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こっちに来てずっと思ってた。頑張るって決めたのに……。
秋都さんの微笑みや優しい声を聞いていたら胸の中に溜め込んでいたモノが一気に弾け飛んだ。
涙が溢れてとまらない。
両の掌で顔を覆い、しゃくり上げている私の頭を撫ぜる、優しい手の感触。そして……
「大丈夫……」
耳に届く、優しい声。
「大丈夫……僕が絶対に帰してあげるよ。お母さんの元にも、神楽ちゃんがいた場所にも」
「……」
「帰り方が見つかる迄ここにいればいい。早く帰りたいだろうけど……急いて焦ったって仕方がないよ。僕が探してあげるから……もう泣かないで…ね?」
「秋都…さん……」
「泣き顔の神楽ちゃんも可愛いけど、でも僕は笑顔の神楽ちゃんの方が好きだな」
頬を伝う涙を拭い、ニッコリと笑ってくれた。その笑顔を見ると、不安とか、恐怖とか、全部洗い流されてるみたいで心が軽くなった。
私はぎこちない笑顔を秋都さんに返した。
「うん、可愛い可愛い」
「ありがとうございます……秋都さん。私も秋都さんの笑顔が大好きですよ」
「ありがとう」
「えへへ……」
「母さん」
「あら、どうしたの? 海都」
兄貴に頼まれ、母さんに神楽の着替えを頼みにキッチンに向かう。
キッチンでは、母さんが夕飯の支度をしていて俺が声を掛けると手を停め振り向く。
「あいつ……起きたから」
ぶっきらぼうに答える。
「あら、本当?」
「着替え……あいつ、汗かいてる」
「わかったわ。お熱、まだありそう?」
「ああ、たぶん」
「そう。なら水分を摂らせた方がいいわね。海都、お水持って行ってあげてちょうだい」
「ああ」
戸棚からコップをとるとトレーにのせる。母さんから水差しを受け取り、神楽の部屋に向かう。
部屋の前につき、ふすまを開こうと手にかけた時、中から兄貴と神楽の声が聞こえた。
『僕は神楽ちゃん……好きだな』
『私も秋都さん……大好きですよ』
「……」
好き……か。
兄貴は、あいつの事どう思ってるんだろう。
突然俺達の前に現れた女。見つけた時は傷だらけの火傷だらけ。
今じゃありえない、防空頭巾ともんぺといった格好は、最初気味が悪かったと言うのが本音だ。
まぁ、それを連れて帰った俺の行動も、今考えりゃ気味が悪いってもんだが……。
でもなんでだろう。
あの時、あいつをこのまま放って置けなかったんだ。
本当に、何故だかわかんねぇーけど。
俺は水差しとグラスが乗ったトレーを部屋の前へおき、自室へと戻った――。




