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22話 悪魔族、狼魔と出会う

出発して3か月程経ち、俺は今アウスの北西あたりを歩いている。丁度冷え込んでくる時期であることから辺り一面が雪で覆われていた。魔道具のおかげで寒くはないが雪のせいで普通に歩くことが難しい。最近は飛べたらな、という思いが募っていくばかりだ。


お母様が色々と過剰に持たせてくれたおかげで不便さは感じない。むしろ過保護なくらいだ、なかったら途中で心が折れていたかもしれないけど。あの屋敷に住んでいて感覚がマヒしていたが、あれがこの世界の普通ではない。家の周りが異様に発展しているから忘れていたのだ。


途中、いくつかの村に泊まらせてもらった時にそれを実感した。どれだけ環境に恵まれ、甘えていたのかが身に染みて分かる。今までの生活が恋しいが、今更だ。この道を選んだのは俺である以上、後悔は一切していない。今はただ、自分を磨いていくだけだ。そろそろ目的地にも着きそうだし、今日は少し早めに歩くか。




「先輩、コウモリの速度早くなってません?」


「……銀で動きを止める、お前はすぐに確保出来る様にしておけ」


「了解」


フレイルの遥か後方、距離にして3㎞程離れた所から彼を観察している人間が2人。2人は狙撃銃を担いでおり、遠くから見れば狩りをしているだけに見えるだろう。確かに彼らは狩りをしているが、その標的は魔族。遠くで1人歩いている魔族を捕まえる為に年配の男が銃を構えた。その銃は魔族の頭に狙いを定め、発射される。その弾丸が着弾すると共に、辺りの雪が舞い起こった。


「どうだ」


「消えました、躱されましたかね?」


「もしかしたら倒れただけかもしれん。確認しに行くぞ」


2人は獲物の様子を見に近付いていく。しかし、それが叶う事はなかった。年配の男の体が真っ二つに切られてしまったからだ。


「へっ?」


「……」


「うっ、うわぁっ!?」


若い男が反射的に発砲するが全て彼に切り伏せられてしまう。最終的に弾がなくなった男は恐怖から彼に背を向けて走り出す。男の意識はそこで途絶えた。




俺は今、初めて人間を殺した。抵抗感や罪悪感は不思議と無い、むしろ高揚感すらある。心臓の鼓動が早くなっているのが意識しなくても伝わってきた。それ程この状況は俺にとって気分がいいものなのかもしれない。


おそらく興奮していなければ若い方も殺していなかっただろう。情報を聞くことすらできなくなったし、やりすぎた。朝から尾行されていたから気になってたんだけどな。


仕方がないかと思い、俺は数歩下がる。目視で死んだのを確認した後、刀にまとわせていた魔力を解いて鞘に収めた。帯刀するため魔道具に付け直した後、俺は彼らの荷物を調べ始める。


「これは……なんの魔道具だ?」


彼らの荷物の中で唯一それだけが目に留まった。耐寒用や攻撃用のものなどありふれた魔道具の中でそれだけは異質。完成度が高い、と言ったら大げさだな。雑草の中に1輪だけ咲いている小さな花、それくらいの差だ。


よく見てみるとどうやらどこかに転移できる魔道具というのは判断できた。これ以上は分からないな、お母様に見せたら分かるかもしれないけど。流石にそこまでしなくてもいいだろう。どこに繋がっているんだろうか? そう遠くはなさそうだけど。


使うのは避けたい、国に迷惑をかけるわけにもいかないし。顔バレはそれ用のお面があるからまだいいとして、侵入自体リスクだ。まず間違いなく追われるし、捕まったら何をされるのか考えたくもない。職員を殺した、のはまぁ弱いからで片付けられるから考えなくてもいいか。人間の組織だとしても、ここが魔族の国であるというのは理解しているだろうし。


せめて場所だけ──あ。俺は抜刀し、若い男の死体の綺麗な部分に触れながら技を放つ。


「戊子(ぼし) 鼠窃狗盗(そせつくとう)」


技を放つと同時にこの魔道具の行先が判明する。そこは、俺が考えていたよりもおぞましい組織であった。


「人間向けの奴隷密輸組織、か」


盗んだ記憶から──やめておこう、気分が悪い。この技、実体のないものだと余計な物まで盗むんだよなぁ。練度不足なのは分かってるけどさ、はぁ……


場所は把握した、目的地よりもう少し北に行った所にある洞窟だ。魔法で見つからないように隠しているみたいだけど、俺にはもう関係ない……走るか、日が落ちる前までには終わらせたいし。こうして俺は、この胸糞悪い組織から魔族を助けるために走り出すのだった。




