第10話「就職先を探す」
現在、俺は凄く悩んでいた。何故なら同人作家以外で就職を考えているからだ。
求人サイトを見てみるも、色々と一覧が出て来て複雑すぎる。これでは迷い続けて時間だけが過ぎていく。
「やるとすれば副業だろ。じゃあ、どこが向いてるんだよ……」
今まで就職なんて考えたことがなかった。高校二年でイラストを褒められた時から漫画制作に没頭していたんだ。近所で家に上げてくれる現役の漫画家さんから教わった。
代わりに家事とか買い物をこなして練習を見てもらう。卒業する前に漫画制作が出来る状態まで仕上がった。その段階で同人作家を目指していたが故に進学は考えていない。
結果、現状に至るのであった。売れっ子として活躍できている今だと、他で就職は考えにくいだろう。けど、新しい稼ぎ手が欲しかった。
「取り敢えず見た一覧から八つまで絞れた。後は八つから選んでいくんだな? よーし!」
張り切って考え込んだ。しかし、一向に決まる気配がなかった。そこに彩穂が起きて来る。
「ふわぁ。こんな朝っぱらに何してんの?」
「新たに就職したくてさ」
「はぁ? 優星は私と同人活動で稼いでるじゃん。他で働いてどうすんのよ」
「色々と理由があるんだ。気にしないでくれ」
彩穂を放っておき、俺は集中して考えていた。これは俺と柚美が困らないために目指しているんだ。特に彩穂は関係なかった。
そして全て目を通してみたが、最終的に決まらない状態である。これだと丸一日でも足りなかった。
隣で彩穂がいちごジャムパンを食べながら横から眺めていた。あまり悩む必要がない彩穂は眺めるだけで大した苦心を窺わせない。
「マジで探してるんだな? 優星とか将来は同人作家の一択で、勉強なんて適当だったもんね」
「うるさい。過去はどうでも良いんだよ。大事なのは今だろ」
「分かってるけど」
彩穂が何気ない話を振って来る。それが邪魔にも思えて仕方がなかった。それを指摘する時間が勿体ないと求人サイトを見直す。
しばらくしてお昼休みを迎えた。丁度、空腹になったので、簡単な料理を作って頂く。
「腹が満たされたぁ〜。何かやる気が起きねぇわ」
すでにやる気を失ってしまい、今から求人サイトは見れなかった。そもそも就職が難しいなんて考えてもみなかったんだ。時に人生は高い障壁が立ち塞がるんだと経験した。
(これじゃあ柚美に悪いなぁ……)
自分が不甲斐なく思えてしまう。副業すら見つけられないとは、情けなくてしょうがなかった。
(本当に柚美を幸せに出来るのか? やってやんねぇな……)
一つだけ悩み事が出来た。非常に難しい問題にぶち当たってしまい、俺はもどかしさに苦しめられる。
気付けば同人誌制作を進める時間が来てしまっていた。だから、今は引き上げようと思う。
次の日。俺は柚美からデートがしたいと誘われた。
もちろん断る訳がない。こんな貴重な時間を過ごせるのは今だけなんだ。老けてしまえば、思い出を作れなくなっているだろう。
とにかく支度して待ち合わせ場所を目指した。
大体、到着した時刻は九時を過ぎた頃だ。約束した時刻が九時十五分だから少し早かったかも知れない。
待ち時間はスマホで電子書籍を利用してライトノベルで読書した。ただ、余っていた十分間はあっという間に過ぎていく。
「––––何を読んでるんですか?」
急に横から柚美が声をかけて来る。びっくりして思わず変な声が出た。
視線を柚美に向けると、可愛らしいワンピース姿が窺える。これが交際している現役女子高生なんだと感心した。恐らく集中して読書する姿を見かけて忍び寄って来たんだろう。
それより張り切って支度して来るとは思ってなかった。
デートに気合が入ってない自分を相応しくなるには見た目も気したい。柚美からカップルでデートする際に気をつける点が理解できているはずだった。
「そのワンピースは買ったのか?」
「いいえ。残念ながらお下がりです。けど、綺麗で可愛いと思いませんか? 凄く気に入ってしまったんですよ」
「見た限りは問題ない。ただ、見えなくても怠るんじゃないぞ?」
「はーい!」
白いワンピースが柚美の純粋さをしっかり際立てている。凄く清楚気質が生きていると思った。
やはり、柚美と交際したのは正解だと言えて誇らしい。こんな彼女がいたら、周囲は羨ましいはずだ。
