表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/11

第5話「秋葉原に行こう」

 遊園地でデートしてみて楽しかった。柚美はどことなく寂しそうな表情で、最後を惜しみながら窓の外を眺めている。


「もう終わりですかぁ。一日が過ぎてしまうのは、早いものですね?」

「そうだな」

「今日は凄く楽しかったです。わがままを聞いてくださりありがとございました」


 そっと囁くような感謝を伝えて来る。すでに柚美は眠気が来てしまっている状態みたいだ。瞼が微かに閉じかかっていた。


(柚美を送り届けるためには、タクシーを使うのが適してるよな? 少し高いけど、来月はどこかで副収入を得る必要があるかも知れない。取り敢えず帰宅することを考えるか)


 新しい収入源を手に入れたくなった。これも柚美と円滑に交際を進めたいからだ。


 柚美が聞いたらと驚くだろう。それでも良い気がする。


 眠そうな柚美を支えながらタクシーに乗り込んだ。タクシーを引き止めるまで、柚美の体を支え続けて疲れてしまう。けど、無事にタクシーは呼べたから安心していた。


 柚美を送り届けてから自分も帰路に着く。一人で帰る道は寂しく感じた。今日を振り返ってみると、少し柚美と別れてしまった実感が強く思える。


 自宅に到着した。玄関の照明はつけっぱなしにされている。多分、帰って来ることを考慮していてくれたんだろう。


 玄関で靴を脱ぎ、リビングに直行する。そしたら、テーブルで寝てしまっている彩穂を見つけた。


「おいおい。そこで寝るなよ」


 仕方なく毛布だけかけておく。同居する上で互いの部屋は入らない約束なんだ。それも踏まえて彩穂は運び出せなかった。


 取り敢えず毛布があれば、風邪を引くこともない。そう考えながら寝室に向かった。


「はぁ……!」


 一気に息を吐き出す。ベッドに飛び込んで寝転がると、仰向けで天井を眺めた。天井はシミが少し目立つ。けど、そんな気になるほどでもなかった。


「もう、疲れたぁ……」


 自然に瞼を閉じてみる。すーっと眠りに落ちていく。


 次の日。体を揺さぶりながら声が掛かる。


「起きなさい! 早く起きてよ!」

「んぅ……?」


 うるさい声に起こされる。まだ少し眠気が残ってしまっているみたいだ。重い瞼を見開き、急に起こして来た彩穂から話を聞いた。


「何だよ。何かあったのか?」

「良いから着替えろ! 早く秋葉原に行こう!」

「は?」


 やけに表情がキラキラと輝いている。事情が分からないと異常に気味悪く思えてしまう。それでも話は説明してもらった。


「限定フィギュアが欲しい? それなら一人で行けよ」

「はぁ? 私たちは最強のビジネスパートナーでしょ? だったら、着いて来い!」

「いや、仕事以外は断っても良いだろ」

「ふざけんな! 行くったら行く!」


 いつも以上に強引だった。それも当然かも知れない。好きなグッズは早急に欲しがる性格だ。これを断り切れたことなど、一度たりともなかった気がする。


 とにかく着いて行かないと言った選択肢は与えられない。なら、行くしかなかった。


「偶然だね! 兄貴と一緒にお出かけなんて!」

「何で安奈を連れて来たんだよ」

「良いじゃん。同じグッズ目当てだし。仲間はいた方が良いの」

「わーい!」


 お陰で一つ購入するグッズが増えて俺は不機嫌だった。安奈は遠慮しないから連れて来たかなかったのだ。けど、隣で堂々と歩く姿を見て、凄く苛立たしくなる。


 取り敢えずグッズ販売を行なっているスペースに来た。いつもみたいに店内は混雑している。これだけ人気だと、くたばってしまいそうだ。


「ちょうど二つか……」

「兄貴、ありがとー!」

「バカ言うな! 俺が買うんだろ!」

「ダメ? 兄貴は譲ってもらえる立場でしょ?」

「ふざけんなよ!」


 久しく兄弟喧嘩してなかったはずだ。一歩も引かない安奈を睨みつけ、相手も威嚇し続けていた。


 さらに俺が威圧してみる。少し強く言えば譲ってくれるはずだと思った。しかし、それで収まる訳もない。


 すぐ表情が険しくなり、そのうち涙目を浮かべてしまう。妹の泣き顔が悪化させる訳にもいかなかった。


「分かったから泣くなよ。譲るから頼む」

「……うわぁ!」


 ギリギリセーフだった。もはや、女の切り札は涙目だと思えてしまうぐらい厄介である。それだけで男を譲らせる手段と言うのは、非常に卑怯だと思えた。しかし、意外と言いにくい話だ。


