19話 悪魔族、刀を習う
次回投稿予定時刻:20:30ごろ
「持て」
「これは?」
模造刀、なのかな? これは。見た目は普通、ただの刀だ。それを差し引いても、それには奇妙な魔力が込められていた。
「それは後で分かる、構えろ」
「はい」
やり方なんて知らないので自分なりに刀を構える。これで姿勢とか、適性を見るのかな。なかったら……どうしよう、他に強くなれる方法なんてあるのか?
「いくぞ」
「えっ!?」
お父様は、いつの間にか刀を俺に振り下ろしていた。いきなりのことで思わず目を瞑ってしまう。しかし、俺が想像していた衝撃が来ることはなかった。代わりに、大量の何かが流れ込んでくる。
「……凄いな」
「本当?」
「あぁ、96%は悪魔族では中々見られる数字ではない」
どういう割合なのかは知らないけど、才能はありそうでよかった。ん? なんか刀の持ち方が変だな、ちゃんと持たないと──俺は、いつから刀の持ち方を知っていたんだ?
「そろそろ認識してきたか」
「あの、お父様、説明を」
「かかってこい、その方が早い」
えぇ……もう、何が何だかわけが分からない。いいや、とりあえず言われた通り、にっ!上段から大ぶりの一撃を放つ。こんな攻撃通らないなんてことをは知っている。でも仕方がない、やり方を知らないんだから。その一撃はお父様に軽々と受け流されてしまう。
しかし刀と刀がぶつかり合った瞬間、俺の脳内に刀の振り方があふれ出してきた。まるでそれが元々俺の知識であるかのように体がそれに順応する。
何度も何度も打ち込んでいく内に、技術は飛躍的に上昇していった。これなら、もしかしたら──そう考えた瞬間、視界が逆転する。俺はそのまま地面に叩きつけられ、首に刀を突きつけられた。
「起きろ、説明する」
「はい」
軽く土などを払いながら俺は立ち上がる。その後模造刀はお父様に渡して説明された。
「俺が教えるのは神威一刀流、魂武術と呼ばれている種類の戦い方だ」
「?」
「……魂が持つ力を攻撃に乗せて放つ武術の総称だ」
魂、途端に胡散臭くなった気もするけど、この世界には魔法があるので今更だ。魔武術とかあるのかな、やっぱり。今テキトーに考えたけど。
「武技は分かるか?」
「ぶぎ?」
「魔力で魔法を出すように、肉体で技を繰り出すのが武技と言われるものだ」
うーん、要は仙人とかが使いそうな超人的な技の事、かな。今のお父様の説明ではよく分からなかった。
「この2つの共通点として、どちらも言霊の力を使っている。どちらも発声しなければ威力が落ちてしまう」
「お母様は無言だったよ?」
ピクニックの時のあれは間違いなく何も言っていない。あの大きな岩で威力が落ちているなんて、おかしいからね。というより、あれが普段の火力であってほしい。
「イアの場合、下手に発声したら周りに被害が及ぶからな」
うわぁ……あれで下がっているんだ。あれに勝とうとしているのか、俺。勝てるのかな、刀一本で。
「この2つと、魂武術には決定的な違いがある。分かるか?」
「……魂、には関係するよね。わざわざ名前になってるし」
「あぁ」
魂、魂、……言霊か?
わざわざそんな話をしたくらいだ、ありえる。
「言霊の影響が強い、とか?」
「概ね正解だな。正確には”発声しなければ技が発動しない”、これが魂武術の特徴だ」
発声が鍵、か。……平気かな。声に出したら弱いしな、何するか教えているだけだし。威力がどれだけ上がるか次第、だな。最悪無言でできるようにしておこう。
「壬午 単槍匹馬」
「……馬?」
「と、武技や魔法ではあり得ない事が出来るのがメリットだ」
俺からすると、どっちもありえないことを起こすイメージなんだけど。どこか違うのか? これ。馬なんて魔法でいくらでも呼べそうだ。
「丙午 塞翁失馬」
「消しちゃうんだ」
「フレイルにこれはまだ早い、いても仕方がないだろう」
だろうな、できる気がしない。それと無言でやるのは厳しそうだ、馬を出してくるなんて予想してないよ。というよりさっきと技といい、今の技もそうだけど、
「あの紙に載ってたのって、全部技名だったんだ」
「そうだ、全61個、覚えたか」
「は、えっ!?」
61!? え、あの紙に載っていたのって60個だったよな? そうだ、間違いない。ティナと毎日寝る前にやっていた時に数えたことがある。い、一体どこに、まさか裏? いやでも流石にそれなら気付い──
「冗談だ、あの紙には60個しか載っていない」
「っ、お父様っ! からかわないでよっ」
「ははっ、悪かった」
くっ、まさかお父様がそんなことをしてくるなんて、考えもしなかった。ただ、紙には、って言っていたな。なら61個目自体はありそう。
