14話 悪魔族、街に出る
次回投稿予定時刻:16:30ごろ
「これが魔車ですか」
駐車場にあった車にティナは珍しそうな顔をしていた。ベルフェだと走っていないのかな、これ。
「珍しい?」
「勿論です、そもそもこれが走っているのはこの国だけですから」
この国だけ? この確実に便利な魔車が? そうなるとこの国って結構技術が進んでいるって事になるな。
「早く来るといいんですけど……」
「確か、近い内に道路の整備を行うそうですよ」
「本当ですか!?
そっか現状道路の関係で貴族街しか走れないのかこの車。この前ピクニックに行った時がまさにそれだ。
走れないから飛ぶことになったのであって別にわざわざ飛ぶ必要性はない。
「フレイル様、早く乗りましょう!」
「うん」
ちょっとテンションが高くなっている彼女と共に乗り込んだ。2人しか乗らないのでこの前のとは違い4人乗りの物だった。
「では出発します」
「ティナ、ベルト」
「ベルト?」
あぁそうか、知らないよな初めてだし。俺は彼女のシートベルトを持ちそのままつけてあげた。
「乗る時はこれをつけなきゃいけないんだよ」
「そう、なんですね」
ティナの顔がしょんぼりした感じになってしまった……もしかして、自分でやりたかったのかな?それなら悪かったな、教えるだけでも良かったし。
出発してティナの目には外の景色しか映ってなかった。その間の俺は一言も話す事なく彼女の姿を眺めていただけだ。暇ではあったが彼女の姿を見ていて退屈はしなかった。
「着きました」
彼女を見ていたらいつの間にか着いていた様だ。取り敢えず俺は先に降り出てくる彼女の手を取る。車はそのまま目的地の駐車場に走っていった。
さて、ここは俺が一度来た場所でかつちゃんと見られなかった場所だ。まぁ1か所しか行っていないから案内出来る場所とかここしかないんだけど……正直前回遊べなかったからここに来たのもある。
「ここはどういう場所なのでしょうか?」
「公園らしいよ」
「これがですか?」
天高くそびえるビルを見上げるティナ。最初はそうなるよね、うん。
「とりあえず入ろう、あんまり目立ちすぎてもね」
「それもそうですね」
そのまま中に入り顔パスで入場した。ここに住んでいるだけで使えるんだしお得だよな……あっ!? ティナは住んでいない、入るのにはお金がいる。
受付の人は彼女に対して特に何も言われなかった。って事は問題ないという事でいいのかな? というよりワラが事前に伝えてくれたのだろう。そういうのはちゃんとしてくれるイメージがある。後でちゃんとお礼を言っておこう。
「だーかーらー、いいだろ別にっ!」
「ですから、この後ご予約が──」
「だからって施設全部貸切るのはないだろっ!」
「「「「「そうだそうだ!」」」」」
最初は準備運動もかねて一番近かったグラウンドに行こうとしたら、ちょっとした人だかりが出来ていた。しかも先頭に立って文句を言っていたのはトバールだ。
何をやっているんだか、と思わないでもないが事情が事情だし仕方がない。というか全部貸切るって俺達も遊べなくないか?王族だし、話せば多少は譲ってくれるとは思うんだけど……
「申し訳ありません」
「ったく。んっ? あっ、フレイルじゃん!」
先頭にいた彼は人だかりを飛び越え俺達の前に着地した。結構距離あるよな、これ飛び越えられるのか。
「よっ! どうし──悪い嬢ちゃん少しこいつ借りるぞ」
「かまいませんよ」
トバールがティナの顔を見た瞬間、俺が速攻で離された。それも当然だ、知らない女性と来ていたんだから。トバールもまさかそれが婚約者だなんて思ってもいないと思うけど。
