20話 悪魔族、日々を送る
次回投稿予定時刻:21:30ごろ
「終わった~」
俺は手に持っていたペンを置き、軽く背伸びをする。その間にティナは答案を回収し、答え合わせを始めた。
「こことここ、後これもですね」
間髪置かずに指摘され、休憩する暇がなくなる。答えを知っているとはいえ、早いなぁ……
「もうちょっと休ませて」
「駄目です」
「えぇー」
「終わったらいくらでも休んでいいですから、やりましょう?」
言われるがまま俺はティナの方にイスを動かしてから教えてもらう。教え方が上手なこともありそこまで時間もかからずに解きなおせた。
「疲れたー」
「っ……お疲れ様です」
ティナの太ももに顔を埋め、勉強の疲れを癒す。1人だったら勉強なんてしなかっただろうな、これじゃあ。
「はぁ、勉強が鍛錬なら全然疲れないんだけどな」
やりたくはない、がやらねばならない理由がある。5年後、12歳の時に学校に入学試験がある。イメージとしては中学受験みたいなやつかな。人が多い学校に行きたくはないが俺は入らねばならない。
この学校、どうやら全魔王が出資している関係上魔王の一族は絶対に入学しなければならないそうだ。学校を設立する時の条件がなんたらとか言っていたけど、全部忘れた。ともかく、入学拒否は不可能というわけだ。ただ少なくとも10年中3年だけ在学すればいいのは助かる。10年は長くてやれる気がしないしね。
「試験って形式上のものでしょ?」
「そうですけど、サボる理由になりませんよ?」
「……」
「それに1人だけ点数が低いなんて、耐えられますか?」
一族の点数は9割後半が目安、それを目指して今は勉強をしている。勉強自体、それ程苦ではない。ないんだけどそれを上回るくらいハンデが重い。まず、字が読めなかったのがきつい。流石のティナも最初に聞いた時は困惑していた。
それに、そこまで問題にはならなかったが未知の教科が2つある。魔術理論とこの世界の歴史、内容自体それ程難しくなかった。魔術理論は魔眼のおかげで理解しやすい、見せてもらう必要があるけど。歴史は内容が違うだけだ、だからこそ量が必要なんだけどね。算術は余裕、となると文章読解が一番の不安点になる。
そうなると結局読めないことが鬼門となってくるのだ。俺の感覚としては今も前の言語で話している感じがある。だからそのままの感覚でやろうとしてしまう。その結果盛大に間違えてしまうのだ。これは未だに治っていない、もう癖になっているのかもしれないな。
「兄さま、入ってもいいですか?」
「いいよ」
フェイルはドアを開け、正面のイスに座る……一応姿勢を正しておくか。
「こんにちは、お義姉様」
「こんにちは」
「今日はね──」
今日もティナ目当てだな、これは。最近よく来るようになったと思えばこれだし。仲良くなるのは構わないけど俺には全く懐く気配がないのが不満だ。仕方がない面もある、兄らしいことは一切してあげられてないし。代わりにティナが姉として振る舞ってくれているから余計にだ。
「それでね、この後お父様に教えてもらうんだ! だからね、良かったら見に来てほしいなって」
「この後、確かこの後ありましたよね、鍛錬」
「ん、あぁ、あるよ」
あんまり話を聞いていなかったけど、多分お父様に教えてもらうのかな?だからか、今日は朝じゃなくて夕方からなのは。
「なら行けますね」
「そうなんだ、良かった」
露骨にテンションが下がったな、こいつ。俺はいらないって言いたそうな目をしている。お父様的には俺に相手をしてほしいんだと思う。2年前くらいにザリュウスさんがやってくれたように。
「……」
「どう? どれくらいなの?」
あまりいい数値ではなかったみたいだな。顔が見えないから表情で判断できないんだよね、お父様って。だからこそ雰囲気で察する必要があるんだけど。
「フェイル」
「はいっ!」
「やめておけ」
「……?」
「イアから魔法を教わった方が100倍マシだ」
そこまで言うと、こいつの数値が気になってきたな。どれくらいなんだろうか、2桁前半とか?1桁って可能性もあるな。こっちより魔法の方がいいとなるとね。ティナ程ではないけどまぁまぁある。悪くない選択だと思う、わざわざ苦手なもので強くなる必要はない。
「っ、どうして!」
「あまりにも低すぎる」
「お兄さまは高かったんでしょっ!」
「お前は低い、俺にも教えられる数値の限度はある」
「……」
あっ、こっちに攻撃してくるな。俺より低いのが嫌だったか。弟の攻撃は大きく振りかぶるものであり、俺には当たらなかった。そのまま続けて攻撃してくるので魔力の流れを見ながら避ける。
魔眼を使って動きを読むのも慣れたものだ。お父様には気付かれて対策されまくっているけど。ある程度攻撃させたところで足を引っかけて転ばし、持っていた刀を奪い取った。
「はい」
「っ、ズルい! 足なんて──」
「お父様に『言いわけは見苦しいぞ』って言われるよ」
俺も同じことを言われたので覚えている。
「実戦ならありうる全てを警戒するのが当たり前だ、魔王になるならなおさらな」か。
それで魔眼を使って動きを読もうとしたんだっけ。
「……っ!」
「あっ」
「追いかけなくていいんですか?」
「おそらく道場だろう、護衛に追いかけさせるだけで十分だ」
携帯を取り出し、お父様は電話を始めた。道場の人達に挑む気なんだろうな、あいつ。何人必要なんだろう、そもそもどれくらいなんだ?
