第16話「最後の恋」
お互いに理解し合えた。最終的に和音は分かってくれたみたいである。本当に嬉しかった。
編集スキル取得は予定通り、和音が教えてくれたから理解して来ている。この調子でマスターしていけば、配信も問題なく進められるはずだ。
「凄い慣れて来たんだよ! 上手くなってる!」
「サンキュー! これも和音から教えてくれた成果だよ! マジで感謝してる!」
「いやー! それほどでもぉ〜!」
和音は照れながら笑ってみせた。褒められたことが嬉しかったんだろう。でも、それは当然だからこそ、素直に喜んで良いんだ。
取り敢えず少しだけ編集が出来るようになった。後は慣れていくだけである。
それから和音と二人で定食屋さんを目指した。俺から奢ってあげたいと言って連れ出す。和音を喜ばせようと思って出かけた。
もし、和音が俺に好意を抱いていたなら二人きりは嬉しいはずだ。けど、それも再び気持ちが昂らない程度に収める。
「ここが良いだろ? 最近、新しくオープンした焼肉店なんだけど?」
「うわぁ! 焼肉なんて久し振りじゃん! 本当に奢ってくれるの?」
「もちろんだよ。お前がいなかったら何故なかったんだからさ」
「やったー!」
そして店に入って案内された席でメニューを決める。
「どれも美味しそうだなぁ〜? 優星ってば、太っ腹なんだからぁ〜!」
「そんなことねぇよ。和音に恩返しするだけだからな」
「それじゃあ牛カルビ定食でお願いします!」
勢いのよく和音は注文を決めた。それを店員さんに通してから来るまで待機し始める。
和音は待機している間、鼻歌を歌っていた。スマホを眺めながら待ち望んでいる。
「なぁ、和音? 一つだけ聞いても良いか?」
「何?」
ずっと複雑な気持ちを抱いていた。心に疑問が残っているんだ。和音はどこが好きだったのか知りたくてしょうがなかった。
だから、思い切って聞いてみる。
「俺を好きになった理由はなんだ? もし、良かったら聞かせてくれないか?」
「単純に全部だよ。顔も性格も考え方でさえ好きだったかも。もはや、溺愛かも知れないなぁ」
そこで和音から聞かされた答えが胸を締めつける。何気ない様子で行って来たとしても気持ちは伝わって来た。
(何だよ……! こんな運命なんかあんまりだろ! 本当にごめん……!)
内心は罪悪感で溢れていた。もう、和音と合わせる顔もない。複雑化した思いが自身を追い詰めていくようだった。
それでも交際関係は変えられない。それは決定事項だからこそ、申し訳なく思っていたんだ。
和音は何気なく接してくれている。けど、本当は悲しんでいたかも知れなかった。彼女を真の意味で思い遣ってあげられないことが悔しくて思う。
「なぁ、和音? これからどうしたいんだ?」
何故か尋ねてしまっていた。聞いてあげれば何か一つでも救ってやれることはあるかも知れないんだ。それだけ確かめたかった。
「んぅ〜? それじゃあ一つだけ良い? 本当に我がままなんだけどぉ……」
「何だ? 言ってみろ」
和音が告げた我がまま。それは純粋な希望だった。一言だけ告げて来た和音の我がままとは、凄くどうしうよもなく本音を混ぜていたんだ。
「今日だけは二人きりで思い出が作りたい。悪いんだけど、カップルみたいな思い出を作るのが夢なんだよね?」
「それってデートか?」
「うん! 内緒で良いし、優星は単純に遊び感覚で大丈夫。だから、今日は優星と楽しみたいかも。なーんつって!」
無理でもない話だった。それなら叶えてあげられそうだ。だから、彼女が出した要望に応えようと了承する。
「分かったよ。それじゃあどこ行く?」
「やったぁ! まさか聞いてもらえるとは思わなかったなぁ!」
「和音が言っていた通り、俺は友達として付き合うだけだ。それ以上は叶えない」
「了解! それで十分だよ!」
凄く嬉しそうな表情を見せていた。キラキラ輝いた笑顔には、俺が抱く不甲斐なさを取り去ってくれる。和音に救われてしまったみたいだ。
とにかく食事を済まして和音と遊んでいく。
基本は俺が金を出そうと予定していた。何せデートみたいな感覚なら、俺から出すのが当たり前だと思ったんだ。
早速、和音から行きたい場所が伝えられる。
「突然で申し訳ないんだけど、ゲームセンターに行かない? もちろん自腹で済まさるからさ!」
「良いよ。今日は出してやる。特別だからな」
「ええ〜? 無理してるじゃないの?」
「大丈夫だ。任せろ」
見栄を張っているんじゃない。金なら問題なかった。少し減らしたくない気持ちが強かったが、今回はしょうがないと覚悟する。これから配信で稼げれば大丈夫だと言い聞かせて決心した。
和音がリクエストしたゲーセンに到着。ここで遊びたいみたいだが、何か欲しい景品でもあったりするのか謎だった。
「本当に来ちゃったんだぁ! ずっと二人で来たかったんだよね!」
「そうか。それなら良かった」
「にひひっ! 本当なら浮気ものだよ?」
「バカ野郎。あくまで友達付き合いだから違うんだよ」
「ふーん? ま、いっか!」
和音は魅了しようと振るった一言が凄く可愛かった。マジで気持ちが持っていかれそうになる。
これだと真面目に浮気してしまう可能性もあるかも知れなかった。それは押し負けて出来てしまう関係だ。
(くっ! 俺ってば弱すぎるだろ。しっかりしろよ! 翻弄されるんじゃない……!)
