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2章 授業と冒険者

朝早くにタスクは布団から這い出す。

三人部屋を二人で使っているので、キーツは離れたベッドを使用している。

暫くベッドの上でぼんやりとしていたが、頭の上に降りて来たカムイに視線だけを向ける。

「オハヨ、カムイ」

「お早う。タスク」

目をこすりながらベッドから降り、制服に着替える。

「今日から授業だっけ」

「そう。基礎魔道書と薬草学、飛行術、後は変身学が必須だからな」

ベッドから降りてキーツが声をかける。

ドロスが起こしたようで枕の上で羽根をつくろっている。

「そうなのか、変身学って何すんの?」

「変身学は基礎だよ。学年が上がると魔道科学になるんだよ」

「魔道科学、あの機関車を動かしていたやつ」

「そうそう、魔力を変化させるための基礎。実のトコは変身学は魔法使いのネタらしいんだけどな」

「ネタ?」

制服に着替えたキーツに訊く。

「魔法使いはネズミを馬車にとか言うから、実際、それが魔道機関の発想力の元だったって話だけど」

「そのような物語があったのう」

頭上でカムイが鳴く。

「まずは朝メシだろ」

「そうだった」

身支度を済ませ、食堂に向かうと新入生は早々に席についているが、先輩の姿はあまりない。

「先輩が居ない」

辺りを見回すが、ベルベットの姿はない。

「まだ早いからな。先輩達はまだなんだろ」

「そうみたいね」

エフィリアスが声をかけてくる。

「エリー、クラン、はよっ」

「お早うございます」

クライディアが挨拶をする。

「メシの時間って、七時からだろ。早いな」

「人の事は言えないじゃない」

六時を回ったぐらいの時間なので、まだ厨房では準備中である。

「ベル先輩が居たら話を聞きたいと思ってた」

キーツの言葉に、エフィリアスもチラチラと辺りを見回す。

「さすがに初日は早いな。無駄に」

食堂に顔を出したのはベルベットだ。制服ではなく普通のスポーツウェア姿だ。

「ベル先輩…その格好?」

「別に制服じゃなきゃいけないって訳じゃねえよ。寮でまでかたいだろ」

「規則では、学院内は制服か運動着…」

「あんなダッサイの着てる奴は居ねえ。まあ、大丈夫だから、動きやすい方がいいぞ」

ベルベットの言葉に全員が頷く。

学院専用運動着は、制服とたいして変わらないローブ姿なので動きにくいのだ。

「アリか、アリなら持ってきてる」

キーツが言うと、全員が密かに頷く。

なんだかんだと制服がダッサイと思っていたらしい。

「ベル先輩、部活っていつから?」

「放課後に西の塔にこい。彼等はそこの客人用のコテージに居るから」

「わかった」

タスクは静かに答える。

「お前、そんなに冒険者が好きなのか?」

「冒頭が好きだ」

タスクの答えにベルベットは瞬き、キーツを見る。

「まあ、タスクだから」

「アジア系は英語が苦手だったりするからか」

「いや、単にボケてるのかも知れない」

「総じて、タスクだからでいいと思うわ」

「そうなのかしら」

好き放題言われているが、本人が気にしてないようでなので、誰一人気にしていない。

「お前等は午前中には終わると思うぜ。俺を待たずに行っても大丈夫だろうから、適当に行ってくれ」

「わかった」

こくんと素直に頷くタスクに、ガシガシと頭をなぜてみた。


新入生のクラスは寮に近い南の塔に色ごとに分かれている。

「階段教室なのね」

エフィリアスは辺りを見回す。

席が決っていないので、前に座るエフィリアスに合わせてかクライディア、キーツ、タスクも横に並びアターシャなども前につく。

「さあ、全員揃っているわね」

セリアが全員を見る。

「改めて、セリア・ナノ。魔法薬学を担当しています。まずは、クラス委員長を決めようと思います」

全員を見回し、セリアはアターシャに目を止める。

「ミス・カスラ、お願いできる?」

「私でいいのでしたら」

アターシャが頷く。

「では、次に四~五人で班を組んでもらいます。まあ、これは部屋ごとでもいいですが、男女混合で組むようにしてください」

「あたし達はいいかしら、アターシャは?」

「タスクと組むと面倒そうだから、エルス、お願いできる?」

後に居る少女に声をかけると、蛇を首に巻いたエルスが頷く。

「俺、面倒い?」

タスクが訊くと全員が頷く。

「じゃ、あたし、クラン、キーツにタスクでいいわね。四班になるみたいね」

すでに前方のボードに班名が書かれている。

全部で五班ができ、セリアが確認していく。

どうやら思った事がボードに記されていたらしい。

「それでは、学院の案内に移ります。箒と、違ったわね…杖、授業用の杖を授与します」

セリアが慌てて大きなケースを出現させる。

「杖抜きですすめるのかと思った」

「初期化されている杖です。何をインストールしたかはわかりますから、危険な魔法式は消させてもらいますよ」

「はい」

全員が返事をするのを確認し、セリアは自分の杖を見せる。生徒と同じ杖なのはわかりやすくするためだろう。

「杖に基礎魔法式をインストールします」

杖を教科書に近付けると、教科書の文字が杖の中に吸い込まれていった。

「はい、簡易式はこのようにインストールできますので、実践をしてください」

セリアの言葉に全員が同じように文字を杖にインストールした。

「教科書の文字はそのままか」

タスクが言うと、キーツはキョトンとするが、タスクは気にしてないようだ。

「専用の教科書は簡単だけど、教科書にない複雑化した魔法式はどう入力するんですか?」

「杖や箒を育て上げるのが魔法使いですが、皆さんはまだ早いですが、三年生になれば専用のモバイルが授与されます」

「これなら市販のモバイルも接続できる」

「ミスタ・オズワルド、何をインストールしたか、わかりますからね」

笑顔で念押しされて、キーツも笑顔で返す。

「ちょっと、キーツ」

「知られるけど、インストールはいいんだろ」

ニヤリと笑う。

「では、教科書の初級魔法式をインストールしていきます。飛行術の教科書もインストールしてから箒に魔法式をインストールするように、杖の発動ワードは初期化した時に白紙なので、自分で決める事も可能です」

