11話 悪魔族、身の振り方を考える
昨日忘れてた分、今日はあと5話分
次回投稿予定時刻:10:30ごろ
夜明け頃俺の目は覚めた。いつもならまだ寝ている時間だが明日を考えるとそうも言っていられない。婚約者との面会、その準備をしなくてはならないのだ。
眠気と戦いながらも俺はメイリアを呼ぶ。枕元にあった鐘を鳴らし来るまでの少しの間目を瞑っている事にする。この時間屋敷にいる使用人はメイリアだけ。もう少し時間が経てば別の使用人も来るが早朝だとメイリア以外はまず来ない。しばらくするとノックの音がしたので返事をする。
「おはようございます、フレイル様」
「おはよう、持ってきてくれた?」
「はい、お食事の時に持って参りますね」
「うん」
寝る前偶然メイリアと会えたので、ベルフェに関する本を持ってくる様に頼んでいた。朝からという訳にもいかないのでその間に勉強する為の物だ。着替えさせてもらった後すぐに朝食を持ってきてもらった。早く勉強したいしゆっくりはしていられないからね。
「では、ごゆっくり」
メイリアは本を持ってくる為に一度下がっていった。そしてすぐに戻ってくる、置いていた場所が近かったのだろう。
「持って参りました、こちらを読めば大体の事は知れるかと」
「ありがとう、そこに置いておいて」
「かしこまりました」
本を読みたいという気持ちを抑えながらゆっくりと食事を口に運んでいく。食べ終わった頃にはお父様が食堂にやってきていた。
「お父様、おはようございます」
「おはよう、早いな」
「明日は婚約者の方が来るので、勉強をしようと思いまして」
「そうか、そうだったな」
それを最後にお父様は喋らなくなった。いまだにお父様との距離は測りかねないな。食事場から自分の部屋に戻って早速本を開いてみた。取り敢えず1回読んでみて分からなかった所は後でメイリアに聞いてみよう。
「失礼致します」
どれくらい読んでいただろうか。メイリアの声で本を読んでいた集中力が途切れる。彼女を部屋に入れ本を閉じた。大体半分って所だけど残りは後で読めばいいか。
「早速お願いね」
「お任せください、と言ってもあまり教える事としては少なくはありますが」
「そうなの?」
「はい、パートナーといる時のマナーくらいですので後は一人称は私にするくらいかと」
「そっか」
少しだけ不安だった気持ちが解消された。基本普段通りにしていればいいって事だし。
「では、始めましょうか」
「お疲れ様でした」
あれから2時間と少し経ちなんとか身につける事が出来た。1時間じゃ絶対足りなかったな、甘えておいてよかったよ。
「他にも何かお教えいたしましょうか?」
「うーん……」
一応、なくはない。ただ少しだけ恥ずかしい、いや聞いておこう。折角時間を作ってくれたんだ、なるべく使った方がいい。
「じゃあ、さ」
「はい」
「俺に好感を持ってもらえるかな?」
顔はかっこいいよりだ、間違いない。ただそれは相手もだろう。お母様の話だと可愛いらしいし。それに俺自身あんまり綺麗な人が近くにいても特に心が動かなかったのも引っかかる。
正直お母様以外は大体似た様な綺麗さだと思う。お母様の子供だし顔はいいとは思うんだけどね。そんな悩みを持つ俺に彼女は両肩に手を置いてきた。そして真剣な顔をしながら話し始める。
「いいですか」
「う、うん」
「あくまで、あくまで一般論ですが魔族の男性は魔力量と顔で9割決まります」
「……そうなの?」
「はい、ですのでフレイル様レベルだとまず間違いなく女性側が好きになります」
そこまで言われると悪い気はしないな。それならこの問題はそこまで考えなくてもよさそうだ。
「普通はという言葉はついてしまいますが」
「じゃあ普通じゃない時は?」
「今回のような場合、つまりはアスティナ様の事ですね」
おっと、雲行きが怪しくなってきたな。一筋縄ではいかない、そういう相手なのだろう。
「好みの顔じゃないから、とか?」
「いえ、単純にお近くにフレイル様並の方がいらっしゃるだけです」
同じレベルの顔を見慣れているからそう簡単な相手ではないってことか。だろうな、日常的にあるものが強い刺激を与えられるとは思えない。
