第1話「不仲な二人」
高校生三年の頃。それは春に交わした約束だった。実に運命的な展開を覚えている。
相手は妹の友達。本当に二人は仲が良かった。それほどの関係を築いていた同い年の一般女子だ。見た目や中身は、実に清らかな存在だった。
あの時、妹は呼ばれていなかったみたいだ。いきなり『二人だけで話したい』なんて言い出して来た。
当時は何か用事でもあったんだと、心に言い聞かせながら向かい合う。彼女は、普段と全く変わらなかった。けど、雰囲気が違っていた気がする。
「今回はわがままを聞いてもらってありがとうございます。実は重要な話があるんです。聞いてくれますか?」
心臓の鼓動が激しく打ちつけている。これほどの緊張感は、生まれて初めてかも知れなかった。
今は覚悟を決め、ひたすら相手が切り出して来るまで待ち続ける。
「良いですか? 実は私––––」
可愛らしい洋服に身を包んだ彼女は、簡潔に告げる。
「––––好きです。私が高校に進学したら、付き合ってくれませんか?」
初めて告白された。相手は妹の友達で、現役の小学六年生だ。しかし、交際を始めるタイミングは、彼氏を作っても良い時期だった。
俺の返事は決まっている。これ以外に告げたい一言はなかった。
「––––もちろん、良いよ」
歓迎の一言を送った。こちらが了承することで、互いは交際を決めてしまう。
この気持ちに嘘はない。だからこそ、必ず約束は守るんだ。四年後の未来で、再び落ち合うことを決めた。その後、俺たちは別れる。
今思えば、四つも年下の女子と交際するなど、深く先を想像すらしていなかった。けど、普段から仲良くしていた女子が、告白して来る事態をチャンスと捉える他になかったのだ。
あと場で、俺は簡単に断れない。不思議と気持ちが了承するように仕向けていた。彼女が打ち明けた気持ちに抗うことなど、全てを投げ出しようなものである。
結果、俺たちは秘密を抱え、四年間を送る。無事に約束した期間を送り、待ち合わせた場所での再会を夢見た。
約束の期間終了まで残り一ヶ月を切る。外はちらほら桜が舞い散る光景を際立たせていた。約束は未だに生きているか分からない。度々会うことがあっても、下手に近づかなかった。それが未確定交際の節度だと思っている。
お昼休みを迎えた頃。俺はいつものリビングで、昼食を頂いている。正面に座る彼女は、鮮やかな色合いの洋服を纏い、如何にも大人の色気が漂わせた。
色気を帯びた香水の匂いが、すーっと鼻をくすぐって来る。高校時代から同じ時間を過ごす仲だと、大きく間違えていることに気づけてしまう。
俺は正村優星。現在は同人作家で生活を繋ぐ二十二歳だ。とにかく人気を博した作品を世に出して来た実績は計り知れない。しかし、些細な問題点を抱えているのも事実だった。それは解消していこうと必死に考え、工夫しようとビジネスパートナーと相談している。
しばらく沈黙した空間で、彼女が大きなあくびを出す。収まった後に話題が持ち出して来た。
「で、どうするの? 次のコミケまで時間があるでしょ? 作業が迅速すぎて暇だよ。こんな退屈な時間を有効活用しない手はあって良いのかな?」
「分かってる。けど、優秀だから仕方ないだろ」
「はぁ? 何の解決にもなってないじゃん! ちょっとは真面に考えてくれないかな!」
「正直、色々と考えたんだが、配信活動は何かと嫌だし……」
最近は異常に苛立っているご様子だ。もはや、暇を何で持て余すか考え尽くして果てた感じだった。日頃から創作活動に励み過ぎた結果、俺たちは締め切り予定日より四日も早く完成させてしまう。これじゃあ暇が出来てしまっても仕方ない。
「さすがに配信はダメって言う理由が『歌唱音痴』だからで済ませんな! 本当なら配信上のアイドルだって夢じゃないんだぞ!」
「それは一人じゃあ出来そうにない奴が悪い。俺にやつ当たらないでくれよ……」
そんな喧騒が起こりそうな雰囲気の中、ある希望が訪れる。それは滅多に会えない客人だった。
インターホンのカメラが映し出したのは、制服に身を包んだ美少女だ。それは誰よりも愛しく、誰よりも可愛がってあげたかった存在。交際約束を交わした現役女子高生の佐島柚美が、そこに新鮮な格好で立っている。
