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第2話「重度のブラコン妹」

 現在、屋上の食事エリアで、昼食を堪能している。腹を空かせて訪れた場所は、頻繁に利用している売店が多かった。中でもたこ焼きや焼きそばなどが、俺は好きな売店だったりする。


「偶にはラーメンにしない? 優星が焼きそばしか食べてないから目が腐りそう」

「うーん。焼きそばを食べない日はあり得ないんだけどな」


 俺は普段から屋上で開かれている焼きそば店がお気に入りだ。特にソースは人気商品が使われており、炒め加減も割りかし好きだった。俺の舌に絡みつく味わいが凄く好みなんだ。


 けど、今回は彩穂に従っても良いだろう。じゃなきゃ彩穂が不貞腐れてしまう。彩穂は馴染み以上の光景を嫌悪する習性があった。日用品でも違った商品を使い分けるほど、一貫性は通したくないと口うるさい奴だ。


 そこで驚くべき事実だが、俺と彩穂は同居生活を送っている。けれど、実際はビジネス関係でしかない。言わば、俺たちは同人活動のため、一緒に暮らしていた。


 うちは『紫猫会』と呼ばれる同人サークルを立ち上げ、二人で住む一軒家を活動拠点に使用するチームだ。稼いだ金から光熱費とか諸々を出している。これでも売れっ子サークルとして人気を博した存在だった。ただ、同居している事実は、誰にも知らせていない。だから、俺たちが夫婦だとか言う奴は存在しなかった。


 結局、俺もラーメンを購入して頂く。そもそもラーメンだって好物なのは事実だ。麺類は基本的に好んで食べても差し支えがない。だから、妥協してみた。


「ねぇ、優星は帰りたくない? てか、もう帰ろうか!」

「別に構わないけど。柚美ちゃんが良いなら」

「私は良いと思います。帰ったら、出来立ての原稿を見せて欲しいです!」

「はぁ? バカじゃないの? それは私が許す訳ないだろ!」


 再び喧騒が漂って来た。気を緩めている時が、二人の衝突頃だ。何かと気持ちが重たくなる。


 取り敢えず二人を宥め、アイスを買って帰った。二人は案外、同じチョコアイスを選んでいる。仲の良し悪しが分からない二人と、気ままに帰宅して来た。


 そして突如、ハプニングが発生する。


「バカ兄貴ぃぃぃ!」


 馬鹿デカい怒鳴り声。家の玄関に入った瞬間、予期せぬ訪問者が轟いた。


「で? 言い訳するつもり?」

「い、いやぁ……」


 いきなり正座を強制されてしまう。勝手に上がり込んでいた妹、正村安奈に見つかった。帰って早々の説教タイムを強いられ、気分は台無しだ。

 そもそも安奈に内緒で柚美とデートみたいな買い物なんてしていたら怒るのも当然。最低でも安奈を誘っておくべきだった。


 今更、反省しても安奈は収まらないことぐらい知っている。何かお土産でも買ってくれば良かったかも知れない。だが、手ぶらで帰宅してしまった以上は、挽回の余地なんてなかった。


 そう思いたい。


「だ、だから……っ⁉︎」

「これ高い奴だよ? しかも、限定品だし」

「どう言うことだぁ!」


 いつの間にか形勢逆転。もはや、俺たちが帰宅するまで、人の家で勝手に高級菓子を食べ漁っていた奴に言われる筋合いはない。ただ、安奈が反撃されてしまう事実を犯していたことに安堵した。


 とにかくお互い様で片付け、うちに来た理由を尋ねてみる。せっかくの休日なんだ。柚美はいなかったけど、他にやることならあったはず。それでも兄貴を訪ねて来た理由は、何となく察していた。