「発動ワード?」

「杖を使う時のキーよ。物語で杖を振りながら言葉を使っているでしょ」

「同時にセキュリティでもある。音声認識な。後は動作認識もあるが、そっちは正確さを求められるから止めた方がいい」

「まあ、上位クラスの魔法になると、音声に動作の他にもキー入力なんかも必要になるわね」

アターシャも言いだす。

「その通りですが、あなた達には早いわね」

セリアに止められ、素直に入力作業に戻る。

「箒に魔法式をインストールする時は気をつけて、ワードが設定されるわよ」

セリアの言葉に全員が考えこむ中、タスクはひょいと箒を取り、杖を近付けるとあっさりと言う。

「顕現」

そう言うと、杖から箒に光が移った。

「早いな。お前…無難なトコで、アジャスト」

キーツが適当に言う。

「じゃ、あたしはオーダー」

「それならスタンバイ」

エフィリアスにクライディアも続く。

全員がどこかで聞いたようなキーワードを組み込む。

「はい。終わったのなら、次は校庭に出て、飛行術の初級です。担当教師はカーター先生です」

セリアが言うと、箒と杖を手に出て行く。

「ここに杖をしまえる」

キーツが制服の腰辺りに杖をさせる場所がある事を示すと、全員がそこに杖をはめる。

「飛行術は合同か」

すでに新入生が全員集まっていた。

「遅いですわ。グリーンヴィード」

青のリボンの制服のトルチェリアが言う。

「はい。さっそく始めますよ」

やや疲れた様子でカーター教師は全員を見回す。

「初日は簡単に箒の乗り方を教えます。飛行術を入力しましたね」

言われて全員が返事をする。

「では、箒に股がりキーワードを入力、浮かんでみましょう」

言われて全員が箒に股がり、それぞれが決めたワードを呟き、魔力を込めると箒は浮き上がる。

「おっ、浮いた浮いた」

キーツが数十センチだけ浮き上がる箒を見る。

他にも周囲の生徒も浮き上がる。

「ん?」

「タスク?」

一人だけまったく動かない生徒が居た。

タスクは箒に股がっているだけで、浮き上がる気配さえない。

「センドー、だったな。大丈夫か?」

「タスク、平気か?」

カムイが訊くと、タスクは辺りを見て懐に手をいれようとしつつ、箒にある魔法式用のプレートに手を当てる。

「お前、本当は強いよね。大丈夫、俺はお前を認めているから、大丈夫、飛ぼう」

そう声をかけると、箒が魔力をあげて一気に飛び上がった。

「タスク!」

驚いたのか、クライディアの箒も過剰反応して箒が飛び上がった。

「クランまで」

「ほえ~、お前スゴいね」

遥か遠くに 地面を見ながら、タスクは暢気に箒に話しかける。

「これは危ないのではないのか?」

カムイが言うと、タスクは気にしてないのか、箒をなぜると、ふと下から飛んでくるクライディアに気がついた。

「クラン?」

「ああ、タスク、大丈夫?」

「お前が大丈夫?」

なんとか制御したクライディアがタスクを見て声をかけるが、安定のなさはクライディアの方だ。

「私は大丈夫、タスクは動ける?」

落ち着くと箒を操れるようになったようだ。

「ん~と、あんま大人しくはしてくれなさそう」

しれっと答えるタスクに、困ったようにクライディアは自分の箒を見て首を捻る。

簡単な術式しか入れてないので、タスクを連れて動く事ができない。

「先生がくるまで待った方がいいのかな…」

「大丈夫、風の道がある」

タスクは軽く言うと、懐から小さな木札を取ると、クライディアの死角で小さく振る。

「顕現・風竜」

小さく本当に小さく呟くと、二人の周囲に風が渦巻きだしてゆっくりと箒を降ろし始めた。

「風、風が?」

「機嫌がいいんだろ」

のほほんと答えるタスクが手を差し出すと、クライディアはその手を取る。

「あっ、戻ってきた」

下で声がして見ると、エフィリアス達がこっちを見ている。

カーター先生が箒を手に飛び上がろうとしているところだったらしい。

