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2話 悪魔族、機嫌を取る

忘れてました。次回投稿予定時間:13時30分ごろ

「魔王様! しっかりしてください!」


メイドさんはすぐさまこの子の肩を揺らし始めた。俺はその間に手を外す。魔王ねぇ、まったくそんな風には見えないけど。見た目とか威厳とか、そういった物が見当たらない。


「フレイル様、魔王様がこうなられた理由をお教えいただけませんか?」


「えっ、と……誰ですかって聞きました」


俺は正直に答えた。後々バレる様な嘘を付きたくなかったからだ。当然、事情を知らないメイドさんは困惑する訳で──


「フレイル様、ご冗談はおやめください」


「えっ!? いやそうじゃ──」


「魔王様がどれだけフレイル様の事を溺愛しておられるか、ご存じですよね?」


ご存じじゃないんです、初対面なんです。そんな事を初対面で見破れる訳ないだろ。確かにそういった態度は取ってたけどさ、だからって溺愛してるとは思えないよ。


「どうした、メイリア」


不愛想に聞こえる男の声がした。顔を上げるとそこには帯刀している全身白っぽい鎧を着た人がいた。正直この子よりこの人の方が魔王っぽい。


「旦那様、魔王様が気をお失いに……」


「やはりか」


旦那様、普通に考えれば魔王の夫で俺の父親って事だ。確定ではないけど今はそう捉えておこう。それとこの人にも魔王と同じ様な存在感がある。強さが関係しているのかな? メイドのメイリアさんには何も感じないし。


「起きたか」


「はい」


「メイリア、イアの意識は」


「それが──」


──それだけ? あまりにも淡白(たんぱく)すぎませんか? あんまり俺の事好きじゃないのかな。


「仕方がない、あまりこの手は使いたくないのだが……」


鎧の男が魔王を抱えるとすぐに外へ連れ出してしまった。医者の所に連れて行くのか──っ! 突然強い吐気と蛇に睨まれた様な感覚が襲い掛かる、幸いそれは1秒と経たずに消えてしまった。なんだ今の、まるで生きた心地がしなかった。


「フレイル……」


男は意識が回復した魔王と一緒に戻ってきた。とても気まずい、なんて声をかければいいんだろう? 何も知らないから下手に喋ったらもう1度、なんてのもあり得る。


「本当に、覚えてないの?」


「……はい」


その問いにはそう答えるしかなかった。本当は転生した別人だ、なんて言ったら死にそうで怖い。だって魔王でしょこの人、殺すなんて当たり前にしてきそうだし。それに記憶が無いのは本当だ、早々バレる事はないだろう。


「……やはりそうか」


「本当に覚えていらっしゃらないのですか?」


「覚えてない」


男の方はなんとなく察していたみたいだ。普段の態度とは違うだろうしそこで気付いたのかな? 今の所は記憶喪失と思ってくれているみたいだしある程度は隠せるだろう。


ただいつかは話さないといけないと思う、少なくとも目の前の2人には真実を知る権利がある。今は自分の命の方が大切だから勘弁してほしいけど。


「ごめんね、もっとしっかりしておけばこんな事にはならなかったのに」


「言っても分からないだろう、それは」


「それはそうだけど、謝らないのは違うでしょ?」


……この体に何かあったのだろう。そうでなければ今までの反応を取る訳がない。目立った外傷もなかったし重い病気にかかっていたのかな?


「これからママがフレイルの事を守るから、安心してね?」


魔王が俺を優しく抱擁した。そしてやはりこの人が俺の母親みたいだ。で、あの鎧の男も父親として認識していいだろう。ここにいる人との関係も分かっててきたし少しだけ会話をしてみよう。最初は母親でいいかな、魔王だけど甘そうだし。 身分的に呼び方はお母様かな。


「その、お母様──」


魔王は不満がありそうな顔になった。何かいけなかったのだろうか? 別に変な事は言っていないし、そもそもお母様としか言っていない。どこが駄目──


「ママでしょ!?」


そこ!? そこが不満だったのか……でも少し考えてほしい。いくら生みの親だからと言って初対面でママなんて言える訳がない。というか普通に恥ずかしいから言えないよね。


「ねっ、マ マ、でしょ?」


よっぽどそう呼ばせたいみたいだ、圧みたいなものがかかっている気がする。そんな彼女に俺は沈黙を貫いた。下手に答えると状況が悪化すると思ったからだ。


「どうしようカムイ! フレイルがママって呼んでくれない!」


「好きに呼ばせたらいいだろう」


「まだ5歳だよ! ママって呼んでもらいたいじゃん!」


「……好きにしろ」


父親は説得するのを諦めてしまった。よし、はっきりと断ろう。ずっと聞いているといつか言いそうで怖い。この人も断ったからといって何か酷い事をしてくる人じゃないと思うし。


