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第17話「柚美の思いやり」

 さっき俺は帰宅して来た。和音を家まで送り届けたかったが、もう大丈夫だと押し切られてしまう。最後は送り届けてあげられなかった。


「はぁ……。俺、何してんだろ。和音も好きなんだけどな」


 ふと、和音が頭を過ぎる。あの時、告げた一言が頭から離れなかった。


『ほんの少しだけ恋人みたいな時間が過ごせて楽しかった!』


 それが一番心に響いていた。感謝されているんだと強く思えた瞬間である。


 和音は取ってあげた景品を大事に抱えて帰っていった。その後ろ姿がどうも忘れられない。何故か目に焼きついていたんだ。


「これから柚美に打ち明けるんだな? もし、関係が壊れたら、素直に悲しめるのか? まさか悲しまないなんて有り得ないだろ」


 すぐに柚美と話したくて電話してみた。今なら話せると思って早めに済ませておこうと考える。


 今から通話を試みた。


「もしもし?」

『もしもし。柚美ですけどぉ』

「あ、急にごめん。実は話があってさ。もしかしたら怒るかも知れないないとか思ったりして」

『へぇ? それって何ですか?』


 俺は勇気を出して告白してみた。それは覚悟を決めるような内容だったんだ。


 もしも、その一件で柚美と交際関係が崩れてしまったら、しばらくは修正に努めたい。それでも直らないなら和音と交際するのも良かった。


 けど、あまりにも無責任な決意だと思っている。何故なら和音を取りたいが故に敢えて敷いたレールを辿ろうとしているみたいだった。それを踏まえて気持ちは上がらない。


『和音さんとデートしたんですね? でも、優星くんは友達として付き合うって名目で?』

「そうなる。けど、本当に和音は好きだったみたいで、泣き出しちゃってさ。少し申し訳なくなったんだよ」

『そっか。事情は分かりました』


 少し柚美は声のトーンが低くなっていた。けれど、返って来た一言は大して責めるような内容でもない。むしろ、良い方向に傾いていた。


『今日はご苦労様でした。他者に気遣ってあげてしまう優星くんは悪くないと思います。むしろ、カッコ良い決心が出来て誇らしいです』

「ほ、本当か! 良かったぁ〜。このまま隠し通しても罪悪感で潰れていたかも知れない」

『ふふっ。そこが許しても良いと思ったところですよ。思い遣ってあげたかったと言う気持ちは伝わってます。だから、安心してください』

「マジでありがとぉ〜」


 少し情けない声を上げてしまう。それも柚美から期待以上の返事が来て安心したのだ。


 取り敢えず今後は距離感を保ちながら行動する方針でいく。それは柚美と約束した上で成立していた。


 しばらく柚美は学校での出来事を語る。楽しそうな口調が思わず話に聞き入ってしまった。


 そして内緒で柚美がこっそり教えてくれたことがある。それはクラスメイトから好かれているんじゃないかと言う話みたいだ。


「実は普段から視線が気になる子がいたんだよ」

「え? 柚美も他に気になる子がいるのか?」

「ち、違いますよ! 私が見られているんですってば! 凄く積極的に話しかけて来るし、ちょっと困るんですよねぇ」


 なるほど。柚美を好きな男子がいるんだな。それは納得する他ないだろ。柚美が可愛いのは、他から見ても一目瞭然だ。ならば、一人や二人ぐらいは好意を抱いても可笑しくない。


 不思議と共感できる人がいることに安堵した。それは単純に柚美はモテないと思っていた訳じゃない。


 どこかで同じ気持ちを抱いた男が現れるんじゃないかと予測していたぐらいだ。大して驚くことでもなかった。柚美を好きになってしまうところは無数にある。


 ってか、柚美が狙われてんじゃねぇか!


