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9話 悪魔族、臣下と交流する

次回投稿予定時間:17:30

「おぉ……」


いくつか階段を降り図書室に入った。そこには棚がいくつもあるのだがそれくらいで驚いているわけではない。壁に立てかけてある本棚、それが遠くに見える天井に届く勢いで置いてあったからだ。


そもそも天井が小さく見えている時点で相当な高さがあると言っていい。というかそもそもこんな高さが城の中に入るのか? ここまで下がった感じはないんだけどな……


「広いね」


「部屋を魔法で拡張しているからね、実際はもっと狭いよ」


だからかじゃないとこれは説明付かないしな。ただこれって翼の無い魔族はどうやって上の方の本を取るんだろうか? ジャンプは……まぁ届きはするんだろうけど本が取りにくいだろうし。


「上にある本はどうやってとるの?」


「?、普通に飛べば取れるよ」


「いや、飛べない人はどうするのかなって」


「ここは悪魔族の城だよ、配慮する必要なんてないよ」


魔族ってそういう種族だったな、聞いた俺が馬鹿だった。ただ逆に言えば翼の無い魔族の魔王の城にはある魔族の配慮は無いわけだ。


それが良いのか悪いのかは分からないけど少なくともある側が無い側の城に行っても不便はしなさそう。だって飛ばなければいいだけだし、何も変わらない筈だ。


「じゃあボクは先に残っている書類を片付けるから」


サネクトさんは着いて早々、仕事に戻ってしまった。遠くから見た感じ、あまり残ってはいなさそうだ。


「奥の方に机がございますので、まずはそちらに参りましょう」


「そうだね」


メイリアに先導され本棚の間を通っていく。ふと上の方を見上げると棚に置いてある本のジャンルが書いてあった。魔法学、魔法学、魔法学、魔法学、歴史学と続いている。やっぱり魔法関連は多いな、俺もいつか読むんだろうか。


「やばっ!」


前から声が聞こえたので視線を元に戻すと目の前の角から女性が出てきた。ぶつかる直前だったので、反射的に目を瞑る。勢い余ってぶつかってしまい、尻餅を──ん? 衝撃がなかった、本来人とぶつかった時に受ける衝撃が。


「ごめんね〜、びっくりしたよね?」


その女性の声が聞こえたので困惑しながらも目を開けるとこちらに戻ってくるメイリア以外誰もいなかった。じゃあ今のは? あの声は一体……


「もう少し気を配ってください、イシュレ様」


「いやぁまさか後ろに人がいるなんて思わなかったからさ、許してっ?」


後ろから先程の声が聞こえたので振り返ってみると先程の女性がいた。ただそれと同時に彼女が半透明である事にも気付いてしまう。


「……お化け?」


「そうそう! 私はイシュレって言うんだ、よろしく殿下!」


手を差し出されたので一応握手を試みる。その手は空気を掴む様に通り抜けて、とはならず普通に握手が出来てしまった。


「あっ、そうだ、どうしてここに? 殿下を連れてくる所でも無いと思うんだけど」


(「そんな事はないと思) (うけど?」)


「あはは、聞かれてたか……」


地獄耳というべきか、サネクトさんに聞かれていた様だ。そんなに遠くはないから普通に聞こえていた可能性もなくはない。


「その、殿下。そろそろ離してくれるとお姉さん嬉しいなって思うんだけど」


「あっ、ごめんなさい」


謎すぎてどうやら無意識に手を離していなかった様だ。幽霊、なんだよね、本当に。


「生前はどんな魔族だったんですか?」


「いや、人間だけど」


「……人魔族、って事?」


「普通の人間だよ」


成程ね、なんでいるの? 一応魔族の、というか魔王の城だよ? ここ。いくら幽霊とはいえ人間っていていいのか?