「大丈夫だったかね。二人とも」

「大丈夫です」

「平気、クランが来たから」

タスクがそう言うと、全員が目を丸くする。

「ランバルトだからな」

「さすが、ランバルトの娘」

グリーンのメンツ以外からそんな声がした。

「タスクだもね」

「タスクに恐怖心はないわ」

これがグリーンの内心である。

「そうか、とりあえず、全員魔力制御で、センドーは少し見学で」

クライディアはともかく、タスクが危険と思ったのかストップがかかり、見学に回された。

「大丈夫、大丈夫だよ。お前はスゴいよ」

タスクは抱え込んだ箒に話しかける。

「俺達と行こう。神の居るトコなら、自由だから」

そう声をかけると、返事でもするかのように小さく震えていた。

「タスクよ。連れて帰るのか?」

カムイに言われて、タスクは当然のように頷く。

「魔法も神の力だからいいだろう」


「お昼、ご飯はドコ?」

一通り授業と学院内の案内を終えて、全員が教室に戻って来ていた。

「普通は学食だろ。寮に戻ってもいいし、買い物に行ってもいいんだと」

キーツが案内書を見る。

すでにクラスメイトは学食や買い物に行くために出て行っている。

「あれ、買い物ってドコ?」

「学院近くに商店街があるわよ」

「あったの?」

高いトコから見ているタスクは首を傾げる。

「あるのよ。正確には魔法で繋げた場所だから、実際には結構遠いけどね」

「昼メシを買って、部活の方に行くか」

キーツが言うと、全員が頷く。

「ホウッ」

クライディアの肩の上でクローリーが鳴く。

「どうしたの?お腹空いたの?」

「使い魔は一日一食でいいはずだけど、クローリーは子供だからかな」

「クランは魔力が強いから、繋げてあげれば空腹はなくなるわよ」

「そうなの?そういえば、カムイはメシ与えているのか?見た事ないけど」

「カムイ、食べているよ」

「儂は、食事は必要ないがのう」

ホウッと鳴くカムイの言葉は誰も理解してないらしいが、タスクは答えたと思ってか、先を歩きだす。

「カムイの声は、誰も聞いてないね」

「仕方あるまいて」

ホウッホウッと鳴くカムイを見る。

「タスク、あなたが先に行ってどうするのよ。場所を知らないのに」

エフィリアスが声を上げると、タスクは立ち止まる。

「商店街、ドコ?」

「生徒は自由に行けるぜ。ドコからでもな」

キーツが制服を叩くと、何もない空間に扉が現れ、キーツはそのままその扉を開けるとその向こうは町になっていた。

「ほら、これが移動魔法のアイテムだ」

制服の胸にある校章を示す。

「さて、何を食べる?」

主な通りには学生向けの店舗が並んでいるらしく、すでに多くの学生が買い物に来ている。

「肉」

近くにある店にある肉の塊に寄って行く。

「あれ、お前…」

店の前に居た普通の格好の少年がタスクを見た。

黒髪にバンダナを縛った少年は、昨日の夜に会った少年だ。

「あっ」

反射的に踵を返したタスクを掴む。

「タスク?」

キーツがタスクと自分とそう変わらないぐらいか、少し背丈がある程度の少年を見る。

「誰、知り合い?」

エフィリアスも少年を訝しげに見る。

学生でもない人物が居る事を警戒しているようだ。

「ゼント?」

別の方からの声に、少年が視線だけで向ける。

「何、ガキを捕まえてるんだ?」

少年とタスクを見て、顔に傷のある少年が呆れ顔で見てくる。

「ん~、人を見るなり逃げるからつい」

逃げないと思っているからか、タスクを離す。

「子供、イジメ、よくない」

どう見ても同じ年ぐらいの少年が背の高い少年と一緒にやってくる。

「えっと、学院の人間じゃないよね」

キーツが制服姿ではない四人を見る。

「まあ違うが、学院で世話になっているだけだ」

「そうなんだ。お兄さん達」

「俺はゼント・ミカグラ。冒険者ってヤツだな」

