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第3話「交際スタート」

 いよいよ交際が始まる。今日が柚美の入学式なのだ。


 内心はワクワク感で充満していた。これも愛がある証拠である。マジで嬉し過ぎた。


「ぐぅ〜! やっと交際スタートかぁ。あっという間に四年が経過したんだな」


 朝の五時起床。それからずっと眠れなそうだった。代わりに原稿を仕上げる作業で暇を持て余す。描いている最中も柚美が頭から離れなかった。愛は作業すらままならない状態を作り得てしまうらしい。どうにも抗えないようだ。


 取り敢えず六時三十五分頃にメッセージを頂く。それは愛する柚美から『おはよう』のメッセージだった。こちらも同じ挨拶で返信する。


 朝っぱらから歓喜が溢れ返る。心が満たされてしまうのは、とても良い気分だ。これを永続したいと願うばかりだった。


『今日は楽しみですね。記念日として二人きりの祝福会をあげたいんですけど、ダメですか?』


 送られて来たメッセージは可愛らしさを伴っていた。凄く心が惹きつけられてしまう一文である。それに勝るようなメッセージを意識して返信した。


『問題ないよ。なら、柚美は午後の六時半にはうちでまで来てくれないかな? 愛しい恋人をもてなすディナーとサプライズを用意して待ってます』


 ちょっとカッコつけてみた。これぐらいは添えておいた方が喜んでくれるはずだ。彼氏としてカッコよく決めることも大事だと思う。


 より柚美が恥ずかしくない彼氏でいられるように努めて行きたかった。それが最低限のカップルマナーだから。


 取り敢えず連絡は一旦切り上げた。いつまで続けていてもしょうがないからだ。とにかく宣言通りに進めないと柚美はがっかりしてしまうだろう。それだけは避けたかった。


 まずはプレゼントを買いに行こうと思う。時間は余裕だからじっくり選びたい。柚美が喜べるプレゼントでないと彼氏失格だ。そんな結果は望んでいない。


「何が良いかぁ……」


 パソコンでプレゼントしたいものを検索してみる。検索一覧にヒットしたものが並び、どれか選ばないといけない。


 マジで愛している相手を喜ばせるプレゼントを適当に選ぶなんてあり得なかった。だからこそ、よく考えて選び抜くことは怠らない。不備は恋人として取り除きたい。それが叶わない夢など、そんな計画は無謀だろう。


 買うものが決まり、電気屋さんに来ていた。ここで柚美が欲しがっていたパソコンを見ていく。


 もし、買ってあげるとしたら、高性能かつ容量が大きいのが良い。これらの条件を満たしたパソコンがプレゼントに最適だろう。


 ついに買いたいものが決まる。決心がついた時には、体が動いていた。


 きっと、これで良いはずだ。


 より該当するようなパソコンが決まり、店員を呼び出す。店員が言われたパソコンを手に取り、すぐさまプレゼント用の包み紙で包装してくれた。


 この瞬間、凄く高揚してしまう。これを手渡されて笑顔を浮かべる柚美が容易に想像できた。もはや、俺が立てた計画は無双だ。


 包装が終わったプレゼントを受け取り、サプライズ成功のイメージに疼いてしまってしょうがなかった。これで喜ばなかった柚美を見ることはない。


「そろそろ来る頃だ。柚美は喜んでくれるのかな?」


 疑問は必ず付き纏ってしまう。だが、定期解消していけば、ストレスは軽くなるものだ。それに交際すると決めた時から関係は良好。つまり、互いに愛し合えている事実は揺るぐはずがない。それだけの自信を持ち、柚美と対面したかった。


 次第に不安が募ってしまう。自信で満ちていた自分が、思った以上のプレッシャーで押しつぶされそうだ。


(絶対に大丈夫。焦るんじゃない、俺……!)


 心を安らげながら、何と声をかけようか考え込む。安定した一言で、柚美を迎え入れたい。その方が柚美も安心するだろう。


 そんな思考を巡らせていた束の間。うちのインターホンが鳴った。


「来た……!」


 一瞬、心臓が飛び出てしまうかと思った。それぐらい動揺する。けれど、すぐ態勢を整えてから柚美を迎え入れていく。


(扉の向こうに柚美がいる。温かく迎えてサプライズを成功させよう……!)


 決心は整っている。後は行動で示すのみ。


 静かに扉を開け、柚美と対面する。待ち受けていたのは、新鮮味を帯びた制服に包まれる一人の少女だ。彼女こそ、俺が交際する約束を交わした相手だった。


 つい、視線が彷徨う。けど、自然と視線は柚美の瞳を捉えた。その純真無垢な瞳に吸い込まれるかのように見つめてしまう。


 視線を奪われ、見つめ合った状態が続く。見つめた瞳の奥に、困惑と緊張が混ざり合ったような感情を読み取った。おそらく彼女も俺と同様にプレッシャーを抱いている。


 沈黙した空気が場を支配する。ただ、短い間を置いてから、互いは話し始めた。


「あ、お兄さ––––ちが、優星くん、こんばんは!」

「い、いらっしゃい。ずっと待ってた」


 ぎこちない言葉を交わしていた。これも交際が始まる挨拶みたいなもの。少しぐらいは緊張してしまって当然だった。


 けど、俺は気持ちに押し負けない。早く柚美をうちにあげたら、まずはソファでくつろいでもらいたい。だから、急いで中に案内する。


 招かれるがままに、踏み入って来る柚美。ゆったりとした歩調が、淡々と渡る際に足音を鳴らした。


(制服はやばい⁉︎ 感情が爆発しそうだぁ⁉︎)