「イシュレ様は暗黒衆幹部ですので」


「偉いから、いられるって事?」


「それなら良かったんだけどね〜」


まったく意味が分からなくなってきた。それならって、もう少し良くない理由でいるって事になるけど。


「イシュレ様は、その、この部屋で死んでおりまして……」


「机の角にゴンって頭ぶつけちゃってね。それで地縛霊なんて笑っちゃうよね〜」


彼女はケラケラと笑っていたが反応に困る。愛想笑い以外に出来る事はなかった。


「あれ? 何の話をしてたんだっけ?」


「何故こちらに殿下がいらしているのか、という話だったかと」


「それそれ! どうして来たの?」


「サネクト様に招かれまして、それでしばらくはこちらに」


「やっぱり、殿下が進んで来る場所じゃないもんね!」


それは俺にも若干失礼なんじゃないだろうか。気にしないから別に良いけどさ。


「言い過ぎ」


「わっ!?」


「自己紹介は終わり、ほら行くよ」


流石に見過ごせなかったのかサネクトさんも近くに来ていた。そのまま首根っこを掴みイシュレさんを連れていこうとする。


「ちょっ、離してよ!」


「仕事、まだ残ってるでしょ?」


「いいじゃんっ! ちょっとくらい!」


抵抗虚しくイシュレさんは連れてかれてしまった。幽霊だから逃げれそうではあるけどやっぱ幹部はそういうの関係ないのかな?


「……参りましょうか」


「そうだね」


奥まで進んでいくと大きな机がいくつか並んでいた。メイリアは俺を誘導し椅子に座わらせ子供用の本を取りに行く。


案外それはすぐ近くに存在していた。ここから本を選んでいるのが分かるくらいには近くにある。数冊選んだ彼女はすぐに戻ってきた。


「では本日も引き続き、言葉の勉強をしましょう」


「うん」


渡された本から一冊選びそれを音読していく。間違えたり分からなかったりしたらメイリアが教えてくれる仕組みだ。これをやってすぐに覚えられるのだから子供の脳は柔らかい。元から話す事だけは出来ていたのでそれも影響はしているとは思うんだけどね。


「赤い小鳥と青い小鳥は……メイリア、これは?」


「そちらは喧嘩と読みます」


この物語も他の物もそうなのだがとにかく物騒な事柄が起きやすい。大体言い争いはあるし戦争なんて珍しくはない。まぁ今回はただの喧嘩で済みそうではあるけど。


「座って、メイリア」


「いえ、そういう訳には──」


「いいから、早く」


「かしこまりました」


正直ずっと後ろに立たれていると集中出来ない。なんか可哀想だしこういう時くらい休んでほしいし。そのままいくつか読み進めていると後ろから声をかけられた。


「よく読めてるじゃないか」


「サネクト様、どうかなさいましたか?」


「魔王様に時間になったらここに来るように、と伝えるのを忘れててね。今思い出したから伝えに来たのさ。時間には余裕があるから心配しないでくれ」


手渡されたのはお母様の字が書かれている1枚のメモ用紙。読んでみるとどうやら第二訓練場に来てほしい様だ。


「ありがとうございます、サネクト様」


「ボクはすべき事をしたまでさ、本はイシュレに片付けさせておくから」


「酷くないっ!?」


「魔王様の所へ参りましょうか」


「えっ? あぁ……うん」


2人の言い合いを聞き終える前に、俺達は図書館を後にした。




「そういえば、第二訓練場? ってどこにあるの」


「地下1階にございますね」


俺は歩いている途中でどこにあるのかを聞いていた。地下か、そっちは考えてはいなかったな。精々外にあるのかなと思っていたし。地下まで含めると、この城は相当広い部類なのだろう。気になるのは耐久性だけど……スマホすら作れる文明に心配する事はないか。


「あっ!? メイリアさん!」


進行方向から息を荒げたメイドが1人走ってくる。そのメイドは呼吸を整えた後、メイリアに耳打ちをした。


「……そうですか、困りましたね」


「はい、ですので直接指揮を取って欲しかったのですけれど……」


「流石にフレイル様をお一人にする訳にはいきませんからね」


ここで行っていいよ、とは間違ってもいえない。それで俺の体に何かあったら2人のせいになるだろうし、何よりそもそも道が分からないし。1番丸いのは俺を送り届けてからそちらに行く事だろう。


「私が引き継ぎましょうか?」


「あら、ウーカスさん」


いつの間にか後ろにウーカスが立っていた。たまたま通りがかったのだろう、色々と荷物を持っている。


「先に部屋へ荷物を置きに行かせてもらえれば引き継げるかと」


「そうですね、そうしましょうか」


「でしたら私もお供いたします」


今度はワラが先程向いていた方向に立っていた……気配を消すのが流行っているのかな、魔族の間で。


「ウーカスさんも呼ばれたらいけませんので、その点私なら問題ないかと」


「そうしましょう。ではワラさん、ウーカスさん、殿下をよろしくお願いいたします」


そう言ってメイリアはメイドが案内する方向に走っていってしまった。


「では先に荷物を置きに行かせていただきますね、殿下」


「うん、行こう」


2人に連れられ歩いているとすぐに止まってしまった。あっ、そういえば目的地を言っていなかったな。行先も分からないのに歩ける訳がない。


「では少しお待ちください」


「えっ?」


「私が開けますね」


「ありがとうございます」


すぐそばにあったドアを開けその中に荷物を運んでいく。ここだったのか……てっきり場所が分からないから止まったんだと思ってしまった。チラッと中を覗いたが一瞬だったので精々花が何輪か咲いていたという事しか分からない。赤と青と緑だったかな、色は。流石に品種までは分からなかったけど。


