17話 幕間:鳥魔族、あいを誓う
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「お見合い?」
「あぁ」
ある日、お母様からお見合いをするかどうか打診を受けました。する事は覚悟していましたがこんなに早いなんて……
「相手はレヴィアタンの第一王子、ベルによれば魔王候補なんだと」
「はぁ……」
魔王ベルライア、お母様によると子供を溺愛する方と聞いています。魔王候補という情報はあまり参考になりませんね。
「写真はありますか」
「一応、あるぞ。一応な」
「これは……」
お母様が念を押して渡してきた写真には確かに男の子の写真が写っていました、赤ん坊ですけど。このお見合いは断りましょう。
「あいつ、『顔は会ってからのお楽しみ』とか言いやがって」
「でしたらこれは?」
「生まれた時に1枚だけ撮ってたやつだ、同い年だからそこは気にするな」
懸念していた部分は問題なさそうですね。だとしても容姿を知らずに会うのは……
「ラビニエに調べてもらえませんか」
ベルフェの情報部隊なら易々とこの任務はこなしてくれるでしょう。それに今のトップはお母様の親友です。この様な目的から外れた物も調べてくれる筈。
「んな馬鹿な理由で使えるかよ、俺が怒られるわ」
「ですよね……」
「まぁ使ったけどな」
「怒られたんですね」
「ははっ……」
手渡された資料に目を通して人となりはある程度分かりました。これは──
「お兄様みたい」
「まぁ魔王の皇太子なんて大体そんな評価になるもんだよ」
お兄様、数か月後にはベルフェを継ぐ魔王となるお方。このタイミングで私のお見合いというのもおそらくこの為でしょう。私はお兄様が魔王になる事に不満はありません。ただお兄様は外面がいいだけの変態です。
お義姉様がその毒牙にかかってしまうのが少しだけ不満なのかもしれません。当の本人は喜んでいるので私が言うのはお門違いですけれど。もしこの方もそうなら……正さなくてはいけません。お兄様の様な魔王は2人もいりませんから。
「で、どうする?」
「とりあえず会ってみたいです」
「分かった、そう伝えておくぞ」
フレイル・メテオ・レヴィアタン、一体どの様な方なのでしょうか。私はお見合いの日まで、何度もその報告書を見返しました。ただ何度見ても私の不安は拭える事はありません。
心の準備が出来る前にお見合いの日がやってきてしまいました。私はお母様に揺られながら何度も何度も身だしなみを整えてしまいます。
「アテナ」
「何でしょうか、お母様」
「あっちに着いたら、俺が出てきていいって言うまで出てくるなよ?」
「分かりました」
きっとお母様が最初に品定めをしたいのでしょう。今回のお見合いはお互いの名前と肩書しか知らされていないそうです。私の場合調べてもらったので多少のアドバンテージはありますが。
その都合上お母様は今回正式に受けるとは言っていないそうです。ですが断る事はほぼないとも言っていたのでそのまま帰るなんて事はあり得ません。相手の国との関係も考えるとそうなる可能性は低いでしょう。
「レヴィアタンにようこそ、ステちゃん」
「おう」
相手の子がいるレヴィアタンに着きました。窓を開けていないのでどういった場所かは分かりません。魔道具技術が発展しているそうなので魔道具が沢山使われているイメージはあります。
「んで、そいつか」
「うん! どう? 凄いでしょ!」
「まっ、ベルが言うだけの事はあるな」
「でしょでしょ!」
相手の子、お母様の基準を軽々と超えていそうですね。ギリギリならもう少し難色を示した様な言葉を出す人ですし。
「5年でここまで伸びるなら、俺から言う事はねぇな」
「ほら、心配する必要はなかったでしょ?」
「それはアテナ次第だ。よし、出てきていいぞ」
私は最後に軽く身だしなみを整えた後この場所から降りました。声のする方を向くと3人の知らない人が立っています。女性の方は魔王ベルライアでしょう、彼女しか女性はいないので。
横の鎧の人は夫のカムイさんでしょう。お母様によると魔王と同格の力を持つ人だそうです。それで全魔王から一目置かれているとか。よくお母様から同じ話を何度もされているので覚えてしまいました。
そして1人、私と同い年くらいの男の子。その人がフレイルさん、今回のお見合いする相手の方。あの赤ん坊がそのまま成長した感じですね。かっこいいとは思います、どうしてもお兄様と比べてしまうので驚きはしませんが。
ひとまず挨拶をしましょう。この場合は私からですね。レヴィアタンに来ている以上あちら側が上ですから。
「初めまして、アスティナ・フレイム・ベルフェと申します」
「フレイル・メテオ・レヴィアタンです、よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。フレイル様」
……凄く私の顔を見ていらっしゃる様な? まさか私の身だしなみにどこか乱れが?
