ?」
「なんとなく、かな」
彼女が視界に入った時点で、体が勝手に動いていた。だから理由を問われても曖昧な答えしか出せない。
「そうなんだ」
「強いて言えば0日だったからだけど」
「だよね」
よし、手入れ終わり。一式を片付け、ひと段落が付いた。
「さっき使ってたのはいいの?」
「あれは少し特殊でさ、いらないんだ」
他の刀を使わない理由でもある。魔力をまとわせる必要はあるけど微々たる量だ。手入れの手間を省けるのなら省きたい。
「戻りました」
「お帰りなさい」
話しているとお姉さんが帰ってきた。服装はあまり変わっていないが、右手に短い杖を持っている。それより──
「やっぱり熱くない?」
「溶けてる溶けてる!」
「……あの人達は?」
「ドラッスさんとクリムスさん、双子なんだよあの2人」
三魔将の残りの人達か。室内担当だったよな、この人達って。
まず気になるのは体。体が氷で出来ていそうだ。目や口がないのっぺらぼうみたいな顔から声が出ている。どうやって声を出しているんだろうか。
「どうでしたか? 俺達の新一発ギャグ20連発は」
「面白くないかな」
「ガーン!」
「ショック!」
どうやらお姉さんにギャグを披露していた様だ。面白くなかったらしい、20個もやっておいて。
「2人共」
「「はいっ!」」
「こちらお母様の旧友の子であるフレイル君です」
「フレイルです」
軽く会釈をした。2人も挨拶をしてくれる、と思ったけど中々してくれない。お互いを見つめあって固まっている。
「氷王のドラッスです!」
「凍王のクリムスです!」
「いくぞクリムス!」
「いつでもいいよ!」
何故か自己紹介をした後、お互いに抱き着いた。何をしているんだ、と思ったがそれは直ぐに解消する。2人は形を変え、何かを作っている様子だ。
暫くして、それが完成した。
【友達いる?】
そう書かれた氷像が。
「いますよ」
「「いや、そうじゃなくて──」」
「失礼ですよ」
「「ごめんなさいっ!」」
2人は合体する時より素早く別れる。なんであれを作ったのか知りたい所だが、そこはお姉さんに任せよう。多分相手にするのが疲れるタイプだ。
「全く、何をしているんですか貴方達」
「いや、あれはあの子の名前を使ったギャグで……」
「失礼だと思わなかったんですか?」
「……」「……」
失礼なのは薄々勘付いていたっぽいな。ならなおさらやめてほしかったけど。
「ごめんなさい、この人達に悪気はないんです」
「いや若干──」
「……2人共、別室に行きましょうか」
「やばっ! つい本音が!」
「どうすんだよ兄さん!」
その後、しばらく彼らが戻ってくる事はなかった。
24話 ドラクリ新一発ギャグその20 「夏の勉強」
ドラッス「夏の冷房っていいよな、まだ暑いけど」
クリムス「そうか? でもなきゃ勉強なんてやってられないよ」
ド「よし、出来た」
ク「どれどれ……おっ、解けてる解けてる」
ド「やっぱり熱くない?」
ク「溶けてる溶けてる!」




