第11話「思わぬ遭遇」
結局、話は思っていた方角から逸れてしまっていた。三人から『友達として関係を築きたい』とか誘って来る。
返事は『断る』と言う一択のみ。ただ、意外と近いところに千歌が住んでいる。これだと住所を突き止めるのも容易いはずだ。
(距離を取るのは難しそうだなぁ。それなら仕方ないわ)
話を受ける決心がついた。下手に切り離すよりも関係は多少なりに維持していた方が楽かも知れない。後は成り行きでどうにかしていこうと考えていた。
「今日はありがとう。また、優星と関わるとか、思ってもみなかったよ」
「そりゃあ卒業した時点で終わっていたはずなんだから当然でしょ。ま、よろしく頼むよ」
「それじゃあ犯罪には気をつけてね!」
「余計なお世話だ!」
最後のツッコミは、一気に疲労感を積み上げてしまう。精神的に参ってしまい、ゆっくり休みたかった。もはや、過去の関係を戻したくなかった訳じゃないのに、何故か抵抗感が生じている。不思議と関係性と言うのは、本来から背負うものが違っているんだ。
「じゃあ俺は帰るからな? しっかり学校は行って来るんだぞ?」
「もちろんですよ。ただ、後一つだけ言いたいことがあります」
「それは何かな?」
柚美から別れる前に気遣って一言が告げられた。それは精神負担を軽減してくれるような心遣いである。
「今回は予定から外れちゃったけど、あまり気にしなくて大丈夫ですからね? 私は優星くんと過ごせて楽しかったです。ありがとうございました」
「ゆ、柚美……?」
天使みたいな一言に心が溶けてしまいそうだった。もはや、柚美だから助かった気がしてならない。
とにかく友好関係が成立してしまった件は問題なかった。取り敢えず親しい以外に気遣わなくても良いだろう。
「また今度もお願いします! さようなら!」
「じゃあな。次は二人で過ごそう!」
そんな約束が交わせて心は軽くなった。これも柚美がもたらしてくれたんだ。凄い感謝したかった。
柚美と別れてから一人で帰路に立つ。今度はどうやって柚美を迎えてあげようか考えながら歩いていた。その時、偶然にも青夏と遭遇する。
「あ、奇遇じゃん。優星と夜中に巡り会えるなんて思ってなかったよ」
「それは俺も同じだ。今から帰るのか?」
「うん。ちょっとコンビニに買い物して来たんだよ。今は帰る途中だね」
青夏が片手に持っているレジ袋からコンビニから帰ろうとしたんだと分かった。それがコンビニでしか扱われていないレジ袋なら尚更だろう。
「もう行くね? この後は配信があるから準備しないといけないからさ」
「なるほど。頑張ってくれよな!」
「了解!」
久し振りに青夏と出くわしたけど、笑顔が窺えて良かった。特に困っていることはなさそうだからすぐ別れる。
そして自宅が見えて来たところで、とある人物を見かけた。ちなみに彼女は和音だ。
次の瞬間、少し先で彼女と視線が合う。すぐ彼女から駆け寄って来ると、会話が始まってしまった。
「ふーん? こんな時間帯に散歩とか、意外と暇なんだね?」
「別に暇だからと言うか、ちょっとした気分転換だよ。これから原稿を仕上げたいのもあってさ」
「それなら失礼しました! ところで優星は、今からお邪魔しても大丈夫かな?」
無邪気な笑顔を向けて来る。それは自宅に上げて欲しくて見せて来た。それを断るつもりで返事する。
「断るとしたら怒る?」
「怒りたくないんだけどなぁ〜」
「悪い。今日は疲れたんだ。また今度なら歓迎するよ」
「しょうがない。それなら今度にする」
あまり和音は食い下がって来なかった。何故か自ら受け入れてくれる。
取り敢えず和音とも別れ、自宅を目指して歩いた。到着してから麦茶を飲み、宣言したように仕事する。
しばらく仕事に打ち込んでいた。その途中で青夏から連絡が届く。
『こんばんは。夜中にごめんね。今、配信が終わったところなんだぁ。時間があれば見てください』
