12話 悪魔族、番と出会う
次回投稿予定時刻:12:30
あれから一夜明け、今日は婚約者が来る日。空は雲一つない晴天で迎えるには最高の天気だ
「はぁ……」
しかし俺の気持ちには分厚い雲が覆い被さっている。なんとか付け焼き刃くらいの知識は得られた。当然その程度で気持ちが晴れるなら最初から悩むなんてことはしていない。
「フレイル、そんな顔しないの」
「うん」
誰のせいで、と思わなくもない。けど一応お母様がいなければこの見合いもなかっただろう。だから俺は何も言わない、後単純に今不機嫌になられたら面倒だし。
「……早いな」
「?」
「予定だと、後2時間後だね」
「じゃあまだ外で待たなくてもいいじゃん、寒いし」
おそらく今は冬の時期、ある程度着こんでいるとはいえ寒いものは寒い。出来るならもうしばらく部屋の中で暖まりたいからね。
次の瞬間、あの不思議な感覚を感じ取った。ただそれはお母様やお父様、ましてや料理長とは様子が違っている。振り返ると遠くの空から橙色の鳥が何かを掴みながらこちらに向かって飛んできていた。先程まで見えなかったのを考えると相当速い速度で飛んできているな。
予想通りその鳥は十秒後には俺達の目の前に着地していた。その鳥──全長30m程の巨体──が持っていたものは馬車が引いていそうな箱だ。きっとあの中に魔王と婚約者がいる筈。まさか1人でお見合いに行かせるなんてことする筈がないし。その予想は半分合っていたし、半分間違っていた。
「レヴィアタンにようこそ、ステちゃん」
「おう」
その大きな鳥は、1人の大柄な女性へと変貌を遂げた。2メートルくらいの身長で、まさに先程の鳥が人になったみたいな風貌の人だ。多分反応的に彼女が魔王だろう。
「一昨日ぶりだな、ベル」
「あはは、あの時はごめんね。愚痴を聞いてもらっちゃって」
「いいけど、あんま来んなよ?」
お母様、拗ねてあっちに愚痴を言いに行っていたのか。魔法的には可能だけどわざわざ使う程だったっけ?
「んで、そいつか」
「うん! どう? 凄いでしょ!」
「まっ、ベルが言うだけの事はあるな」
「でしょでしょ!」
何かよく分からない内に褒められていた。聞く限りお母様が褒め倒してた事に対しての評価、かな? 相手側の人に評価されると少しだけ安心出来る気がする。
「5年でここまで伸びるなら、俺から言う事はねぇな」
「ほら、心配する必要はなかったでしょ?」
言う通りなのかもしれない。お母様的に必要ないと感じたから何も言わな──でもやっぱり何も言わないのはおかしくないか?
「それはアテナ次第だ。よし、出てきていいぞ」
箱の方に目をやるとかすかに揺れたのが見えた。外に出る為に動いたからだろうな、ドアも少し開いてきたし。その中から出てきたのは、目の前の魔王によく似た子だった。
まさに魔王の子供時代みたいな見た目の子。1つだけ違いを挙げるとするならば目元が少し優しい感じがするくらいだ。遠目から見た場合魔王と言われても疑わないと思う。それくらい彼女と魔王は似ていた。彼女はこちらに近付き、
「初めまして、アスティナ・フレイム・ベルフェと申します」
まさに礼儀正しい名乗り方と言わんばかりの方法で名乗ってくれた……いや、まず先に挨拶だ。挨拶をしなければ。
「フレイル・メテオ・レヴィアタンです、よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。フレイル様」
うん、可愛い。こう、何というか、言葉で表せない魅力がある。こんな子がこの世の中にいるなんて思いもしなかった。神様、ありが──今、俺は冷静さを欠いていた。
落ち着け、絶対に何かがおかしい。確かに可愛い、それは認めよう。ただ、それだけであそこまで冷静さを失う事はない。あれか、また魔族的なあれがあるのか? 後でメイリアに聞いてみるか、魔族の色恋に関して。
「フレイル様?」
「えっ?」
どこか不安そうな顔をする彼女の顔を見て現実に引き戻された。しっかりしないと、あまり変な事は出来ないし。