公式には多分発表されていないしね、これ自体。外に出る時一瞬勝手に出るのはまずいのではと思ったけど、今更だし考えないことにした。というよりここまで来ておいて今更引き返せない。
「なぁ、誰だよあいつ」
「婚約者」
「マジかよ……あっ、おめでとさん」
驚いてはいたけどそこまで予想外みたいな顔はしなかった。きっと彼女の顔がよかったからに違いない。そこで内緒話は終わり再びティナの下に戻る。
「すまんすまん、ちょっと見かけない顔だったからよ」
「大丈夫ですよ。それで、お名前を教えていただけませんか?」
「そうだったな。俺はトバール・ノートン、よろしくな」
「アスティナ・ベルフェと申します、お会いできて光栄ですわ、トバールさん」
「……こちらも光栄だぜ」
彼女の名前を聞いてトバールらしからぬ真面目な顔をした。流石にベルフェと聞いて分からない奴ではなかったらしい。周りもその名を聞いてざわざわし始めている。流石は王族、知名度は十分そうだ。
「なぁ、先に教えてくれよ……」
「別に怒らないよ、それくらいで」
「こっちにも体裁ってもんがあんだよっ!」
小声で怒られてしまった。なんか、そういった堅苦しいものは気にしていないと思ってたけど意外だ。
「それでトバールさん、何が起こっているがご存じで?」
「そうだ、そうなんだよ! 聞いてくれフレイル、あいつ──」
話の続きをする前に受付の人が近くまで来ていた。俺にも事情を説明しに来たんだろう。仕方がない、ここは俺が説得してみるか。
「その──」
「お待ちしておりました、フレイル殿下」
「「「「「はっ?」」」」」
皆の視線が一気に殺意に満ち溢れたものに変わった。俺だったか、施設を全部貸切ってたの。ワラだな、というか彼女以外出来ないだろう。
「……皆に解放してあげて?」
「ですが」
「いいから、俺達2人だけだし」
「かしこまりました」
その言葉と共に集まっていた人達が一斉に遊びに戻っていった。唯一戻らなかったのはトバールくらいだ。
「ごめん、知らなかった」
「いいけど、気をつけろよ?」
本当に気を付けよう。自分の影響力を完全に見誤っていた。
「申し訳ございません、アスティナ様」
「はい、なんでしょうか」
「その、お名前の方だけ、記入の方をお願いしたいのですが」
「かまいませんよ」
彼女は名前を記入する為に受付の方に歩いていく。少しだけ時間がかかるからこいつと話していよう。
「あらっ、殿下ではありませんか!」
「うげっ」
遠くから、見覚えのある声がした。名前はピピィだった筈だ。トバールが自己紹介を邪魔していたのが印象に残っていたのですぐに思い出せた。
「本日はこちらへ遊びに?」
「言っとくけど、今日はテメーの出番なんてないぞ」
「貴方に邪魔される筋合いはありませんわ」
「いや、そういうのじゃ──」
「フレイル様、そちらは?」
いつの間にか名前を書き終わっていたのかティナが後ろから聞いてきた。ここはトバールが紹介した方がいいかな、よく知っていそうだし。
「グハッ!?」
「へ?」
「ま、負けた? この私が?」
いきなりどうしたんだこの子? 急にダメージなんて受けて急に敗北宣言されても困るんだけど。
「トバールっ! 1度ならず2度までも、許しませんからねっ!」
「はっ!? 今回は知らねーよっ!」
「黙りなさいっ! くっ、覚えていらっしゃいっ!」
ティナを一瞬見た後、捨て台詞を言いながら外に行ってしまった……なんで?