「最後のはいずれ教える、今は考えるな」
「分かりました」
まだその時ではない、ということだ。考えるなと言われたが、その言葉で今それがなにか検討がついた。絶対この流派における必殺技的な立ち位置の技に違いない。他の技と同じならわざわざ隠す意味がないし。
「何か質問はあるか?」
「なら、1つだけ。なんで60個なの?」
この流派の技には規則性がある。まずは干支が使われていること、それと謎の10個の記号と組み合わせて表されているのだ。120個なら分かる、すべての組み合わせが出るから。その半分というのは、疑問が残る。
「六十干支を元に作られているから、としか言えないな?」
「ろ、何それ?」
「知らん、異世界からの言葉だというのは分かっているが」
俺の教養の中に六十干支というものはなかった。もし知っていたら覚えるのは楽だったのかな?いや、多すぎて全部覚えているわけないか。
「他にあるか?」
「特には」
「そうか、なら続けるぞ」
気になることがないわけではないけど、今じゃなきゃいけないものでもない。なら早く続きがしたいと思ってしまうのが俺だ。そうして、俺の気が済むまで修行が続いたのだった。
「ありがとうございました」
あれから何時間経ったのか分からないが、俺は満足している。結局一度もお父様に刀が当たることはなかったけど。
「記憶の方はどうだ」
「半分くらい? 分からないや」
この流儀の特徴として、体さえできていれば上手くなれるというものがある。俺はお父様の記憶を元にやっているので面白いくらい成長していた。ただそれにも才能が必要、さっきの96%がそれだ。
「その調子なら明後日から本格的に教えられそうだな」
「もしかして技?」
「それは早くても3年後だ」
「えー」
そんな必要かな、お父様パワーで何とかできそうなものだけど。頑張って修行をして早く教えてもらいたいな。
「俺が教えるのはあくまでお前の腕を上げる為のものだ」
「上がってるよ?」
「言っておくが、道場の者は腕だけで見たらお前より強いぞ」
「え」
「皆俺と同じくらいの腕はあるからな」
そんなの、皆100%あるってことになるじゃないか。俺の数値、実は低かったのかな……
「まず、俺と同じ腕くらいまで成長する。これがこの流派で最初にやるべき事だ」
「へ?」
「本来他の者とやればすぐに100%くらい達成する。ただ、それは出来ないだろう?」
「……」
俺は未だ、人が怖いという気持ちが心に残っていた。ティナのおかげでなんとかメイリアと話せているくらいだ。不特定多数の人がいる場所に行きたくはない。わざわざ言ってきたことを考えるとお父様もさせたくはないのだろう。
「そこから技を学び、自身の腕と向き合う。そういう流派だ」
「そう、なんだ」
「終わりはない、一生をかけてそれを追求していく以上な」
そんなに楽じゃないぞ、ってことか……うぅ、やっぱ怖いからやめようかな?
「あなた、はい」
「ティナ」
終わったからかタオルを手渡してくれた。ありがたく受け取り、汗をぬぐいとる。
「お義父様もどうぞ」
「すまないな」
「いえ、ついでですから」
ティナが、いれば、なんとかなる、かな? いや、でも、やってる時は近くにいないし……
「何か悩み事ですか?」
「……うん」
「お力になれる範囲でしたら、協力しますよ」
なんて優しいんだ、よし、決めた。呼んでもらおう、人を。近くで、見てくれているだけで、なんとかできる気がする。
「お父様、他の人って、呼べる?」
「……やるのか?」
「うん、ティナが近くにいれば、なんとか……」
「分かった、丁度1人適任がいる。明日来る様に言っておこう」
「ありがとうございます」
1人か、96%だからそれくらいで充分って事、かな? なるべく少ない方がこちらとしてはありがたいから、よかった気がする。
「ではお風呂に行きましょう?」
「えっ?」
「早くくっつきたいので、行きましょう?」
「うん」
「おっ! これが師匠の子供っすか!」
めっちゃグイグイ来る人だった。見た目は黒い竜って感じの人、竜魔族だろう。俺達悪魔族とは因縁がある(メイリア談)らしいけど、そんな様子はなさそうだ。思わずティナの腕にぎゅっと力を入れてしまう。
「怖がらせないでください」
「えっ、あっ、ごめんなさいっす。距離近かったっすか自分」
「という訳で、ザリュウスだ」
「押忍! 師匠の一番弟子ザリュウスっす! よろしくっす!」
すが多い、なんか聞き取りにくい気がする。この人が一番弟子、か。確かに魔力量は結構あるな。わざわざ魔眼を使うまでもないくらいにはある。