ゼントが名乗ると、タスク以外は四人を凝視する。

現在学院に居る冒険者は、レダ達のはずだ。

「レダ様?」

エフィリアスはゼント以外の三人の中で、もっとも聖職者のイメージに近い長髪の少年に声をかける。

「そっちはJだ。そっちの目付きの悪い外見詐欺じゃなく、そっちの傷のあるイメージ詐欺の方がレダ・ラーズ、ついでにアーク」

ゼントが示すと、レダは渋い表情を見せる。

顔全面に面倒と書いてある。

「れ…レダ様?」

エフィリアスがレダを見て名を繰り返す。

「誰がイメージ詐欺だ。不確定存在」

レダが意味不明なセリフを吐く。

「この聖職者というイメージからかけ離れた、どちらかというと根性の悪そうな、外見詐欺が常套句なのが、レダ・ラーズ」

「なぜ、お前に念押しされる。J」

レダが不満そうにJを見るが、気にもして居ない。

「なんで、ここに?」

「メシを食いに、食堂とかだと目立つ」

面倒そうに答えるレダの横で、ゼントがタスクを見ているだけだ。

「そりゃ、生徒以外が居れば目立つな」

「だいたい、普通に不審者だよな。冒険者なんて」

「不審者そのものだしな。お前は特に」

「俺が不審者なら、お前は詐欺師だろ」

「詐欺師じゃない。少なくとも司祭なのは本当だ」

レダの物言いにエフィリアスが目を丸くしている。

「エリー、大丈夫?」

クライディアに声をかけられ頷く。

「お前等、俺が学院に居る事を知ってるって事は、部活のモンか?」

「ベルベット先輩に、他の生徒は知らないのか?」

「緑だもんね」

アークが四人のリボンの色を見て言う。

「あのクラブ、基本緑の連中だったな」

ゼントが思いだすように呟く。

「仕方ないだろ。冒険者なんてヤクザな仕事をするエリートの魔法使いがやる訳ない」

「レダ様は、なんで冒険者に?」

「様はいらん。俺は好んで司祭している訳じゃねえからな」

レダの答えに、エフィリアスが目を点にしていた。

「ゼント、腹減った」

「そうだな…どっかに入るか、メシにしたい」

アークの言葉にゼントが辺りを見回す。

「あそこ」

Jが近くの食堂を示すと、全員が移動する。

『ここのメシって、あんま旨くないよな。醤油よこせって感じだ』

メニューを見ていたゼントが聞き慣れない言葉で呟くのを、レダが肘打ちで止める。

「何言っているのかわからんが、余計なコトだろ」

「英語には馴れても、ついな」

無意識に口に出ていたらしい。

「聞き慣れない言語だけど、ゼントさんはアジアの人ですか?」

ゼントの言葉を理解できなかったのか、クライディアが聞き返すと、軽く頷くだけだ。

一人、タスクはゼントをじっと見ている。

「カムイ…」

「うむ…日本語だな」

カムイとこっそりと話していると、ゼントは訝しげにこちらを見ていた。

「レダ、使い魔って、話せるのか?」

「んな訳ないだろ。どんな高位存在だよ。幻獣クラスでも話してくるのは稀だぞ」

不思議そうに聞き返す。

「そうか?」

メニューに目を戻し、仕方なさそうに軽食系のサンドイッチを頼み、他の者達も話し合いやすい軽食系から選んでいるようだ。

「コーヒーある。キリマンジャロか」

「よく飲むな。あの泥水みたいなの」

嫌そうな顔のレダに、ゼントも嫌そうな顔で返す。

ゼント以外は普通に紅茶を頼んでいる。


「冒険者にでもなりたいのか?」

頼んだ物が一通りにやってくると、レダが話しを始める。

「なりたい訳じゃないけど、やっぱ、部活ぐらいは趣味でいいんじゃないかなと」

答えたのはキーツだ。

「あたしは、レダ様にお話をしたいと」

エフィリアスが言うと、レダは渋い表情で見てもくる。

「あっあの…レダ様?」

「様はいらん」

どこか沈痛な表情でサンドイッチを噛みしめる。

「俺は、元々の農民だ。司祭にされたのは、まあ、体面ってヤツだ」

「農民の出は知ってます。でも体面だけで司祭にはなれませんよ。レダさ…さんは、あたし達庶民の星なんです」

