10話 悪魔族、王を志す
次回投稿予定時間:20:30分ごろ
「えー、んじゃまぁ魔王の座を賭けた試合なんだが──」
「今日は私が一斉に相手してあげる、ほら準備して」
「だそうだ、文句ある奴は?」
全員特に不満はなさそうだ。うーん、でもなぁ……
「どうされましたか?」
「勝てるの?」
「不可能かと」
だよなぁ、この人達がお母様相手に勝てる訳がない。まず魔力が少ない、メイリアより少ないんじゃないか? 魔力だけで決め付けるのはあれだがお母様に傷一つ付けられないのではないだろうか。
確実にお母様が俺に格好いい所を見せたくてこの場を作ったに違いない。ただこの戦い自体は前々からあるんだろうな、魔族だし。
「じゃあ、始め「よし終わった!」!、速ぇよ」
「こうなるのは分かってたでしょ?」
「そりゃ、まぁな」
試合とは言えない何かが終わった。何をされたのかは不明だが相手は完全に伸びている。これをわざわざ見せたかったのか? 別に見せなくても強いのは元から知っているし……
「じゃあ、行こっか?」
「どこ──うわっ!」
「日が変わるまでには帰るから!」
「あーあ、行っちまった」
「護衛、はもう遅いでしょう」
「追い付ける訳ねぇからな、いくら殿下を抱えているとはいえ」
「平気だと思いますけどね、殺しても死なないお方ですから」
「そうだな、はぁ……昔は護衛なしじゃ絶対外に出なかったってのに」
「お母様、ここは?」
「ここはね、村だよ」
それは見れば分かる。広大な農地に何軒かまばらに建っている家、これだけで察しはつく。
「名前とか……」
「さぁ? そこまで覚えてられないないし」
覚える時間がないのかな? 忙しいのは事実だし。いやでもならどうしてここに? 名前も分からないのに、目的地まで行けるのか?
「でも集落の位置は覚えてるからどこに行くか決まってれば後は行くだけなんだ」
そういう覚え方か、理には叶っている、のかな? まずこの国の大きさを知らない事にはなんとも。
「よーし、さっさとお仕事終わらせちゃうよ!」
そこからのお母様は怒涛の勢いで仕事を終わらせにいった。岩を消したり土砂をどかしたり、強そうな魔物を退治したり。いろんな場所に行ったので沢山の景色が見れる。それと助けたお礼として色々と貰ってしまった。食品類や工芸品、似顔絵とかもあったかな。皆、お母様を邪険に扱う事はなかった。でも──
「お母様」
「ん?」
「皆、嬉しくないのかな?」
誰も感謝の気持ちを伝える人はいなかった。申し訳ない、どうすればいいのか分からない、そういった心持ちで物を渡されたと思っている。
「嬉しいとは思うよ? 慣れてないだけで」
「慣れてない?」
「何があっても自分のせい、他人は助けないっていうのが当たり前。むしろ私はおかしい部類だと思うよ?」
心なしか力無く笑っている様に見えてしまった。せめて、俺だけでも──
「お──」
「でもね、分かるんだ、その気持ち。私も昔はそうだったから」
「?」
「私って小さい頃から強かったからさ、酷かったんだよ? 私の態度」
昔を懐かしむ様な顔をされ何も言えなかった。俺が慰めてもいいのかと少しだけ考えてしまう。
「でもね、カムイと結婚してフレイル達が生まれてね、皆を守りたいって思える様になったんだ」
前進するのをやめ俺を抱え直す。その場で止まるのは難しいのか羽ばたく速度が上がる。
「それでね、私にとって国は体の一部なんだし国民も守るよね! ってなって今のママがあるんだ」
「結局そうなっちゃうんだ」
「きっかけはね、今は皆を助けたいって気持ちの方が強いから」
いつもされる様に強く抱かれた。やっぱりそれはどこか安心出来る、不思議な暖かさだった。
「ありがとう、フレイル」
「……何もしてないよ?」
「ううん、フレイルが元気なだけでママは元気が出るんだよ?」
その場に留まるのをやめ前に進み始める。少しだけ、止まる前よりも速度が上がった気がした。
