34 王妃の怒りを見まして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス(ローゼンタール)
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
子爵令息 クロード・ヘイスティングス
伯爵令息 セドリック・リヴェンデル
伯爵令嬢 ルシエラ・リヴェンデル
廃皇太子 マルテロ
それから、アルフレートに貧民街であった出来事を話した。
マルテロはすぐに治療が開始されて、すぐに王城に運ばれた。
あの時、マルテロが倒れていた姿がまだ頭から離れない。
苦しそうにしていた表情。
助かるかわからないという恐怖。
でも、今は専門の医師たちに任せるしかなかった。
断罪されても、王族は王族。
王も王妃も心配していることだろうと思う。
たとえ罪を犯したとしても、親にとって子どもは子どもだもん。
王城の客間にマルテロは運ばれて、そこで治療を受けているようだ。
広く整えられた客間には、薬の匂いが漂っている。
普段なら落ち着いた雰囲気の場所なのに、今はどこか緊張感があった。
「…ありがとう。息子を助けてくれて」
王妃がそう言って、私に頭を下げた。
その姿を見て、思わず戸惑ってしまう。
「いえ…その、助かってよかったです」
慌ててそう返す。
息子を断罪した私に頭を下げるのは、嫌だろうなと思うと、ちょっと居心地が悪い。
本当なら、恨まれてもおかしくない。
マルテロがこうなった原因の一部は、私にもあるのだから。
「あの…どうしてマルテロは貧民街なんかにいたんでしょうか?」
アルフレートがストレートに王妃に質問した。
こういうとこ、すごいなと思ってしまう。
相手が王妃であっても、必要なことなら遠慮なく聞く。
「そうね…どうしてかしら。郊外に邸宅を与えたはずなんだけど」
王妃も首を傾げている。
本当に知らなかったようだった。
王城からは追い出されたけど、郊外に家をもらえていたんだ。
でも、その邸宅を出た理由は王妃ですら知らないということか。
これはもう、マルテロに聞くしかない。
本人から話を聞かない限り、何もわからない。
「…あ、私、その邸宅に行ってみます」
私がそう言うと、アルフレートに止められた。
すぐに動こうとした私の腕を、アルフレートがそっと掴む。
「『相手』は本気で人を殺そうとしてるんだよ?危険だから、やめて」
そう言ってこっそり、「『影』に行かせるから」と耳打ちされた。
影さん、ありがとう。
いつも裏で動いてくれている存在に、改めて感謝する。
「殺そうと…?あなたは、マルテロが誰に殺されそうになったか、知っているの?」
王妃がそう言って近づいてきた。
先ほどまでの穏やかな雰囲気が消えている。
オーラが黒くなってる…
「あ…その。知ってるというか、調べているところで…」
迫力に押されて、おもわず本当のことを言ってしまった。
王妃の目は真剣だった。
母親としての怒りと、王族としての責任感。
その両方が感じられた。
「そうですか。では、その調査、私もお手伝いいたしましょう。ですから、誰を調べているのか教えてください」
静かに怒ってるのがわかった。
声は落ち着いている。
でも、その奥にある怒りが隠しきれていなかった。
それはそうか。
自分の息子が殺されかけたんだもんね。
アルフレートが私の前に出る。
まるで私を守るように。
「恐れながら王妃殿下。今はまだ、あなたは動かないほうがいいでしょう。それよりどうか、ご自分と、王をお守りください」
アルフレートがそう言って、少し言葉を切る。
「…マルテロだけではなく、お二人の命も、狙われる可能性があります」
その言葉を聞いた瞬間、背筋が冷たくなる。
ハッとした。
タイムリープ前の前回、王と王妃は殺されていた。
マルテロの話は出てこなかったけど、もしかしたら、すでに殺されていたのかもしれない。
今まで、マルテロのことばかり考えていた。
でも、本当に狙われているのは、彼だけではないのかもしれない。
ひやりとしてアルフレートを見た。
アルフレートも私を見て、小さく頷く。
同じことを考えている。
結婚後に起こるはずのことが、前倒しになっている可能性がある、と。
物語の進行が、ここに来て、全く読めない。
知っているはずの未来が、少しずつ変わっている。
いや、もう「知っている未来」と呼べるものではないのかもしれない。
「毒であれば、マルテロが飲まされたのと同じ毒が使われる可能性が高い。解毒剤を常にお持ちください」
そう言って、クロードのことを紹介していた。
王妃は少し驚いた顔をして「私のことまで心配してくれるのね」と言った。
そりゃあ、心配するよ。
王妃だからというだけじゃない。
大切な人を失う未来を知っているから。
もう、同じことを繰り返したくない。
「証拠がある程度、揃ったら、そのときは犯人についてもお話します。ですからどうか、マルテロが意識を取り戻したら、マルテロから話を聞く時間をいただけませんか?」
アルフレートがそう言うと、王妃は快諾してくれた。
その表情には、不安と怒り、そして息子を思う母親の強い決意が浮かんでいた。
マルテロが目を覚ませば、きっと何かがわかる。
そう信じるしかなかった。