エフィリアスの言葉にレダは面倒そうに紅茶を飲んだ。

「俺が天才なのは本当だがな」

「天才というか、天災だろ」

ゼントがしれっとした表情で言う。

「レダさんは司祭になる気がなかったのか?」

「なかったな。司祭なんてなるモンじゃねえぞ」

「現役司祭のセリフじゃねえな」

「司祭って、何してるの?」

タスクが訊くと全員が不思議そうに見る。

「そういや、本当何してんだ。司祭っていうから、祈っているワケでもないよな」

ゼントが横目で訊く。

「司祭の仕事は祈るでいいけど、ようは特化型魔法使いだな。唯一無二の治療魔法を使える魔法使いだからな…だからといって、特別に何かがあるってワケでもない」

「司祭って、どうやってなるワケ?」

ゼントが興味なさげに訊くと、レダはどうでもよさげに見るだけだ。

「ん~、まあ、頭脳面と根性と啓示だな。神様が示すんだよ。お前が司祭って」

「示されたのか、お前?」

訝しげにレダを見る。

「さあ、神様の声なんて聞いたコトはねえ。ただ、唐突に魔法が使えるようになっただけだ」

レダが静かに言う。

「神様の声を聞いてない?」

エフィリアスが意外そうに聞き返す。

「仕方ないだろ。事実だし、事実であっても言わないだろしな。他の司祭どもが聞いたかは知らないがな。俺は唐突に使えるようになった」

レダはしれっと答えると、エフィリアスは呆然と見ているだけだ。

クライディアが慰めるように肩を叩く。

「ミもフタもねえな。ベル先輩が変わった人と言うのもわかるわ」

ケラケラとキーツが笑い飛ばす。

「ベルベットか、まあ、確かに言えるか」

「そこは認めるんだ。ってコトは、俺等でも司祭になれる?」

「かもな。俺は唐突に魔法使えて神殿に呼び出しくらった」

「エリーでもなれるんじゃねえ」

キーツの言葉にエフィリアスが戻る。

ゼントはひたすらにタスクを見ている。

「何?」

視線に気付いてタスクはゼントを見る。

「お前、日本人なのか?」

そう訊くと、全員が目を丸くする。

レダ達は目を見張るが、クライディア達は一瞬目を反らしていた。

「日本がわかるの?」

「俺も日本人だし」

しれっと答えるゼントに、タスクが目を丸くしてゼントを見回す。

「タスク以外が外に出れないはず」

「タスクってのはそういうものか」

ゼントがレダを見る。

「さあ、俺もよくはわからん。司祭は日本を覚えているが、詳しいワケじゃねえ」

「日本ね。まだあったんだ」

アークが言うと、タスクは目を丸くしてカムイを見るが、カムイも首を傾げている。

「日本、知ってる」

「知っておるようだな」

「その梟やっぱ喋ってるよな」

「わかるの?ゼントもヒルメ様の使い?」

「日本人ではあるが、日本人ではないぞ」

ゼントの言葉にタスクはかくんと首を傾げていくだけだ。

「俺は別の世界の日本からきたから、正直、魔法のあるこっちの事はわからん」

ゼントがそう言うと、タスクはキョトンとするばかりだ。

「基本的に歴史は近いのに、決定的に違う世界だ。こっちの世界は魔法があるからか、世界戦争がないというか、宗教がないから戦争がないよな」

ゼントはしれっと答える。

「世界は一つじゃないよ。いくつもあるから、神も魔王も一杯、違うから混じるもの」

アークのセリフには全員が首を傾げる。

「日本人でも日本人ではない日本人の日本人…」

「わからん」

タスクが言うと、ゼントが止める。

「日本は封印された。でも、封印をほどく方法はあるよね」

「何か知っておるのか?」

カムイがアークに訊くが、アークは首を傾げてカムイを見ている。

「なんか知ってるのかって」

ゼントが言うと、アークはあっさりと頷く。

「どうするの?」

身を乗り出して訊くが、アークはあっさりと首を振った。

「知ってるけど教えられない」

「なんで?って、なんで知ってるの?」