「そんなに酷かったの?」
「フェイルの96倍がお前だ」
「それって……」
「あり得るのそんなこと」
「実際にいる以上あり得るのだろう、俺も初めて見たがな」
道場の人達だけで足りなさそうだな。だから100倍マシ、ね。これなら断然魔法を覚えた方がいいだろう。
「今日は休みにするか」
「えぇ~」
「一応、あいつの様子を見なければならないからな」
そう言い残してスタスタと歩いていってしまった。やりたいんだけどなぁ……朝に基礎はやったけど。どうしよう、運動したりないから動きたい気持ちはある。庭を走るだけじゃ疲れないからなぁ、どうしよう。
「戻りましょう」
「うん」
今日は諦めるしかないかな。ティナといる時間も好きだし、いいか。魔法、か。そういえばティナってどれくらい使えるのかな?いつもぼんやりとしか教えてもらえないし、いっそのこと見せてもらうか。勉強中の魔法陣を見るに結構上手いと思う。
? 、今呼ばれた気がする。周りを見渡すと、正面玄関の方から微かに見たことのある魔力が見えた。トバールだ、トバールか……
ここ最近あってないんだよな、色々あったし。ただここで会わないのはおかしいから行くしかないか。俺はティナに話して正面玄関の方に足を運ぶ。少し時間はかかったが、トバールと目が合った。
「よっ! 久しぶりだな!」
「久しぶり、どうしたの?」
「はぁ? 遊びの誘いに来た決まってるだろ?」
いつもそれしか言っていない気がするけど……外、だろうなぁ。出ないように言われているんだよね。でもそれを言ったら無理矢理連れていかれそうな気がする、いやするな。
「俺だって我慢したんだよ、父様に行くなって言われて。でももう我慢出来ねぇ!」
「……」
「行きたい?」
「まぁ、うん」
「じゃあ行こうぜ! な!」
体、動かせるからいいかな?一応メイリアに電話だけしておこう。
「よし、じゃあ鬼ごっこするぞ!」
「「「「「じゃんけん、ぽんっ!」」」」」
「あっ」
「フレイルが鬼なっ!」
負けてしまったか、どうしよう。鍛えているおかげで捕まらない自信はあったんだけど。皆、飛ぶよなぁ、うん。集まった子供達は全員空を飛んで距離を離していく。
「俺はな、お前と違ってここで遊びまくったんだ。引きこもってた奴に捕まる訳ねぇよ!」
「……」
大体、100m前後って感じか。うん、届くな。技無しでも余裕で。俺は軽く地面を蹴り、あいつの真後ろまで跳んだ。
「捕まえ──」
「あっぶねっ!」
タッチする直前で避けられてしまう。問題は一切ないんだけどね。
「た!」
「はぁ!?」
魔力で空中に足場を作り、それを蹴ってトバールを捕まえる。そのままの勢いで俺は天井の柱に捕まった。
「はい、トバールが鬼ね」
「なっ、なっ」
「あぁ、別に引きこもってたわけじゃなよ。お父様と鍛錬してたから」
「へぇ、んであんなジャンプ出来るって事か」
「うん、だからハンデをあげるよ」
「はぁ?」
「俺、今日は一切飛ばないから」
これで俺が飛ばない理由付けは完了、かな。この挑発に乗ってくれくれるといいんだけど。
「はっ、その言葉後悔するなよ?」
「後悔はしないと思うよ?」
「だぁー! 追いつけねぇー!」
「ただ遊んでただけの奴には負けないよ」
「ぐぬぬ……」
結局トバールに捕まることなく鬼ごっこは終わった。分かり切っていたことではある、鍛錬中のお父様より遅いからね。特に疲れることはなかった、遅いし。
途中から魔法を使って追いつこうとしたけど、俺には無意味に等しい。だってどこに飛んでくるかなんて余裕で判別可能だし。そっちとは逆の方向に行けばいいだけの話だ。
「お疲れ様です、満足出来ましたか?」
「うん」
「そっちも参加すればよかったのに」
「私も彼くらい早いので、勝負にならないと思いますよ?」
「マジかよ……」
ティナは俺に何かがあった時の為に待機していてくれた。