「フレイル様?」
「えっ?」
「どこか、気になりますか?」
「いいや、無いよ」
良かった……もし変だったらお母様に恥をかかせてしまいますから。私のせいでベルフェの評判を下げたくはありません。
「君の顔から、目が離せなくて」
「ふふっ、褒めても何も出ませんよ?」
……お、お兄様みたいな事をおっしゃってきました。まだです、まだ変態と決めつけてはいけません。お兄様はリップサービスでよくその様な事を言うそうなので。
そのやり取りを見て大人の皆さんはお城の方に入ってしまいました。少しだけ安心できますね。
皆さん魔力が膨大ですから、少し油断すると酔って倒れてしまうかもしれません。いくらお母様やお兄様で慣れているとはいえ、倒れたりでもしたら大変です。
「少し、歩きませんか?」
「そうだね」
私は彼に近付き左手を右手の──っ! 気付きませんでした。いえ、あの中で気付くのは不可能と言ってもいいでしょう。この人、魔力があの3人と同じくらいの量を持っています。今考えてみるとあの3人の中にいて特に気にしていない様子でしたし。幸いにも近付く直前で気付きました、
多少よろけた程度で──私は何故腕を組んでいるのでしょう。まさか、よろけた拍子に……落ち着きなさい、別に変という訳でもありません。お兄様は普段腕を組んでエスコートをしていますから……お義姉様にだけですけど。
ど、どうしましょう。色々と話す準備はしてきたつもりです。でも何故か何一つ思い出せなくなっていました。距離が近いからでしょうか、しかし今更離れる訳には……やはり魔力量は多いですね。
ここまで近いと一瞬でも油断すれば気絶してしまうかもしれません。それだけは気を付けましょう、相手側に余計な心配をかけたくはないですから。お母様も魔力の事くらい教えてほしかったです。
「すいません、少し考え事をしていまして」
「ふぇっ!? あっ、いえ、そういう事では……」
いつの間にか、私は彼の顔を凝視していました。慣れているとはいえ顔はいいですから、無意識に見ていたのかもしませんね。先にされていたとはいえ、していい理由にはなりませんし。ここは何か……そうですね、こう言いましょう。
「フレイル様のお顔を見入っていただけですから、お気になさらず」
「そうか、気に入ってくれたなら良かったよ」
これで問題はないでしょう、事実ではありますから。あまり疑問を今私とんでもない事を口にしてしまったのでは? わ、私、お兄様みたいな事を……でも顔が良いのは事実ですから恥じる事はありませんよね? これくらい普通の──
「はぁ……」
どうしてあのような事を……ティナ、だなんて。明日以降どういう顔をしてお会いすれば……でも、全然嫌じゃない。この気持ちは一体、なんなのでしょうか。
その疑問は思っていたより早く解決しました。
「ふふ……」
目の前にはフレイル様からいただいた髪飾り。私と同じ橙色の羽があしらってある髪飾り。鳥魔族にとって同じ色の羽の付いているものをあげるのは求愛の印。
見た時、とても嬉しかった。思わず箱を閉じてしまうくらいには。今もその嬉しさは残ってて、むしろどんどん思いが強くなっていく。
「フレイル様、愛しています」
無意識にそう言っていたくらいには、もう好きでたまらなかったんだと思います。会ったばかりで気が早い、とは思います。けれどこの気持ちを嘘だと決めつけられるほど鈍感でもありませんでした。このままずっと、隣にいれたらいいのに。
遂に、帰る日がやってきてしまいました。私はとても名残惜しいなと感じています。ここまで彼に心惹かれるなんて、来る前には想像も出来なかったでしょう。お母様もそれを察してくれてなるべくフレイル様との時間を伸ばしてくれています。ただそれにも限界はあるのでそろそろ終わりそうな雰囲気が漂ってきました。
「そういや、2人目はどうすんだ?」
お母
グサっと、心臓を貫かれた様な気がしました。2人目、そうですよね、魔王になる以上複数交際は当たり前。竜魔族の魔王は現在17人と関係を持っていますし、それくらいは増えるのでしょうか。もしかしたら角魔や拳魔の様に何十人になるのかもしれません。
「フレイル様……」
無意識に彼の服を引っ張っていました。それで分かってしまいました、私のもやもやが何なのかを。
「増えるの、嫌?」
「それはいいんです、私が独占出来る程フレイル様は弱くありませんから」
"私1人だけを見てほしい"
そう言えればいいんですけど、とても言える内容ではありませんし当然言えませんでした。現状男性の魔王で妻が1人の場合は一例もありません。少なくても11人、竜魔族の先代の魔王がその人数でした。
お兄様だって今はお義姉様しかいませんが、それは魔王になってから増やすという約束の上で成り立っています。実際、噂では既に何人か候補は擁立されている、と。