それは動画視聴を促すような内容だった。柚美を送った帰路で会った時も配信すると言っていたことを思い出す。
(後で視聴してみるか。柚美と彩穂にも勧めておかないとな)
そんなことを考えながら短めのメッセージを返信して作業に戻る。すぐに彩穂から返信が来て、一言だけ『了解』と言う返事が来た。
この時間帯だと、残る柚美は就寝している最中かも知れない。
(そう言えば明日は学校だったよな? 放課後にでもご褒美を用意さておくか)
より柚美が喜びそうなサプライズを用意しようと予定した。まだ時間は余裕だからこそ、内容は深く考えていける。今は作業を優先して取り組んでいった。
二時間が経過する。無事に作業は終わり、後は見直してから編集するだけだった。
「大分、疲れたわ。やっぱり、作業は疲労が伴うもんだなぁ〜」
大きく息を吐いてリラックスする。
そしたら、一つ思い出したことがあった。それは彩穂の分まで朝食を作らないといけないことである。これだけは手を抜かない優先事項として挙げていた。
理由はシンプルだ。本来、朝食は俺が作る条件を提示している。それを最近は破りがちだったんだ。つまり、今日こそは守らないとまずかった。
「作りにいくかぁ〜。取り敢えず約束は破れないしなぁ」
今から朝食を作ろうと考えた。それが終われば彩穂だって文句ないはずだ。
俺は静まり返った包まれた台所を目指す。そこの電気をつけ、料理する準備し始めた。
「メニューは『目玉焼きトースト』と『味噌汁』で良いか。この組み合わせが好きだったからな」
朝食案を出したら、まずは手順を確認して進めた。
先に具材から準備していく。にんじんとじゃがいも、わかめと玉ねぎで作る予定だった。これらの具材を切り分ける作業に取りかかる。
しばらく調理を進めていると、二階から彩穂が降りて来た。彩穂は軽く挨拶してから朝食に触れる。
「おはよぉ〜。って、朝食作ってんじゃん! 久しく食べてなかったからなぁ」
「それは良かった。約束は果たそうと思っていたんだが、最近は悪かったよ。今日から一週間は徹底する予定だ」
「よろしくお願いするよ。優星が作った飯は美味いからさ」
日頃から俺が作った料理は美味いと彩穂は褒めてくれた。それが嬉しいから続けても良いと思える。美味しそうに噛み締める彩穂を見ていると、作って良かったんだと実感した。
これから続けても朝食を作る予定だ。調理を好まない彩穂だと、いつも適当に食べている時が多い。だから、俺は作ってあげたかった。
食器洗いは彩穂に任せたら、再び求人サイトを開く。同人誌なら片づているため、しばらく放置しておこうと思った。
午後二時を過ぎた頃。千歌から電話がかかって来たから応答してみた。
「もしもし何か用事でもある?」
『今からそっちにお邪魔しても良いかな? 結構、この時間帯は暇でさ? 優星と話したいことがあるんだよね! お願いだから五時まで付き合ってくれない?』
「別に構わないけど。代わりに少し相談に乗って欲しいんだよなぁ。駄目か?」
『それなら任せて! 私で良ければ乗るよ! それじゃあ住所を教えて』
「分かった」
すぐ住所が特定できるように送ってみた。一分だけ間を置き、千歌から返事が来る。
『ありがと〜。それじゃあ今から行くね!』
それだけメッセージを確認して彼女を待った。
千歌ならオススメの副業が分かるかも知れなかった。果たして千歌が勧めてくれる副業は何か楽しみである。
「お邪魔しまーす!」
「どうぞ。ご遠慮なく」
千歌は靴を脱ぎ、踵が揃った状態で並べる。その一面は昔から変わらなかった。
「意外と広いし、綺麗に掃除されてるじゃん!」
「まぁ、ビジネスパートナーと同居している訳だから掃除は不可欠だろ?」
「それは言えてるかも!」
千歌を呼んで正解だった。彼女を通して本格的に就職先が決まれば問題は解決するんだろう。




