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次はこれ、とお皿に盛り付けた煮物を菜箸でつかむと私の口元へと差し出してくる。それをいいのかなと戸惑いながらもパクリと食いつくと、今度は程よく醤油の染みたジャガイモの風味が広がり「美味しい」と頬に掌をあてた。
私が美味しい、美味しいという度に女性は次はこれ今度はこっちと今日の夕飯であろう料理を次から次へと口に運んで来る。煮物に炒め物、汁物に至るまで一通り味見をした後。
「あら、さっそく神楽ちゃんを餌付けしてるの鈴音?」
そんな冗談を言いながら台所に現れた咲湖お母さんに私と鈴音と呼ばれた女性が同時に視線を向ける。
「鈴音のお料理美味しいでしょう?」
「はいすごく! 今ほぼ全部味見をさせてもらったんですが全部美味しかったです」
早く食べたい、と瞳を輝かせる私に咲湖お母さんもあらあらとお皿にもられた美味しそうな料理を見渡す。
「鈴音、お母さんにも一口」
言って「あーん」と可愛らしく口を開いた咲湖お母さんに、鈴音さんは呆れたような表情を見せる。
「何いうてんねん。さっきしこたま食べたやろ。作ってる間中横からつまんどったんどこの誰や」
ん…………?
あれ?
「だって鈴音のご飯美味しいんですもの。後一口。ね?」
お願い、と手を合わせるお母さんに鈴音さんは小さくため息をつきつつだし巻き卵をひとつつまんでお母さんの口に放りこむ。
お母さんが「ん〜」と身を震わせながら「美味しい」と言えば、鈴音さんの顔も呆れ顔から微笑みに変わった。
そんな二人のやり取りを見ながら私は固まっていた。それはもう石のように。
確かにお料理は美味しい。すごく。
でも今何かおかしくなかった?
………………あれ?
「鈴音さん……?」
今覚えたばかりの彼女の名前を口にしてみる。するとすぐ「なんや?」と返答が返される。
「あの、その声……」
「声?」
「風邪でも……?」
「は?」
脈絡もない私の質問に、鈴音さんがくりんと首を傾げる。その動作さえキラキラと輝いて見える。なのに。なのに。
「声が」
「声が? どないしたん?」
「あの、女性にしては低い……ような?」
そう、まるで男性の様に低いその声。いえ、男性の様、じゃなく完全に男性の声だった。
さっきお母さんが〝お母さんにも一口〟っていう言葉もちょっと引っかかってはいたけど今はそんな事より何よりこの人の声よ声!
「失礼ですが鈴音さん性別は……」
「あん? 俺か。男やで勿論。見てわかるやろ」
言いながらこちらも背中と同じく広い胸板をバンバンと叩く鈴音さん。そこには女性特有の二つのお山は見当たらなくて。
「えーーーーーー!?」
その日、私は初めて自分の女としての自信を打ち砕かれたのです…………____。




