04 推しの演技力はなかなかのものでして
伯爵令嬢 メイヴィス・モルゲンシュテルン(朝比奈 萌衣)
伯爵令息 アルフレート・ローゼンタール
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
あらためて、ゲームの内容、ならびに、前回の異世界転生を思い出す。
私はアルフレートとエレオノーラの恋路を応援していたから、2人が何をしていたかはだいたい把握している。
エレオノーラにアルフレート以外で、そういう関係になる誰かがいるとは思えないけど。
「妊娠がわかる半年くらい前には、そういう関係になる誰かと会うってことですよね」
私がそう言うと「結婚前から、そういう関係になる誰かがいるんだね」とアルフレートが暗い顔になった。
アルフレートの視線が机の一点に固定され、空気が重くなる。
失言。
アルフレートを傷つけたかもしれないけど、私だけではわからないこともあるから。
アルフレートも時期を把握しておく必要があるだろう。
「半年前か…。今の時間軸だと、遅くても1年半後には、そういう人が現れるんだろうね」
アルフレートが首を振って、切り替えたようだ。深く息を吐いて姿勢を正す。
「時間軸。そうですね。時間軸でまとめてみましょう」
私がそう言って紙を出す。
インクの匂いがわずかに広がる。
「今から1年後には皇太子の悪事が発覚しますよね。そのためにこれから、アルフレート様とエレオノーラ様が調査することになる」
「ああ、そうして、その3か月後には現皇太子が廃皇太子となる」
アルフレートに言われて紙に綴る。
「その半年後、アルフレート様が王の隠し子だとわかって、皇太子に選ばれて」
「その3か月後に、エレオノーラ嬢と婚約。さらに1年後に結婚」
つまりは、遅くても結婚式の前にエレオノーラは誰かと…
ちらりとアルフレートを見ると、アルフレートはため息をついた。
「俺と婚約をした時点で、俺のことも殺す予定だったんだろう」
アルフレッドが窓から外を眺めている。
カーテンがわずかに揺れ、横顔に影が落ちる。
嫌な話をしてしまったし、気分を変えたいんだろう。
「エレオノーラ様のことはおいといて。皇太子は廃皇太子にすべきだと思うんです」
私がそう言うと「それはそうだね」と同意してもらえた。
そういうわけで、エレオノーラの妊娠について調査しながら、皇太子の悪事について調査することになった。
過去に1度、調査をしているから簡単に調査できるはず。
そう思っていたけど、なぜか難航した。
私はこの調査については、調査するために話しかける人物や場所はわかるんだけど、あまり詳しくない。
ゲームで重要視されたのは、話しかける人物や調査現場へ行く『順番』だった。
どんな調査をしたのかは示されなくて「調査した」と表示がされただけ。
「以前は、エレオノーラ嬢が証拠を掴んでくれたんだ。まさかこんなことになると思わなかったから…どうやって掴んだのかまでは聞いてなくて」
アルフレートが申し訳なさそうに言った。
なにかひっかかる。
「もしかして…調査する前から、エレオノーラ様は皇太子の悪事をご存知だったのではないでしょうか?」
たしか、実業家や商人に勲章や市民権を約束し、見返りに巨額の寄付を受け取ったというような不正だった。
その帳簿を手に入れたんじゃなかったっけ。
そう伝えると「たしかに、エレオノーラがその帳簿を手に入れたんだ」と教えてくれた。
帳簿…そう聞いて、閃いてしまった。
「アルフレート様、見返りを受けた実業家や商人の名前を憶えていますか?」
そうアルフレートに尋ねると「何人かは」と答えてくれた。
なんとかなるかもしれない。
「アルフレート様、お力を貸していただけますか?モルゲンシュテルン家とローゼンタール家の名前があれば、なんとかなるかもしれません」
そうして、アルフレートにある提案をした。
モルゲンシュテルン家。
この国ではそれほど名門ではない家門だが、伯爵家になっているのは、鉱山を所有しているからだ。
そこで取れる鉱石には、宝石のほか、武器・武具の素材になるものがある。
灰色の土地に眠る資源は、この家の最大の誇りなのだ。
ローゼンタール家は、王家の遠縁にあたるらしい名家。
大広間に飾られた紋章は、見るだけで背筋が伸びるほどの威圧感があり、訪れる者に「格の違い」を無言で突きつけてくる。
かつて王都が包囲されたときに、敵軍を撃退したと言われ、剣と武力で王家を支えている。
いわゆる、英雄というやつだ。
そんな伯爵家の令息と令嬢が、皇太子の悪事に加担したと思われる商人の店に行く。
石畳の通りに面したその店は、表向きは上品な商会に見える。
「これは、これは、ローゼンタール令息様。お待ちしておりました」
奥から現れた商人は、慌てて笑顔を作りながらも、目だけが忙しなく動いている。
アルフレートにお願いして、商人にアポイントをとってもらったのだ。
一応、私もいるのだけれど、名門家の令息と一緒だといない者になってしまうようだ。
視線すらほとんど向けられない感覚は少し複雑だが、今はむしろ都合がいい。
「お時間をいただいて申し訳ない。今度、こちらのモルゲンシュテルン伯爵家の令嬢と、商売を始めようと思ってね。ぜひ、相談にのってもらいたいんだ」
アルフレートは慣れた様子で柔らかく微笑み、商人の警戒心を解くように言葉を重ねた。
あくまで若い貴族の相談事という自然さを装っている。
意外と役者だなと思った。
2人が話している間に、そっとその場を離れて帳簿を探す。
この場所は、話しかける人物ポイントではなく、調査現場ポイント。
つまり、何かを探し出さなくてはいけない。
それが何かはわからないけど、何かあるはずなのだ。
それで、話に出てきた『帳簿』という言葉でピンときた。
帳簿に関する何かがあるはずだと。
実は私、朝比奈 萌衣だったころ、会計事務所に勤めていた。
蛍光灯の下で数字を追い続けた日々が、こういう場面で妙に役に立つのは皮肉だ。
帳簿を見るのは慣れている。
この世界の帳簿は元の世界のものと似ている。
足し算と引き算なら7桁まで暗算できるし、4桁までなら掛け算と割り算もできる。
パラパラと帳簿を見て、皇太子への寄付への帳簿を見つけた。
かなり長期にわたって行われているようだ。
ページをめくるたびに、同じ名前と金額が繰り返されているのが不気味だった。
何冊かあるから、1冊くらいなら無くなってもすぐには気がつかないだろう。
1冊を抜き取って、そっと持ち去った。
アルフレートと商人が話しているところに、そっと戻って、アルフレートにアイコンタクトした。
「…なるほど。では、もし商品化したら、ぜひ、お店に置かせてください」
「ええ、ええ!ローゼンタール家が推奨される商品でしたら、ぜひ!」
商人はローゼンタール家という名に飛びついているようだ。
どんな商品についてプレゼンしていたんだろう。
もしかしたら、アルフレートには商才があるのかもしれない。
ちょっと、複雑な気分になった。




