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二度目の異世界転生、ざまぁを助太刀させていただきます?  作者: 西園寺百合子


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09 三次元の推しにやられてしまいまして

伯爵令嬢 メイヴィス・モルゲンシュテルン

伯爵令息 アルフレート・ローゼンタール

伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ

エレオノーラがいないことに気がついたら、走っていた。

磨き上げられた大理石の床を靴音が打ち鳴らし、裾が揺れる。

胸の奥がざわついて、呼吸が荒くなっていく。

なぜかわからないけど、追いかけなくてはいけない気がした。

エレオノーラに話を聞かなくてはいけない。

あの場に残された重たい空気も、皇太子の青ざめた顔も、今は頭の隅へと追いやられていた。


きっとあの場は、アルフレートに任せておけば大丈夫だろう。

そんな安心感もあった。

冷静で、誰よりも状況を見ている彼なら、あとのことはきちんと処理してくれるはずだ。

だから私は、ただエレオノーラを追うことだけを考えていた。


夜風が吹き込む玄関ホールを抜け、外へ飛び出す。

石畳の先には、舞踏会帰りの貴族たちの馬車が並び、御者たちの声と馬のいななきが響いていた。

その騒がしさの中で、馬車を待っているエレオノーラの姿が見えた。

淡い月明かりの下でも、その姿は不思議なくらい目立って見える。

あれが、主人公オーラか。


「エレオノーラ様っ!」

私が声をかけると、エレオノーラは少し私のほうを見て、すぐに馬車へと視線を戻す。

その横顔は驚くほど静かで、呼び止められることを最初から予想していたみたいだった。


逃がすものかと走ったけど、その前に、エレオノーラを乗せた馬車は走り出していく。

馬の蹄が石畳を蹴り、車輪が夜道を滑る。

伸ばした手は届かず、風だけが指先をかすめていった。


なんだろう。

エレオノーラはすごく、余裕がある表情をしていた。

まるで、予定通りだと言わんばかりの顔。

窓越しに見えたその微笑みは、追い詰められた人間のものには見えなかった。

むしろ、これから起こる何かを知っている人の顔だった。


「メイヴィス!」

後ろから、アルフレートの声がした。

切羽詰まったような声に、思わず肩が跳ねる。


振り向くと同時に抱きしめられる。

勢いよく引き寄せられ、彼の腕の中へすっぽり入ってしまった。

温かい体温と、少し乱れた呼吸がすぐ近くにある。

ちょっとたじろぐ。


「大丈夫?何かされた?何もなかった?」

矢継ぎ早の質問で、返事をするタイミングがない。

アルフレートの瞳は真剣そのもので、本気で心配してくれているのが伝わってきた。

「あ、アルフレート様、大丈夫ですよ。その…エレオノーラ様に追いつかなくて」

馬車を見送ってしまったことを伝えると、アルフレートは安心したようだった。

張り詰めていた表情が少しだけ緩み、ほっとしたように息を吐く。


「何考えてるかわからない相手なんだから。もっと警戒して」

呆れたように言いながらも、その声音はどこか優しい。

そう言われて、なんだか可笑しくなってしまった。

まるでエレオノーラが悪女みたいなんだもん。


さっき、悪事を犯した皇太子を断罪したのにね。

ゲームではエレオノーラは完璧なヒロインだった。

正義そのもの。

それでもアルフレートは、皇太子よりもエレオノーラを警戒しているように見えた。


ほっとしているアルフレートには悪いけど、不安を感じている。

胸の奥に、小さな棘みたいな違和感が引っかかって離れない。


突然早まった、舞踏会の日程。

エレオノーラのあの余裕の表情。

そして、皇太子の最後の言葉。

いつの間にか、ゲームのストーリーに沿って時間が動いているような感じがする。

それに、エレオノーラは何かを知っている気がする。


「今日はもう帰ろうか」

私が考え事をしていると、アルフレートが手をとってくれた。

大きな手がそっと包み込むように重なり、その温もりに少しだけ緊張が和らぐ。


「ええ…皇太子のほうは、もういいのですか?」

振り返って建物の灯りを見上げながら尋ねる。

「うん。とりあえずはね。後日、調書があるみたいだけど」

そう教えてもらった。

アルフレートも疲れているはずなのに、それを感じさせない落ち着いた声だった。


馬車に乗り込むと、当然のようにアルフレートも同じ馬車に乗る。

扉が閉まり、外の喧騒が遠ざかる。

ランタンの柔らかな灯りが車内を照らし、向かい合う距離の近さを妙に意識してしまった。


一応、付き合っていることになっているのだから自然なことなんだけど。

エレオノーラのことを考えなくてはいけないのに。

視線の端にいるアルフレートの横顔ばかりが気になってしまい、思考がどうしてもそちらに向いてしまう。

窓の外を眺める真剣な横顔も、時折揺れる髪も、全部が無駄に格好いい。


推しを推しとして好きな気持ちに変わりはない。

これまでと同じように、尊敬も憧れも確かにそこにある。

ただ、その『好き』の種類が、いつの間にかファンとしての域を超えてしまっている気もする。


ゲームをしているときは、二次元だったのに。

今はリアル。

目の前で息してるんだもん。

馬車が揺れるたびに衣擦れの音がして、近くにいることを嫌でも実感してしまう。


顔も性格もタイプなら、好きになるなというほうが無理な話で。

自覚した瞬間に、余計に意識してしまうのが厄介だった。

心臓の音がうるさく感じて、変に黙り込んでしまう。

アルフレートにこの気持ちがバレないようにしないと。


私とは付き合っているフリをしているだけ。

あくまで計画のための関係であって、それ以上でもそれ以下でもないはずだ。

エレオノーラへの復讐が終われば、アルフレートは家門に似合う女性と結婚するのだろうから。

きっと隣に並ぶのは、私みたいな底辺にいる伯爵家の令嬢ではなく、彼と釣り合う完璧な令嬢だ。


その未来を思い浮かべると、少しだけ胸が痛い。

馬車の窓に映る自分の顔は、思ったより寂しそうに見えた。

それでもそれが正しい結末なのだと思うようにした。

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