「この前フレイルが寝込んじゃった時、ママはね、調子がどうしても出なかったの。でも今はもうこんなに元気なんだよ?」
「俺が元気だから?」
「うんっ!」
お気に召したのか一気に加速した。ちょっと気持ち悪くなってきたけど言わないでおこう。
「出来ればね、これから毎日笑顔でいてほしいの! 悪い奴らはママが全員やっつけちゃうからさ」
「うん、お母様が喜ぶならなんでもするよ?」
「やったぁ! じゃあママって──」
「それはヤダ」
「そんなぁ〜……」
そんな話をしている内に家の近くまで戻ってきた。若干暗いがまだ日没といった雰囲気はしない。
「ふふんっ、フレイル、ちゃんと掴まっててね?」
「ん? ちゃんと掴まぅわっ!?」
返事を返す前に直角に飛ばれてしまった。本来なら受ける筈の衝撃もほとんど感じない。きっとお母様が魔法でなんとかしているのだろう。そうでなければ今頃、俺の体は吹き飛んでいる。雲ぐらいの高さまで上がった所でピタッと止まってくれた。上空なので寒いかと思っていたが案外そうでもない。
「そろそろ来るから、見ててね?」
「何が──」
来るの、その素朴な質問を聞く必要がなくなった。城下町が一気に光り始めたのだ。正直に言えば、これ自体にあまり心は動かなかった。多分これより多く光っていて綺麗な場所を見た事があるのかもしれない。ただ、ちょっとだけなんだか嬉しいと思った。
「どう? 綺麗でしょ」
「うん」
「ママ、見れる時はこうやって見るんだ。私の頑張りが皆の生活の一部になってるなって気がして」
暫く静かに眺めた後、ゆっくりと家に向かって飛び始める……うん、決めた。そうしよう。
「お母様」
「ん?」
「俺、魔王になりたい」
1日を通して魔王がどんなものか知る事が出来た。まだ正確に知っている訳でもなる為に必要な物とか全然分からないけど──
「最初はね、かっこよさそうって理由だったんだけどね、今日のお母様はキラキラしてたから、なりたいなって」
今の俺にはなりたい理由はそれだけで十分だと思った。これからゆっくりと自分なりの理由を見つけていけばいい。お母様もきっと俺と同じ様にどうなりたいか考えて見つけたんだと思っている。
「じゃあ、ママより強くならないとね?」
「えー」
「さっき見たでしょ? ママが戦ってるところ」
一方的な戦いだったのに誰が戦いたいと思うのだろうか。現状勝てるイメージが湧かない。今までのお母様が本気を出している訳でもないのは明らかだし余計にね。
「ちょっとくらい手加減してくれる?」
「駄目、ママだって本気のカムイに勝って魔王になったんだから」
「お父様と?」
「うん、どっちがなるかね。ママ達お爺様より実力はあったから」
ますます勝てる気がしなくなった。お父様の方が雰囲気的には強そうだったし尚更だ。
「でもそっか、嬉しいなーフレイルがそう言ってくれて」
「そうなの? 別に言わなくても普通はなるんでしょ?」
「そうだけど、やっぱりママとしてはやりたくてやってほしいからさ」
そうなのかな? よく分からないけど。でもなるべくお母様の要望には応えたいな……
「気持ち悪い」
「えっ!?」
やばい、酔った。お母様の飛行は全然揺れないのでそこまで気持ち悪くなる様には感じなかった。でも飛ぶ数がいけなかった、何回も飛んでいる内に許容量を超えたんだと思う。
「もうちょっと我慢出来る?」
「うん……」
家もすぐそこだし耐えられない事はない筈。2、30秒位で着くだろう。その目算通りに到着しすぐに降ろしてもらった。
「フレイル、ちょっと目を閉じててね?」
「うん」
「途中で開けちゃ駄目だよ?」
言われるがまま目を閉じているとスッと酔いが消えた感じがした。まるで最初からなかったかの様だ。
「もういいよ」
「……治った」
「ママの愛の魔法だよっ」
冗談だな、魔力を感じなかったし。一応目を閉じてても魔眼は魔力を感知するくらいには使える。でもじゃあなんで治ったんだろう?