「誰なの、それ」
「ベルフェの次期魔王と目されるアスティナ様の兄にあたる方です」
次期魔王、ちょっとだけ嬉しいな。そんな人と並べるくらいのものがあるっていうのは。
「つまり、アスティナ様は手をつなぐくらいでは動揺はしないでしょう」
「いや、別に動揺させるつもりは──」
「押し倒せば落とせるとは思いますよ」
「……何言ってんの?」
「ご安心ください、特に問題はございませんから」
問題ありまくりだと思うんだけど、それは。大体初対面でそんなことする奴を相手にするとは思えない。
「とにかく、そこまで心配なさらなくても平気、という事は覚えておいてください」
「うーん」
「奥様も平気だと、おっしゃっていたではありませんか」
「それは親だからでしょ」
テンションが高い時は大体大げさなのがお母様だ、いちいち鵜呑みにしていられない。少しくらい自重をしてほしいとは思わなくもないけどそれが良い所だしね。
「いいえ、決して嘘ではございません」
「……分かったよ、信じる」
まっすぐな目で見られたら納得せざるを得ない。メイリアが変な嘘をつくとは思えないし信じられる。
「とはいえ、緊張しすぎるのは良くないですね」
「うっ、それは、だって、ほら……」
「そのままではお相手をいたずらに不安にさせてしまうだけですから」
それもそうか、相手も多少なりとも不安ではある筈だし。一応来るのはあっちだし俺がリードしないと、だよね。引っ張る側が不安じゃ引っ張られる側も不安になる。まったくしないのは厳しいから出来るだけ落ち着いて行動しよう。
「善処するよ」
「よろしくお願いしますね」
「それとさ、相手の顔とか分かる?」
正直それが一番気になる、可愛いのはなんとなく分かるんだけど。お見合いっぽいし顔が分かるものがないのはまずあり得ないだろう。
「それは、奥様に緘口令を敷かれておりますゆえ、お答えできません」
「あー、そういえばそんな事やりそうな人だった」
「ただそうですね、許される範囲で感想を申し上げますと、きっとお気に召されるお方だと思いますよ」
要は当日までのお楽しみというやつだ。お見合いで当日顔を見るってあんまりないと思うんだけど……成功するといいんだけどなぁ。失敗してお母様に迷惑をかける事だけは避けたい。ここで3時間が経った。その証拠に耳慣れた鐘の音が聞こえてくる。丁度その時間になるのは来た時間から分かっていた。
「時間ですね、お食事はどうなさいますか?」
「城の方で食べるよ、その後図書室に行きたいし」
「かしこまりました、ではその様にお伝えしておきます」
読みかけの本を持ちメイリアに案内されながら城の方に向かう。歩いて行くのは初めてだったので少しだけ楽しかった。屋敷と城が繋がっているのは初めて知ったけど。
「では、失礼いたします」
メイリアが下がり1人でご飯を食べていた。流石にメイドは控えているが、知らない人だし、1人と言ってもいい筈。この子はメイリアの代わりが来るまでのつなぎだこう見ると見た目で年齢が分からないもんだな、魔族って。お母様があれな時点で見た目が役に立たないのは知っていたけど、ここまでとは。
「あの、どうかなされましたか?」
「ん、いや別に──」
少し、試してみようかな。俺の顔と魔力がどれだけ相手に通用するのか。
「ちょっと実験に付き合ってほしいんだけど、いいかな?」
「はい、よろこんで」
よかった、了承──いや断る訳ないか、一応部下だし。内容次第では嫌がられるかもしれないけど、いやこれは嫌がられる内容だな。ただ口にした以上今からやっぱなし、はやめた方がいい。
「明日、婚約者が来るのは知ってる?」
「はい、うわさ程度ではありますが知っております」
「で、今明日の為に練習をしてるんだ。その相手をしてほしいんだけど、いいかな?」
「私でよければ、好きなだけお付き合いいたします」
「そう、よかった」
「それでは、一体どの様な──」
俺はメイリアに昨日した事と全く同じことをした。後は少しいい感じの言葉を──あれ?