「なぁ、知ってるか?」


「何が?」


「ほら、あれだよあれ。噂になってただろ?」


「あぁ、あれか。あれがどうしたんだ?」


「今日、マルマー帝国に輸出されるらしいぜ」


「マルマーか、勇者で有名な所が奴隷なんて買うのか?」


「まぁ表沙汰には出来ないだろうなぁ、そもそも奴隷自体禁止だし」


「だな。んじゃあそろそろ真面目に働くか、上にバレて減給されたくはないだろ?」


「そうだな、じゃないとボーナスがなくなるかもしれないし」


入り口に立っていた2人の会話が終わり、中に入った後に付いていく。お面で魔力的な物は無視できるが人に見られた時点で終わりなので、ようやく入れた。続きが気になるが、それよりも捕まっている魔族を助けるのが先だ。大体の場所は分からなくもないが、これを頼りにするのは少々心許ない。どこかで場所を知っている職員に付いていきたいところだ。


魔力センサーや監視カメラは魔眼とお面で無視出来るのでそこまで気を使う必要はない。洞窟の中に作ってあるのでセキュリティ自体そこまで恐れるものではないというのも関係しているけど。人の魔力もこちらに向かってきている者はいないので、そこはまだ心配しなくてもいいだろう。


音を出さず、かつ急ぎ足で洞窟の奥に進んでいくと十字路に差し掛かった。このまま真っ直ぐ進むと先程の人に出会ってしまうので、右か左か。ただ左は行き止まりかな、そんなに遠くまで魔力がないし。右に行こうとしたが、それは叶わなかった。


「あぁ、じゃあ頼むわ」


正面から1人の男がこちらに向かってくる。慌てていたのだろう、咄嗟に左側の通路に入ってしまった。今戻るとバレるリスクがある、なるべくそれは避けたい。そのまま俺は仕方がなく左側の奥へと進んでいく。


が、しかし男もこちら側に来てしまったのだ。一瞬バレたかと思ったが、それは違った。そこは明らかに人が住んでいそうな部屋がいくつも連なっていたからだ。ここは職員の住居スペースなのだろう、だから行き止まりだったのだろう。


それも相まってここは一本道、通路にいたらまずバレる。だからと言って部屋に入る訳にもいかない。中に人がいたら元も子もないし、そもそも入るには鍵が必要そうだ。隠れる場所が何1つない、詰みの状態。


取り敢えず奥まで行ってバレない様にするしかないか…苦し紛れの作戦だったが、それが功を奏した。最奥にゴミを入れる引き出しみたいなものが設置されていたからだ。開けてみるとどこかに繋がっているのが魔眼から分かった。

危険はなさそうだし、何より時間がない。俺は意を結してその暗闇の中に目を瞑って飛び込む。


それから数分間、どこかに流れている感覚が続いている。その間、これについて考え事をしていた。そもそも、これはどういった用途で使うのだろうか。不快な臭いはしないので、ゴミを捨てる所ではない。となるとそれ以外の何かを入れる訳だけど、貸し出した魔道具の回収とか?その答えは直ぐに分かった、出口に着いたからだ。


「……成程」


奴隷置き場、なのだろう。沢山の魔族が檻の中に囚われていた。男女問わず、様々な種族の若い魔族が捕まっている のがここからでも見える。ここに着いたのは当初の目的通りなのだが、やらかした。俺が檻の中に入ってどうする、何も出来ない。どうせこの檻だって魔族用の硬いやつなんだ──え?


その檻は、魔族を閉じ込めるには柔らかかった。軽く力を込めただけでひん曲がったしまう……出るか、ここにいても意味ないし。


でも、これなら皆出れそうだけどこの檻だけ柔らかかったとか? そんな事するかな、逃亡の恐れがあるのに。もしここの人達を解放したら大惨事になる。そんなリスクを放置するなんてしないと思う。特にこういった表に出せない仕事はね。試しに近くにあった空き部屋に手をかける。触った感じその檻も魔族なら出られそうだ。


多少の違和感を感じながらも俺は辺りを捜索する。解放するとしても手あたり次第にやっては上手くいかない。この区画全体の把握や奴隷の人数に見張りへの対処等やる前に確認しておきたい。




大体把握は出来た。まず、見張りは誰一人としていない。

その代わりを魔道具で補っているらしいが、俺には関係ない事だ。ただ逃がすときには映ってしまう、そこは注意しなければならないな。


捕まっている人は大体200~300程度。これを一度に、というのは中々に骨が折れる。どこか1か所に集めたい所だけど、それは無理だ。何故か話しかけても無視されたからね、というより気付いていない感じだったけど。特殊な仕掛けで外側を認識出来ない、とか?


その為全員が逃げられる手はずを整えて、というのも現実的に厳しいだろう。要するに、1人で出来る範疇ではない。そもそも本来はこの国の魔王が解決すべき事案だ。中小規模ならまだしも、ここまで大きくなっているしね。


普通なら撤退してお母様に報告、そこからアウスの魔王に伝えてもらう。解決自体は出来るが、どれだけ時間がかかるかは未知数だ。それこそ今日渡されてしまう子を助けるのは不可能に近い筈。今手を差し伸べれば助けられるのに、それを見捨てる行為は出来ない。


「後は、ここか」


ここの最奥と呼べる場所、そこには大きな鋼鉄の扉がそびえ立っていた。この程度の扉なら壊せるがそんな事は出来ない。隙を見て入るのが理想だが、人がいないので難しいだろう……魔法で制御されているな。リスクはあるけど、扉を壊すよりはマシだ。