「なら、代わりにぬいぐるみでも買っていくか」

「ぬいぐるみマニアが出たぁ〜。優星の部屋は凄いぬいぐるみでいっぱいだもんね!」

「別に良いだろ。早く安奈は会計を済ませるぞ」

「はーい!」


 こうして安奈に譲らざるを得なかった。さらに、購入まで俺が担ってしまう事態でもある。普段から頻繁に見られるている光景だが、それでも俺から文句は言わなかった。


 とにかく二人は欲しかったグッズが手に入って嬉しそうだ。秋葉原まで来た甲斐があった。


 と、思いたかったんだが、少し自分だけ不満を残している。これで引き下がれるほど、お人好しでもなかった。


「ゲーセンに行こう。二人は買いたいもんが買えたはずだ。付き合えよ?」

「「ええ〜!」」


 予想していた反応と変わらなかった。自分が済んだしまえば良いと思っているんだろう。けど、二人とも食い下がれない訳もなかった。渋々に見えて了承してくれることは分かっていた通りである。


「景品を取ってやる。どれが良い?」

「どれも誘われるけどねぇ……」

「うーん?」


 最終的に自分が獲りたいものを優先した。後から二人のリクエストに答え、ゲーセンを出ていく。


 紙袋に大量ゲットした景品が入っているのが窺えてしまう状況だ。これは勝ちまくれたも同然だった。


「後は本屋か?」

「一般文庫はどこでも買える。基本は同人誌が目当てかもな!」

「行くぞ!」


 俺たちは『トラの口書店』に訪れる。そこは同人誌が積極的に置いてあるオタク系書籍を集めていた。


 ここは18禁コーナーがあるため、安奈は立ち入らないから注意が必要だ。必ず俺が同行してチェックしないと危なかった。


「ここから先はダメだぞ? 前も来た時に注意したろ?」

「うん。気をつけるよ」

「よし」


 取り敢えず立ち入り禁止区域は、徹底して注意した上で巡らせる。安奈が視界から外れる瞬間は、ほんの少しだけを意識した。本を適当にパラパラっとめくっていき、良さそうなヤツを選択する。


 正直、購入したい本は、事前にチェックしているはずだ。何故なら日頃は同人誌を必ずチェックする習慣がある。だから、一通りはどんな同人誌が出ているか分かっていても可笑しくなかった。


「いつもありがとうね! 兄貴は優しいな!」

「おう! こんな気前の良い兄は他所にいないだろ」

「うん!」


 すっかり安奈は笑顔で満たされていた。余程、嬉しかったんだじゃないかと思う。本当に安奈が喜んでくれて良かった。


 それと彩穂にも何かしら奢っている。彼女としては恥ずかしそうに感謝してくれていた。何気に可愛いヤツだと思いながら眺めていると叩かれて驚いてしまう。


 それは彩穂のキャラじゃないからだ。なんて、少し冗談が混じったかも知れない。


 とにかく秋葉原は満喫できた。たくさんの思い出が作れたはずである。正直、今度は柚美と二人きりで行きたい。


 帰宅してからソファで眠気が襲う。いつの間にか天井を向きながら軽く寝てしまっていた。


 ふと、気づいて起きてみると、両サイドで勝手に添い寝している二人が目に映るり


「お、おい⁉︎ お前ら⁉︎」


 この光景はまずい。もし、柚美に見られたら悲しませてしまう。何とか間から脱出を試みた。


「はぁ。隙あらば添い寝かよ……」


 俺も油断していたんだ。まだ、恋人がいるなんて伝えていなかったから二人は気にしていない。だから、良い訳じゃなかった。


 少し罪悪感を覚えてしまうが、二人に毛布をかけて自室まで行く。


 実は二人が気持ち良さそうに寝る姿を撮っていた。これは記念写真みたいなものだ。もちろん俺のスマホからは消している。二人に送信してから削除は欠かさなかった。


 ––––今日も楽しい一日で良かったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