「いらっしゃい! 急にどうしたんだ?」
「おはようございます。お兄さんと会いたかったんですよ!」
「そうか。早く上がってくれ」
「お邪魔します!」
柚美は玄関で靴を丁寧に脱いで並べた。靴まで学校で履いていくヤツである。うちを訪ねるのに履いて来てどうするのか疑問だったが、きっと見せたかったんだろう。何せ、俺たちは交際間際だからだ。
取り敢えず柚美を上げ、リビングにいるサークルメンバーの里崎彩穂と会わせてみた。すると、彩穂が唸りながら嫉妬を漏らす。
「は? 喧嘩でも売りに来たの? うちまで来て制服を自慢するな!」
「べ、別に自慢じゃありませんよ。私はお兄さんに見て欲しかったんです。彼女さんでもないから拒否権はありませんね?」
「うざっ。調子に乗るなよ!」
早速、喧嘩が始まった。茶番みたいな喧嘩だが、これから激化しそうで困る。
相変わらず彩穂は、柚美を気に入らない目で見ている様子だ。そろそろ仲良くなって欲しいと願ってしまう。
「それじゃあ三人揃ったんだ。買い物でも行こうか!」
「イェーイ!」
「ちっ」
彩穂が気に入らなそうに舌打ちする。しかし、柚美は全く気にしていないみたいだ。二人が初めて出会った時は、急に口論が始まって気まずい空気が漂っていた。もはや、二人は相性が悪いらしい。
ただ、俺が二人を連れ出していく。玄関から出た瞬間、二人が絶妙に距離を取って歩く姿は、非常に呆れてしまった。同性の縺れ合いには、早々ついて行けないだろう。
歩いて近所のデパートに来た。ここは凄く広い敷地を使った建物が特徴である。
何度か柚美と彩穂たち片方と来ていた。けど、今回は三人で訪れている。
とにかく二人の不仲が予期せぬ事態を呼び起こさないように祈るばかりだ。
「お兄さんは新しいゲーム買ってくれないんですか?」
早くも柚美から腕に絡みつき、かなり密着して来る。胸が腕を埋めてしまい、心臓が乱れ打ち始めていた。
柚美の豊満な胸は、未だに触れたことがない『未知なる領域』を維持している。それを触らせてもらえると信じて眺めて来たんだ。もう少しの辛抱で叶うはずだった。
「ちょっと近くない? 二人とも恋人じゃないよね?」
「はい! そうですけど? 別に関係性って、そこまで重要ですか?」
「そこがムカつくんだよぉ! まだ大人になってもないガキが調子こいてんじゃねぇ!」
「べー!」
柚美がちょこっと舌を出し、小賢しい挑発が向けられる。彩穂は額に青筋を浮かべながら握り拳を作っていた。これは止めないとまずい。後、柚美も言い過ぎだ。少し注意して場を収めよう。
「彩穂は心配してくれてありがとう! 柚美ちゃんはからかっちゃダメだろ? 少し近すぎたのも事実だ。ちょっと距離を取るから怒らないでよ」
「えー! 仕方ないなぁ……」
「頭に来るぅ!」
彩穂が怒り狂ってしまうけれど、俺は即座に近くのどら焼き店を指差す。そこでどら焼きを購入して食ようと提案してみた。いつもお馴染みのデパートに来た時は、このどら焼きが欠かせない彩穂。どうにか意識を逸らし、彩穂を落ち着かせたい。
「あ、どら焼きか。うん、食べたい! 早く買って来てよ!」
「おう! 待っていろ!」
すぐどら焼き店に駆け寄っていく。特大サイズを三つ買い、彩穂と再会を果たした。熱々のどら焼きが手渡された時、彩穂は満面の笑顔が浮かび上がってしまう。
「やったー! いただきますぅ!」
随分と子供みたいにはしゃぐ彩穂。どら焼きは格別だと、言い聞かせて来るだけのことはある。
俺も彩穂が頬張って噛み締めているところを確かめてからかぶりついた。中身の粒あんが食感と甘みを口内に広げる。まさに、絶妙な一品だ。これを食べている時が、普段の苦労を浄化してくれるみたいだった。
「そうだ! うちの体重計が壊れちゃったんだよ。買って行かない?」
「忘れてたわ。もう、あれは古かったもんな。それじゃあ電気コーナーを見て行こうか」
「別に良いですよ? 早く行きましょう!」
彩穂の一言で行き先が決まり、三人でエスカレーターを目指していく。
そんな風に買い物は満喫して過ごせていた。俺たちは各自で行きたい場所を巡り、より楽しんで行けて満足だ。
––––来て良かった。




