18話 悪魔族、姿を偽装する
次回投稿予定時刻:17:30ごろ
「おはよう、あなた」
「おはよう、ティナ」
冬から春へと、季節が移り替わった。ティナが来てそろそろ三か月、彼女も大分慣れてきている。最初の方は寝る時に何故か悶えていたりもしていたけど、最近はしなくなった。
「失礼します」
今日も丁度いいタイミングで起こされたみたいだ。もう俺はティナ無しじゃ生きていけなさそう。それぐらい彼女は俺の生活に深く入り込んでいた。
「怪我は平気?」
「まだ痛みますね」
「休んでればいいのに、お母様だって許してくれるよ」
「奥様と毎日会えない方が嫌ですから」
……あの時、怪我をしていたのは俺だけではない。メイリアも同様に怪我をしていた。心臓を1回刺されただけ、だけと言うのもあれだがそれだけだったそうだ。なんとか死ななかったものの、未だに心臓が痛いらしい。
そう考えると、俺が死ななかったのは奇跡だったと言える。よくあそこから死ななかったものだ。途中途中で回復されていたからか、そもそも魔族の回復力が凄いのか。それは分からないけどさ。
「それなら、辞めるとか言ってたあれは嘘なの?」
「……」
「あなた、彼女にもけじめという物がありますから」
「そうだね、ごめん」
俺を守れなかった責任から、彼女はメイドそのものをやめようとしていた。お母様が一切認めなかったので折れたけど。今思い出しても、あの時のお母様はかっこよかった。最終的にメイリアが「お姉さま」なんて呼ぶ始末だ。昔のお母様はあれが素だったんだろうな。
2人共着替えさせてもらった後、食事にありついた。
食べ終わるのと同時にお母様が部屋に入ってくる。
「おはよう、お母様」
「おはよう、フレイル」
お母様はここ最近元気がずっとない。あの事件のことをずっと引きずっているようだ。俺にも負い目があるらしく、しつこく絡んでこなくなったし一人称がママから私になっている。寂しくないと言ったら嘘になるが、ティナがいるので寂しくはなかった。
「おはようございます、お義母様」
「おはよう、アスティナちゃん」
2人の関係も良好、嫁姑問題も起こりそうにない。まぁティナはいい子だし、元々起こる可能性なんてなかったのかもしれないな。呼び方はあれだが、当初の通り夫婦にはなっていない。将来を見越してそうやって呼ぶようにしたのだ。
「今日は午後からなの?」
「うん、と言ってもお城にはいないといけないんだけどね」
お母様に休みという休みはない。週末は屋敷にいるものの、呼ばれればすぐに行けるよう準備はしている。もし呼ばれた場合、今みたいに行く時間帯が変わるのだ。
「お仕事頑張ってください、お母様」
「うん、頑張る。アスティナちゃんも、フレイルの事をよろしくね」
「はい」
些細な会話をし俺達は部屋を出た。そのまま部屋まで戻りソファに座る。
「失礼します」
ティナが股の間に座ったのでしばらく普段より密着する形で話をする。もう慣れたものだ。春先なのもあり少しだけ暑い。ただそこまで嫌な暑さではない、むしろ心地よいくらいだ。
「お義父様、今日も早いですね」
「そうだね」
外にはいつも通りお父様が素振りをしていた。事件以降お父様が仕事場に行く事はない。と言っても道場で刀を教えているだけだ。スマホ越しで教えている姿は何度も見てきた。お父様が対人戦を出来ないだけで、そこまで影響はなさそう。
そもそもお父様とまともに戦える人なんてあそこにいないと思うけど。外を眺めていると聞きなれた機械音が部屋に鳴り響く。
「少し待ってくださいね」
「うん、頼むよ」
本来俺は死んでいても仕方がない状態だった。角がなくなり、魔力の発散が難しくなったからだ。俺の場合だと3日で爆散していたらしい。
当然ではあるが対抗策は存在していなかった。折れたら見捨てられるのが世の常、そもそもとして考えられていない。しかしお母様の頑張りによりわずか19時間で体系を確立。その後権力を使い2時間後には試作品が出来ていた。そして改良された指輪型を今は身に着けているというわけだ。
「はい、終わりましたよ」
「ありがとう」
彼女の左手の薬指から全く同じものを俺にはめてくれた。そしてその指輪は彼女の指にはめられる。そしていつも通り彼女は少しだけぽやっとした。
「……家なんだし、予備に変えようよ」
「いやです、こうすると、体中であなたのことを感じられるんですよ?」