もう気持ちは揺らぎまくっていた。後で柚美と会話して上書きしないと心が持たない。
和音との時間はぎごちなかった。和音に気遣ってあげるはずが、今では気持ちの耐久戦だったりする。これが本当に望んでいたことなのか疑問だった。
やはり、ゲーセンと言えば、UFOキャッチャーがお約束だろう。真っ先に和音が回っていったのもUFOキャッチャーだった。
「取れるかなぁ? 欲しい景品はあるんだけどぉ……」
「取り敢えず挑戦してみようか? 取れなかったら仕方ないだろ」
「でも、お金は優星が出すんだもん。無駄遣いはしたくないんだよね!」
「そこまで気遣わなくて良いよ。今日は特別なんだからさ」
言い聞かせてみたけど、和音は無視して考え続けていた。取れそうな奴をひたすら探して回ったが、結果的にどれも微妙だったみたいだ。
「何だか思ってたのと違う。もっと楽しくなるはずだったのぉ……」
「落ち込むなよ。一つだけなら取れるかも知れないと思った奴があったんだよなぁ〜」
「……え?」
俺が動き出して和音は驚いていた。回って来た中で和音が無理だと飛ばしていた一台を選んで五百円だけ投入する。これだけ挑戦してみたかったんだ。和音を喜ばせたかったから確実に取りたい。
「えっ⁉︎ 嘘っ⁉︎ 取れそうじゃん!」
「任せろ。ここは取ってやるよ!」
勢いで挑戦した一台が良いところまで来ていた。これなら最後の一回で取ってあげられるだろう。
そして決心は叶った。景品は音を立てながら落ちて来る。念願の景品が落とせたから心は満たされていた。
「ふぅ。奇跡だわ」
「うわぁ! 優星、ありがとぉ〜! 可愛い子犬のぬいぐるみじゃん! やったぁ!」
「大事にしろよ」
「うん!」
ぬいぐるみを抱えながら喜ぶ姿に安心した。これで良かったんだと思って胸を撫で下ろす。
それからゲーセン内に設置されていたアイスの自販機を利用してみた。和音の分までアイスを買ってあげると二人で並んで食べる。
和音は美味しそうに食べていたので、とても安心感を抱ける時間だった。これだけ満足してもらった瞬間をもたらせたことは奇跡かも知れない。
それでも俺は良いと思った。和音が希望していた思い出作りが出来たなら、これ以上に付き合ってやれることなんてなかったはずだ。
「ねぇねぇ、優星! 今日はありがとう。優星って本当に優しいんだね!」
「そんなことねぇよ。アウトラインを超える寸前まで来ちまってんだ。柚美には悪い気がする」
「ご、ごめん……。本当は嫌だっだよね? 私だけはしゃいでみっともなかったよ」
どうやら落ち込ませてしまったらしい。ここまで喜んでもらえたのに台無しだ。
俺は自分から進んで行動した。それだけ和音を思い遣ってやりたかっただけである。それを最後の最後で無に帰す結果は残したくなかった。
「和音は悪くねぇよ! 俺から和音を喜ばせたくて行動して来たつもりだ! 責任は和音にある訳じゃない!」
「で、でもぉ……」
「頼むからぁ……最後まで笑っていて欲しいんだよぉ。もう悲しませたくないんだぁ……!」
「……え? ゆ、優星……?」
つい本音をぶちまけていた。それほど笑って欲しかったんだ。もう二度と悲しい顔なんて見たくない。最後に尽くして後悔を振り払いたかった。
「付き合えなくてごめんな。でも、気持ちは嬉しかったよ。もし、別ルートがあったんなら、和音と付き合っていたはずだったかも知れない。少し違えてしまったみたいだ。本当にごめん」
「も、もう! そこまで本気にならないでよぉ! 気持ちが収まらなくなっちゃうじゃん!」
「あ、ご、ごめん! わざとじゃないんだ!」
少し言い過ぎたかも知れない。けど、確かな気持ちではあった。これだけ本気を出せてしまうのに複雑化する気持ちは不思議と心から切なくなる。
(きっと、これで良かったんじゃないのか? まだ、内心で後悔してる自分がいるな)
気持ちが崩れそうだった。でも、最後に聞けた和音からの一言で軽くなっていく。
「我がまま言ってごめんなさい! 本当は分かってたよ。それなのに優星はチャンスをくれたんだよね?」
和音が心から気持ちを吐き出して来る。それは後悔を消し去るような一言だった。
「ほんの少しだけ恋人みたいな時間が過ごせて楽しかった! これだけの幸せをくれて感謝してる! 凄くかっこ良かった!」
「……はぁ!」
「もう、諦められたよ。この恋は満たされてる。だから、自分を責めないで!」
最高だった。こんな終わりも悪くない。ずっと後悔していく人生を回避できたはずだ。
後で隠さず柚美に話すつもりだった。これでけじめをつけたい。