 よく考えてみればそうなる。相手から手を出さないか心配でしょうがなかった。

 だけど、あまり気にし過ぎるのも良くない話だと思う。そこは問題が起こらないことを祈りたかった。


 そう願いながら頭を掻く。少し解決策はないか考えてみるが、意外と出て来なかったりする。思い悩んだ末に一つだけ提案を持ちかけてみた。


「それじゃあ一言だけ断っておけば? そっちの方が手っ取り早いだろ?」

「そ、それはぁ……出来ませんよぉ。堂々と断れてしまうなら苦労しないですぅ……」

「だよな。分かってて言っちまったわ。ごめん」


 か弱そうな声を上げる柚美。分かっていながらも提案してしまった罪悪感を抱いた。それでも柚美は気にしてなさそうな声音で話を続ける。


「ただ、告白されたら断ります。だって、私には優星くんがいるんですからね! ずっと一緒に生きていくんです!」


 何とも健気で可愛らしい発言なんだろう。これだけ純粋だと、自分が穢れているように思えてしまう。


 ふと、柚美に会いたくなって来た。


 ––––柚美の顔が見たい。


 そんな気持ちが溢れて止まない。


 収まりそうにない気持ちを晴らすため、俺はすぐに行動した。

 椅子から立ち上がり、柚美に決意を伝える。気持ちが声に乗ってしまい、少し真剣さを帯びていた。


「なぁ、柚美! 今すぐ会わないか? 今から会いたいんだよ!」

「え、今ですか? 少しだけなら大丈夫ですけどぉ……」

「よっし! 今から向かう!」

「は、はい!」


 俺は部屋から飛び出した。身だしなみは問題ないと確かめずに柚美を訪ねようと走った。


 まさしく一心不乱と言わんばかりの行動である。早めのペースを維持しながら柚美の自宅まで走り抜けていく。


 近くなって来ると汗が額に浮かんで来た。それだけ無我夢中で走っていたんだ。一時的に休めないで体を動かしているせいで息が切れ始める。


 呼吸を乱しながらも目的地まで走り続けた。


「つ、着いた……!」


 すでに息を荒らげた状態で到着する。早く会いたいと気持ちが騒いでいた。


 急いでインターホンを鳴らす。チャイムが鳴ってから少し経過した頃に柚美が顔を出した。


「は、はーい! あ、優星くん! 来てくれたんですね!」

「あ、あぁ……!」

「全く、無茶してどうするんですか? 急いで走って来る必要なんてありませんよ!」


 あまり柚美は俺が起こした行動をよく思っていないみたいだ。でも、一言だけ告げておく。


「急ぎたかったのは俺だけだよ……。すぐに柚美と会いたかったんだ」

「そ、そうなんですか……? それなら良いですけどぉ……。それじゃあ上がっていきますか?」


 その一言は非常に衝撃的だった。滅多と言うぐらいの稀少度では収まらない。


 これまで柚美の部屋に入ったことは二回ほど。色々と理由があって入れてくれないんだ。


 でも、この瞬間は違った。普段なら舞い込んで来ないような幸運を掴み取れたみたい。凄く感激でいっぱいだった。


「本当か⁉︎ 迷惑じゃなきゃ良いぞ!」

「もちろん迷惑じゃありませんよ? 遠慮しないでください」

「お邪魔します!」


 柚美から稀少なお誘いが来て内心は舞い上がっていた。もう二度とないチャンスを窺わられている気がする。


 でも、断らないで自宅に上がった。


 丁寧に靴は踵を揃えて並べておく。他の靴と紛れて並べられていた。こっから見ると馴染んでしまっている。


(別にどうでも良いか……)


 これから柚美が使っている部屋で二人きり。俺は心臓が激しく高鳴り、ようやく行き着けたんだと楽しみだった。


「あまり入れても良いような部屋じゃないです。だから、指摘は避けてくれませんか?」

「分かった。でも、柚美だから心配ないだろ」

「本当ですか? うーん……」


 唸りながら柚美がドアを開けて入っていく。


 初めて入る部屋を拝見した。想像していたような感じではない。けど、綺麗に整頓が利かされているのが窺えた。


「やっぱり、綺麗だわ。これが柚美の部屋なんだな? 想像より良いかも」

「ありがとうございます。いつも整頓は心がけているんです。でも、優星くんだって同じじゃないですか?」

「そうでもないよ。ま、お互い綺麗好きみたいだわ」

「はい!」


 やっと拝めた領域。新鮮な空気が吸えている気がしてならなかった。しかも、程よい温度に調整されている。


 これまで柚美は繊細だから整頓が欠かせないイメージを持たせて来ていた。それがこの瞬間で確信に変わる。


「それじゃあ少しだけ一緒に過ごさせてもらいます。今日は特別ですからね?」

「悪い。ありがとう」

「ふふっ。二人きりとかリアルで良いです。今後はそう言った機会を増やして行きますよ」


 こうして同じ空間で二人きりを過ごした。かなり心が躍ってしまうようで、如何わしい妄想を抑えながら楽しんだ。

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