「あの、メイドさん?」
気絶している、手を繋いだだけで。どうしよう、これじゃあまるで俺が悪く見えるな。いきなり手を握るのが配慮に欠けた行動なのは認める。けどこういうのはいきなりやらないと効果が薄まってしまう。それは俺の求める結果とは異なってしまうしね。
「失礼します、引き継ぎに──フレイル様?」
「よかった、ちょっとこっちに来て?」
引き継ぎに来たワラに声をかけて助けを求める。事情を全て話した後彼女に大きなため息を吐かれてしまった。
「何故この様な事を?」
「どれくらいの距離感で接すればいいか試そうと思って」
実際にこれを相手にやるつもりはない、色々やってどうするか確認する為の基準を作りたかっただけだ。メイリアは照れていただけだったので問題ないと思ったんだけど……
「やってはいけないと理解出来ましたか?」
「でもメイリアはこう──」
「あの人は魔王様に心酔しているから耐えられただけです」
心酔? 普段の様子から見てそんな風には一切見えない。大体心酔しているなら叱るなんてことしないのでは?
「で、どうするのこの子?」
「叩き起こします」
頬を叩く音が部屋中に広がる。その強さが分かるくらい頬が赤くなっていた。心底驚いたのだが、その赤い跡はすぐに消えてしまい彼女は飛び起きる。
「はっ!?」
「起きましたか」
「はい」
「今回の事は内密に、いいですね?」
「承知いたしました」
俺の方に向き、謝ろうとしたのだろう。しかし顔が一気に赤くなりとても恥ずかしそうに俺の方から目線を離した。ここは待とう、俺から声をかけると都合が悪い筈。
「そ、その、申し訳ございません。お相手が出来ずに気絶してしまい……」
「うん、こっちもごめんね。ちょっと軽率だったよ」
とりあえず彼女は部屋から退出させた。引き継ぎが出来た以上ここにいる必要もないからだ。
「殿下、明日はエスコート以外での接触は禁じてください」
「分かってるよ」
流石に気絶されるのは困るし、やるつもりはない。気絶はしないと思う、相手が相手だし。だとしても不要な事は避けておくのがベストだ。
「彼女に影響がないといいのですが」
「影響って、そんなに?」
「こういう事をされると理想が高くなりがちになるので」
どうやらあの行動は結構迷惑な事だったみたいだ。悪い事しちゃったかな、俺。
「仮にもし俺が責任、は取れないもんね」
「取れはします、あちら側から辞退してしまうとは思いますが」
「一夫一妻制じゃないの?」
「魔族は基本多夫多妻制でございます」
ならなんでお母様1人なのだろうか。考えられるのはお母様の影響力が強いから。お父様も増やそうとは思えないのかもしれない。
「殿下の周りですと、あまりいないので馴染みはないかと思いますが」
「やっぱり?」
「えぇ、この国ですと貴族達が一番割合としては多いかと」
貴族か……関わりないんだよな。大体暗黒衆の親戚とか、そんな人ばっかだし。
「話って聞けないかな?」
「従者は暗黒衆で固めておりますゆえ、難しいかと」
固めている、って事は意図的に貴族側の人間を省いているって事かな……これって──
「派閥争いとかある?」
「えぇ、ございます。魔王派、貴族派、中立派の3つが」
あるもんなんだな、派閥争いって。いつか俺も派閥を引っ張っていく必要が出てくる筈。それは面倒なんだよな。
「……何の話してたっけ?」
「多夫多妻制の話でしたね」
そうだった、いつの間にか話が横にそれていた様だ。派閥も気になるけど今はそんな事を言っていられない。
「お母様は1人しかいないよね」
「魔王様の場合は魔王様優位で結婚をなさったのでお相手はカムイ様のみ。一夫一妻になります」
何となく分かった気がする、多分魔族的な考え方だ。強い奴が正義なんだから強い奴が求めれば形は変わっていく。そういうやつだろう、これは。
「それで辞退って? 別に問題はないんでしょ?」
「問題はありません。ただ暗黙の了解があるのでそれを考えると辞退するかと」
「具体的には?」
「互いの最初のパートナーと比べた時の差、簡単に言えばスペックの差です」
差か。現状俺の場合はアスティナさんになるのかな? ベルフェの第一王女と同格くらいは求められるのか……対してあの子は一介の従者、とてもじゃないがそうとは言えない。
「正妻であればなんとか体裁を保てなくはないのですが」
「分かった、ありがとう」
11話 Q.旦那を増やそうとしたことはありますか?
B「ないない、カムイだけで充分」
S「リバートが浮気したら考えなくもない」
M「あの、そもそも結婚していませんよ?」
リバート「あ?」




