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「とりあえず問題行動はここまで。気が収まらないなら武道場行ってサンドバッグ殴ってきたら? 鍵開けてあげるから」
ね? と肩を叩く秋都さんの腕を振り払いながら海都は「いらねーよ」とぶっきらぼうに返して、何故か私の腕を掴んだ。
え、何? と声をあげる私を横目にズンズンと歩き始めた海都。
「ちっと付き合え居候」
「え、え?」
ちょ、ちょっと私今秋都さんに案内してもらって……と秋都さんの方を見れば、秋都さんは困ったように微笑みながらぴらぴらと手を振っていた。口元が「よろしくね」と動くのが見えて更に「ええ!?」っと声をあげた。
「よろしくって、嘘っ、この状況で!? 秋都さん!!」
秋都さああんっっ!?
海都に引きずられ歩く事約3分。私は教室のある校舎の裏に併設された食事処へと連れてこられていた。
大きな窓が天井までずーっと続いていて、壁も窓ガラスで作られた広い場所。さんる〜むっていう作りだとさっき秋都さんに教えてもらった。
この学校の皆はここに集まってお昼ご飯やお茶を飲むんだとか。私の時代では考えられない事だわ。
海都はそのさんる〜むの一番日当たりのいい窓際の席に座ると、一人の年配の女性が私達に気がついてこちらへと歩んでくる。
「あらまぁ、海都くんまたサボリ?」
女性の一言に海都は口をへの字に曲げて「一々絡んで来んなよ。仕事しろ仕事」と、しっしっと追い払うように手を振る。
「ちょ、ちょっと海都。目上の方にそんな口の聞き方しちゃだめでしょ!?」
「あら? いいのいいの、この子誰にでもこんなふてぶてしい態度しか取らないからぁ。あたしだって慣れっこよ」
言いながらケラケラと豪快な笑いをもらす女性に、私も「はあ……」と苦笑う。
「どうせまた先生と口論でもして出てきたんでしょ。二限目はちゃんと出なさいよ?」
「うるせーよ! コーヒー」
「はいはい。あんたもなんか飲むかい?」
「えっ、わ、私!?」
「どうせ今から教室返ったって中途半端でしょお。あんたもこんまんまサボっちゃいな」
サボっちゃいなって……まぁ今日は施設案内と先生との簡単な面談だけだって咲お母さん言ってたし。う〜んでもいいのかしら。
「えっと、じゃあ、あの、お茶を」
「お茶!? あらやだ珍しい海都くんが連れてきた子がお茶だなんて」
「え?」
「おいババア、どういう意味だそりゃ」
「ちょっ、ババアって。海都!?」
「だってこないだ連れてきた子なんて開口一番カシスオレンジなんて言うんだもん。流石に学校でお酒なんて出せるわけないだろ? あたし驚いちゃってねぇ。まぁその後頭叩いてやったけどね。あっははは」
その話に数日前海都が連れ帰って来たあの子達の顔が脳裏をすぎる。
信じられない、どこまで常識がないのあの人達!!
「まぁいいわお茶ね。ちょっと待ってなさいね」
言いながら女性は席を離れていく。
「海都、あの人が言ってた連れてきた子ってこの間家に来た女の子達の事? 学校でお酒だなんて……非常識にも程があるでしょ」
「知るかよ。勝手についてきたんだよ」
「まさか貴方もそんなバカな事してるんじゃないでしょうね? 咲お母さんに隠れてお酒飲んでるんじゃ……」
「飲んでねえ」
「本当に?」
「飲んでねえって」
「本当に本当に?」
「しつけーな! 俺は飲んでねえっつってんだろ。酒は嫌いなんだ」
「なら、いいけど……」
そう言えば神宮家にはお酒は料理酒くらいしかおいてなかったっけ。御当主も咲お母さんも実お父さんも嗜まないって言ってたし。
でも……
「ねえ海都」
「ぁんだよ」
「咲お母さんを悲しませる事だけはしちゃダメよ。私にはそんな態度でも構わないけど、咲お母さんには優しくしてあげて」
「なんだよいきなり」
ぱちくりと目を瞬かせる海都に、だってと言葉を続ける。
「お母さん、言ってたの。貴方は誰にも頼らないし自分の事を話さないから時々何を考えてるか分からなくなるって。とても寂しそうな顔で言ってたの。別に貴方にどんなお友達がいてもいいけどお母さんを悲しませる事はしないで」
「別に俺はそんな事……」
「してないって言える?」
そう返せば海都はぐっと言葉を飲み込んで私から視線を逸らしてしまう。
「家族が傍にいるってとっても幸せな事なのよ。気にかけてもらえるってとっても嬉しい事なんだから。だから大切にしなきゃダメ」
私は片時だって忘れた事ない。離れ離れになってしまったお母さん、お父さん、神季。生きてるのか死んでるのかさえわからない、怪我をしてたらどうしよう、私を探してたらどうしようっていつも頭の中を巡ってる。
でもどうしたらいいのかわからない。今は……わからない。だからいつも願うのよ、どうか無事でいてって。
「ね、お願い海都」
じっと彼を見つめて絞り出す様にそう言えば、海都は少し間を空けた後「わかったよ」と小さく頷き返してくれる。
それにぱあっと笑顔をみせありがとうと言葉を返したとき。
「話は終わった?」
ふと背後から聞こえた声に、私と海都は同時に声がした方へと視線を向ける。




