48 公園デートをしまして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス
1か月の恋人関係。
あの日の提案を受け入れてから、まだそれほど日は経っていない。
私も自分の気持ちが知りたくて、アルフレートの誘いにのってしまった。
本当に恋なのか、それとも推しへの憧れなのか。
で、ただいまデート中。
春の柔らかな陽射しが降り注ぐ公園を、二人並んで歩いている。
花壇には色とりどりの花が咲き、風が吹くたびに木々の葉がさらさらと揺れた。
公務も忙しいだろうに、アルフレートはわざわざ私のために時間を作ってくれている。
皇太子という立場を考えれば、本来ならこんなふうにのんびり散歩している暇などないはずなのに。
「アルフレート様、無理していませんか?」
少し心配になってそう尋ねる。
私がそう言うと「アルだよ、ヴィ」と言われた。
柔らかく笑いながら訂正される。
恋人でいる間、お互いの名前は愛称で呼ぶことにしたのだ。
アルフレートはアル、私のことはヴィと呼んでもらっている。
両親にしか呼ばれたことがない、子どもの頃の愛称だからなんだか気恥ずかしい。
「無理ぐらいするよ。ヴィに好きになってもらうためならね」
そう言われて、なんだか申し訳なくなる。
「あの…アル。聞いてもいいですか?」
公園を散歩しながら、気になっていたことをアルフレートに聞いてみた。
「その、いつから、私のことを好きでいてくれたんですか?」
ずっと気になっていたことだ。
私がそう言うと、アルフレートが少し悩んだように口元を隠した。
言いにくい話だったかな?
そんなことを考えていると。
「その…うん。正直に言うとね。1回目のときから」
そう言われて、驚いてしまった。
思わず足が止まりそうになる。
「1回目って、現世…あ、アルにとっては異世界か。異世界に来る前のことですか?」
「そう。そのときから。ヴィはいつも、俺のこと気にかけてくれていただろう。俺が困ってると、どこからか現れて」
アルフレートが思い出したようにクスッと笑う。
その表情はどこか懐かしそうだった。
「ほんと、突然現れて、助けてくれて。で、すぐ消えるの。あれ、面白かったな」
そう言って、肩を震わせている。
そんなこともありましたね…
なにせ、影になり日陰になっていたので。
推しの幸せのためなら裏方上等だったし、見返りなんて求めていなかった。
私はモブだったから。
できるだけ目立たないように気を配って、すぐに気配を消していたんだもん。
「でもあのときはもう、エレオノーラと付き合うことになった後だったから。他の女性に目を向けるべきじゃないと思って、ずっと自分の気持ちを押さえていたんだけど」
アルフレートがそう言って、私の手を握る。
指先からじんわりと温もりが伝わってきた。
好きになった相手を裏切らない。
誠実で、不器用なくらい真面目で。
こういう、真っすぐで一途な人なんだよね、アルフレートって。
「…死んじゃって。異世界で君に再会して。運命だと思ったんだ」
そう言って、まっすぐに見つめられる。
推し。
推しパワー。
スゴイ、強烈…
じっとアルフレートを見つめる。
近くで見ると本当に整った顔をしている。
いや、違う。
顔だけじゃない。
言葉も態度も破壊力半端ない。
「それに、異世界でパソコン?だっけ、それのブログ?っていうのに、その。君が書いた、俺への愛のメッセージを読んでしまって…」
アルフレートがそう言うから、一気に現実に引き戻された。
顔から火が出そうになる。
「ひょえっ゛!!あ、あれ、読んだの?よんじゃったの?!!」
思わず変な声が出た。
絶対、本人には読まれてはいけないやつを、どうやらアルフレートは読んでしまったらしい。
ブログというか、ファンの交流SNSに書いていたやつだろう。
『何回でも言うけど、アルフレート様って本当に存在していいんです???
信念を決めたら最後まで貫くし、大切な人のためなら自分が傷つくことも厭わないし。
しかもそれを恩着せがましく言わない。
なに? 聖人?
人類の希望。
世界遺産に登録してほしい。
好き。
そして何よりかっこいい。
外見とか肩書きとかじゃなくて、人としてかっこいい。
覚悟決めた時のかっこよさが致死量。
存在そのものがSSR。
こんな人を推せる人生、あまりにも幸福すぎる。
ありがとうございます。
生まれてきてくれた奇跡に感謝です。
今日も推しが最高なので元気に生きます。』
自分が書いたものを思い出して、このまま消えないかなと思った。
穴があったら入りたい。
いや、穴がなくても掘って入りたい。
なぜネットの黒歴史はこういうときに限って本人へ届いてしまうのか。
意識を手放していると、アルフレートが照れたように私の手を握る。
「俺にとっても、君が生まれてきてくれたこと自体が奇跡。その奇跡があるだけで、今日も元気に生きていける」
そう言われて、ずきゅんとした。
心臓がありえない速度で跳ね上がり、呼吸の仕方までわからなくなる。
きゅん死というのは、こういうことかと思い知る。
推しの破壊力を甘く見ていた。
そして、アルフレートは、ちゃんと私に恋をしてくれていたんだなと思った。