「あの、彼女に何か悪い事でもしてしまったのでしょうか」
「いや、あれは、多分だけど……」
「心当たりが?」
「まぁ、あるな」
あるんだ、なら説明してもらおう。してもらわないと心がもやもやした状態で過ごす事になりそうだし。トバールは一拍置いた後、その心当たりについて話てくれた。
「その、あいつ、世界一可愛いって自称しててな」
「それで負けたから敗走を?」
「おう、多分だけどな」
「それは悪い事をしましたね」
ティナに勝てる容姿ではなかったからな、しょうがない。相手が悪かったと思ってもらいたい。
「まぁ、あいつの事は置いておいて遊ぼうぜ!」
「ちなみに"今回は知らない"ってのは」
「うっ!? それは、だな……」
余程聞かれたくない事なのか、挙動不審になってしまった。1回、あの子の邪魔をしている自覚はあるわけだ、こいつには。
「自己紹介、被せたのわざとだろ」
「っ……しょうがないだろっ! 父様にやれって言われてるんだからよっ!」
この前聞いた派閥とか関係があるんだろうな……これ以上は責めないでおこう、可哀想だし。
「じゃあな!」
遊ぶのをやめてトバールと別れ車に揺られている。お互いへとへとになるまでやったのでまだ少し息が荒かった。それにしてもこの体凄いな。軽く10mは跳べたし、本気でやれば100mくらい跳べそうだった。
怪我するからやらなかったけど。初めて翼で飛んだりもしたけど、ついてこれるのがティナしかいなかったな。なんというか、血筋パワーというものを直に感じられた。また遊びに行こう、滅茶苦茶楽しかったし。
「殿下、少し買わなければいけないものがあるのですが、寄り道してもよろしいでしょうか?」
「いいよ、好きにして」
疲れているせいかちゃんと考えて答えるのが面倒だった。少しくらい受け答えが雑だって──
「お土産っ!」
「わっ!?」
「そうです、忘れていました。お土産を買っていかないと」
急に大声を出されて驚いてしまった。お土産なんて言ってくれれば持たせるのに。
「ついでに買っておきます」
「いえ、自分で選びたいんです」
「かしこまりました、近くであればお好きに見てもらって構いません」
「……それって俺も買っていい?」
「構いませんが……プレゼントですか?」
「まぁ、そんな感じかな」
日頃の感謝を込めてお母様とお父様、メイリアとワラ、ついでにウーカスに買っていこう。もしいい物があるならティナに何かプレゼントするのもいいな。流石に高いのは買えない、お母様のお金だし。
「ちなみに、お金ってどれくらいあるの?」
「手持ちはありません」
「買えなくない?」
「こちらの請求書がございますので」
手渡されたのは小さい小切手ぐらいの紙の束だった。これに名前を書けば城からお金が支払われるんだろう。そこから小一時間程、ティナと買い物をした。良い物が手に入ったと思う。そのまま帰る道中でワラには先に渡しておく。
「これは……」
「いつもお世話になっているお礼、受け取って」
あまり彼女の事は知らないのでちっちゃい熊のぬいぐるみを渡した。値段も安かったし貰ってくれる筈だ。
「では遠慮なく」
「ティナ」
「えっ!?」
ラッピングされた箱を彼女に渡す。予想外だったのか、慌てふためいていた。ずっと一緒にいたしいつの間にって思っている筈。
「その、開けてもいいですか?」
「どうぞ」
彼女は丁寧にラッピングを剥がしていく。そして中に入っていた箱に手をかける。1番高かったから、気に入ってくれると嬉しいんだけど。箱を開け、中身を見たであろう彼女は固まってしまった。そして一度箱を閉じてしまう。
「気に入らなかった?」
「あっ、いえ、その、そういう事では」
よかった、受け取ってくれそうだ。ただ、なんか理解が追いついていないみたいな顔をしているな。
「あの、フレイル様は鳥魔族のしきたりをご存知ですか?」
「いや、そこまで」
「そう、ですよね」
とても悲しそうな顔をして箱からプレゼントを取り出す。俺が渡したのは橙色の一対の羽があしらってある髪飾り。安直だけど、似合ってると思って買った代物だ。
「プロポーズとは大胆ですね殿下」
「えぇっ!?」
「私、一瞬夢かと思ってしまいました」
プロポーズ!? ティナも固まる訳だそりゃ。会って2日でプロポーズとか普通に考えて早いもんね。いつかはするつもりだったけど、流石に今じゃないよな。
「流石にこれ付けられません」
「だよね」
「でも、付けさせてくれるんですよね?」
「それは勿論、約束するよ」
「では、その時まで大切に保管しておきます」
そしてその髪飾りは箱に仕舞われた。
城に戻りティナと別れた後皆にプレゼントと渡していく。お母様達は後で渡せるのでウーカスさんにまずは渡す。彫刻用のナイフを喜んで受け取ってくれた。
あれから数日が経ち、ついにティナが帰る日。お互いに別れを惜しみたいところだが、まだ時間はあるんだ。なるべくこの時間を大切に過ごしたい。皆もそれを分かってくれて迎えが来るまで2人で一緒に過ごしたのだった。
14話 プレゼントタイム
フレイル「メイリアにはハンドクリームを」
メイリア「大切に使わせていただきます」
フ「お父様にはタオルを」
カムイ「ふむ」
ベルライア「私は私は!」
フ「えっ?」
べ「えっ!? うっ、うぅ……うわーん!!」
フ「なっ、泣かないでよお母様、ちゃんとあるから!」
※この後めちゃくちゃ喜んだ