「ママだよママ、ほら言ってみて」


「嫌です」


「……え?」


「嫌です、呼びたくありません」


母親はしょんぼりしてしまった。少し可哀想だけどこっちにも事情があるんだ。そこは我慢してほしい。


「……フレイル、何を覚えているか答えられるか?」


「何も、覚えていません」


今覚えているのは前世であった物とか知識だけで自分自身の記憶は一切ない。だから必然的にそういった答えになる。前世の記憶はまだ話せないしね。


「成程、分かった」


「そんな……フレイル様、違和感のある場所はございますか?」


「ありません」


強いて言うのならば羽とか尻尾だけど今はもう平気だしね。思い通りには動かせているんだしわざわざ心配させる必要もない。


「ねぇ、フレイル」


「呼びませんから」


「そうじゃなくてね、ぎゅってしてほしいなぁなんて」


魔王は俺から抱き返してほしいみたいだ。それくらならまぁ、若干の照れくささはあるけどこれくらいなら我慢出来る。何もしてあげないのはちょっと心苦しいし。


「はい」


「えへ、えへへっ!」


上機嫌になった様で良かった。そのせいか母親の尻尾がブンブンと音が鳴るくらい動いている。よっぽど嬉しかったに違いない。


「フレイル」


「はい、お父様」


「何か欲しい物はあるか?」


欲しい物か、そう言われると少しお腹が空いてきたな。でもそれはもう用意されているし……他の物だと本、とかかな? 流石にこの世界について何も知らない状態で過ごすのは怖いし、今は色々とこの世界の事を知りたい。最悪なくても大人から聞けば最低限は分かるだろう。


「本が欲しいです」


「分かった、メイリア」


「はい」


「何冊か本を持ってきてくれ」


「かしこまりました」


メイリアさんは部屋を出ていった。あ、そういえばどういう本が良いか言ってなかったな。多分絵本とかみたいな子供向けのやつを持ってくるに違いない。とりあえず戻ってきたら改めて頼んでみよう。


「おっ、ここにいたのかよ魔王様」


メイドさんと入れ違いになる様にその男は入ってきた。その姿はお父様より一回り大きく黒い角が男の頭を囲う様に生えている。緑の目をしていて黄色の髪を後ろでまとめている男だ。誰だろう? 魔王の部下なのは分かったけど。


「リバート、私に何か用?」


「忘れたのか? 今日はクソ貴族共との定例会議だぞ」


「え?……あ!?」


どうやら彼女には大事な会議があるみたいだ。魔王も一応王様だしそういった事をするのも納得だな。内容はどんなものかは分からないけど、世界征服とか? イメージ的には合っている。でもこの人がやるのかな……


「ごめん、今日はパス」


彼女は俺を強く抱きしめ断固拒否の姿勢を取った。記憶喪失もそうだし、病み上がりだから心配なのかな?


「あのなぁ、行かねぇとクソ貴族共がうるさいって分かってるだろ?」


「うっ……そうだけどさぁ」


「殿下が回復したからそばにいたいってのは分かるけどよ──」


ここは仕事に行かせた方がいいな、俺の将来に関わるかもしれないし行かなかったら会議が始まらないだろう。心配してくれるのは嬉しいけど仕事はちゃんとして欲しい。だから俺が今取るべき行動は──


「お母様」


「どうしたのフレイル? 大丈夫、ママお仕事行か──」


「お仕事、頑張ってくださいね!」


あからさまに媚を売った声で彼女に仕事のやる気を出させる事だ。どうだ、まだ足りないならもっと──


「うん! ママ頑張ってくるね! さぁいくよ、リバート!」


作戦成功、結構簡単だったな。もしかしなくとも俺に甘いなこの人。おねだりとかしてもすぐに買ってくれそうな気がする。


「おうっ!……っと、その前に」


彼はすぐに彼女を連れていかずに目の前まで来て目線を合わせた。俺に何か言いたいんだろう。


「治って良かったな殿下。もう少し元気になったら俺の息子と遊んでくれよ、寂しがってたからさ」


「あっ!?ズル──」


言うだけ言ってお母様の手を取り消えてしまった、流石にこれは魔法だろう。最後にお母様が何か言いかけていたけど……聞かなかった事にしておこうか。それと息子か、推測だけど友達だったんだろうな。


「お父様、今の人は?」


「リバートか、暗黒衆(あんこくしゅう)のリーダーだ」


「あんこくしゅう?」


それを言われてもまったく理解出来ない。精々魔王の配下にある集団のリーダーである事が分かるくらいだ。


「……将軍だと言えば伝わるか」


将軍、じゃあ暗黒衆っていうのはここの魔王軍の名称でリバートはそこで1番偉いって事かな。結構偉い人だったんだなあの人。魔王への態度を考えると納得感はある。でもならなんで彼には両親の様な存在感が無かったんだろう?


あれが強さの証みたいなものだと思っているから無いのは違和感がある。弱かったらそんな地位になれないと思う、魔王軍だし。強さは関係なさそうかな、いくら魔王との実力差があったとしても多少なりとも感じてもおかしくない筈だ。


「……はい、分かりました」


「そうか、いずれ他の幹部にも会うだろう。覚えておけ」


幹部か、って事はもしかして四天王的な奴かな? そっかそっか、成程。何人いるかは未知数だけど大体は把握出来た気がする。



「俺はまだ仕事がある、しばらく1人で待てるな?」


「はい」


彼は部屋から出て行ってしまった。少し心細くはあるけど待てない事はない。俺はゆっくりとメイドさんが帰ってくるのを待つのだった。

2話 その手があったか!


ベルライヤ「はぁ……」


リバート「あんな威勢のいいこと言っておいてため息かよ」


ベ「だって、元気なさそうに行ったらフレイルが心配するでしょ?」


リ「まぁそうだけどよ」


ベ「……!? リバート、すぐに戻りましょう」


リ「はぁ? 何でだよ」


ベ「私の膝に乗せて会議をすれば全て解決じゃない!」


リ「病み上がりの殿下にそんな事させられねぇよ!」

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