「本人だから」

あっさりと答えるアークに、理解できないという表情で首を傾げてカムイを見る。

「言えないから、神の契約、タスクは自分で探せ、道はいくつもある。それを知ってるはず」

アークが言うと、タスクは目を反らしていた。

「それを見つければいい」

「日本が封印より目覚める時、神は解き放たれる」

レダが言うと、ゼントもタスクも見てくる。

「何、それ、初めて訊くが」

「日本人でもお前は違うから、司祭になる時にそう聞いた。あれが神の声かは知らないが、そう言われるんだ」

「司祭は儂等の味方?」

カムイが訊くが、レダにも声は聞こえてないようだ。

「味方かって」

「違うんじゃねえかな。そう聞こえているだけで何かしろとは言われてねえ。まあ、手助けしろっていうならしてもいいけど、でも今の世界を維持したいヤツは気をつけていろ」

レダはしれっと言う。

「今の世界の維持?」

タスクが復唱すると、レダやアークが意味ありげに笑う。

「当然、今の世界の方が楽しい奴等。神じゃなく魔に属する奴とか」

「魔王は違うけどね」

アークがしれっと言うのを、ゼントが苦笑いしているぐらいだ。

「まあ、俺は楽しければいいからここに居る。ゼントが帰るまでは味方かもな」

「帰る?」

「俺はこの世界の人間じゃないから、どうなるかは知らないし、帰るなら帰るでいいだろ」

しれっと言うゼントにタスクは首を傾げている。

「別に無理に帰る必要もないから、結構呑気だけどもな。それでも帰る要素があるならだな」

どこか他人事のように言う。

「ゼント」

不意に黙っていたJが声をかける。

「何?」

「おかわりしたいが、誰もこない」

Jが周囲を示すと、彼等の回りには誰も寄る事がなく、同じ席についている三人も聞こえてないかのようにうつむいている。

「日本の話は、他の人間には理解されないんだっけ、無駄な封印だよな。俺にもコーヒー追加」

「俺等も詳しいワケじゃねえ。そのウチか」

レダも話は終わりと、メニューを改めて広げる。

「パンケーキ、デザート」

アークが机を叩くと、思い出すかのように店員が近寄ってきた。

「ゼントとレダはともかく、他の二人も知っておるのか?」

カムイの言葉にタスクは首を傾げ、ゼントはしれっとした表情で視線を外す。


「明日からは普通の授業か、まあ、部活の勧誘も始まるな」

遊戯室の片隅でキーツが杖をいじる。

教科書の術式を入力しながら、手持ちのモバイルで改良をしているようだ。

「あんたは授業前から何しているのよ」

同じように入力をしているエフィリアスが訊く。

「基礎式だけだとつまらん」

「キーツは魔法に詳しいの?」

クライディアが訊ねると、キーツはモバイルから顔を上げる。

「詳しいというか、ウチは全員が魔法使えるし、生まれた時から普通に慣れ親しんでいるが正しいか、こいつなんかお下がりだしな」

モバイルを掲げて見せる。

「オズワルドの専用機か」

唐突な声に顔を上げると、ベルベットが軽く手を上げて近寄ってくる。

「ベル先輩、こんばんは」

「よう。レダさん達には会えたか?」

そう話しかけられて、四人がそれぞれに複雑な表情になった。

「カーシャはきつかったか?」

ベルベットは特に渋い表情のエフィリアスを見て言う。

「なんと言うか、自由な人達でした」

クライディアが言葉を選ぶが、ベルベットは苦笑いをしている。

「自由ね…確かに、俺も最初は堅苦しい神官を想像して玉砕したな。まあ、楽しい人達だから、逆に有意義だぜ」

「有意義?」

タスクがおうむ返しに訊く。

「そりゃ、この大陸を直に歩いている人達だ。大陸に残るのもいいかなって思うぜ」

「ベル先輩、魔法使いになっても大陸に残るって、大丈夫ですか?」

「そんな真顔で言わないでくれるかな」

エフィリアスのセリフにベルベットは渋い表情で言う。

「大陸に残るって、おかしいの?」