「お待たせいたしました」


「花、好きなの?」


「……あぁ、あれは毎年送られてくる種を植えてるだけですよ」


そんなものか、わざわざ育ててるから好きだと思ったんだけどな。多分実家とかから送られてきている筈だ。


「確かユリでしたよね」


「はい、せめて品種くらいは毎回変えてほしいんですけどね」


毎年同じは流石に飽きそうだな。せめて二種類を交互にとかやればいいのに。


「絵を描く練習には役立ちますが、それだけですし」


「彫刻もやってましたよね」


「……暇なの?」


「ははは、待つ時間が多いので、つい」


一応執事長、だったよね? あんまり仕事が振られないのかな?


「そういえば殿下、目的地の方は……」


「第二訓練場だって、ほら」


確認してもらう為に持っていたメモを彼女に渡す。執事長も一緒に見てどこに行くかを確認している。


「かしこまりました、では引き続きご案内させていただきます」


メモを返され俺達は歩みを進めていく。階段をいくつか下った後少しだけ肌寒い気がした。


「なんか少し寒いね」


「地下はどうしても寒くなりがちですので、到着し次第すぐに掛け布団をご用意させていただきますね」


「ありがとう」


いつの間にか地下の方に来ていた様だ。それなら頷ける、あまり日がささないし最悪ない場合もある。多少寒くなっていても仕方がないのだろう。魔道具で暖かくするのも維持費が高そうだし。階段を降りる途中、大きな広間が見えた。そこには大勢の兵士が模擬戦? みたいな事をしている。本当に模擬戦なのかな、あれ。


「あれって、模擬戦なの?」


「はい、おっしゃる通りです」


「血とか飛び散ってるけど」


遠目からじゃよく分からないけど、少なくとも血が飛び散っているのは見える。それも遠目で分かるくらいの量だ。大量出血で死亡、とかしないよね?


「あの程度で我々は死にませんので、ご安心ください」


「そう、なんだ」


いや、だとしてもだろ。死ぬ死なないでやっていい次元をこの光景は超えている。ただ止めるのもな、お母様が許しているだろうし。一個人の意見で訓練を中止させるのもどうかと思う。


「よーし、休憩だ! 10分後に再開するぞ」


「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」


そのまま歩き横を通り過ぎようとしたら丁度訓練が休憩に入った様だ。当然俺達が通っているのにも気が付かれた。少し緩み始めていた空気が訓練中の物と同じになりそして一斉に起立する。休憩を邪魔してしまったな、通らなければ休めていただろうに。少しだけ早足で通り過ぎて第一訓練場を後にする。そして当然その奥には第二訓練場がある訳で──


「あっ! やっと来た! フレイル、こっちだよ!」


お母様が大きく手を振っているのが見えた。1人しかいないという訳でもなく知らない人が何人かいるのが見える。リバートもいたので誰も知らない、なんて事はない。


「では、掛け布団の方を持ってまいります」


「うん、お願い」


俺に少し会釈をした瞬間、音もなく消えてしまった……忍者かな? いや身代わりは落ちていないから違うか。謎だけど、メイドにはそういう技術も必要なのかもしれない。


「あれっ? メイリアに頼んでた筈なのに、どうしたの?」


「急務が出来てしまったそうなので、代わりに私が」


「そう、引き継ぎご苦労様」


「掛け布団、お持ちいたしました」


早っ!? まだ1分も経っていないんだけど!? しかも椅子まで用意しているし……まぁとりあえず座っておこう。座らないと彼女に迷惑がかかるかもしれないからね。

9話:生前のおもひで


アリア「走っちゃ駄目だよ、レイシュちゃん」


レイシュ「いいじゃんいいじゃん、こんな所滅多に来れないんだからさ!」


ア「もう、怪我しても知らないよ」


レ「ははっ、そんな大袈裟うわっ」


ア「ほら、言ったのに。大丈夫?」


ア「……レイシュちゃん?」


ア「えっ、レイシュちゃん、レイシュちゃん!」


ア「だっ、誰かぁー!!」

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