44 エレオノーラを断罪しまして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス(ローゼンタール)
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
子爵令息 クロード・ヘイスティングス
伯爵令息 セドリック・リヴェンデル
伯爵令嬢 ルシエラ・リヴェンデル
廃皇太子 マルテロ
そこへ、タイミングよく、王が現れた。
会場の扉が重々しい音を立てて開かれる。
護衛たちを従えた王が姿を現した瞬間、その場にいた全員が息を呑んだ。
王は、すぐに状況を理解したようだった。
倒れたテーブル、青ざめた王妃、取り乱したエレオノーラ。
それらをひと目見ただけで十分だったのだろう。
エレオノーラから聞いた、王の話は本当なのだろう。
王は、王妃の不貞を知っていた。
マルテロが自分の子ではないことも。
王妃が王の元へ行く。
それは、とても優雅に。
覚悟を決めた女性とは、強いものだと思った。
「お話があります。とても、大切なお話ですの…」
王妃がそう言うと、王は静かに頷いた。
「エレオノーラ・ヴァランティーヌ伯爵令嬢については、皇太子であるアルフレートに一任する。それでいいか?」
王がそう、アルフレートに言った。
アルフレートもまた、静かに頷いた。
「承知しました」
その横顔はいつになく凛々しく見える。
おそらく王妃は、マルテロと、セドリックのことも話すんだろう。
これから先は、私が立ち入ることじゃない。
王と王妃。
そしてマルテロとセドリック。
複雑な運命で結ばれた4人の背中がゆっくりと遠ざかっていく。
4人を見送って、あらためてエレオノーラを見た。
爪を噛んで、イライラしながら目をキョロキョロとさせている。
追い詰められた小動物のようだった。
先ほどまでの余裕は完全に消えている。
「残念ですが、もう、あなたの『駒』はありません。おとなしく、刑を受け入れてください」
私がそう言うと、エレオノーラが私に向き直る。
ぎろりと睨みつけてきた。
「駒?駒なんていらないわよ。私は、このストーリーのヒロインだもの」
エレオノーラがそう言った。
まるで世界は自分の味方だと信じているようだった。
「エレオノーラ。もう、終わりです。あなたも気づいているでしょう?ゲームのストーリーから、大きく外れている。もうここは、私たちの知ってる世界じゃない」
私がそう言うと、エレオノーラが顔を上げた。
その瞳が大きく見開かれる。
「ゲーム…?やっぱりあなた、転生者なのね?」
そう言われて、静かに頷いた。
もう、隠す必要もない。
「やっぱり!おかしいと思ったのよ!マルテロを陥れたときから…どうして証拠を集められるんだろうって」
エレオノーラがそう言って爪を噛む。
苛立ちを抑えきれないらしい。
「エレオノーラ。俺も、転生してるんだ」
アルフレートが静かにそう言った。
アルフレートの告白には、エレオノーラも驚いている。
「え?ど、どういうこと?」
さすがのエレオノーラも理解が追いつかないらしい。
「正確に言うと、俺の場合はタイムリープしてる。この世界が2度目という転生者なんだ」
そう言った。
アルフレートの言葉に、会場に残っていた人たちもぽかんとしている。
当然だ。
理解できるのは私とエレオノーラくらいだろう。
エレオノーラの頭にクエッションマークが浮かんでいるのがわかる。
状況、わからないだろうなと思う。
私だって、現世で会ったというワンクッションがなければ混乱していた。
「エレオノーラ。君、妊娠してるよね。おそらく、セドリックの子を」
アルフレートがそう言うと、エレオノーラの顔が赤くなった。
一瞬で動揺が顔に出る。
「な、なぜ、それを?」
どうやら、図星のようだ。
アルフレートをチラッと見る。
なんとなくだけど、アルフレートは勘で言ったんだろう。
けれど、当たってしまったらしい。
「タイムリープする前。そこでは君は確かにヒロインだったよ。俺と結婚して、皇太子妃になってた」
アルフレートがそう言うと、エレオノーラが「え?」と声を上げた。
「でもね。君が妊娠したと言い出したんだ。初夜も迎えていないのに。そうして、それを問いただして、君に殺されたんだ」
アルフレートがそう言うと、エレオノーラの表情が固まった。
おそらく、同じ事をしようと考えていたのだろう。
「毒殺…とても苦しかった」
アルフレートがエレオノーラの耳元で囁く。
静かな声だった。
エレオノーラの顔が土色になった。
唇が震え、呼吸まで乱れ始める。
「そのお腹の子を、王にしたいんだよね。俺にそう教えてくれたから。そうして、権力とお金を、自分のものにしたいんだよね」
アルフレートがそう言うと、エレオノーラはその場に崩れ落ちた。
膝から力が抜けたように床へ座り込む。
もう反論する気力も残っていないようだった。
「残念だけど。俺は君と結婚しないし。君は皇太子妃になれないし。その子は、王になれない」
アルフレートがはっきりそう言うと、エレオノーラはようやく観念したのだろう。
顔を覆い、子どものように泣きじゃくった。
そこにいたのはヒロインではない。
自分の欲望に振り回された、一人の少女だった。
ざまぁ、完了のようである。
長かった。
本当に長かった。
アルフレートが私を見て微笑む。
張り詰めていた表情がようやく和らいでいた。
私も満足そうなアルフレートを見て微笑み返した。