そう言いながら、体の向きを変え俺に抱き着く。とても幸せそうな顔だしなるべくやらせてあげたい気持ちはある。けど体に悪くないかだけが心配で仕方がなかった。
ティナの魔力量だって決して少なくはない。なにせ俺と両親を除けばここら辺では一番魔力量が多いし。だけど、その彼女でも大体半分くらいの量の魔力をその指輪から摂取している。誰も止めてないから問題はなさそうだけど、そういう問題でもない。
「フレイル、いる?」
「はい、お母様」
珍しくお母様が部屋にやってきた。今頃は城の方にいると思ってたけどまだ行っていなかったようだ。
「あら、お邪魔だった?」
「いつも通りだよ」
「そう……」
「こんなことで嫉妬しないでよ」
「そうね、やめておきましょう」
と口では言っていたが目が全く変わっていなかった。こういう所は変わっていないんだよね、お母様。
「早速本題に入りたいんだけど、フレイルに渡しそびれたものがあって」
「俺に?」
「そう、はいこれ」
お母様から渡されたのは悪魔になるコスプレだった。ではなく、俺の欠損を隠すためのものだ。それに加えて指輪の効果も内蔵している優れもの。説明なしでこれだけ知っているのは単純にこれを依頼したのが俺だからだ。
「遂にできたんだ」
「そうなの、角だけでいいから付けてみて」
言われた様に俺は角を断面に当てる。そして数秒後、手を離すと久しぶりに角の重さが体にかかった。
「うん、それなら残りも平気そうね」
「凄い……」
「飛行以外なら前みたいに出来ると思うから、後で試しておいてね」
「ありがとう、お母様」
「っ……フレイルっ!!」
うわっ、お母様が前みたいな感じになってる。こうなると満足するまでが長いんだよな……最近元気なかったし、たまには──
「駄目ですっ!」
「ふふっ、アスティナちゃんごときが私を止められるの?」
「あの人はもう私の物ですから、ねぇ?」
それを聞かれても困る、主にどういう風に返せばいいのかが。誤魔化すように愛想笑いをすることしかできなかった。
「ほら、だから駄目です」
「じゃあアスティナちゃんでいいや」
「えっ!?」
「アスティナちゃんっ!」
唐突に標的が変わったのでお母様の毒牙から逃げられなかった。目で俺に助けを訴えている表情が可愛かったので、少しだけ見てよう。
……
「そこまでです」
「あなた……」
「妬いちゃった?」
「そういうのじゃない、早く仕事に行って」
「はいはい、そういう事にしといてあげる。じゃあねっ!」
いつものお母様に戻り、一瞬にして消えてしまった。まぁお母様のことはもういいや。今は羽と尻尾だ、早く付けよう。
「ティナ、それ付けて」
「これですか?」
「うん、断面に押し当てたらくっつくから」
ティナに手伝ってもらい、すんなりとその2つはくっついた。動作も問題なさそうだ、うん、懐かしいなこの感覚。
「凄いですね、言われなければ全く気付かないのでは?」
「そうかも、結構自由に動かせるし」
「あっ、フレイル様。尻尾を体に巻き付けてくれませんか?」
「ん、はい」
ティナの体に尻尾が巻き付く。
これならあれも問題なくやれそうだな。
「ティナ、少し付き合って」
「はい」
俺達はそのまま玄関から外に出てお父様のところに向かう。ある程度進んだところでお父様もこちらに気付き、素振りをやめた。
「おはようございます、お父様」
「あぁ、それでどうした?」
「刀を教えてほしいなって」
「……」
俺がこの義角などの製作を依頼したのはなにも見た目をよくする為だけではない。これがある状態で戦闘技術を学びたかったのがこれの主な目的だ。魔王になった後、ありのままの姿では魔王として振る舞えないだろう。ならこの姿で戦えるように訓練する、それが必要だと思った。
「まだ早いんじゃ」
「ティナのこと、俺1人で守れるようになりたいからさ、駄目?」
「あなた……」
ティナは説得できた、お母様については製作する時に了承を得ている。後はお父様だけ、断ってはこないと思う。角無しで魔法行使なんて危険な行為をさせるくらいならこっちを教えてくれる筈。
「分かった」
「ありがとう、お父様」
「だがすまない、今は無理だ」
「それは分かってるよ、いつからならできる?」
流石に今からとか、そんな事は思っていない。明日とか、1週間くらい間が開くのは仕方がないだろう。
「早くて3か月、最悪半年後だ」
「……そんなに?」
「教える為の道具が足りない、すまないな」