クライディアが渋面のベルベットを見て、キーツに訊く。

「まあ、国に帰れば要職をはじめなれない職業はないうえに、学院卒の魔法使いは引っ張りだこ。それに比べて大陸に残るってのは、自由人になるってコトだからな」

「大陸での職業なんざ、商人か農民、正式な国際的国家が存在しない中立の大陸、この学院だけが唯一無二の存在だから、学院の教師ならともかく、自由人はないだろ」

キーツもベルベットも当然のように言う。

「ああ、うん」

理解してクライディアも頷く。

「だいたい、大陸はまだ知られていない場所も多いから、冒険者の役割には大陸のマッピングもある」

「獣の領域を行くのも命懸けだしな。本当、大陸に魅せられた卒業生も毎年いるぜ」

「そりゃ、ウチの姉貴だ」

キーツが挙手する。

「キスフィル・ニア・オズワルド博士か」

「二十歳は離れていて実のトコ知らないけど、姉貴は学院の頃から大陸に惚れ込んで、幻獣研究家として戻ってきたらしいけど、な」

「オズワルド家って、何人兄弟なの?」

クライディアが訊ねると、キーツは指折りに数えた。

「キス姉をはじめに十人、俺が末、実のトコ、まだ学院に兄貴が居る」

「オズワルド先輩な。卒業せずに居るよな」

「卒業せず?」

「本来なら去年卒業だったんだが、帰って来なかった。ウチは放任主義で誰一人気にしてないが、一応はキス姉やキルツ兄の様子は調べてこいって」

「オズワルド博士の居場所はわからんし、正直、先輩の方も学院のドコに居るのか、あの人は青だったんだよな」

ベルベットが困ったように言う。

「そんなコトと思っていた。キルツ兄が何考えてるかはわからん」

「去年卒業予定、七つ差、年離れてる」

「カタコトだな。俺だけ離れているんだ」

キーツはさらりと答える。

「ベル先輩、キルツ兄は何部だったの?」

「ウチの先輩だ。というか、ウチの部を作ったのがお前の兄だ。キルフォルド・ヴァン・オズワルド名誉部長の名前がまだあるぞ」

「キル兄か、双子のキーナ姉は?訊くまでも」

ベルベットの表情に訊くのをやめた。

「何番目?」

エフィリアスの問いにキーツはまた指折り数える。

「六番目と七番目、するとすぐ下のフォン兄もだろうな 」

「一人だけ名前が違う」

「キスフォン・ヴァン・オズワルドだから、キス姉キス兄じゃな。本人も嫌がるし、フォン兄で落ち着いた」

「兄弟が多いと大変ね」

「そうゆう問題じゃないと思うけど」

呑気なクライディアにエフィリアスは困ったように天井を仰ぐ。

「どうしたの?エリー」

「名門オズワルドの真実や、レダさんの真実がショックなんだろう…俺にも覚えがある」

あっさりと言うベルベットにクライディアはキョトンとするばかりだ。

「カーシャ、諦めろ。憧れは裏切られるが、認めると面白い」

「そこまで達観できないわ」

「俺は生まれた時に諦めた。姉貴達はスゴいが色々ダメだと」

キーツはやけぎみに言い切る。

「天才となんとか」

タスクがぼそっと呟くと、キーツは大きく頷く。

「認めるの!」

エフィリアスの悲鳴にも近い声に、周囲の生徒が見てくるが、ベルベットと四人の新入生の姿に気に止める事はなかった。

「そうなると、やっぱ冒険者部かな…面白いだろうしな…俺、レダさんは結構好きだな」

「歓迎するぞ。センドーも入部でいいな。カーシャとランバルトはどうする?」

「俺は入る。後、俺はタスクがいい」

「俺もキーツでいいですよ。兄貴達と区別しやすく」

「私もクランでいいです。えっと…タスク達と一緒な方がいい気がするから、入部で」

「エリーで、そうね…違うではないわよね…入部するわ」

苦汁の表情で言う。

「四人ゲット、じゃ、明日の授業後に部室な。そうそう、キーツ、その術式は改良は怒られるから、やめとけ」

モバイルを覗き込んで言うと、離れて行く。

「ちょっとはやまったかしら」

渋い表情でエフィリアスが呟く。