「どこか、気になりますか?」
「いいや、無いよ」
そっか、そうなるよな。挨拶をして何も言わなくなられると少しだけ不安になるし。ここは何か、いい感じの言葉を、そうだ──
「君の顔から、目が離せなくて」
うん、こう言っておけば問題ないだろう。これで不安今なんて言った俺。
「ふふっ、褒めても何も出ませんよ?」
これは、多分、いや絶対に思い出したら恥ずかしいやつだ。どうしてその言葉が出た? 本心か、理性が死んでいて思っていたことを口に出したのか? 今すぐ逃げ出したい、逃げ出したいけど、流石にここで逃げる訳にはいかない。相手もうまい感じにフォローしてくれたんだ、ここで恥ずかしがって逃げるのは男が廃る。
「まっ、後は若い奴らに任せるか」
「そうね、フレイル、終わったら執務室に来てね」
談笑しながら3人は城の中に入っていった。そういえばお母様達がいたな、すぐそばに……このお見合い、成功させなければ。失敗したら今後一切お母様の顔を見れない、恥ずかしいから。
「少し、歩きませんか?」
「そうだね」
俺達は2人で歩くために近寄った。えぇっと、確か右手の手の平を──今、色々と考えていた事が脳から消え去った。俺が昨日覚えたなけなしのエスコート、それを実行する前に彼女が腕を組んできたからだ。
「……さぁ、行きましょう?」
「……うん」
大丈夫、大丈夫、落ち着け俺、うん駄目だ全然落ち着けない。アスティナさん? いくら軽く腕を組んでいるとはいえ初対面ですよ? もう少し節度ある行動を、取ってほしいなって。口で言わないと意味ないよね、これ。
はっ!? いけないいけない、このまま考えていたらまた彼女にいらぬ気遣いをさせてしまう。それは避けなければ、二度も失態を見せる訳には──遅かった、既に彼女の目線は俺の顔に向いていた。
「すいません、少し考え事をしていまして」
「ふぇっ!? あっ、いえ、そういう事では……」
ん? 俺が考え事をしていて無言だったから、ではなさそう。じゃあ、どうして俺の顔を……はっ!? もしかして顔がいいからか!……まさかね、こういう冗談は心の中だけで抑えておこう。
「フレイル様のお顔を見入っていただけですから、お気になさらず」
「そうか、気に入ってくれたなら良かったよ」
……
(なぁ、これ絶対お前のこと好きだろ)
騙されてはいけない。これは悪魔の囁きだ、無視だ無視。
(そうだぜ、絶対好きだぞこれ)
なんで悪魔が2人? 普通天使が来て悪魔の言葉を否定するのでは?
(悪魔族に天使が来るのか?)
(悪魔しか来ないのでは?)
おっしゃる通りで。
つまりあれか、もしかして脈ありか。そうかそうか、うん、まずは安心出来る、かな? 浮かれて失敗しない様に気は引き締めないと。よし、頑張ろう!
「アスティナ嬢」
「フレイル様」
ゆっくり話せる場所で休憩しようと提案する前に、彼女が話に割って入った。どこか俺が至らない点でもあったのかな?
「その、よろしければ、ティナ、とお呼びください」
ふむ、呼び方を変えて欲しいのか。ただ確かこの子お母さんにはアテナって呼ばれてたよね? となるとアテナが家族用で、友達用がティナ、なのかな。本人の希望だし、そう呼ぶか。
「ティナ、少し先に休める所があるんだけどそこで話したいんだ。いいかな?」
「えぇ、構いませんわ」
場所は分かっている、昨日何回も練習したからだ。残念ながら俺は城の庭をまともに歩いたことがない。だから昨日庭の見取り図は頭に叩き込んだし、ある程度違うルートでも行ける様にした。でも良かった、寄り道なしで行けるのは助かる。
「凄く綺麗な庭園ですね。誰が手入れをなさっているんですか?」
「手入れ用の全自動魔道具があってね、基本それでやっているんだ」
目的地に向けて歩いているとティナが話を振ってくれた。そうか庭か。確かに普通この庭の話をするよな。でも、俺植物の知識とかないしな、この話題で持たせられるか?