「さっ、早く屋敷に帰ろう」
「お城じゃなくて?」
「うん、もうフレイルもお屋敷で過ごさせてもいいかなって」
それなら屋敷に行きたい。城だと沢山の人がいるから落ち着きにくかったし。屋敷なら知らない人の量も少ないだろう。
「お帰りなさいませ、奥様」
「ひゃっ!?」
「護衛を付けずに一体どこへ?」
「……外回り」
「護衛なしで、フレイル様と?」
予想通りと言っていいか分からないがメイリアがめちゃくちゃ怒っていた。鬼の形相ではないが確実に怒っている顔ではある。
「だって護衛つけたら遅いじゃん!」
「奥様の身に何かあったら困るんです。主に我々が」
「えー知らないよそんなの。どうせ何が起こってもなんともないんだし」
「お一人ならそうでしょうけど、フレイル様を連れていたんですよね?」
「フレイルは絶対守るもんっ、危なくなるなんて事まず起こさせないもんっ」
「……はぁ」
出来そうなのが悪いのかメイリアがため息をついてしまった。ただお説教をやめる気はなさそうだ。これは多分長くなるやつだな。
「メイリア」
「はい、フレイル様。御用でしょうか?」
「取り敢えず入ろう? ちょっと寒くて」
「そうだそうだー」
「それもそうですね、続きは屋敷でも出来ますから」
すんなりと納得してくれた俺には怒こっていないからだろう。
「お優しいですね、フレイル様」
「?」
「奥様の事を気遣って、ですよね?」
「いや──」
「ですよね?」
「はい」
ごめんお母様多分かばいきれないや。今のメイリアに何か言って怒られたくない。
「ですから奥様も私のお話、ちゃんと聞いてくれますよね」
「それは……」
「お母様、ここで逃げたらカッコ悪いな……」
「!!?」
この空気に耐えられなかった多分メイリアにも聞かれるだろうし。なら先に言っておこう。これは決してこの空気から早く抜け出したいから行った訳ではない。
「ですよね、フレイル様。奥様、フレイル様の前で逃げるおつもりではありませんよね」
「……逃げません」
その言葉に満足して少し悪かった空気が良くなった気がする。ファイト、お母様。屋敷に到着するとお母様が何かを思いついたかの様な顔をした。
「あっ、そうだフレイル」
「はい」
「明日は早めに寝る様に、メイリアも気を付けておいて」
「かしこまりました」
明日? 今日じゃなくて? 何かある、にはあるんだろう。じゃなきゃわざわざ言わないだろうし。
「何かあるんですか?」
「うん、明後日はフレイルの婚約者が来る日だからね」
婚約者か、まぁいるとは思っていた。王族かつ皇太子? だしね、逆にいなかったら──ん?
「明後日!?」
「そうだよ、明後日」
俺は絶句していた、こんな大事な情報を今まで言っていなかったお母様に。別に来る事に驚いている訳ではない。明後日、つまり実質1日で俺は婚約者の相手をする準備をしなくてはならないのだ。一応5歳だ、拙さがあっても仕方がない部分はある。が、何も知らない俺は論外だ。相手のプロフィールも把握しなければいけないのに礼儀作法も頭に叩き込まなければならない。出来るのか? いや、出来なければ不甲斐ない結果が残るだけ。俺に頑張る以外の道は残されていない、という事だ。
「もっと早く言ってよっ!」
「だって今日決まったし」
「礼儀作法とか知らないんだよ? 今からやって間に合うの?」
「平気平気、なんとかなるから」
「なんとかならないから怒ってるのっ!もうお母様なんかしらない!」
「ぐはっ……」
生気を失ったお母様を無視して俺はメイリアに助けを求める。というか今の状況下では彼女以外に頼めない。
「メイリア、明日空いてる?」
「申し訳ございません、明日は──」
「お願いっ!」
断られる流れだったのでメイリアの右手を掴んだ。断られたら終わる、明日は婚約者を迎える為に忙しくなるんだろうけどこれだけは譲れない。
「あの、フレイル様?」
「俺にはメイリアしかいないの、だから見捨てないで」
「……奥様なら──」
「しばらくお母様と話したくない」
今話しかけたら調子に乗りそうだし。それはムカつくしね。
「……いっ、1時間ほどでよろしければ、なんとか」
「3時間」
「それは、難しいかと」
「駄目?」
よく分からないけどメイリアが照れている。なので少し強引におねだりをする事にした。両手で手を持って、なるべく顔を近付ける。
「承知、いたしました」
「やったっ! 午前の方がいいよね?」
「はい」
「うん、じゃあメイリアの来れる時間で来てね」
「かしこまりました……」
これで多少は気が晴れる。午後は図書室とかで勉強すればいいし。なんとか付け焼き刃くらいにはなりそうだ。
「あっ、そういえば婚約者って誰なの?」
「それは奥様に」
「やだ」
「これ以上は奥様の機嫌が明後日までに戻りませんよ?」
「……」
それは困る、この国の代表がこんな姿なのは恥ずかしい……触らせなきゃ、いいかな。
「お母様、相手は?」
「!? 相手はね、アスティナちゃんっていう子でね、ベルフェのお姫様だよ!」
「そう」
同じ王族ね、多分これ前々から決まっていたやつだな。王族の婚約がそう簡単に決まるわけがない。本決定したのが今日ってだけだ。俺を驚かせるためだけに今日まで秘密にしていたに違いない。
「とっても可愛い子だから、楽しみにしててね」
「うん、メイリア」
「はい」
「しっかり叱っておいて」
「え"っ!?」
「かしこまりました」
10話 ダル絡み
ベルライヤ『どうしよう、フレイルに嫌われちゃった』
ステイム「そらそうだろ」
べ『カムイと同じ事言わないでよ〜』
ス「っはぁ、じゃあ明後日連れてくからな」
ス「……あぁなるとベルは面倒だな、ったく」
ス「ん?」
べ「ステちゃんっ〜」
ス「うわっ」




