37 お茶会開催を計画しまして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス(ローゼンタール)
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
子爵令息 クロード・ヘイスティングス
伯爵令息 セドリック・リヴェンデル
伯爵令嬢 ルシエラ・リヴェンデル
廃皇太子 マルテロ
ルシエラ・リヴェンデル伯爵令嬢に、お茶会を開催してもらう。
エレオノーラと繋がっているかもしれない、セドリック・リヴェンデル伯爵令息の妹である、ルシエラ・リヴェンデル伯爵令嬢に。
彼女の名前を見つめながら、私は静かに息を吐いた。
彼女には1度しか会ったことがないけど。
その時の印象は、控えめで大人しく、人前に出ることを好まない令嬢というものだった。
強くお願いすれば、私のお願いを聞いてくれるだろうという、人としてよくない考えがあった。
だって私、皇太子妃候補だもん。
ルシエラじゃなくても、爵位の低い貴族であれば引き受けてくれるだろう。
少しだけ罪悪感はある。
でも今は綺麗事ばかり言っていられる状況でもない。
あえてルシエラを選んだのは、エレオノーラも油断するのではないかと思ったからだ。
セドリックとエレオノーラが本当に繋がっているのか確証はないけど。
本当はどういう関係なのかしっかり調べて、その上で計画するべきだとは思う。
影が調べてくれるとアルフレートは言ってくれたけれど。
その報告を待っている余裕はなかった。
私は舞踏会でセドリックとエレオノーラが一緒にいるところを見ている。
だからエレオノーラは、私がリヴェンデル伯爵家と協力するとは思わないはず。
実行するなら、むしろ警戒対象から外している可能性すらある、今しかない。
リヴェンデル伯爵家を訪れてお願いするのは簡単だけど。
できるだけ私がお願いしたことはバレないようにしたい。
だから、ルシエラが1人になったところで『偶然』会って、『たまたま開催しようとしていたお茶会』のホストに指名したかった。
偶然を装うためには、まず偶然会わなければならない。
そのため、ルシエラのことを調べることになった。
しかし、その調査は思った以上に難航した。
人付き合いが苦手な彼女は、ほとんど家から出ないタイプのようだった。
社交界の集まりにもほとんど顔を出さず、買い物ですら使用人任せ。
「どうやって会えばいいのよ…」
私も暇というわけではないから、家の前で待ち伏せすることもできない。
とても困っていたところに、アルフレートがオペラ座のチケットをもらってきてくれた。
アルフレートが少し得意げな顔で封筒を差し出してくる。
あの『いいおじ』、ディミトリ・オルブライト伯爵から譲ってもらったそうだ。
「その……よかったら、メイヴィス嬢と行けたらな……なんて」
アルフレートがそんな冗談を言った。
ほんの少し照れたように視線を逸らしながら。
「アルフレート様ったら。私への気遣いは無用です!これで、計画が進みますね」
私は即答した。
そう伝えると、アルフレートはガッカリしていた、ように見えた。
肩が少しだけ落ちた気がする。
「…?」
推しの復讐に使えるのに、嬉しくないんだろうか?
むしろ喜ぶところでは?
私には理由がさっぱりわからない。
「あの……もしかして、観たい演目でしたか?」
ハラハラして私がそう尋ねると「いや、また今度。あらためるよ」と言われた。
アルフレートは苦笑しながら首を横に振った。
あらためる?
よくわからないまま、チケットを譲ってもらった。
もらったチケットを、オペラ座の名義でルシエラに送る。
封筒を用意し、筆跡がわからないよう細心の注意を払う。
『リヴェンデル伯爵家
ルシエラ・リヴェンデル様
平素より当劇場をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
このたびオペラ座では、新演目『星降る夜の約束』の初日公演を開催する運びとなりました。
若き恋人たちの運命を描く話題作で、貴族令嬢方から高い評価をいただいております。
つきましては、日頃の感謝を込めまして、ルシエラ様を特別席へご招待申し上げたく存じます。
ご多忙の折とは存じますが、どうぞご観劇いただき、ひとときの物語をお楽しみいただけましたら幸いです。
当日、受付にて本状をご提示ください。
ルシエラ様のご来場を、劇場関係者一同、心よりお待ち申し上げております。』
ラブストーリーみたいだから、きっとあれくらいの年齢の方なら喜んで観に行くだろう。
人付き合いが苦手な彼女なら、誰かに自慢することなく、きっと1人で観覧したいと思うはず。
その狙いは見事に的中した。
アルフレートにもらったもう1枚のチケットは私が持っている。
ボックス席のお隣同士。
とても自然にお話ができるはずだ。
他の人に皇太子妃候補がいることがわからないように、控えめのドレスを選んで来場する。
豪華な宝石は身につけず、髪飾りも最低限。
遠目には少し裕福な貴族令嬢程度にしか見えないよう工夫した。
オペラ座の前には多くの馬車が並び、煌びやかな照明が夜の街を照らしている。
華やかな人々の話し声と笑い声が辺りに響いていた。
ルシエラが着席したことを見届けて、おもむろに席に着いた。
劇場内では開演前のざわめきが広がり、楽団が楽器の調律を始めている。
ここからが、私の演技力が試されるところだ。
胸の鼓動が少し速くなる。
推しほど上手くやる自信はないけど、やるしかない。
私は小さく深呼吸をして、隣の席へ視線を向けた。




