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グツグツと音をたてるお鍋の中をおたまでかき混ぜていたのは初めてみる大きな背中の男性。その広い背中を交差する桃色の紐は多分エプロン(今の割烹着だって秋都さんに教えてもらった)だろう。
台所に入った瞬間、目を引いたのはその大きな背中だけじゃなく長く伸ばされ三つ編みに結われた青い髪。身長は私より頭四つ分も高い。
だ、誰この人……?
神宮家の大きなお屋敷には咲湖お母さん、秋都さんと海都にご当主のお祖父ちゃん、そして二人のお父さんである実お父さんが住んでいる。
昔はお弟子さん達とその家族の人達も住んで大家族だったらしいけれど今いるのは直系の人だけなんだそう。
だからこの大きな背中の人は初めてみる人だった。
その中でも実お父さんにはまだ会ったことがなかったし、もしかしたら……と思って「実お父さん……?」と声をかけてみる。
呼ばれ振り向いたのは綺麗な顔をした……あれ? 女の人?
後ろ姿からてっきり男性だと思っていたのに、振り向いたのその人物の顔を見るなり私は驚いたように目を見開いた。
彫り深く象られた高い鼻に切れ長の目。長く並ぶ睫毛の奥から覗くのは綺麗な綺麗な空色をした瞳。色白の肌。すごく綺麗な女性だった。
その出で立ちから彼女が日本の人じゃないのは丸分かりだった。
「ごめんなさい、私ったら女性の方にお父さんだなんて」
さっきの失言を慌てて謝罪すれば、女性は最初はパチクリと瞳を瞬かせていたけれど、すぐニッコリと眩しい程の笑顔を見せてくれる。
それにちょっとひきつった微笑みを返していると、女性がおいでおいでと手招きをした。
何か? と促されるまま近付けば、女性があーんと口を開けてそれを指さした。
口を開けろってこと?
「あ、あーん……?」
おずおずと口を開ければぽいっと何かを口の中へ放り込まれて、拍子に口を閉じてしまう。
「ん!?」
何か入れられた? 眉を潜めながら舌でそれが何かと探れば風味のいい出汁の味が口いっぱいに広がる。
舌触りからしてそれが出来立てのだし巻き卵だというのがわかる。
「美味しい」
ちょうどいい固さに焼かれただし巻き卵に、ポロッと呟くように漏れた感想の言葉。それを聞いた女性は嬉しそうに更に微笑みを深くした。