「甲子(こうし) 窮鼠噛猫(きゅうそごうびょう)」


魔法を断ち切るこの技のおかげで扉にかかっていた魔法が消えてなくなった。自重でこちらに倒れてきたが片手で受け止め、地面に置く。後ろから驚いている様子が伝わってくるが、一旦無視だ。職員にバレる前に奥の状況を確認しておきたい。


当然ではあるが扉の先にも奴隷がいた。しかし明確に違う点が1つだけ。檻に出荷する日付などが書いてある紙が1枚ずつ貼られている。その日は1週間以内に限定されており、ここが運び出す前の商品置き場なのが分かった。


まずはここの人を先に助けなければいけないな。あちら側より時間的な猶予はない。バレるのも時間の問題だし、先に檻を──壊そうとした途端、静電気が発生した様な痛みが体中に駆け巡る。反射的に手を離したが、少しだけ痺れが残っていた。


もう一度、今度は指1本だけで触ったものの先程と同じ結果に。こっちは逃げられない施策は取っている様だ。と、なると切るしか方法がないか。刀を抜き魔力をまとわせ、檻の入り口を切り裂く。大きな音を立てて扉は崩れ去り、俺はそのまま中にいた人に話しかける。


「君、逃げて」


「……」


「あの、聞こえてる?」


聞こえていない、というより意識がなさそうだ。あの音に一切反応を示していなかった。普通は多少なりとも反応するものだ。辺りの人も特に反応はなさそうだし、意識を強制的に失わせているとかか? 仕方がない、先に全員分の日にちを見て短い人から解放していこう。それしか手はなさそうだし、急がないと。


5日後、4日後、6日後、4日後、5日後、7日後、そこまで短い人はいなさそうだ。もうそろそろ全部見終わる──あれは……


俺の目は、1人の少女に吸われていた。一番遠い所にその子が入っている檻があるが、その子の存在を感じてしまう。その子に誘われる様に俺の足は歩んでいく。


近くまで来るとなんとなくその子の容姿というのも分かってくる。目が髪で隠れている毛並みが白の狼魔族だ。服は奴隷とは思えない豪勢な服、家の普段着と同じくらいかな?それに、白って魔王の血族の証じゃなかったっけ。なら王族……いやなんでそんな子がこんな場所に囚われているんだ?


その疑問が解決する前にやる事が決まった。0日後、つまり今日出荷予定の子だ。さっきの噂話はこの子の事だったのだろう。噂にもなるか、推定王族なんだし。


「……、……」


「動けてる……」


その子はこちらに気付いた瞬間、何かを訴えかけてきた。喋れないのかその声は一切聞こえてこないけど。でも動けるのはデカいな、自分で逃げる事が出来るし。さっさと破壊しよう、面倒事になる前に。


俺は彼女に下がる様に、というジェスチャーをする。その意図が伝わり、彼女は素直に一番奥まで下がってくれた。この檻は他の物より硬い、そういった魔法が組み込まれている。勿論、魔法を窮鼠噛猫で消してからでもいいが──


「己丑(きちゅう) 庖丁解牛(ほうていかいぎゅう)」


そんな事をしなくても切れる、ならこちらの方が効率的だ。扉を綺麗に切り落とし、中に入る。彼女もすぐにこちらに向かってきて、足元に付いている輪っかに指をさす。それには所謂呪いの様な魔法が刻まれていた。見た感じ解除すると発動する罠はなさそうだ。


俺は窮鼠噛猫を使い、その魔法を消し去る。それと同時にその輪っかを破壊し、粉々にした。


「助けて……」


彼女の声は、酷く震えていた。

神威一刀流技の巻:戊子 鼠窃狗盗

刀で触れた相手から何かを盗む事が出来る神威一刀流25番目の技。物体として存在している必要はなく、記憶や意識等も盗む事が可能だ。極めれば魂を盗む一撃必殺になる可能性を秘めている。


神威一刀流技の巻:甲子 窮鼠噛猫

魔法を魔力を使って無力化する事が出来る神威一刀流1番目の技。自身の魔力総量が相手より低ければ魔力消費無しで無力化が可能。逆に高ければその魔法の行使に必要な魔力の2倍を必要とする。


神威一刀流技の巻:己丑 庖丁解牛

刀を振るい切る事が出来る神威一刀流26番目の技。特に技の効果などはないが、強いて言えば対象を綺麗に切る事が出来る。普通に切った時より威力は高いが、わざわざ使う必要性はない。


22話 過保護の極み


フレイル「魔道具を入れたって言ってたけど、何が入ってるんだろう?」


ベルライア『付けている限り魔法の干渉を避けられる! 身バレ対策のお面!』


ベ『魔力を入れるだけでいつでもポカポカ! 寒さ知らずのお札!』


ベ『領域に入った生き物を殺す! 絶対に守ってくれるゴーレム10000体!』


フ「……これは使わないでおこう」


同じ様な物が他にも沢山あった

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