31 毒殺未遂事件について調べまして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス(ローゼンタール)
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
子爵令息 クロード・ヘイスティングス
伯爵令息 セドリック・リヴェンデル
伯爵令嬢 ルシエラ・リヴェンデル
廃皇太子 マルテロ
「あの…。せっかくなので、アルフレート様にうかがいたいことがあるのですが」
私がそう言うと「なに?」とすぐに返された。
聞こうかどうしようか悩んだけど、これからのためにも聞いておこうと姿勢を正す。
「アルフレート様は、エレオノーラをどうしたいのでしょうか?私が復讐しましょう、と言ったわけですが」
それが、私の一番の悩みどころだった。
「エレオノーラは皇太子妃になることはできなくなったので、今のところ復讐は終わっていると言っても問題ないと思うんです」
私がそう言うと、アルフレートは少し悩んだ。
視線を落とし、言葉を探すように静かに息を吐く。
「そうだね。復讐…はもう終わっているのかもしれないけど。正直に言うと、俺の中で終わってない。だって、エレオノーラは、全然、反省してないだろ?今でも皇太子妃になれると思っているし、メルヴィス嬢に暴力まで…」
アルフレートがそう言って私の頬を撫でてくれた。
指先がそっと触れると、優しさが伝わってくる。
反省してない、か。
たしかにエレオノーラは、全く反省してない。
ただ、アルフレートは生きてるし、反省すべきことがないからというのも事実。
でも、推しはエレオノーラに反省してほしいと思っている。
それなら、私はその願いを叶えるだけだ。
胸の奥で静かに決意が固まっていく。
「わかりました、アルフレート様。私がエレオノーラ様に反省させてみせますから」
そう言って、拳を握りしめた。
エレオノーラを反省させる、という新たな目標ができたわけだけど。
まったく、その方法については考えていない。
ただ、気になっていることはある。
廃太子となったマルテロを陥れたのはエレオノーラじゃないか。
そうして、もしかしたら、私を毒殺しようとしたのも。
だとしたら、反省させるべき理由はある。
「ってことは、その2つの犯人が彼女だってことを明らかにしないとだよね~」
皇太子妃教育中の休憩時間にそんなことを考えていた。
先に尻尾を掴めそうなのは、毒殺未遂のほうだろう。
廃太子のほうは、マルテロに話を聞くのが難しそうなので後回しかな。
そんなことを考えていた。
私が毒殺されそうになったとき、アルフレートはクロードのことを疑っていた。
まずは、そこからあたってみるしかない。
ただ、困ったことに、ツテがない。
私はとても健康で、健康で、ヘイスティングス家と関わることがなかったから。
悩んでいたら、アルフレートが「宮廷医師について話があると言って、来てもらうようにするよ」と言ってくれた。
こんなところで、皇太子パワーが役に立つとは。
というか、相変わらず、推しは演技力があるなと感じてしまった。
宮廷医師にする、ではなく、宮廷医師について話がある、というだけ。
嘘はついてないけど、皇太子からそう言われたら宮廷医師になれるかもって思っちゃうんじゃないだろうか。
お主も悪よのぉ…
そんなこんなで、クロード・ヘイスティングス子爵令息と面談することになった。
場所は人目を避けるために選ばれた静かな部屋だった。
窓から差し込む柔らかな光が床に細長く伸び、室内は意外にも穏やかな空気が流れていた。
私1人で大丈夫だと言ったんだけど、アルフレートも付き合ってくれている。
向かいに座るクロードは落ち着かない様子で、何度も指先を組み替えていた。
舞踏会であったときのことを思い出す。
あのとき私と話したいと言ったのは、どんな気持ちからだったんだろう。
「それで、宮廷医師について、とは?」
クロードが少し前のめりになって話をした。
その瞳には、わずかな期待の色が浮かんでいるように見えた。
宮廷医師になれると思ったんだよね。
申し訳ない。
心の中でそう呟きながら、私は小さく息を吐いた。
「いえ…実は、この間、私が毒を飲まされて、倒れたことがあったでしょう?それで薬学に長けているクロード子爵令息に話を聞いてみたくて」
私がそう言うと、クロードは明らかに動揺した。
椅子に座ったまま、肩がわずかに強張る。
予想していなかった言葉を聞いたかのように、クロードの視線が宙をさまよった。
「そ、そうでしたか。毒を…それは、」
クロードがそこまで言って、あきらかに視線を逸らす。
その仕草はあまりにもわかりやすかった。
何かを知っている人間の反応にしか見えない。
自供してるようなものだなと思った。
けれど、同時に違和感もあった。
クロードはたぶん、利用されただけだろう。
本当に悪意を持って毒を用意した人間なら、こんなにも簡単に表情に出したりはしないはずだ。
彼の動揺は罪悪感や恐怖からくるものに見えた。
もしかしたら、人に使う毒だと聞かされないで用意させられたのかもしれない。
そう考えると、目の前の子爵令息の弱々しい態度にも納得がいった。
「クロード子爵令息は、その毒に、心当たりがおありだと…」
私がそこまで言うと「そんな毒は知りません!」と立ち上がった。
勢いよく立ち上がったせいで椅子が小さく音を立てる。
クロード自身も驚いたように目を見開き、荒くなった呼吸を整えようとしていた。
なんて肝が小さいんだろう。
こんなにすぐに動揺する人が、主犯だとは思えない。
きっと、ずっと、苦しんできたに違いない。
自分の知らないところで誰かを傷つける手助けをしてしまったのだとしたら。
彼はずっとその重みに押しつぶされそうになっていたのかもしれない。
ため息が漏れる。
「クロード子爵令息…いえ、クロード様。あなたを責めたくて呼んだわけではありません。もしあなたが、騙されて、その毒を『誰か』に渡してしまったのだとしたら」
私がそう言うと、クロードの肩が揺れた。
「その『誰か』が悪いのであって、あなたは何も悪くない、とお伝えしたかったのです」
私がそう言うと、クロードがポロポロと泣き始めてしまった。
なんて気が弱い。
これで、子爵の位を継げるのだろうかと心配になった。
抱え込んできた後悔や安堵も混ざっているのだろう。
そこからは、涙と同じようにポロポロと全てを話してくれた。
問題は、毒を手に入れたのは町娘だったという点だった。