二桁、それくらいは作ってしまわれるのでしょう。この魔力量なら誰しも惹かれるのは当然の結果です。それを独り占めする力が、私にはありません。少しだけ魔法の訓練で手を抜いていた事に後悔してます。
私の思いを、少しだけ変え彼に伝えました。彼はそんな私を強く抱きかかえてくれました。それが彼なりの答え。
ですが私にはそれだけでは足りません。飛び立つ直前、私は彼に忘れられない事をしてそのまま逃げてしまいました。私の事を、忘れられなくする為に。
帰路の途中、お母様がもう一度レヴィアタンに戻ると言いました。嫌な予感がする、そういう理由です。お母様の予感が今まで外れた所を見た事がないですし、何かあるのでしょう。戻るとカムイさんがドアの前で立っていました。
「どうした、帰ったんじゃなかったのか」
「それはこっちのセリフだ、何故そんなに警戒している」
やはり、何かあったのでしょうか。フレイル様が無事だと良いのですが……
「あれ、ステちゃん?」
「イア、寝てろと言っただろう」
「……っ、何があった!」
魔王ベルライア、彼女の魔力が殆ど空になっていました。彼女がそこまでなるなんて、一体何が……ふと、近くにお土産を買った時に運転していたメイドがいることに気が付きました……そうだ。
「すいません、お手洗いってどこですか?」
「それでしたら、右奥の方にございます」
「分かりました」
私はお手洗いに行くフリをして彼の部屋に向かいます。以前に屋敷の構造についてはフレイル様から聞いていました。お手洗いの近くには階段がある筈です、これならバレずに会いに行ける筈。私の予想通り、階段を登って2階に。そのまま部屋に向かいます……なんだか、変な臭いがしますね。
嫌な予感を振り切り、私は彼の部屋の前に来ました。いえ、来てしまったというのが正しいのかもしれません。彼の部屋は血だらけの異臭を放つ部屋でした。私は無意識に走っていました。彼を探す為に。
死んではいない、それは確信していました。死んでいたとしてあまりにも死体の移動が早い。あの様子からしてそこまで時間は経っていない筈。ならどこかで治療を受けていると、そう願うしかありません。
1つ角を曲がると、1つだけドアの隙間から光が漏れている部屋がありました。そこにいる、そう思ってその部屋の中に入りました。
「フレイル様っ!」
「来ないでっ!」
「!?」
「お願いだから、近付かないでっ……」
私は無我夢中で走っていました。あんな事を言われるだなんて。そして思っていた以上に心が深く傷ついていました。私はそのまま、テラス席から翼を広げ、空に逃げ──
「待ってくれ!」
後ろからカムイさんの声がします。振り返ると彼は土下座をしていて、思わず引き返していました。
あれから色々とあり、フレイル様を支えていく事になりました。これからここに住むんだなと考えていました。テラスにある椅子に座りながら。お風呂からあがり、色々と体が火照ってしまったので外で涼んでいます……あんな事を言った手前、慣れないといけませんね。
空を見上げても、月は見えません。今日は朝から雲っていたので、仕方がないのかもしれませんが。
犯人は、執事長、ですか。フレイル様がプレゼントを渡した相手。お母様が聞いているのに聞き耳を立てただけなので、名前は分かりませんでした。
「ラビニエ」
「はっ」
待機していた情報部隊の者に声をかける。1人だけお母様から護衛代わりとしてもらいました。だけど、私は違う使い方をさせていただきます。
「執事長の事、内密に調べておいて」
「承知」
一瞬で彼は調べに行きました。ごめんなさいお母様。私、許せないんです。フレイル様をこんな風にした奴を。そして、フレイル様には二度と思い出さなくてもいいようにしたいんです。
「フレイル様、私が必ず愛しますから」
これは私だけ、私だけがやるべき事。フレイル様にだって知られてはいけません。知ってしまったら、彼は私の事を心配してしまうでしょうから。
「アスティナ嬢」
「カムイ様?」
「これ以上いては冷えてしまう、中に入った方がいい」
テラスに入る側の窓を開け、そうおっしゃられます。確かにそろそろ体の火照りもなくなってきましたし、入りましょうか。私がテラス席から出た後、そこに月光が差し込み始めました。
「あら、今晴れましたね」
「もう少し、見ていたいか?」
「いえ、もう十分です」
早く、見つかるといいな。その思いを胸に、私は彼の部屋へと向かうのでした。
17話 良い夜
フレイル「おやすみ、ティナ」
アスティナ「おやすみなさい、フレイル様」
ア(ふふっ、ここならフレイル様の寝顔を……)
フ?(寝顔? それは後でいいじゃん)
ア(そんな、まだ私達愛し合って1週間しか──)
フ?(今夜は寝かせないよ?)
ア「~~!!」
フ「……?」




