40 決戦のお茶会に参加しまして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス(ローゼンタール)
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
子爵令息 クロード・ヘイスティングス
伯爵令息 セドリック・リヴェンデル
伯爵令嬢 ルシエラ・リヴェンデル
廃皇太子 マルテロ
お茶会日和。
雲ひとつない青空が広がり、庭園には初夏の柔らかな陽光が降り注いでいた。
色とりどりの花々が風に揺れ、会場となったサロンには甘い焼き菓子と紅茶の香りが漂っている。
何も知らないご令嬢たちが、きゃっきゃとお茶を楽しんでいる。
銀のティースプーンがカップに触れる澄んだ音が響き、あちらこちらで楽しげな笑い声が上がる。
誰もが今日が特別な日になるとは思っていない。
私とアルフレートは、あえて、ゆっくりと会場に入った。
入口の前で馬車を止めて、互いに小さく視線を交わす。
そうして、エレオノーラが会場に入るのを確認してから動いた。
私とアルフレートを見たエレオノーラが、少したじろぐ。
華やかな笑顔を浮かべていた彼女の表情が、一瞬だけ強張った。
「こ、これは、皇太子妃候補様。皇太子妃候補様がいらっしゃるとは聞いていなくて」
エレオノーラがそう言って、ルシエラを睨んでいる。
その視線は、まるで裏切り者を見るようだった。
彼女を睨んでも仕方がない。
あなたを呼んだのは、私だから。
ルシエラは困ったように肩をすくめ、視線を伏せている。
「そうなのですね。私たちは、あなたが参加されるとうかがって、わざわざ足を運んだんですよ」
そう言って微笑み返す。
表面上は穏やかな笑みだが、胸の内では静かに鼓動が速くなっていた。
「実は、エレオノーラ嬢に、うかがいたいことがあったのだ」
アルフレートがそう言って話し始めた。
近くにいた令嬢たちが、何事だろうと視線を向け始めた。
「実は、メイヴィス嬢が飲まされた毒なのだが。これの存在を、エレオノーラ嬢は知っていたとか」
アルフレートがそう言う。
穏やかな口調だったが、その声音には王族としての威圧感が滲んでいた。
エレオノーラは顔色ひとつ変えず「存じ上げませんわ」と言い切った。
なかなか、女優である。
でもそう返されるのは予想していたから平気。
「そうですか?クロード・ヘイスティングス子爵令息が、そのように証言してくれたのですが」
私がそう言うと、エレオノーラの肩が少し揺れた。
本当にわずかな反応。
けれど、それを見逃すほど私たちは甘くない。
彼女の指先がドレスの裾をぎゅっと握り締めているのが見えた。
「さらに、廃太子とはなったが。王族であるマルテロも、同じ毒で命を落としかけた」
アルフレートがそう言うと、エレオノーラがハッとした顔をした。
瞳が大きく見開かれる。
「落とし…かけた?」
みるみる、顔が青ざめていくのがわかる。
マルテロの生死については、口外されていない。
王妃からの命令で、一部の人にしかマルテロが王城にいることも、毒を飲まされたことすら知らされていない。
エレオノーラはマルテロが生きて王城にいることを知らなかったんだろう。
「ああ、生きてるよ。先日、話も聞けた」
アルフレートがそう言うと、エレオノーラがアルフレートの足に縋りついた。
ドレスの裾を引きずるようにして膝をつき、必死な様子で彼を見上げる。
「違うんですっ!アルフレート様っ!マルテロが、どうしても、私のことを諦めきれないってしつこくてっ!」
エレオノーラがそう言った。
涙声になりながら必死に訴える。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、周囲の令嬢たちの表情が変わった。
これはもう、あれだ。
自白している。
「しつこくて?それで毒を飲ませたんですか?」
私が静かにそう言うと、エレオノーラの仮面が剥がれた。
優雅な令嬢の顔が消え去り、焦りと怒りに歪んだ素顔が露わになる。
「飲ませた?マルテロがそう言ったの?飲ませたんじゃなくて、勝手に飲んだのよっ!」
そう叫んだ。
高く鋭い声が会場を切り裂く。
きゃっきゃとしていた和やかな雰囲気の会場が、シンと静まり返る。
まるで誰かが時間を止めたかのようだった。
エレオノーラの声が、広い会場に響き渡ったのだろう。
令嬢たちは息を呑み、互いに顔を見合わせる。
願ったり叶ったりだ。
ここにいる全員が、エレオノーラの自白を聞いたことになる。
「勝手に?飲むようにしむけたのでは?」
そう、重々しい声がした。
私は小さく振り返って、頭を下げる。
そこにいたのは、王妃だった。
護衛たちを従えながら、いつからそこにいたのかと思うほど静かに立っている。
威厳に満ちた姿に、周囲の令嬢たちが慌てて頭を下げ始めた。
さすがにエレオノーラも、顔色が変わった。
青ざめていた顔からさらに血の気が引き、その唇が震えているようだった。
四面楚歌。
これで、エレオノーラを追い込めたはずだ。