 リビングまで誘導したら、すぐソファに座ってもらう。柚美が落ち着いた様子で、そっと腰を下ろした。


「招いて頂いてありがとうございます」

「いえ、どうも。大したもてなしでもなくてごめん。けど、サプライズは万全だよ。今から始めようか?」

「うん!」


 柚美は満面に笑顔を浮かべてみせる。純粋に歓喜しているみたいだ。


 取り敢えず食事は、まだ用意されていない。これから作って行こうと思っていた。その間、柚美がフリーである。だからこそ、ゲームを用意していた。


「今、急いで料理するね? 待っている間で、好きなゲームでもしててくれないかな?」

「分かりました。わざわざ料理してくれるなんて感謝してます」

「任せなさい」


 胸を張りながら高らかに宣言する。彼女は料理が出来上がるまで、ゲームして待っていてもらった。


 迅速に料理が始まる。メニューは事前に決めていたヤツを作り出した。


 すぐ料理は完成し、ずらりとテーブルに並べていく。丁度良いところで、柚美に食事を知らせておいた。


「途中で悪いんだけど、食事が出来たよ。冷めないうちに食べよう」

「はーい!」


 元気いっぱいに返事して来る。柚美は腰を上げてテーブル席に移り、正面で向き合ってみた。凄い顔が赤い事実が互いに分かり、真っ先に柚美が隠してしまう。


「ご、ごめん⁉︎ やっぱ恥ずかしいや⁉︎」

「わ、悪い……! 大丈夫か?」


 慌てて謝りながら柚美と落ち着かせ合っていた。先に緊張感が回った柚美から崩れてしまっている。


 いつもと同じような態度が取れないのは、今日が特別な日だからだろう。なら、柚美は丁寧に扱ってあげないと駄目だ。


 気持ちを引き締め直す。次は柚美を責めないように接していく。

 大分、思い詰めてしまったような表情が彼女から読み取れる。ただ、挽回の余地が残っているはずだ。


 今からサプライズしてからテンションを上げてもらう。そうすれば元気が出て来ても不思議じゃなかった。


「そ、それじゃあ祝福会を始めても良いかい?」

「もちろん。お願いします」


 落ち着いた返事が届く。清楚感の溢れる声音が聞けてしまい、心が打たれるみたいな衝撃を受けた。


(まずい、平常心だ!)


 つい、魅惑が平常心を崩し掛けてしまう。けど、宥めながら話を進めていった。食事に手をつけないで待つ姿は清く美しい。文句一つ垂らさない様子は、しっかり者を連想させている。


「じゃあ、食べようか? お腹が空いたはずだ。今なら丁度良いと思うからな」

「はい!」


 互いの了承は得た。後は食べながら会話したい。聞いてみたい話は、幾つか候補を用意して来た。だから、相手のペースを見ながら聞くつもりである。


「「いただきます」」


 声を合わせて挨拶する。それ以降は各自で食事を頂いた。


 今日は『チーズグラタン』や『コンポタージュ』などを作っている。これらは事前に柚美から祝福会で食べたいとリクエストしてもらっていた料理だ。幾つか俺の判断で加えているメニューもあるが、どれも基本は好きだと思う。


 柚美は黙々とチーズグラタンを口に運んでいく。熱々だから頬張る度に口内で冷ます様子が可愛かった。最初からふーふーと冷まして口に入れた方が良い。けど、柚美が好きな方法で食べてもらって構わなかった。


「ご馳走様でした!」

「良かった。味は問題なさそうだったよ」

「はい! 凄く美味しかったです。どれもいっぱい頂いちゃいましたよ!」


 俺は素直にはしゃいでいる柚美の姿に安堵した。残りはプレゼントを渡すだけ。喜んでもらえないなど、あり得ない話ではある。けど、それは渡し方と添えるべき一言で変わって来る。


 思い切って彼女が座るテーブル前にプレゼントが置かれた。


「開けて良いよ? 一目見れば分かると思う。けど、ちゃんと開封して確かめて欲しい」

「わぁ! 本当に良いんですか⁉︎」

「もちろん。そのつもりで買ったんだからな」


 柚美が興奮しているみたいだ。きっと中身は期待を裏切らない。とにかく彼女が受け取り、交際を確実に了承してくれればミッションクリアだ。


 しばらく沈黙した。静寂の中でプレゼントを開封する音だけが響く。


「す、凄い⁉︎ ノートパソコンじゃないですか⁉︎」

「うん。柚美が俺のヤツを見て欲しがっていたから買ったんだよ。喜んでくれたみたいだね?」

「ありがとうございます! こんなに嬉しいサプライズを期待してました!」

「それじゃあ交際は決定で良いのか?」

「当然ですよ。私から持ちかけた話ですからね。それが本望でした!」


 こうして俺たちは無事に交際を開始する。この祝福会は大成功だった。


 これから柚美と愛し合っていくようだが、まだ周辺は事情を知らない。最初は内緒で交際しようと事前に話し合って決めていた。


 取り敢えず今日は夜の九時まで一緒に過ごす予定だ。それ以降は同居している彩穂が帰宅してしまうから残ってもらえない。


 でも、ちゃんと交際が始まって良かった。今後は恋人として時間を過ごして行きたい。


 ––––絶対に離さないから。

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