「では庭師の方はいないんですか?」
「いや、魔道具の調整は庭師がやってくれてるんだ」
「そうなんですね……」
彼女が振った話題のおかげで、なんとか目的地に着けそうだ……顔を見ていただけで脈ありと決めつけるのは早いのでは? いや駄目だ考えるな、今考えたら心が持たない。そのまま歩き、俺は先に彼女を座らせた後対面に座る。お見合いだし、そうなる様にセッティングしてもらった。
「飲み物、紅茶でいいかな?」
「はい」
昨日置いてもらった魔道具に魔力を送り、持ってきてもらう。もし紅茶以外だとしても、用意は出来た。
「1つ提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
魔道具をテーブルに置くくらいにそう言われた。提案か、紅茶が来るまで時間があるしそれを断る理由もない。話の内容には断るかもしれないけど。本格的に話すのは出来れば紅茶が来てからの方がいい。使用人に聞かれるのは避けたいし。
「提案って?」
「お互い普段通りにお話ししませんか? いつまでもこの話し方という訳にもいきませんし、それなら今の内に変えた方が良いかと思いまして。いかがでしょうか?」
それもそうだな、仮に結婚した後もこの気を使った喋り方はやりたくない。それならいっそ最初からの方がいい、お互いその方が仲良くなれるかもしれないし。
「分かった、ならやめる」
「感謝いたします」
ふぅ、やっぱり普段の喋り方は気が楽だ。間違えてないかとか考えて少し喋る時に緊張するし。
「お待たせしました、紅茶です」
いつの間にかメイドが持ってきてくれていた。タイヤが付いていないとはいえ気付かないものだな。色々と準備してくれた後メイドは去っていった。お互い紅茶に手を付け、つかの間の休息を得る。
「まず、フレイルさんに聞いておきたい事があります」
彼女はいたって真面目な表情で目線は俺の顔をしっかりと捉えていた。カップを置き彼女の言葉を待つ。
「この婚約、どの様に考えていますか?」
「どの様に、どこまで本気かって事?」
「その認識で間違いありません」
ふむ、正直顔を見た時から断わる選択肢なんてなくなったけど。もう少しだけ話を聞いておこう。大切な話ではあるし。
「今の所、私に不満はありません」
「ないの?」
「あるなら来ていません」
そういうものか、あの魔王も嫌だと言われて無理矢理連れて行く感じには見えないし。少なくともこれで婚約がなくなる事はなさそうだ。
「もし不満があるのならば私の方から伝えます。その、なのであるのならば──」
「ないよ」
所作には見せなかったが、声が少しだけ震えている。これ以上彼女から話させるのは良くないと思い、途中で遮った。
「これからよろしく、ティナ」
「はい、よろしくお願いします」
これで成立、かな。この後、戻る様にメイドから言われるまで、時間を忘れたかの様に会話を続けた。
「──と、いう事になりました」
言われた通り執務室まで出向き、今は成果の報告? をしていた。隠す訳にもいかないのでちゃんと話はした。したんだけど──
「ほーら、絶対くっつくって言ったじゃん」
「俺は絶対は言い過ぎだってだけだ。くっつかないとは思ってねぇよ」
「ふっ、負け惜しみはやめなよ」
「は?」
「やめろ、2人共」
「チッ」
「そうだそうだっ!」
「イア」
「……はーい」
一体何を見せられているんだ、俺は。これに対してどういう感情を持てばいいのか、いや無視でいいか。ティナも似たようなもので、愛想笑いしかしていなかった。
「じゃあ一週間、頼むぞ」
「うん、頼まれたっ!」
「まっ、仲良くなれよ」
その言葉と共に彼女の肩に手を乗せる。聞いていた感じ、一週間こっちに泊まらせるって事なんだろう……お母様、本当に何も言ってなかったんだな。
「言われなくてももう仲良しですから。ですよね、フレイル様」
「そうだね、ティナ」
「ほぅ……成程成程、それなら安心だ。じゃあな」
なにか含みを持たせた言い方で……名前何だっけ? お母様がステちゃんって呼んでたから、まぁいいか。後でティナに聞けば分かるだろう。
「心配、いらなさそうだぞ」
「うん、初孫いつかな」
「お母様、そういうのはやめてください。ティナも……?」
彼女の顔が下を向いていた。ただそこからでも分かるくらいには顔が赤くなっている。この手の話題は苦手なのかもしれない。
「そう? でもその勢いだと90年後には見せてくれるでしょ」
「90?」
見せれはするけど……寿命とか、いや魔族だしそこら辺の問題はないのかも。そもそもお母様って今何歳なんだ? お父様もだけど。見た目だけじゃ分からないんだよな、魔族って。少なくとも100年は生きられると思う、そうでなければ90とか言わないし。
「それは、まぁ、運が良ければ、そのくらいには」
「でしょ? 私だって102歳で産んだんだから、はぁ、楽しみだなぁ……」
お母様、今107歳って事だよね。それを考えると魔族は大体100歳くらいから子供が出来るって事かな? 遅いな、いくら長命だとしても100はないだろう100は。
「にしては、呼び方が釣り合っていないが」
「そうだねぇ。アスティナちゃん、旦那様じゃないの?」
「っ!?」
「流石に早くないですか、初めて会ったばかりなんですから」
「フレイルはもう呼んでるじゃん」
「……?」
「あっ、もしかして、勢いでやっちゃったパターン?」
勢いよく彼女は翼で顔を隠した。そしてそのまま座り込んでしまう。いや、それより──
「あるある、学校の子でそういう子いたよ」
「……」
「平気平気、これで破局でもしたら大惨事だけどそんな事ないんだから」
今にでも死にそうなか細い声で彼女はそう答えた。今からでも、いや逆に恥をかかせるなそれは。その後、今日中にティナが俺に話しかける事はなかった。
12話 気付き
アスティナ「お母様は、とてもやさしいんです」
フレイル(やっぱり、可愛いな)
フ(仕草も、声も、当然見た目も)
フ(……ん?)
フ(俺って、前世含めたら、多分いい歳だよな)
フ(まさか──)
フ(ロリコン?)




