第12話「頼れる存在」
早速、千歌からアドバイスを頂く。始めは極めてシンプルな内容を踏まえる必要があるみたいだった。
「探す前に就職希望を決めておくと良いよ。これが決まってないとエンドレスに探し続けて見つからないだろうからさ」
「なるほど。でも、就職希望とかないんだけどな?」
「だから、取り敢えず自分が受けても良い条件を並べてみれば分かりやすいと思う。まずはどこで働きたいの?」
千歌が丁寧に教えてくれた方法で進めていった。千歌は手慣れた手法で、色々と教えてくれている。これなら就職も決まりそうだ。
とにかく条件がないと絞れない。だから、適当に提案していくと、千歌は唸ってしまっていた。
「これは『配信者』とか良いかも知れないなぁ。だって同人誌の宣伝を兼ねたいんでしょ? それならユーチューブで活動した方が早いよ」
「なるほど。でも、やり方が分からないんだよねぇ」
「そこは知り合いでも尋ねてみよう。後は一緒に配信してもらえる相手がいれば、動画がバズりやすいんじゃないかな?」
千歌が提案した配信活動は、身近にプロがいるから聞けるかも知れない。
ただ、問題は配信センスだった。これがなければ動画は見てもらえない。より面白い動画を出せるのが第一条件だと思った。
何となく分かるような気がして難しいんだ。けど、少しだけ興味が湧いて来た。
取り敢えず配信活動で話を進めていく。一度だけ試してみるのも良いと思って賛成した。それが大いなる一歩だと信じていきたい。
「ネット通販で購入した方が良いだろ?」
「もちろんだよ。ネット通販が無敵すぎるんだよなぁ」
いつの間にか青夏が加わっていた。
ちなみに俺から誘ったんだ。何故なら有名Vtuberとして知っているからだった。
そこで不意に青夏からとある質問が投げかけられた。内容は至ってシンプルである。
「それより優星がVtuberなんて出来るのかな? そこが不安なんだけど?」
「言われると思ったわ」
「一番の疑問でしょ! それが問題なかったら聞かないよ!」
凄く軽いノリで突っ込まれて羞恥してしまうが、青夏の抱いた疑問は分からなくもなかった。
ただ、自分としては本気で考えているつもりである。何故なら同人誌を宣伝する上で有効だからだ。これを取り入れることに意義はなかった。
取り敢えずネット通販を探しながら青夏に返答しておく。
「自信はない。けど、気持ちは本気だ。別に配信したい気持ちがなかった訳じゃない。内心で憧れはあったからな」
「ふーん? それなら問題ないかも。私だって同じ気持ちだったよ?」
「そっか。なら、大丈夫だな」
ほっと胸を撫で下ろせた。もはや、不安が軽くなった気がする。けど、少なからず問題は解消されていなかった。
「機材はカートに入れておいたよ。これが特にお勧めだから見て損はないと思う」
「本当か? サンキュー!」
青夏が勧めてくれた配信用の機材が纏まっていた。その中を一個ずつ確認してみる。
全体的に値段は安い方だった。中でもマイクが安値だと思える。
これだけ揃えるとしたら、大して配信活動も大変じゃないかも知れなかった。とんでもないぐらい安心感で満ち溢れている。
「取り敢えず良いと思ったんだけど、最後に確認しても良いか? 問題は動画撮影と編集なんだけどさ?」
「それなら過去に面倒見てもらった方を紹介するよ。今から電話かけてみる」
「え? 他に任せるのか?」
「うん。その人は報酬を出せば任されてくれるから安心して」
そんな風に言ってから青夏は電話し始めた。しばらく通話が続き、話は完了したみたいである。
「オーケーだって! それじゃあ明日にでも会って来なよ。すぐ話しておいた方が楽だし、向こう側も明日なら予定が空いてるからさ!」
「分かった。取り敢えず会えば良いんだろ? マジで助かった」
「ううん。大したことはしてないよ」
さっと青夏は立ち上がり、一言だけ帰ることを告げて来た。
「そろそろ帰らないとなんだ。用事があるからまたね!」
「おう。ありがとな! 気をつけて帰ってくれよ」
「うん!」
そうやって青夏を玄関から見送った。青夏は元気よく手を振り、曲がり角で姿が消えていく。
とにかく出来る範囲で配信準備を進めていこう思った。
中に戻ってみると、千歌が姿を見せる。そう言えば一緒にいたことを忘れてしまっていた。随分と不機嫌っぽい表情を浮かべながら声かけて来る。
「どうだったぁ? なんか仲間外れだったんだけどさぁ〜」
「ごめん。もう終わったよ」
「それなら良いですよぉ〜、っだ!」
明らかに怒っているみたいだった。そこで機嫌を直してもらおうと、食事に誘ってみようと思う。
「それじゃあ飯でも食わないか? 腹減ったろ?」
「え〜。今から彼氏とデートしようと思ってたんだけどなぁ〜」
「そっか。じゃあ、また今度で良いよ」
「悪かったですね」
どうやら最終的に機嫌は直らなかった。けど、今度は埋め合わせしようと考えている。
現在は午後五時過ぎを迎えた。今からラーメンでも食べて来るつもりだ。
彩穂は一人で食事を済ませると連絡して確かめてあった。だから、今回の食事は一人だろう。
最近は一人きりが多かった。実際には彩穂が家を出ていることが頻繁だったのである。俺としては大して気にするようなことでもなかった。
「醤油ラーメンお待ち!」
「いただきます!」
いつもラーメンを食べる屋台は決まっているもんだ。ここが打ってつけだと、彩穂から紹介されてハマっていた。どうにも通い詰めたくなるぐらいに美味い。
ただ、意外と一人きりは寂しかった。何故か手が止まってしまう。
「どうしたもんかなぁ……」
ため息を深く吐いてみる。すると、後ろから声をかけられた。それは随分と大人びた懐かしい声だ。
「あら? 正村くんじゃないの?」
「ん?」
振り返った先に黒い短髪美女が立っていた。彼女が目に入った時、一瞬で高校時代を思い出してしまう。
「鶴谷先生⁉︎」
「こんなところで一人ラーメンかよ。まだ彼女がいないんだな?」
「うるさいですよ。それより何でここに先生がいるんですか?」
「ここは有名だろ? 雑誌に載ってたんだよ。知らないのか?」
鶴谷先生から指摘されて有名だと初めて知って驚く。あまり雑誌は目を通さない派なんだ。
久し振りに再会した彼女は鶴谷千尋。高校生の俺を担当した英語教師だった。鶴谷先生ぐらい世話を焼いた方は存在しないほど、面倒見が良かったことを覚えている。
この後で少し会話していった。




