07 超豪華な舞踏会で踊ることになりまして
伯爵令嬢 メイヴィス・モルゲンシュテルン
伯爵令息 アルフレート・ローゼンタール
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
キラキラと豪華なシャンデリアが視界に入る。
天井高く吊り下がったそれは、無数のクリスタルを揺らしながら、舞踏会場全体に虹色の光を散らしていた。
足元の磨き上げられた大理石にまで光が反射し、まるで会場そのものが輝いているように見える。
そこを、まるでいつも歩いているような足取りで歩く。
いや、ドキドキですよ。
豪華な食事、スイーツ。
長テーブルには色とりどりの料理が並び、香ばしい肉料理や繊細な焼き菓子、宝石のように艶めく果物が整然と配置されている。
甘い香りと香辛料の匂いが混ざり合い、空腹でなくとも心を浮き立たせるほどだった。
いつもなら、真っ先に行く。
現世であったなら、花より団子だもの。
まずは料理をチェックしちゃうんだけど、今日は我慢。
そして、楽団。
舞台の一角では、統一された衣装の楽団員たちが弦を鳴らし、管楽器が華やかな旋律を重ねている。
ワルツのリズムが床を伝い、踊る者たちの足取りさえも自然と軽くさせていた。
それほど得意ではないダンスだけれど、アルフレートのために日々努力はしている。
そんな、無駄にお金がかかっている、皇太子主催の舞踏会。
社交は大切だけど、これほどお金をかける必要性を感じない。
私はシャンデリアを見上げながら、内心でそっとため息をついた。
前世の感覚が抜けないせいか、どうしても「費用対効果」という言葉が頭をよぎってしまう。
この豪華な豪華な舞踏会、前回はもっと後に開催されたはずなのに。
だから、少しだけ嫌な予感がしている。
思い過ごしであってほしいのだけれど。
ただ、無駄に豪華な舞踏会で踊るアルフレートはカッコよかった。
アルフレートは、少しも緊張した様子を見せず、自然体のままステップを踏んでいる。
視線の動かし方ひとつ取っても洗練されていて、きゅんきゅんする。
もう、スチルにして…
だめだと思っているのに、オタク心が揺さぶられた。
前回は、アルフレートとエレオノーラが華麗に踊る姿を見てトキメイテいたものだ。
そのときは観客の一人として、少し離れた場所から眺めていただけなのに、胸が高鳴って目を離せなかったのを思い出す。
もちろん、ゲームではその様子はスチルになっていたわけだけど。
今回は、私がアルフレートと踊らせてもらっている。
これはスチルになるのか。
いや、ならないよね。
ゲームの中では私はやっぱり、モブなんだもん。
そんなわけで、夢にも思わなかった状況に、手のひらが少し汗ばむのを感じる。
ひぃってなりながら、必死にリズムを合わせている。
周囲の視線が刺さるようで、落ち着かない気持ちもあった。
相変わらず下手くそな私を、アルフレートがわからないようにフォローしてくれて申し訳がない。
これでも、頑張ったんだけどね。
優しくて素敵な推しのため、これからも頑張ろうと心に誓う。
舞踏会は滞りなく終わりそうだ。
音楽も途切れることなく続き、誰もが笑顔でグラスを傾けている。
表面上は何事もなく、平和そのものの空気が流れていた。
主催者である皇太子が出てきて挨拶を始めた。
無事に終われと、それだけを祈る。
高い壇上に立ち、両手を広げるその姿は堂々としているが、どこか芝居がかったようにも見える。
こういう、わざとらしいとこがダメだと思うんだよね。
乙女ゲームの皇太子だから、そこそこカッコいいのに。
まあ、推しには勝てないけど…
皇太子は満足そうに会場全体を見渡している。
主催者が皇太子ということで、王と王妃も顔を出している。
王族席には厳かな空気が漂い、周囲の貴族たちも自然と背筋を伸ばしている。
普段よりも緊張感のある静けさが場を支配していた。
そんな中で、皇太子は、ただの自慢話を語っていた。
内容としては中身の薄いものばかりだが、本人は得意げに語り続けている。
誰か、止めてよ。
見ていてイタイ…
ただ、この時点ではみんな、皇太子はいい人だと思っているから「さすが皇太子」と褒めたたえている。
周囲の貴族たちは作り笑いを浮かべながら拍手を送り、空気を壊さないように同調していた。
民のことを考えて行動する、生まれながらの皇太子に、みんなが称賛の拍手を送っている。
ちょっと違和感があるけど、今はこれでいい。
チラッと、皇太子と視線が合ったような気がした。
彼は、私たちが周辺を嗅ぎまわっていることに気がついていたはず。
だから、あえて、微笑み返した。
できるかぎり敵意をみせないように、周りにあわせて拍手を送る。
御前会議までは、これ以上の妨害をされたくない。
すると「皇太子殿下、ちょっとよろしいでしょうか」とエレオノーラが声をあげた。
エレオノーラの澄んだ声が会場に響き、ざわりと空気が揺れる。
私は思わずアルフレートと顔を見合わせた。
嫌な感じがする。
これは、前回と同じ流れだ。
皇太子が得意げに話しているところで、エレオノーラが声を上げる。
でも、今回は違うはず。
違う流れにならなければいけないはず。
それなのに、どうして、前回と同じ場面がくりかえされているんだろう。
ドクドクと鳴る心臓の音が、警鐘を鳴らしているようだった。