「普段はベルブで教えているが、ここ数か月はこっちと掛け持ちしてもらっている」
「師匠の頼みなんで、なんでも聞くつもりっす!」
「あ、あ──」
「そういえばこの子も師匠の子なんすか?」
どこで、どう話に入れば……この人、苦手かも。
「話に割って入るなんて、感心しませんね」
「えっ!? マジっすか! いやぁ自分そういうの苦手で、どうぞ」
「フレイル・レヴィアタン、です」
「よろしくっす!」
勢いよく俺の左手を取り両手で握手をしてきた。とりあえず、いい人そうかな、この人は。この勢いは慣れそうにないけど。
「で、君はお姉ちゃんっすね」
「違います」
「えっ!? 妹っすか!」
「そもそも俺の子供ではない」
「えぇぇぇぇ!?」
「私の翼、見えませんか?」
「あっ、ホントっすね」
……この人がいると話は早く進むな。うるさいのが難点だけど。いや、リアクションが多いから逆に遅くなっていそうだ。
「妻のアスティナ・ベルフェと申します」
「……」
「あの、ザリュウスさん?」
「あの、師匠。俺最近結婚したじゃないですか」
「そうだな」
「その時生まれた子がもう結婚っすか」
「王族だぞ、これくらい普通だ」
5年前に結婚したんだ、この人。どんな人だろう、やっぱり同じ感じの人かな? それともティナみたいな清楚な感じの人? 想像がつかないな。
「で、戦えばいいんっすよね」
「あぁ、頼めるか?」
「勿論っす、あちなみに何パーくらいっすか?」
「96」
「あははっ、俺の答えてどうすんっすか」
「お前のじゃないぞ」
「……マジすか、流石師匠のお子さんっすね」
あのおちゃらけている雰囲気が少しだけ変わった。一番弟子だもんな、やる時は真面目か。
「頑張ってください」
「うん」
俺もお父様から与えられた模擬戦用の刀を抜く。ザリュウスさんも同じ様に……ん? もう1本刀が腰に差さっている、でもこれ一刀流だよな。
「その2本目は?」
「あぁ、自分神威二刀流の方も教えてるんっすよ。安心してください、こっちの腕も衰えてないつもりなんで!」
「始めっ!」
「やりすぎだ」
「だって、俺と同じっすよ! 出来ると思うじゃないですかっ!」
「昨日始めた初心者だと伝えた筈だぞ」
「言ってましたけど、戦えないなんて聞いてないっす!」
自分がみじめになるくらい、ボコボコにやられた。お父様の一番弟子なだけはあるな。そんな俺には、ティナの膝枕が身に染みる。
「96なら師匠以外にもう1人と戦うだけじゃないですかっ!1日あればそれくらい──」
「その相手がお前だ、馬鹿者」
「……あっ、いや自分じゃなくてもいいじゃないですか!」
「分かるだろ、この子が人前が苦手なのを」
「っ、それは、そうっすけど」
「言っただろ、今この屋敷には信頼出来る者以外の立ち入りは禁じていると」
「で、相手が出来るのを探すと自分以外いないって事っすね」
「そうだ、理解したか」
「はいっす……」
この後ザリュウスさんに滅茶苦茶謝られた。ただこの人のおかげで記憶が定着できた、気がする。悪気があった訳じゃないし、よしとしよう。
お父様だって途中で止めればよかったんだ。途中でそう伝えてやり直させれば、まだ取返しはついたと思う。些細なトラブルはあったものの、俺は技を教えてもらえるようになった。
神威一刀流技の巻:壬午 単槍匹馬
神威一刀流19番目の技、馬を召喚し戦う事が出来る。しかし他の人と一緒に戦うと馬は消滅し、発動が出来なくなる技だ。31番とセットで使われる事が前提であり、43番で馬を消す事が出来る。移動用としてもかなり便利なので使わない手はない。
神威一刀流技の巻:丙午 塞翁失馬
神威一刀流43番目の技、19番で出した馬を消す事が出来る。その後幸運な事か、不幸な事か、幸運に見せかけた不幸な事か、不幸に見せかけた幸運な事のどれかが必ず起こる。起こったとしても今日の晩御飯が豪勢になるとか、タンスの角に足の小指をぶつけるとかその程度の事しか起こらないので気にする必要はない。なお、前話の場合は不幸に見せかけた幸運な事が起こっている。
19話 忘れられた連絡先
フレイル「そういえば、あの2人の連絡先ってもらってないよね?」
アスティナ「あぁ、いります?」
フ「一応ね」
ア「そうですか」
フ「さて、何か来てるかな……って、666!?」
フ「一体どれだけ送って、そんなに送られても──」
クギノ「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロ」
フ「……ティナ、怖い」
ア「はい?」