「だってぇ、寂しかったんだもん!」

「理由が軽すぎるだろ!」

「てへっ!」


 可愛く照れ、頭をコツンと叩いて誤魔化す仕草を見せて来た。正直、それは現状に相応しくない。もっと謙虚な理由を述べて欲しかった。けど、これが現実だ。


「理由なら分かり切っていた。が、窓から侵入するのは、何が何でもやめるように言ったはずだろ」

「でへへっ。こんな可愛い妹が、どうしても家に上がりたい時は仕方がないじゃん! そこは多めに見て欲しいなぁ〜」

「甘えるな。もう高校生なんだからさ」


 自分で言うのも差し支えるが、安奈は重度のブラコンである。それは安奈が小学四年生に上がって間もない時期に気づいた。


 無断で俺の脱いだシャツを着たり、飲みかけのお茶を飲んでいたり、色々と判断材料は揃っている。これをブラコンと呼ばないはずがなかった。


 帰宅した兄貴に近づき、汗だくの首筋をさり気なく嗅いで来る行為は異常すぎる。当時は俺も困らされていたんだ。親父に言いつけてみたが、返って来た一言は『妹だから可愛がりなさい』だった。


 親父は頑固で堅実みのある人だ。あまり異性に淫らな感情は見せなかった。同じく妹にも、接触すらままならないぐらい離れている。そんな距離感で教育するなど、前代未聞だと思いながら生活して来た。けど、俺と安奈は問題なく育っている。今年も安奈は高校受験に合格してもいた。


 これは単純に奇跡だと思う。本当に運の良い奴だ。でも、実は感謝しているのが本音だった。


「取り敢えず私は執筆するね? 部屋に篭るから夕食は任せた!」

「おう。任せとけ」


 これだから予定日より進んでしまいがちなんだ。それでも彩穂は止まってくれない。だから、好きにさせていた。


 そんな俺も手が止まらない瞬間は、意外と頻繁にある。お互いに創作意欲が強いのかも知れない。それは別に悪いことじゃないはずだ。


「それで兄貴は調子悪くない? 実は兄貴と勉強したかったんだよねぇ〜。可愛い妹のために人肌脱いでくらないかな?」

「また勉強かよ。俺は好きじゃないし、やる必要もない。一人でしてくれ」

「やだ! 兄貴と一緒だから乗り切れる。これは究極の家族愛でしょ!」

「そうやって言えば良い訳じゃないだろ」


 けど、ここで付き合ってやらないと駄々を捏ね始めるのも時間の問題だ。凄く気が進まない。だけど、少しだけなら取り合ってあげるぐらいは良い。


 決死の判断だった。喉の奥から無理に言葉を絞り出してあげる。


「わ、分かったよ。付き合えば良いんだろ」

「やったー! 兄貴、愛してるー!」

「はぁ……」


 安奈が大喜びしている姿を見て、また甘やかした感に悩まされてしまう。安奈を不機嫌にしても、あまり得する訳でもないのだ。ここは仕方ないから優しく接してあげようと思っていた。


 今から安奈と勉強するため、部屋を移る準備を整えていく。


 そして立ち上がった瞬間、取り残された柚美が止めて来る。柚美は自分もついて行くなんて言い出して俺に近寄った。二人を両サイドで挟まれた状態に陥ってしまう。


 目的の部屋に移り、安奈は勉強道具を広げ始めた。出来るなら柚美と進めたい。心から愛している柚美を意識しながら勉強に励み出す。


「本当に兄貴は頭良いよねぇ〜。羨ましいんだけど」

「日頃から勉強してたからな。お前には教えて来たはずだろ?」

「教わった範囲なら出来る。けど、他がどうしても苦手なんだよ。悪かったなぁ」


 安奈は不貞腐れたような表情を浮かべていた。本気で苦手意識が強いなら、勉強は向いてないかも知れない。それは勉強してみないと分からなかった。


 大体、二時間ぐらいが経過し、針の時刻も午後五時半を過ぎてしまう。


 ここまで女子二人に勉強を教えて来た。そろそろ勉強会も終わりたい。だから、もう引き上げることを告げてみる。


「今日はお終いだ。お前たちも帰った方が良いだろ」

「えー! それじゃあ兄貴の家で泊まって行きたいな!」

「ダメだ。断じて許さない」

「ケチ!」


 すかさずお泊りを強請って来るが、即答で断ってしまう。やはり、うちは彩穂と二人で生活している分、安奈を泊める部屋がない。つまり、十分な場所で寝れなかった。


 取り敢えず二人を帰宅させる他はない。柚美は素直に帰宅する準備をしてくれている。後は安奈が柚美と一緒に帰れば良い。


 二人が手を振りながら遠くなっていく。この眺めも少し寂しい気がした。

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