ティナだって動きたいだろうに、後で感謝しておかないと。ただ、もし参加していたらティナの独壇場だっただろう。彼女の飛ぶ速度は俺を捕まえるには十分だし。それこそ誰も捕まえられなかっただろう。
「では、私達はそろそろ」
「もうちょっと遊ぼうぜっ!」
「時間的に無理です」
「マジかー、じゃあまたなっ!」
若干強引な手法で俺達は屋敷に戻る。もう少し遊びたい気持ちはなくもないけど、これ以上は許されなかったし。迎えの車から降り、屋敷に入るとお父様とお母様、それとフェイルがいた。
「あ、お帰り」
「ただいま。どうしたの、こんなところで?」
「フェイルがね、まだ諦めたくないって」
まだ諦めていなかったのか、とっくに諦めているとばかり。道場の人に軽くあしらわれた筈、どれくらいの強さかは知らないけど。
「絶対にヤダッ!」
「このペースだと、まともに扱えるようになるのに早くても20年後とかだぞ」
「……」
「大人しく魔法にしておけ、時間を無駄にするな」
「フェイルは魔法の方が上手く出来るんだから、そうしよう? 私が教えてあげるから」
「ヤダッ!」
何がこいつをそこまで刀に拘らせているんだろうか。かっこいいから、だとしても魔法だって負けず劣らずだと思う。それに才能無しと言われていることも考えると魔法にいってもおかしくない。じゃあ他の理由があるわけなんだけど……
「魔法でもいいと思いますよ?」
「っ……」
「フレイル様の真似をしたいのは分かりますけどね」
「ちがっ」
「君には君の良い所がありますから、そっちを伸ばした方が私は良いと思います」
「……うん」
「魔法にしますか?」
「そうする」
さっきの態度とは一変、素直にうなずいた。俺を引き合いに出されたのが嫌だった、わけではなさそうだな。
「アテナちゃん凄いね、私達じゃあ全然駄目だったのに」
「いえ、私は普通に話しただけですから」
「これはいいお嫁さんになれるね!」
「そっ、そうですか?」
「うんうん、絶対なれるよ!」
……ティナのおかげか、これ。ふーん、そう、そうなんだ。
「行こうかティナ」
「っ! そんなに急がなくても」
「早く2人きりになりたいから、駄目?」
「……」
「じゃあお父様、お母様、また後で」
この後、俺の気が済むまで甘えた。
とある場所で、1人の男が暇をつぶしていた。その男の名はウーカス、レヴィアタンで作戦を実行した男だ。あれから2年の歳月が経ってなお、何か行動に移す事はなかった。
「ねー、暇なの?」
「は?」
フードを被った少女が彼の背後から話しかける。男は特に驚く様子もなく、ただ彼女をにらんでいた。
「やだ怖ーい」
「今は準備段階だって、前に言っただろ」
「あー、そんな事も言ってたね」
どうでもいい、そんな声色で答えたのが気に入らなかったのか彼は立ち上がる。しかし何をする訳でもなく、どこかに歩いていく。そんな彼に、少女は後ろからついていった。
「そんなまどろっこしい事しないで、今すぐやればいいじゃん」
「分かってねぇ。それじゃあ意味ないんだよ、最大限苦しめてから殺さねぇとな」
「あっそ、じゃあ私用事あるから。バイバイ」
興味をなくしたのか、それとも本当に用事があるのか、少女は一瞬にして消えてしまう。彼らが何者なのか、それはまだ彼らにしか知られていない。しかしいつの日か知られる事になるだろう、魔王に反逆する勢力として。
20話 疑いの目
ザリュウス「弟さん、ビックリするくらい低かったっすね」
カムイ「そういう事もある」
ザ「いやいや、1桁っすよ? お兄さんの数値があれだから余計にそう思いますよ」
カ「本人が一番気にしている、比べてやるな」
ザ「あっ、もしかして浮気──」
ベルライア「浮気したのっ!?」
カ「ザリュウス……」
ザ「サーセン」
べ「どういう事っ! 私聞いてないんだけどっ!」