(まだ、諦めちゃダメだなぁ……。もう少し粘ってみないと柚美に悪い)
内心が少し照らされた気がする。柚美が隣を歩きながら歳を重ねていくパートナーに相応しかった。
取り敢えず街中を隣歩きで回ってみる。どこか行きたい場所があった訳じゃなかった。それ故に『散歩デート』みたいな感じで時間を過ごしていく。
すると、思いがけない事態と鉢合わせてしまった。微塵も警戒していなかったことだから驚愕を隠せるはずもない。
「ねぇ、もしかして正村くんじゃないなかな?」
ふと、後ろから呼ばれた気がして振り返る。そこに立っていたのは、懐かしい顔ぶれだった。
「な、なっ⁉︎ お、お前たちぃ……」
「おお! やっぱ優星じゃん! 凄い久し振りだね!」
「まさか久しく見かけた同級生が女の子を連れて歩いてやがる。ちょっとムカつくかも」
その声を聞いた時、真っ先に『あの三人』を思い出す。三人は俺が中学時代で同じクラスだった記憶が蘇った。
三人とも卒業して離れてしまってから一度も連絡したことがない。それがデート中に鉢合わせるなんて不安だった。
(ここは退散しておこう。柚美を知られたくないからな)
そう思った瞬間、向こうから柚美に自己紹介し始めてしまう。いきないで止める余裕がなくて自己紹介を交わし合った。
それから三人が合流し、一番近い喫茶店に立ち寄る。そこで三人と色んな話が出て来た。
「で、柚美ちゃんは高校一年生なんだぁ。さっき二人で何してたのかなぁ?」
意地悪するような感じで柚美に問いかけ始めた。柚美は堂々と誤解を装って話してくれる。
「私は正村さんの妹と同級生なんです。二人だけで散歩していましたが、厳密に恋人じゃありせんよ。少しお話がしたくて歩きながら聞いてもらってました。
「本当かなぁ? 異性とか興味がなかったんじゃないの?」
何となく昔を引きずられていた。遠慮ない暴露は誤解を招きそうで怖かった。けど、深く掘り下げないで欲しい。過去は語りたくなったからだ。
三人は正面でジュースを飲んでいる。昔から三人揃ってオレンジジュースが好きだったのが思い出に残っていた。
そもそも三人が俺の初恋だったことを周囲は未だ知らないだろう。今となっては黒歴史と近しい思い出でしかなかった。
「優星も異性を分かるようになって良かった。でも、対象が高校一年生はまずいからね?」
「分かってますけど……」
(さすがに交際していることは言えないわ。実際に告白して来たのは柚美からなんだけどな)
少し居心地が悪くて早めに別れたかった。柚美と過ごしていたい時間を三人に捌くのは苛立たしくてしょうがない。
取り敢えず早く話を切って別れようと思った。
「最近は中学校で陸上部のコーチ担当なんだ。昔は全国に行った実績が評価されて高校進学から凄かったよ」
こいつは元陸上部エースを務めた石神楓だ。活発で曲げない性格がクラスを明るく照らしていた存在だった。
見事に全国大会出場を果たして陸上の名門から声がかかっていたみたいである。見た目も可愛い上に体が引き締まっているところが男子を惹きつける要因であった。
「私は個人勢Vtuberのサポート会社で働いてるんだぁ。あの頃、正村くんも一緒に応援したでしょ? だから、貢献したかったんだよ」
彼女は地味っ子を模ったようなオタク女子だった。Vtuberだけではなく、普通に二次元とかも興味があって意気投合したんだ。割と積極的で、夕食を一緒させてもらった経験がある。
しかも、彼女から自宅に招かれて二人でアニメ鑑賞していたぐらい仲良しだった。
名前を堀秋輝乃と言う。久し振りに会った時、輝乃から手を握って来た記憶が蘇って焦ってしまった。
最後に代永千歌は、元吹奏楽部の副部長を務めていた子である。歌唱も得意で、カラオケなんかに誘われてデュエットしてもらっていたんだ。後は少しだけ歌い方を教わって上達した。
「千歌は彼氏とカフェで働いてるんだよね? しかも、彼氏が店長なんだよ!」
「しかも、超イケメンだし」
「千歌が彼氏を作るとは、夢が叶って良かったじゃん。よく『彼氏が欲しい』とか漏らして男子から騒がれたんだもんなぁ」
無数に渡る思い出が蘇って来る。こうして四人が集まれた奇跡は、何とも言えない状況を除ければ良いはずだった。とにかく彼女たちが満足するまで話したら、後はすんなり別れたい。