「やっぱ居たか、タスク」

声に木の下を覗くとゼントが手を振っている。

「ゼント、どうしたの?」

音もなく地面に降りると、ゼントは頭上の月を見上げている。

「?」

わからずタスクも月を見上げて見る。

「この世界は、月が三つあるんだよな」

「うん?」

「自分にとっての常識が、他人にとっての常識とは違うもんだ。俺の世界では月は一つだったからすぐに異世界とわかった」

ゼントの言葉にタスクは首を傾げているが、カムイが渋い表情で見ている。

「月が一つか、日本があった頃はそうであったな」

「お前は普通の梟じゃないのか?まあ、俺が言葉を理解できるんだから、普通じゃないんだろうな」

「カムイはカムイ」

「それではわからんだろう」

「カムイか、タスクは日本名だろ。アイヌの名前はないのか?」

ゼントの言葉にカムイも目を丸くする。

「アイヌだけどタスクになった。アイヌわかる」

「生まれは北海道…三百年前だと蝦夷?いやでも蝦夷はヤマトの呼び方だから、コタンでいいのか?」

ゼントが頭を捻るのに合わせて、タスクも頭を捻る。

「よくわかんないけど、俺のコタンはカムイのコタンだった」

「お前の言い方もよくわからんな」

苦笑混じりにゼントはタスクを見る。

「して、我等に何用か?」

カムイがゼントを見ると、ゼントはタスクを見てからカムイの方が話し易いと思ったらしい。

「ようは、元の世界には戻る気が一応はある」

「うむ?」

カムイが頷く。

「で、俺はここにはあるモノを探しに来た」

「う、うむ…」

カムイは警戒するようにゼントを見る。

「封印を、とだ」

「お主の境遇は大変と思うが、我等の悲願を果たす事を邪魔は」

「そりゃ構わないぜ」

カムイが羽根を膨らませて威嚇するような仕草を気に止める事なく、ゼントはカムイの言葉を遮って言い切る。

「ん?」

カムイは肩透かしをくらったようにゼントを見る。

「お主は帰りたいのであろう」

「帰りたいというか、帰った方がいいのかと、ほら異分子は危険なモンだろ。俺自身はどっちでもいい。帰ったトコで喜んでくれる奴は居ないしな…行方不明で喜んでいるんだろうな」

ぽそりと付け加えた言葉に、タスクが見上げる。

「お主、それでいいのか?」

「同じモンならお前等が持てばいい。その方が俺としても都合がいい気がする。帰る口実がないならここに居てもいいだろ」

「ゼントは、帰りたくない?」

タスクの問いには笑うだけだ。

「お主が探すモノとは?」

「実は俺は知らない。アークがここにあるらしいとしか言わないから」

「あの者は何者だ?」

カムイが訊くと、ゼントは口元に人差し指を当てて見せる。

「同じモンならお前等にやる。アークには文句を言われそうだがな。俺自身が決めるコトで」

「ゼントは探しに行くの?」

「そのためにここに来たんだし」

当然のように答える。

「まあ、よくわからんが学院長から許可がおりん、レダがそのうちに強行するだろ。神殿は大陸の秘密を探るのも仕事で、学院の遺跡でも許可なく潜れるモンなんだと、今のトコは学院長の顔をたてているだけだし」

ゼントは軽く肩をすくめる。

「ゼント、俺も行く」

「お前も」

タスクの言葉にゼントはカムイからタスクに視線を移す。

「俺はいいが、レダが決めるコトだからな」

「俺は行くのが決まる」

「言葉がおかしい。退学になるぞと言いたいが、そのために学院に潜り込んでる奴には関係ないか」

ゼントの言葉にカムイの方が目を見張る。

「ゼント」

いつの間にアークが近付いていて、カムイが身構えるが、タスクは不思議そうに見る。

「戻らないと、ならないよ」

「…わかった。じゃあな」

タスクに軽く手を振ってアークを連れて戻って行くのを、タスクは見送る。


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