3-5 恋人ではないけれど
さりげなく掴んだアレッシェラは、レナールの手にさらに腕を絡める。
「ああ、頼む」
「ええっ!?」
レナールがまた驚いた声をあげた隣で、そのままアレッシェラは腕を絡ませて歩き始める。体をレナールに寄せながら、後ろの様子を窺えば、感じた人影のいくつかが、動きを止めたようだ。
(さあ、どう出てくる?)
犯人ならば、好都合だ。襲ってくるつもりなら、手間が省ける。そう考えていると、隣でレナールが、ひどく慌てて取られている腕を動かしているではないか。
「ち、ちょっと待ってください! 人前で、これは!」
「うん?」
今までのアレッシェラの婚約者候補は、むしろ自分から腕を貸してエスコートしたがっていたから、デートとしてはそこまでおかしな行動ではないはずだ。とはいえ、あまりにも慌てた声に、足を止めて目を向けると、側でレナールは真っ赤になっているではないか。
(おや――)
今までの冷静で、挑発的な態度はどこへ行ったのか。館内に聞こえてくる音楽の中で、顔中を真っ赤にして心の底から慌てている。
「あの、まだ俺と婚約したわけではないですし――!」
振りほどこうとして、無理やり外さないのは、それをすればアレッシェラを傷つけると思っているからかもしれない。触れ合ったアレッシェラの腕に、どうしたらいいのかと迷うようにしながらも、レナールの顔はますます赤くなっていく。
(なんて、かわいい――)
こんなにかわいい反応を返されるとは思わなかった。今までのアレッシェラの婚約者候補は、みんな腕を組んだら得意満面な様子を隠しもしなかったのに。
振りほどくこともできずに、腕に寄り添うアレッシェラの姿を、照れてどうしようもないような表情で見つめているレナールに、目が吸い寄せられてしまう。
なんだろう、すごく嬉しい――。この人にこんなふうに見つめられるのに、胸が大きく脈打つ。
まるで夕空のように深い紫の瞳だ。アレッシェラと少し似ているのに、ひどく深くて、青みを帯びた色の視線に包まれているのが、とても嬉しくなってしまう。どこからか聞こえてきた柔らかな音色に乗せられたように、レナールの口から言葉がこぼれた。
「あの……俺と腕を組んで嫌ではないんですか?」
「どうして?」
そう答えると、青紫の瞳は心底驚いたように瞬く。そして、ぎゅっと唇が引き結ばれた。まるで、そうしないと嬉しさで顔が崩れるかのように――。
「レナール様……」
どうして、この人といると、こんなに胸が高鳴るのだろう。ずっと、見ていたくなってくる。
耳に聞こえる音楽の音色が甘やかなせいなのか。
甘酸っぱい気持ちになり、レナールに手を伸ばした時だった。
「危ない!」
周囲から聞こえた声に振り返れば、こちらに向かって、まっすぐに飛んでくるものがあるではないか。
それに、咄嗟にレナールの体を押して、自分も一歩下がった。
なにかが目の前を通り過ぎるやいなや、ガシャンと激しい音がして、アレッシェラの側のガラス窓が粉々になる。
間一髪だった。もう少し反応するのが遅ければ、確実に骨を砕いていただろう。
「誰が……」
突然のことに、周囲にもざわめきが広がっていく。その光景をアレッシェラはジッと見つめていた。




