第15話「和音だけに伝えたい交際事実」
取り敢えず彩穂には、Vtuberを始めようと考えていることを伝えた。すると、意外な一言が返って来る。
「わ、私も混ぜろ。本当は興味あったんだよね?」
「は、はぁ……?」
赤面しながら一緒に活動したいと言い出して来た。これは意外すぎる返事である。だけど、二人なら心強かった。
「分かったよ。正直、全く問題ない。それどころか助かるわ」
「本当に? それなら言ってみて良かったかも……」
「とにかく編集スキルを学びたくて一冊読んでみようと思ってさ」
例の一冊を彩穂に見せてみる。それを見た彩穂が大きく頷きながら賛成した。
「良いじゃん! これがあれば編集は問題ないや! あははっ! 助かるぅ〜!」
「ま、編集なら俺がやるよ。だから、彩穂は俺と配信で良いだろ?」
「うん、分かった!」
編集は俺が受け持っておいた。後で何かと問題になってもしょうもないからだ。
それに二人で交代しながら務めるのも面倒だから俺から受け持ってやった。これなら争わなくても良いだろう。
今日は編集スキル取得に励んで行く。彩穂は同人誌制作を進め、早く片付けてもらうことにした。これで俺も専念して取りかかれる。
しばらく編集スキル本を読み、三時間に渡る実践が試された。少し背筋を伸ばしてからリラックスしようとリビングに向かう。柔らかいソファに寝転がってくつろいでみた。
「やっぱ一から学ぶのは大変だわ。それなりに苦労するかも知れない。あいつらは凄いや」
ふと、スマホが気になって開いてみる。スマホの通知に柚美から連絡が入っていたみたいだった。
「やべっ⁉︎ 気がつかなかった⁉︎」
どうやら休み時間に連絡して来ていた。中身を確認してみると、体操着の姿で柚美が写っている。それには少しびっくりしてスマホを落としそうになった。
「ゆ、柚美ぃ……。これは凄い写真だなぁ……」
思わず生唾を飲み込んだ。こんな写真を送って来るなど、本来ならあり得ない話しだろう。これは犯罪級の代物だった。
誰にもバレないように写真は保存しておく。これを消してしまうなど、勿体なくて出来なかった。
その場に彩穂はいなかったので、恐らくバレていないはずだ。次からメッセージを開く際は周囲を確認しようと思った。
午後六時を迎える。これから和音がうちに来てくれる予定だった。
久しく会っていなかったせいか、急に和音から押しかけて来た話である。俺としては編集を教えてもらうと言った要件で了承した。
「やっほー! 久し振りぃ〜!」
「遅かったな? 予定より一時間は遅いんだけど」
「ごめーん! ちょっと寝そびれちゃってさ!」
「はぁ? 理由になってないだろ」
ツッコミたくなる理由を提示して来るところは昔と変わらない。天然気質が目立つのが和音だった。
それはともかく家に上がってもらう。早く済ませたかったのも理由としてはあった。それ以前に時間は有限だから急ぎたかったんだ。
取り敢えず自室に和音を招いた。キョロキョロと和音が部屋を見渡してから感想を述べて来る。
「ちゃんと片付いてる。女性が入るのに適しているじゃん! 偉い!」
「当たり前だ。俺が部屋に招く時は掃除は不可欠だからな」
「やっぱ意識するよね!」
和音は明るい笑顔で肯定して来る。いつも和音の場合だと、周りを積極的に肯定する癖があった。それは昔から変わらないみたいである。
そんな和音と編集スキル取得を目指していく。
「私たちは基本的に全員で編集は回すスタイルなんだよね? だから、争いごとはなかったりするんだ」
「ふーん? でも、今回は俺が編集しようと予定してるわ。彩穂も一緒に配信するとか言い出して決まった話だよ」
「へぇ? それは良いと思う! 特に男女で配信するのはカップル誕生の予感がするよね! あ、優星には私がいるから譲らないけど!」
和音がにんまり笑顔で宣言して来る。そんな表情も可愛くてしょうがないのは事実だ。けど、すでに交際している身だから和音と関係は作れない。