「いえ、仕方がないですよ」
あまりにも急だし、そういったこともあるか。お父様にも先に言っておけばよかったな……
「基礎訓練くらいなら今からでも出来る、やるか?」
「うん、やるよ」
それなら着替えてこないとな。この服で動くことは想定されていないし。
「私も参加してもいいですか?」
「ティナも?」
「はい、邪魔はしませんから」
「好きにしろ」
「ありがとうございます」
というわけで、早速着替えてやり始める。
そこからが、地獄だった。まず最初はお父様についていくだけの簡単なもの。そう高を括っていたのが間違いだった。お父様が物凄く速かったのだ。
お父様はこの広大な庭を1分で一周するくらいのペースで走り続けていた。俺達にそんな速さで走ることなんて不可能なわけで……結局、5周いかないくらいで一周差をつけられそこで走るのは終わった。
「はゃ、はや、すぎ」
「少し、休ませて、ください」
「すまないが、今日は休ませられないな」
「「えっ!?」」
「今日の内にどれくらいでやればいいのかを掴みたい、次に行くぞ」
巨岩上げ、断崖絶壁登り、お父様が鬼の鬼ごっこなどなど、最後の方は記憶が曖昧で覚えていない。唯一、滝から流れる魔力が多い水滴を避け続けるものは魔眼でズルができたので楽だった。
ただ最後の方は避けきれないくらいの水をかけられたのでそれだけはきつかったけど。その時だけティナは不満そうな顔でこちらを見ていた。
「よし、今日はこれで終わりだ」
「「ありがとう、ございました」」
これが、毎日? いや、手加減はしてくれる筈、その為の今日だ。改めて、お父様の凄さを認識できた。今日のを軽々とこなせなければ魔王になんてなれないわけだし。
「フレイル、これを覚えておけ」
「……これは?」
「いずれ分かる、準備が整うまでに覚えておけばいい」
何かが書かれた紙を渡してお父様は俺達を持ち上げ屋敷に向かって走る。今は無理だな、風でまともに見れない。屋敷に着いた後俺は絶望した、その紙にびっしりと並ぶ文字列に。
「これを覚えろと……」
「俺の流派を習うのなら必要な事だ」
お父様は何事もなかったかのようにお風呂の方に向かっていった……何十年かかるんだろう、超えるのに。もしかしたらとんでもない事に挑戦しているのでは、そう思ってしまう。その日は疲れのおかげでぐっすりと寝れることになる。
「「ありがとうございました」」
「……流石と言うべきか」
2回目の修行、前より楽になったとはいえとても楽しくすることができた。ティナとずっとおしゃべりできたし、もう少しきつくてもよかったくらい。これなら何十年もかからずにその水準には達しそうだ。
「はぁ、イアもそうだったな」
「お母様が?」
「魔王の血族は、こうも簡単に強くなれるのか」
お父様は少し羨ましそうな目をしていた気がする。何年も何年も鍛え上げて強くなった人なんだろうな、この反応的に。
「明日ももう少しきつくする、いいな」
「「はい」」
ただ、初回以降俺達の体力が尽きることはなかった。1ヶ月経つ頃には最初にやられたやつをやっていたし。むしろ2人で軽く朝の運動をしている気分だったな。
そして遂に訓練を始めてから3か月の月日が流れようとしていた。あの紙は覚えたし、今の俺に不足はない。ちなみにティナは刀を習わない、家の魔法の方を鍛える方針だそうだ。ただ様子は見たいらしいので見える場所で練習するそうだけど。
「フレイル、明日からやる。いいな?」
「はいっ!」
明日、遂に明日か。まずは基本動作とかを覚える所からだろうな。いきなり技からなんて教えるわけないし。
18話 ティナの”トモダチ”
カレラ「ねーいつ帰ってくるの?」
アスティナ『さぁ?』
クギノ「いや、さぁ、じゃなくて」
ア『ふふっ、半年以内には帰るよ』
ク「ま、それならいいや」
カ「あっ、あのイケメン君とはどこまでいったの? キスくらいした?」
ク「流石に早いでしょ、アテナは淑女──」
ア『ほっぺにならしたよ』
ク「……嘘だ」
カ「ごめん切るねー!」
ク「アテナがそんな事する訳ない可憐でおしとやかで非の打ちどころがない完璧美少女なのに王族として恥ずかしい振る舞いとか絶対にありえないやはりあの男かあの男がアテナの純白で無垢な心を穢した張本人に違いない今からでも魔王様に直談判してでも婚約解消をしなければ取返しの」
カ「こうなると戻るのに時間かかるんだよねー……」




