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「なんだ、結局お前もサボりかよ兄貴」
「サボりだなんて君と一緒にしないでもらえるかな。僕は先生の公認だよ」
「公認? 公認ってなんの」
海都の問いに秋都さんは横の椅子に腰掛けながら小さく溜息。それに私と海都が首を傾げていると、あのねと言葉が返ってきた。
「二時限目までに海都を教室に連れ戻す為に一限目はサボってもいい公認。そのついでにまぁコーヒーでも飲んじゃおうかなぁなんて」
えへっ、なんて悪戯っぽく笑った秋都さんに今度は海都が苦笑いで溜息をつく。
「結局サボりなんじゃねーか」
「と言うか今日の午前中は神楽ちゃんの案内でどちらにしろ授業はなしだったし一緒だよ。あ、そうだ。ねぇねぇ神楽ちゃん甘い物って好きかい?」
「甘い物、ですか? はい、大好きです。大福とかぼた餅は特に」
「そう。だったら是非うちの学園の名物を食べて欲しいな」
「名物?」
「えっとねー……」
秋都さんがキョロキョロと辺りを見渡し、隣の席にメニューと書かれたパウチを手に取り「はい」と私に差し出してくる。
「うちの高橋さん……あ、ここの学生食堂で栄養士をしてる人なんだけど。その人元々パティシエをしてた人でね」
「ぱてしえ?」
「洋菓子を専門に作る調理師さんの事だよ。その高橋さんが週一回だけ食後のデザートに学生達にケーキを焼いてくれるんだけど、それがうちの学校の名物なんだ」
「ケーキ!?」
ケーキってあのお金持ちのお嬢さんしか食べられないって言うお菓子の事よね? バターと砂糖をたっぷり使ってて、カステラより贅沢だって前ご近所のおば様が話してたの聞いたことがあるわ。
「あ、その目は間違いなく食べてみたいって顔だね」
今にもよだれをたらさんばかりに目を輝かせる私を見て、秋都さんがクスリと笑う。ちょっと待っててねと席を立った秋都さんを目で追っていると、先程の女性がおぼんに湯呑をのせて戻って来た。
女性は秋都さんを目にとめると、呆れたように目を細める。
「兄弟揃って何やってんだいあんたらは」
「あ、高橋さん。ちょうどいいとこに」
パン、と手を叩いた秋都さんに女性━━高橋さんはぱちくりと瞬きをして首を傾げる。
「ん? あたしになんかようかい」
「彼女、今日からうちの学園に通う友野江神楽さん。ちょうど今学園名物の話をしていたんです」
「学園名物?」
「週一回のおやつ」
何の話だと眉を寄せる高橋さんに海都が補足を付ければ、ああと大きく頷いた。
「ちょうど今焼いてるとこだよ。今日はガトーショコラだけど、あんた食べれるかい?」
最後の問いかけは私へ向けられたもので、突然の質問に今度は私が瞬きをして首を傾げた。
「が、がとーしょこら……?」
「あら、食べた事ないの?」
「あ、えと、は、はい……」
がとーしょこら、がとーしょこら……なんだったっけ?
「神楽ちゃんのお家は和を大事にする家柄で、洋菓子はあまり食べないらしいんです。和食・和菓子が中心だそうですよ」
「あら~どうりで。若いのにお茶、だなんて珍しい子だわぁって思ったのよ。だったら待ってなさいね、いの一番に食べさせてあげるわ。本当は焼き上がって少し日をあけた方がいいんだけど、あたしのは焼き上がりも美味しいんだよ」
「いいんですか? でも私まだちゃんとした生徒じゃないのに」
「いいのいいの。ちょっと待ってなさいね」
え、でも、と返す言葉に迷っている間に机の上に湯呑を置いて忙しなく立ち去っていく高橋さん。おずおずと海都に視線を流せば、海都は別にいんじゃね? と返してくる。
「自分の作ったもん食わせんのが好きなんだよあのババア」
「そうそう。作るのも好きだし食べさせるのも好き。いっぱい食べて笑顔で美味しいって言ってあげたらいいと思うよ」
笑顔で美味しい……かぁ。
そう言えば子供の頃覚えたての料理を初めてお母さんのお手伝いなしで作った時、お父さんとお母さんがにこにこ笑って美味しいって言ってくれて嬉しかったな。
「そう……ですよね。せっかくの御好意ですし、遠慮なく甘えさせて頂きます」
ガトーショコラかぁ。楽しみ!