だから、一言だけ告げておいた。
「正直、二人とも興味ないんだよなぁ〜」
「ん? それって嘘だよね?」
「い、いやぁ……」
すると、和音はむすっとした表情で激怒する。
「もう帰る!」
「ま、待って! お願いだから編集だけ頼むよ!」
「嫌っ! だって、優星がいけないんだもん!」
「頼むからぁ〜!」
和音を必死に引き止める。最終的に止まってくれたが、表情は未だ怒っているみたいだった。
「ふんっ!」
「怒ることないだろ?」
「バーカ! 優星は何も分かってないじゃん!」
これじゃあ和音のわがままを聞いてあげないと無理かも知れない。それなら違う奴を呼んでみるのも考えようだ。
ただ、それでは和音と不仲になってしまう。これからも仲良くしたい気持ちはあるんだ。なら、何とか交渉してもらう他ないだろう。
「本当に頼めないか? マジで頼ってんだよ。和音は有名だし、編集だってプロだからさ。俺なんか頼らなくてダメなんだ。こう見えても和音を満足させられるか分からない」
「むっ……。優星ってば、悩んでたんだね?」
「ち、違うけど……」
「やっぱ帰る!」
結局は和音が聞いてくれることはなかった。今度は引き止めないで帰らせようと思ってしまう。
すると、自ら足を止めて振り返った。駆けて寄って来たと思ったら、急に抱き締めて来る。
「大好きなの! ずっと優星が好きだったんだからね!」
「か、和音……⁉︎」
「お願いなのは私の方なんだよ! 分かって欲しいから意地悪したんだもん!」
本気で和音は気持ちを伝えて来た。もはや、自然と涙が溢れてしまいそうだ。こんなにも愛してくれている人が訴えて来る。これは蔑ろにして良い話じゃなかった。
でも、俺は柚美と交際している。だから、断ろうと必死だったんだ。けど、あまりにも俺は不甲斐ない奴だった。
(断るしかないんだよな? これでも気持ちがないんじゃない。でも、ダメだから断ったんだよぉ……)
堪えていた涙が溢れ出してしまった。もう、誤魔化せなかったんだ。この涙は止まりそうにない。
「ご、ごめん! お、俺ぇ……⁉︎」
「ゆ、優星……? どうして泣いてるの⁉︎」
「あ、ゔぅ……うわぁぁぁ⁉︎」
この後で涙した理由を話してしまう。これは隠し切れない事情だった。だからこそ、和音だけには伝えておく。
「俺は安奈の友達と交際してんだよ。今まで内緒にしていたんだ。ごめん……」
「な、何だ……。もう付き合ってたんだね? ただ、相手は女子高生かぁ……」
「悪い。高三の時に告白されちまったんだよ。あの時は小学六年生だったっけな。でも、交際開始は高校進学が決まってからとか言われて了承してさ。丁度、今年の四月から交際を始めたばかりだ」
白状してみると、意外に気持ちが軽くなっていく。でも、ぎこちなさは残っていた。
さらに、少しずつ和音は表情を歪める。ついに泣き出してしまう事態を招いた。
「うっ……うぅぅぅ⁉︎ 関係が戻って始まるはずだったのにぃ……! 何でぇ、もう交際なんかぁ……私がバカみたいじゃん……!」
泣き崩れた和音を見た時、俺は絶望と言う言葉以外に出て来なかった。和音が泣き止むまで俯いていようと思ってしまう。
しばらく俺たちは悲しんでいた。そんな狭間で和音から声かけて来る。
「……優星、ちょっと良い?」
「……ん?」
再び和音が抱き締めて来た。いきなり何の真似かと思ったら、謝罪しながら決意を示す。
「ごめんなさい! 私が悪かったんだよ! でも、優星が事実を語ってくれて分かった気がする! これから私は優星たちを応戦したい!」
「え、ええっ⁉︎」
「ずっと私たちは友達だからね!」
少し困惑してしまったが、落ち着いて考えてみれば分かる話だった。和音の気持ちは伝わっている。それは潔く諦めようとする意思である。
ギュッと和音から抱き締められるのも最後だった。




