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それぞれ好みはあるだろうけど、でもやっぱり私今はどちらかと言えば〝けぇき〟の方が……。
今日学校で食べたあの数々のケーキを思い出し、ほう……と恍惚に溜息を着いた時。玄関の方からガラガラと扉の開く音が聞こえすぐに「ただ今帰りました」と礼儀の正しい声が聞こえてくる。秋都さんが帰ってきたみたい。
「あ、秋都さん」
だわ、と私が立ち上がるより先に鈴音さんがガタンッと大きな音をたてて立ち上がる。拍子に倒れてしまった椅子を「あらあら」とお母さんが起こしている中。
「おおおおおおかん! じゃあ俺帰るさかい後はよろしゅう!!」
いきなり焦りを見せバタバタと台所のお勝手口から出ていこうとする鈴音さん。
「ど、どうしたんですか?」
「あかんねん、俺あかんねん!」
「はい!?」
青ざめさせた顔を左右にブンブンと振って、ドタバタと外へ逃げる様に去っていった鈴音さんに代わるように秋都さんが台所へ入ってくる。秋都さんは立ちすくむ私と咲湖お母さんを交互に見ると「どうしたの?」と首を傾げた。
「え、あの、今……」
鈴音さんが、と言いかけた時お母さんが割り込むように「猫!」と声をあげる。
「そう、猫ちゃんがね、お魚持って行っちゃったのよ。お母さんびっくりしちゃった〜」
いきなり何を言い出すんだろうと眉を寄せていれば「ね、神楽ちゃん?」と同意を求める様に話を振られ「えっ?」と肩を揺らす。
「え、えーと」
あの鈴音さんの慌て様といい、お母さんのこの振りといい……。これって鈴音さんの話を出すのはダメって事なのかしら?
ふとそう思いつく。秋都さんに嘘をいう事に若干後ろめたさを感じたけれど、そこは「はい、猫です」と答える事にした。
秋都さんは「猫が魚を?」と食卓に並んだ料理と開け放たれたままのお勝手口のドアを見渡し「そうなんだ、きっとお腹すいてたんだよ」と返してくる。
ああ、ごめんなさい秋都さん……。
今日の食卓にはお魚なんて列んでいなかったし、ましてや猫がお勝手口から出ていくはずもないし……。おかしいとこは多々、の筈なのに。
「じゃあ僕着替えてきますね」
と爽やか笑顔で台所を出ていったのです。秋都さんの足音が遠のいて行くのを確認して咲お母さんが「ふぅ」と胸を撫で下ろす。
「おのぉ、お母さん」
「はい?」
「あの、なんで鈴音さんあんなに……?」
焦っていたと言うかむしろ怯えていたと言う言葉がしっくりくる様なあの態度。どうして? と問えばお母さんは何故か「ん〜」と苦笑い。
「ちょっとね、喧嘩しちゃってるのあの2人。なかなか仲直り出来なくて。謝る心の準備が出来るまで秋都には会いづらいっていうものだから」
「喧嘩、ですかぁ」
そっか、兄弟だもん喧嘩くらいするわよね。でもだからってあんな焦って帰らなくてもいいのに。
「私にも3つ下の弟がいて……あ、神季って言うんですけど。神季ともよく喧嘩して三日くらい口を聞かない事なんてほんとよくある話で。でも気が付いたら仲直り、しちゃってるんですよね。別にごめんなさいってちゃんと謝った訳じゃないのに、気が付いたらまた一緒に笑いあってて。だからきっと秋都さん達もすぐ仲直り出来ますよ」
「……そうね。そうなる事、私も願っているわ」
そう言って淋しげに微笑む咲湖お母さんに「大丈夫ですよ」と笑いかけながら、さて、とポンッと手を叩く。
「じゃあ秋都さんも帰って来たしご飯にしましょう。私居間にお料理運びますね」
「ええ━━…………」




